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多分非モテ男の妄想世界に転生してしまった 〜【男1:女5】の自分が主人公ではない貞操逆転世界〜  作者: ながつき おつ


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第六十二話 勉強会続き


 採点が終わり、ぶりっ子先輩が俺達に向き直った。


「うん、泰平は国語84点、数学80点。相当いいわね。ユウカは国語が72点、数学が61点。うん、優秀。二人ともいい感じね」


「うへー、この時点でもうそんな点数が取れるの? 私も最近はかなり勉強を頑張ってるのに……泰平、ちょっと優等生すぎない?」


「うーん、でもなあ。俺ってコツコツ頑張るのは得意だけど、一気にスパートを掛けるのが苦手なんだよ。ね? ぶりっ子先輩?」


「そうね。泰平はここからの伸び率はそこまでなのは確かね。でも、いつもこの時期に同じ事をしたら、平均70点くらいじゃないの。根本的な学力は確実に伸びてるわ」


「へえー、泰平って元々、頑張った私くらいの成績だったんだ。それならここからスパートをかければ、いい感じに泰平に追いつけるかな」


 普通っ子はテスト勉強は一夜漬けタイプらしい。つまり、ここから確実に伸びてくる。俺ももう少し気合い入れないとな。


「いや、泰平はそんなに気合入れなくていいわよ。いつも通り淡々と全力でいきなさい。あなたは焦ったって逆効果になるタイプなんだから」


 ぶりっ子先輩が俺の目を力強く捉え、こう言い放った。


 しれっと心を読まれたが気にしない。こういうことはよくあるし。


 にしても、ぶりっ子先輩がそこまで念を押すのなら、やはり淡々と全力で生きるのが一番俺の性に合っているのだろう。


 内心では薄っすらそんな気はしていたが、実際そう断言されると、その事実がすとんと胸に落ちる。



「……そういえばしれっと流したけど、俺、なんか前より成績が良くなってるな。別に特別なことは何もしてないのに、なんでだろ?」


 勉強方法は何も変えていない。毎日朝にコツコツ勉強していただけ。それなのに今回のテストに限ってはやけに手応えがあった。


「そんなの簡単よ。あなたって毎日頑張ってるもの。そういう人って急に伸びたりするものよ。ようやく今までの積み重ねの成果が出ただけだわ」


「そんなもんなんかねえ」


「ええそうよ。あなたは頑張っているし、しっかり成長してるわ。急いだり焦らなくていいから、今までのペースで頑張りなさい」


 ぶりっ子先輩のこの言葉には、どこか勉強以外にも当てはまりそうな意味を含んでいた気がする。


 ……そういえば、昨日もぶりっ子先輩は俺にリラックスしろと言っていたな。さっきだって似たようなニュアンスのことを伝えてきた。


 何度も言うということは、それだけ俺にとって大事だということか?


 試しに最近のことを少し振り返ってみた。


 毎日の激しい部活、疑似結婚式の準備、疑似結婚式――


 うん、冷静に考えると、怒涛の日常だったな。


 最近の俺は白ギャル先輩のためにフルスロットルで動いていた。焦ったり不安になることだって多かった。


 まあ、それ自体は別にいい。青春ってのはそんなものだ。あの時期は確かな頑張り時だったはず。やったことに後悔はない。


 でも、その頑張りを「当然」と認識してたのだけは、違ったのかもしれない。


(ああ、今分かった)


 要は簡単な話だ。時には爆発的に頑張ったっていい。でも、そうした後はしっかり休む。特に俺なんてコツコツ頑張るのが得意なタイプなのだ。無理したのなら、その分休む。


 それだけでよかったのだ。



「ふふっ、先輩がそういうのなら、もうちょっと意識して少し肩の力を抜きますかあ」


 ぶりっ子先輩はこういう時、直接指摘するのではなく、俺自身の力で気づかせてくれる。俺を心から信頼してくれているからこそのやり方だ。


 俺の心のうちから出た言葉を聞いて、ぶりっ子先輩は机に肘を乗せ、顔に手をついた状態でニコリと笑った。


 そんな俺とぶりっ子先輩の様子を見て、普通っ子が手をポンと打ち鳴らした。


「なるほどねえ。泰平って自己管理がそんなに上手くないんだ。私は全然気づかなかったなあ。これからは、私も泰平の無理にいち早く気づいてあげられるように精進しなきゃ」


「ええ、ユウカも頼んだわよ。特に泰平は好きな子の前では必要以上にカッコつけて無理しがちだから、うまく誘導してあげてね」


「はーい」


 あんまり本人の前で俺の取り扱い説明書を読まないでもらえますかね? なんか恥ずかしいじゃん。



「さて、そろそろ勉強に戻るわよ。最初にお互いがつまずいたところを解説するわね。それが終わったらお互いで分からないところを授業し合う時間に入るから、それも頭の片隅に入れておいてね」


「「はーい」」


 ぶりっ子先輩による、少し難しい応用問題などについての解説が始まった。


 真に賢い人は教えるのも上手い。俺達がどこで引っかかったのかを即座に見つけ出し、足りていない知識を挙げ、類似問題に対するアプローチなども教えてもらう。


 まさに足りていなかった最後のピースがカチリとハマるような、気持ちの良い授業だった。



 それから、俺は普通っ子、普通っ子は俺の解答用紙を見ながら、お互いにどう教え合うのか、これからお互いにやる授業の下書きのようなものを作っていく。


 自分が正解した問題でも、案外教えるとなると難しい。こういうのはまだ理解度が浅いのだろう。教えるために、もう少し知識を深める必要がある。


 ぶりっ子先輩に解説してもらったりしながら、その作業を少しずつ進めていき、なんとか最低限教えられるような授業の下書きができた。


 そんなところで。


「さて、そろそろ夕ご飯にしましょうか」


 時刻は午後七時。いつの間にかもうこんな時間だ。


「泰平のお母様からたくさんのおかずを差し入れしてもらっているから、ここで食べちゃいましょう」


 俺がここで勉強会をする時はこの部屋で夕食を食べることが多い。


 ぶりっ子先輩がリビングから炊飯器ごと持ってきて、同時にタッパーに入ったおかずを温めて持ってきてくれた。


「「「いただきまーす」」」


 うん、最高にうまい。あんかけのかかった竜田揚げも美味しすぎるし、いつも差し入れに入っている定番の卵焼きも美味しい。箸休めのポテサラも抜群にうまい。やはり母の料理は最高だ。


