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多分非モテ男の妄想世界に転生してしまった 〜【男1:女5】の自分が主人公ではない貞操逆転世界〜  作者: ながつき おつ


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第八十五話 オートモード対処

明日、明後日は16:00に予約投稿予定です。


「おーい。部長はこっちで練習だってー。宇宙人美少女ー。ほら、俺と一緒にこっちおいでー」


「……え? うん、分かった」


 いつもより輝きの少ない目で冷気を発し続けている宇宙人美少女を、ちょいちょいと手招き。それから俺は、エントランスホールから校舎の外、グラウンドの方に歩いていった。


 オートモードとやらでも、宇宙人美少女はちゃんと着いてきてくれた。これでエントランスホールがこれ以上冷え込むことは防げた。


 常に一メートルほど距離を取りつつ、ゆっくり先導していく。宇宙人美少女の目の奥をしっかり確認しながら、ゆっくりと。


 この時の俺の頭の中では、普通っ子がリスペクト柔道を編み出してくれた時の会話が巡っていた。



『泰平ってね、相手の目の奥の光を見て、どう動くか、何を考えているのかを、なんとなーく読む癖があるみたいだよ。それが泰平の直感の正体だね。だから、これからはそれを意識して、意図的に使えるようにしよう!』


 直感とは、無意識のうちに脳が過去の経験を分析し、超スピードで弾き出す答えのことである――なんて説がある。


 俺はまさにそのタイプらしい。


 そんな俺が宇宙人美少女の目の奥の光から読み取った感情の大半は、嫉妬の鈍い光だ。


 ただ、そのもっと奥に、小さく、それでも確かに「無力感や悲痛な叫びなどがごちゃまぜになったもの」が光っていた。


 つまり……


――俺には、宇宙人美少女が泣いているように見えたんだ。



「なあ、そんな心を押し殺すように泣いてないでさ。一緒に楽しくやろうぜ」


「……ッ」


 宇宙人美少女の瞳の奥の光が、小さく瞬いた。


 この反応で確信した。


 あいつはまだ、あいつのまま、そこにいる。心の反応こそ鈍くなっているのだろうが、それでも心がないというわけではないのだろう。


 オートモードやらなにやら難しいことを言っていたが、言ってみればこんなの、「布団にくるまって、小さく体を折りたたんで泣いている」ってだけでしかない。別に難しいことなど何もないのだ。


「泣いている女の子がいるなら、そっと寄り添ってあげなきゃな」


 相手が普通の人間だろうが、冷気を発する宇宙人だろうが関係ない。これは俺の中の「当たり前」だ。


 それに、彼女の泣いている原因は、十中八九「誤解」だろう。


 俺にはどうしても、主人公君が宇宙人美少女を泣かせるとは思えないのだ。


 だからこそ俺ができるのは、飲み込まれそうなほどの嫉妬心をほんの少し和らげ、最後には背中を押してやること。それだけだ。


 誰もいないグラウンドの中央当たりに着いた。


 さて、そろそろ引きこもりの宇宙人美少女ちゃんを、明るい外に誘い出そう。



「宇宙人美少女が嫉妬している原因ってさ、翼君が宇宙人美少女に愛想をつかしたからか?」


 相手の返答は一切聞かず、目の奥の光だけを確認していく。


「うん。やっぱ違うよな。なら、こっちの本命のパターンか? 主人公君と誰かがめちゃくちゃに愛し合っているところを見たとか。それも、宇宙人美少女には決してやらないような」


「………ッ」


「ほんほん。やっぱそうだよな。さて、それはクラスメイト? ……違う。なら、高校の先輩? あれ? それも違う? 学校関係者……でもない。なら、よくわかんない人? あら、そうなんだ。もちろん女だよな。うん、で、その人は美女……そうなんだ」


 目の奥の光だけを元に、詳細な原因まで特定していく。


 極寒の中、小さな光を元に予想するのはかなりの集中力が必要だ。負担は大きいが、それでも平気な顔をして、極限まで集中し続ける。


「その謎の人は大人……だよな。で、その謎の人と翼君が何をしていたのか、だけど……。

 抱き合っていた? 違う、手を繋いでいた……これも違う。え? なら、口づけとか……マジか」


 翼君が謎の美女と口づけ、ねえ。


「えっと、まさかだけど、それを受けた翼君の反応は、まんざらでもなかったり……マジかあ。そりゃあ誰だって嫉妬するわな」


 正直これは俺ですら衝撃を受けた。


 主人公君は頭を撫でたり、抱きしめたり、手を繋いだりはするが、それ以上の愛情表現はそうそうしない。それは、主人公君が【高校生の内は恋愛禁止】という校則を頑なに守っているからだ。


 主人公君のことだ。どうせ何らかの事情があるのは分かっているが……さて、どんな事情なのだろう。


「さて、問診はこれで終了にしようか。こういうときは……うん、今はペンしか持っていないし、俺にはこれしか思いつかんな。じゃあ、ちょっと失礼するぞー」


 一メートル以内に近づいてはいけないと言われていたが、きっと大丈夫。


 俺は宇宙人美少女のスポーツウェアに、直接ペンで大きく文字を走らせていく。


(――ぐぅ。きっつい)


