第八十九話 丸パクリ旅行
ぱんっぱんっ。
二礼二拍手一礼。
「(今日もこの世界が崩壊しませんように)」
今日は特にお前に伝えたいことも思いつかないから、少し前にあったほんわかする出来事でも話そう。
確かあれはランニング中だったっけ。その時、他人の家の中から幼女らしき人の歌声が漏れ聞こえてきたんだ。
ちょっとだけ歌詞が違うアンパンマンの歌だった。
子どもが楽しそうに歌ってるのって、なんであんな可愛いんだろうな。
たしか、こんな風に歌ってたよ。
『アンパン食パンカレーパン♪ じゃがバタチーズダダンダン♪』
……ジャムおじェ。お前、どこ行っちまったんだよ。
あっ、今の俺のちょっとしたツッコミに、普通っ子が「ふふっ」って笑った。
なんか、ちょっと嬉しい。今日は最高の日になりそうだ。
「うし、普通っ子、行こうか」
「うん」
さあ、今日はどんな一日が待っているだろうか。
◆◆◆
「翼君がやったことを真似しようのコーナー!!!」
柔道部のみんなと車で揺られながら、俺は大きな声で宣言した。
運転手は俺の母。助手席には俺。後ろのメンバーは白ギャル先輩を含めた柔道部のみんな。
と、全く関係ない俺のクラスメイトが一人。
「泰平先輩、急にどうしたんですか?」
「ふっ、元気っ子後輩よ。よく考えてみたまえ。翼君といえば青春の塊みたいなものだ。つまり! 翼君のやったことを真似れば、俺達も濃い青春時代を過ごせるってわけだよ!」
「泰平先輩、やけにテンション高いっすねえ」
「そりゃあ、日曜日だし! みんなと一緒だし! 何故か、なんか一人混じってるけどな」
「ピピッ。なるほど。車内をサーチして分析したところ、この女性型だらけの中で、確かに泰平だけ浮いていますね」
「おい、ポンコツロボット。お前だよお前」
この柔道部メンツの中にしれっと混じっているAI搭載アンドロイドが、舌をペロッと出してとぼけた。
くそっ、可愛いなこいつ。
「泰平の心拍数の上昇を確認。泰平は“お茶目”に弱いと。思考領域にメモしておきましょう。ふむ、ノアさんの言う通りでしたか」
ノアというのは気だるげのことだ。
「気だるげとAI搭載アンドロイドって、特別仲がいいとかはなかったよな? だって基本お前って……というか、お前らって基本ぼっちだし。どういう繋がり?」
「ただの性欲フルオープン仲間ですよ。いわば、同士です。最近仲良くなりました」
「……さいでっか」
とりあえず敬語口調仲間だと俺は思っておこう。
「ちなみにノアによると、泰平をドキッとさせられたのなら、好みの似ている翼へのアタックにも必ず役に立つそうです。つまり、泰平はノアに体の良い練習台にされているということですね。ぷぷぷっ」
「……あいつ、ほんとにさあ。まあ、俺もいい思いできてるから、別にいいけども」
確かにそういう面もあるかもだが、気だるげのアプローチには、練習台ってだけではない気もしている。
練習にしてはかなり本気の熱があったので、からかってやろうなどの悪意はなく、ただ一石二鳥を狙いに行っただけだろう。
まあ、どちらにせよ、だ。
「痛っ」
ポンコツロボットにデコピンを食らわせたのち、俺は大きくため息をついた。
さて、そろそろ何故このメンバーの中に、AI搭載アンドロイドが混じったのかを話そうか。
といっても、最終的な着地点としては、「俺が誘ったから」になるのだが……
きっかけはクラスのグループラインだった。
『ああ、日曜日なのに暇だなあ。( •̀ω•́ )チラッ 』
『驚くほど予定が白紙だなあ(/ω・\)チラッ』
『夏休み、まだ一度も遊んでない。(´;ω;`)ブワッ』
早朝、このようなメッセージをクラスのグループラインに連投して、AI搭載アンドロイドが暴れていた。
このメッセージの連投に一番早く気づいたのがおそらく俺だ。
そういやAI搭載アンドロイドとは、今後も遊ぶ予定は入れてないな。そう思った俺は、『じゃあ、今日の日帰り旅行、一緒に来るか?』と誘ったのだ。
ただ、そう打ち終えた後に少し思い返す。急過ぎること、みんなの許可を取っていないこと、このメンバーだと居心地が悪いかも、などと冷静になった俺は、再度連絡してみた。
『やっぱAI搭載アンドロイドが疎外感で楽しめないかもだから、やめておくか』
『いえ、行きますヽ(^o^)丿』
『でも――』
俺が打ち終わる前に、被せるように連投してきた。
『絶対に、絶対に行きます(≧▽≦)』
『今更連れていかないというのなら、無理やりにでもついていきますから( ・`д・´)』
『……なら、一緒に行くかあ』
『(*´Д`)ハァハァ』
『それ、どんな感情?』
と、いうわけだ。あそこまで食いつかれたら、誘わざるを得ない。
「そんなことはどうでもいいんだよ! 翼君がやったことを真似しようのコーナー!! はい、拍手!」