「そういえばルリ先輩って、進路はもう決まっているんですか?」


「ええ、中央の情報工学部に入るつもりよ」


 この世界唯一の大学は東西南北、中央と、五つのキャンパスで構成されており、キャンパスごとに入学難易度が大きく異なる。もっと言えば中央キャンパスの中ですら、学部によって入学難易度が大きく異なる。


 中央はただでさえ高偏差値でないと入学することはできない上に、情報工学部はその中のほんの一握りの人間しか合格できない。合格難易度は医学部並だとか。


「おおー、情報工学部ですか。すごいですねえ」


「まあね」


「でも、そんなすごい学部でまずやることが、“酒池肉林サークル”の設立なんだよなあ」


 怖くて詳しくは聞いてないが、そもそも酒池肉林サークルってなんだよ。


「もちろん。泰平が入学してくる一年の間に舞台は整えておくから、泰平にも協力してもらうわよ」


「もちろんって……協力は惜しみませんが、あんまり俺に無茶させないでくださいね」


 まあ、基本的にぶりっ子先輩は俺に心から嫌なことはさせないので、そこは信頼しているけども。


 ……やっぱりその怪しげなサークルで何をしたらいいのか、詳しく聞いたほうがいいかな?


「ふふっ、高校を卒業したら、堂々と泰平に愛を囁けるのよね。その時まだ高校生の泰平は、気持ちを返せなくてもどかしいかもしれないけど、遠慮なんてしてあげないわよ。今まで積もり積もった愛のチャージショット、存分にくらわせてあげるわ」


 と、俺が逡巡している間に、次の話題に入ってしまった。


「ちょっと。ぶりっ子先輩だけチャージショットを放てるのがズルいんで、留年してください」


「いやよ。私のチャージショットを受けて、泰平が『想いに応えたくても、応えられない』というもどかしい表情を見るの、すっごく楽しみにしているんだから。ああ、今からゾクゾクするわ」


「趣味わっる」


 俺達は終始和やかな雰囲気で夕食を食べ終えたのだった。



 食後の休憩がてら、俺達三人はぶりっ子先輩のいつも使っているベッドに乗り込んだ。キングサイズのベッドとはいえ、三人もいるとゆったりとはいかない。


「ねえ、泰平、腕枕して?」


「あ、私も」


「あいよ」


 右腕にぶりっ子先輩、左腕に普通っ子を乗せる。ぶりっ子先輩は俺に足を絡ませながら目を瞑ってリラックスしている。普通っ子は俺の方に体を向け、幸せそうに微笑んでいる。


 この態度の違い……


 今日を通してずっと思っていたが、普通っ子はぶりっ子先輩との絶対的に安心感のある関係ではなく、恋人になりたての甘い関係をまだまだ楽しんでいたいという気持ちが行動から見え隠れしているな。


 まあ、それもそうか。すっかり普通っ子には深い部分まで心を許していたが、そういえばまだ恋人になったばかりだった。当たり前だが、長年付き添ってきた幼馴染のぶりっ子先輩とは違う。


(いや、待てよ……?)


 そんなことを考えていた時、ふと、自分の油断に気づいた。


 心の中で告白し、それが成功しただけ。それなのに、普通っ子はこれからも一生、俺とともにある。そう無意識のうちに決めつけていた。


 確かに告白が成就し、恋人にランクアップするのは素晴らしいことだ。でも、それだけで満足してはいけない。世間一般的な考えでも、大事なのはここから、恋人になってからだろう。下手したら恋人になってからの方が重要と言えるのかもしれない。


 これからはより深くまで心を通わせ、愛を深めていかなければ。普通っ子と結婚することを見据え、全力で淡々と日々を過ごそう。


 俺は首を普通っ子に向け、お互いの視線を絡ませた。大きな目がとても魅力的だ。


 ただこうして目を合わせているだけでも、なんだか気持ちがいい。何も言っていなくとも、愛を確かめ合っているようだった。


 ふと、綺麗な桜色の唇が気になった。視線をそちらに向けると、口パクでゆっくりと「ス・キ」と伝えてきた。


 俺の口角がだらしなく緩む。


 そんな嬉しいことされたら俺も返さざるを得ない。もう、連打だ。口をすぼめ、横に広げる。それを何度も繰り返す。


 ほんとは口に出したい。でも、今はこんなのでも充分に嬉しい。それでも口に出したい。


 さっきからもどかしい欲望を高速で繰り返している。この幸せのループから抜け出す術を俺は持たない。


(にしても……)


 そっかそっか、口パクか。そういうのもあるのか。盲点だったなあ。いいことを知ったわ。



「さて、休憩は終了。そろそろやるわよ」


 急に目を開き、がばっと体を起こしたぶりっ子先輩の合図に従い、また勉強会の開始だ。


 それから充分に普通っ子とお互いに授業し合ったのち、帰宅。


 さて、と。


 今日は少し早めに寝ますかね。


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