 かなり接近したことで、心臓がぎゅうぅと縮こまる。頭の奥でガンガンと鈍い音が鳴っていた。それでも、最後まで平気なフリで。


「あ、れ、は、誰? っと、よし、こんなもんでいいか。ちょっと線がガタガタで読みにくいな。それに、服の上から直接書いちゃったから、かなりみっともない。

 まあ、宇宙の謎技術があれば、服に書いた落書きをしっかり消すことくらいできるだろ」


 一度宇宙人美少女から距離を取り、ちゃんと分かりやすく文字が書けているか、チェック。


【翼君が謎の美女とキッスをしていたのを見て、めちゃくちゃ嫉妬しています。あれは誰?】


 うん、これなら大丈夫。


「よし! じゃあ宇宙人美少女。このまま翼君がいる場所へワープでもして、突撃しに行ってきな」


 目の奥の光を、じっと見る。


「まあ、ためらう気持ちも分かるよ。でも、絶対に大丈夫だ。翼君は恋に対して誠実すぎるくらい誠実だから、絶対に口づけした理由はあるはず」


 じっと見る。少しの光も逃さないように。


「ほんほん、それでも怖いか。でも、絶対に大丈夫! 俺が保証してやるから!」


 じっと見続ける。


「……そうだな。もし翼君がスジの通らないようなことを本当にしていたとしたら……ふふっ、その時は俺が翼君をぶん殴ってやる。まあ、俺のパンチなんてチートな翼君なら避けるのは容易だろうけど、それでもなんとか一発は当ててみせるからさ」


 暗く淀んだ瞳の奥に、明確に光が瞬いた。


 それを確認した瞬間、ゆっくり彼女の元へ歩いていく。


「俺はここで待っててやる! だから、勇気出して行ってこい!!」


 最後のトドメとばかりに、宇宙人美少女の背中をどんと叩いた。


(〜〜ッ!)


 一瞬触れただけ。それでも、あまりの冷たさに「熱い」と錯覚するほどの激痛が、手に走った。


 遅れてじわじわと痛みと痺れが追いかけてくる。それでも、一切顔に出さない。少しでも宇宙人美少女に安心してもらうために。



 背中を押した甲斐はあったようだ。


 俺に押され、前によろめいた勢いのまま、宇宙人美少女はその場から消えた。


 ちゃんとワープできたようだ。


 本当はワープなんて高度な技術、地球でやっちゃいけないらしいけど……いつも通り見ないふり見ないふりっと。


「あー。寒かった」


 俺はなんとなくその場でジャンプしたり、意図的に全身の筋肉を震わせたりして、存分に体を温めたのだった。



◆



 約五分後。


「泰平くーん! ありがとーーー!!!」


「うわっ!」


 突如空中から現れた宇宙人美少女に、上から飛びつかれた。


 落下を受け止めたことで後ろに倒れてしまったが、宇宙人美少女はそんなことはお構いなし。俺にギュッと抱きつきながら、ほっぺたをすりすりと擦りつけてくる。


 可愛い。嬉しい。柔らかい。いい匂い。


「や、やめろー!! 好きになっちゃう! 好きになっちゃうって!」


「あのねー! 口づけしてたのは、翼君のお母さんとだったんだって! 勘違いが解けたのは全部泰平君のおかげだよーー!!! 本当にありがとーー!!!」


 テンションの高い宇宙人美少女には、俺の声が届かない。全身からこれでもかと好意を向けられることが、どうにも嬉しくて仕方がない。


「ちょ、一旦! 一旦ストップ!」


「嬉しいー!! 泰平君、だーい好き!!」


「や、やめれー! マジで、マジで好きになっちゃうって! 自分が死ぬほど可愛いことを自覚してくれ!」


「えへへー! 泰平君! 好き好き! だーい好き!」


 この世界では異性に本気で告白できない。故にこの好きには、一切の恋愛感情が含まれていない。


 それでも、受け取る方が勘違いしないとは限らないんだぞ!


 頭では分かっているのに「もしかして本当に俺のこと好きなんじゃね?」と、頭をかすめる。俺の青い青い青少年の部分が、邪推しちゃっているのだ。


「ちょ、一旦ストップ! ま、待て!」


「キュン!」


 あれだけ俺の話を聞かなかった宇宙人美少女が、「待て」の指示に身体が反応した。しゅたっと俺の近くで体育座りし、じっと俺の反応を見ている。


 ……いや、犬かよ。そういうよくわかんない部分も可愛いな、くそ。


 俺は乱れた衣服を軽く整え、一息ついて落ち着く。その間に宇宙人美少女も少しだけ落ち着いたようだ。キラッキラに輝いていた目の光が、少し収まった。


「よし! いつもみたいに、心が宝石みたいにキラキラしてる宇宙人美少女に戻ったことだし……早速合同練習に励むとしようぜ!」


「そうだね! 行こっか!」


「って、腕をぎゅって取らないでくれ。好きになっちゃうから」


「大丈夫! 泰平君は私のことを絶対に好きにならないもん!」


「いやいや、なんで自信満々にそんなこと言い切れるんだよ」


「だって赤い糸が……あっ、えへへ。秘密!」


「……さいでっか」


 言い淀んだということは、宇宙の謎技術なんだろうな。



 部活後、何故か俺は宇宙人美少女から「幼い頃の宇宙人美少女の写真データ」が、PDFで送られてきた。


「にしても、かんわいいなあ……」


 実はこのPDFデータ、宇宙ではただのアルバム以上の意味を持つ。


 宇宙では「国民栄誉賞」ばりの影響力を持つ栄誉証だなんて、宇宙人ではない泰平が知る由もないのは当然だった。


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