俺の一方的な宣言に、まばらに拍手が起こった。
「で、泰平、具体的に何するの?」
「ぶりっ子先輩、そりゃあやっぱ、心理テストですよ! なんたって楽しそうでしたからね! 先週のアイツラ、俺をハブって楽しみやがってこのやろうめ。絶対に許すまじ!」
「ああ、つまり嫉妬ってわけね」
「白ギャル先輩! そういうことです!」
今日の日帰り旅行の予定は、先週主人公君と行った旅行のほぼパクリだ。コテージに行って、川で遊んで、バーベキューして、花火して、天体観測。
前回と違うのはメンバーと、泊まりか日帰りか、だけ。
一応翼君や金髪ドリルお嬢様に『先週の天体観測の旅行のプラン、パクっていい?』と許可も得ている。今度こそ思う存分楽しみ尽くそう。
「ふへへ、俺がゲームマスターになったからには、生ぬるい心理テストなんて出さないからな。えっちえちでエッグい問題ばっか出してやるぜぇ〜。さあ、お前らの性事情を丸裸にしてやるからな~」
「ほぅ……」
「大歓迎よ」
俺の言葉に即座にそう反応したぶりっ子先輩とAI搭載アンドロイド。二人は目を合わせ、無言でニヤリと笑ったのだった。
ただ、その二人以外は反応が悪い。無言で俺に冷たい視線を刺してくる。
その中でも白ギャル先輩や普通っ子は「仕方ない子ね」みたいな優しさも混じっているが、元気っ子後輩の視線だけは極寒だ。
「……えー。元気っ子後輩にガチで睨まれたので、急遽、用意してきた中でもマイルドなものに変更します」
「「えー」」
すまんな。元気っ子後輩にだけは嫌われたくないんだ。
ここまで譲歩しても、元気っ子後輩は少しごねた。
そこで俺は、以前交わした『柔道部のみんなと鬼ごっこやかくれんぼをする』という約束を引き出し、「よし、今日それをやろう」と提案。
すると、彼女はころっと機嫌を直してくれた。あまりどぎついのじゃなければ許してくれるそうだ。
「じゃあ、まずは一問目。はい、このスケッチブックとペンを一人一つ持って」
「わざわざこんなのまで用意してきたのね。泰平、やけに用意がいいわね」
「だって! 死ぬほど楽しみだったんですもん!」
「そ、そう」
俺の元気な返事に、白ギャル先輩は照れ笑いを浮かべた。はい可愛い。耳が赤く染まったのが可愛い。おでこを出してるのがいつものごとく可愛い。
「コホン。最初のページには、ヘビの絵が書いていますよね? そのヘビの絵には、何か足りないものがありませんか?」
自分で言った言葉を、自分でかぶせるように即座に発言する。
「そうです! 舌を書き忘れてしまいました! なので、各々自由にヘビの舌をかいてみてください」
俺がそう指示すると、みんな素直にペンを走らせていく。
「そろそろいいですか?」
「「ちょっと待って?」」
「ぶりっ子先輩とAI搭載アンドロイドは、やけに時間がかかってるな。まあいいけど」
軽い雑談でもしながら待つ。
二人が書き終わったところで、一斉に絵を見せてもらった。
「ほんほんほん。お前ら、そんなんだから時間が掛かってたのか。まあ、一旦問題児二人は見ないフリをして……
なるほど、そういう感じですか。白ギャル先輩はある意味予想通りですね。へえ~。ふぅん。元気っ子後輩も意外と……ほほー!」
「泰平先輩、うざいです。早く答えを言ってください」
「ぐはっ! 後輩が俺に厳しい件について。もっと優しくして」
「そんなリアクションはいいので、早く」
「はいはい。えっと。それぞれが書いた舌の大きさに注目! この舌はなんと、性欲の強さを表しています。大きく書いた人は性欲が強い、小さく書いた人は性欲が弱い人ってことだ」
つまりだ。
一旦問題児二人は置いておくとして、白ギャル先輩が一番性欲が強く、元気っ子後輩が二番目に強く、普通っ子がこの中では一番性欲が弱いということになる。
……まあ、心が読める普通っ子に、心理テストなんて意味あるのかは疑問だが。
それでも一番性欲が弱い普通っ子ですら、かなり大きく舌を書いている。やはりこの世界の女性は性欲が強い。
「なっ、そんなのでまかせよ!」
「そうですよ! 私の性欲は普通も普通です!」
白ギャル先輩と元気っ子後輩から文句が飛んでくる。
「まあまあ、あくまで心理テストだから。信じるか信じないかはあなたの次第です、ってやつだ」
「それは都市伝説の時に使うフレーズでしょうが……」
白ギャル先輩は大きく息を吐いた。
で、そろそろ放置していた問題児二人に触れようか。
「ぶりっ子先輩はなんで舌を書けって言われて、大迫力の龍を模した舌を書くんですかねえ……あと、AI搭載アンドロイドは、七色のペンなんて使うな。どっから持ってきたんだよ」
舌を書けって言われて、龍を書いたり、七色にしようなんて発想になるかね、普通。
「「どんなもんよ!」」
しかもそれで、なんで自慢げなんですかねえ……
俺達の最高の旅行は始まったばかり。




