表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼岸花の香り  作者: 桜鬼
25/48

フォルス王国 2


「聖女としての務めは⋯⋯一年間。

魔王軍の勢力を退けるために、神の加護を広げるのが役目なの」




神殿の静謐な書庫の中。玲奈は神書を抱えながら、真っ直ぐに紗凪を見つめていた。




「一年経ったら、帰れるって言われてる。元の世界に」


「⋯⋯帰れる⋯?」




紗凪の胸が小さく鳴った。期待と不安がせめぎ合う。




「でも、あたし⋯⋯聖女でもないし、巻き込まれただけで⋯?」




思わず零れた本音に、玲奈は困ったように微笑む。




「ううん、もしかしたら“例外”なんてあるかもよ。ねえ、これから神官に相談してみる?」


「⋯⋯うん」




でも――その「もしかしたら」がどれだけ不確かなものか、紗凪には痛いほどわかっていた。


 


そのとき、玲奈がふとロゼリオへ目を向けた。




「⋯⋯ねえ、この人は?」




微笑みながら玲奈が尋ねると、紗凪は少し言葉に詰まりながら紹介した。




「ロゼリオ⋯⋯植物の魔法が使える人。

こっちの世界で助けてもらってて⋯⋯ずっと一緒に旅してるの」


「へえ⋯⋯なんか、すっごく美形だし、妖しい雰囲気⋯⋯私、こういう人ちょっと好みかも♪」


 


玲奈が目を輝かせる。対するロゼリオは、ただ静かに彼女を見た――その瞳には、冷ややかな光だけが浮かんでいた。




「ご挨拶を。⋯⋯私には、特に興味はありませんので」


「えっ⋯⋯?」




玲奈が軽く目を丸くするが、ロゼリオは一歩も引かず、まるで“空気”でも眺めているような無関心さで応じる。


 


 その日の午後、神殿を案内するという名目で、玲奈は何かとロゼリオに絡んでいた。




「ロゼリオさんって、どんな食べ物が好き? 私、料理も得意なんだよ~」


「⋯⋯必要としておりませんので」


「そ、そんな冷たいこと言わないでよぉ~♪ ね、今度うちの神殿にお茶しに――」


「⋯⋯」




受け流すでもなく、拒絶するでもなく。ただ沈黙と無表情で、ロゼリオは玲奈の言葉を受け流し続けた。


その様子を横で見ていた紗凪は、なんとも言えないモヤモヤを抱えていた。

胸の奥に引っかかる感情がある。嫌悪とも違う、羨望とも違う。だけど確かに、彼女の中で何かが波立っていた。




(⋯⋯なんでそんなにベタベタできるのよ)


 


本棚の前で、召喚に関する書物を無理やり視界に押し込む。

けれど内容は頭に入ってこなかった。ページをめくる手が、つい強くなってしまう。




(あたし⋯⋯何でこんなに気にしてんの?)


 






 


夕刻になり、二人は神殿を離れた。

王国の通りには提灯が灯り、どこか落ち着いた空気が漂っている。ロゼリオが見つけた宿は、街の端にある静かな館だった。


部屋に入ると、ロゼリオは鞄を下ろし、振り返って紗凪を見つめた。




「お疲れ様でした。玲奈さん⋯⋯でしたか。聖女としての役目、随分と張り切っているようですね」


「⋯⋯はは、そうだね。ああいう子だし、前向きで」




わざとらしい口調になった自分が嫌になる。




「⋯⋯」




ロゼリオはふと、ベッド脇に歩み寄ると紗凪の前でしゃがみ込んだ。

その視線は冗談の欠片もなく、静かに熱を帯びていた。




「紗凪さん。あなたは⋯⋯“私の”でしょう?」


「な、何言って⋯⋯! 

玲奈のほうが、可愛いし、あんな子の方が⋯⋯好きなんでしょっ⋯⋯」




叫んだ瞬間、口を押さえた。

自分が思っていたよりずっと、強い感情がそこに込められていたことに気づいてしまった。


ロゼリオは目を細める。ゆっくりと、唇の端を吊り上げた。




「――では、明日から覚悟なさってくださいね」


「な、なにが⋯⋯」




その笑顔は、酷く美しく、そして恐ろしいものだった。まるで毒をもった薔薇のように。




「全部、わからせて差し上げますから」


 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