第21話ー大公の婚約者
「皇女様、終わりましたよ」
「ありがとう」
いつもより濃いめのメイクをして、髪も気合いが入っている。セットを終えたメイド達も誇らしそうにロワナを見つめていた。
「うーん···」
ロワナの曇った表情に、メイド達が嘆いた。
「皇女様、気に入りませんか?」
「やりなおしましょうか?」
ロワナは慌てて弁解する。
「あっ、違うのよ。メイクも髪型も完璧よ」
「でしたら···」
「ドレス、やっぱりもう少し赤を入れた方が良かったんじゃないかしら」
ロワナの着ているドレスは、白を基調とした生地に、朱色のレースやオーガンジーが取り付けられたドレスだ。いつも着るドレスよりデコルテが強調されており、大人っぽい印象を受ける。
今日はアリアナ皇女の誕生パーティーが皇城で開かれる。ロワナがノクティスの婚約者になり、初めての公式のパーティーだった。婚約者や、夫のいる女性達はパートナーの色を身につけるのが慣例だ。密かに憧れていたロワナは、ドレスに物足りなさを感じていた。
「ロワナ様。替えのドレスはありません。真っ赤なドレスは無理があると伝えましたよね?大丈夫です。ご心配なさらなくても、どこからどう見ても大公閣下の婚約者に見えますから」
きびきびとメイク道具を片付けながらエリシャが言った。
ロワナはもう一度鏡を見た。たしかに自分には真っ赤なドレスは似合わない。耳元に光るルビーのピアス。対になっているペンダントに、手には先日貰った婚約指輪が輝いている。
(たしかに、これ以上取り入れては変よね···)
ロワナは満足して、鏡の前でにっこり笑った。
金の髪にも、ルビーとパールの飾りが編み込まれている。
(うんうん。可愛いんじゃないかしら?)
満足しているロワナを見て、エリシャは笑顔で言った。
「ロワナ様、そろそろ行かなくては。大公閣下がお待ちですよ」
「そうね!ノクティスはどこにいるって?」
「応接室でお待ちですよ」
「いきましょう。エリシャ」
エリシャは扉を開くと、ピタリと一瞬止まった。
「あら···」
少し驚いたエリシャの視線の先を見ると、赤銅色の髪が見える。
「ノクス?」
ノクティスは顔をあげ、ロワナに気付くと赤銅色の瞳が柔らかく微笑った。
「応接室に居たんじゃなかったの?」
「待ちきれず来てしまいました」
ノクティスはそう言うと、ロワナの手をとりキスをした。
ロワナはノクティスに会う度にされるので、動じなかったが、後ろに控えているメイド達はキャッと高い声を出してエリシャに嗜められた。
(ん?もしかしてこれって過剰な挨拶なんじゃ···)
身体を起こしたノクティスはロワナを見つめている。
「どう?綺麗でしょう?」
ロワナがくるりと回ると、ノクティスは神妙に頷いた。
「綺麗です。綺麗過ぎて困ります」
「え?こ、困る?」
思いもよらなかった返答にロワナも狼狽える。
「閣下。普通に褒めて差し上げてください。ロワナ様が困っていますよ」
「そうは言っても、エリシャ殿。私は可愛い婚約者を他の男の目に触れさせたくないのだが、これでは注目を浴びてしまう」
「閣下が守ってさしあげれば良いのです。ロワナ様は着飾らなくても可愛らしいので注目はされます。」
聞いていて居た堪れなくなる会話だ。ロワナはノクティスをじろりと睨んだ。
エリシャが自分を可愛がってくれるのは分かる。しかしノクティスのは納得がいかない。可愛いと言ってくれるのは嬉しいのだが、どうにも欲しい雰囲気とは違うのだ。オーガストの"妹可愛い"に近いものがある。
ノクティスはエリシャの返答に納得しているようだ。ロワナの視線に気付くと、またふわりと微笑った。ロワナはずるいと思った。この笑顔が向けられるのは自分だけだと知っているから、すぐに許してしまうのだ。
「行きましょうか?姫」
差し出された手を取る。というより、腕にしがみついた。そしてノクティスにだけ聞こえるように言った。
「今日のノクティスも素敵よ。とっても格好良いわ」
言いたかった事を言うと、しがみついた腕を離した。エスコート用に腕を組み直す。
「······不意打ちはやめてください」
ノクティスが呟くので顔を見ると、赤くなっている。
「まぁ!ノクスが照れるなんて珍しい」
目をキラキラさせて言うと、ノクティスは不貞腐れた声を出した。
「からかうのはおやめください」
「ノクスだって私をからかったじゃない」
「私が?いつ?」
「さっき私を可愛過ぎて他の男性に見せたくないとかなんとか」
「あれは本気です」
「えっ」
「お二人とも、扉が開きますよ」
呆れ声でエリシャが言う。ロワナは慌てて顔を引き締めた。
「そんなに緊張なさらなくても」
にやりと言うノクティスを半眼で睨む。
「してないわよ」
と言いつつ声が裏返る。王女として何度も人前に出ているが、ノクティスの婚約者として出るのは初めてだ。いつもと違う高揚感。
優しい笑顔も、憎たらしい笑顔も、ロワナにだけ向けられる。
(全く。からかう時すら無駄に格好良いのね)
心の中で悪態をつき、ロワナとノクティスは入場した。
「ノクティス・ヴァルグレイス大公閣下、ロワナ・トゥワイス・アルカダイア第二皇女殿下のご入場です!」
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