↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
多分非モテ男の妄想世界に転生してしまった 〜【男1:女5】の自分が主人公ではない貞操逆転世界〜  作者: ながつき おつ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/64

番外編5 ただ泰平の同級生でしかなかった男性


お福視点


 感情を波立たせることは、不幸せなことだ。


 恋をすることも、泥臭く部活動に励むことも、必死こいて勉強することも。


 男である僕には、全て不必要。


「なーんにも考えず、僕みたいに要領よく生きていけばいいのになー」


 学校から帰ると、ふかふかのベッドに自分の重い体を預けながら、すぐさま漫画アプリを開く。


 ふむふむ。異世界で主人公がチートして、ヒロインが主人公を褒め称える内容ね。特段面白くも、つまらなくもないな。


 ただ、物語のテンポが良く、そこそこ暇つぶしにはなる。


「次の話を読む……と」


 ちなみに今開いている漫画アプリは、待てば無料で読めるタイプのものだ。


 でも、もちろん僕は待たない。この程度のお金なら、ママが払ってくれる。


 お菓子だって、ジュースだって言えば買ってもらえる。幼い頃から欲しいおもちゃは何でも買ってもらえた。


 なぜなら、僕が男だから。


 ママは僕が可愛くて可愛くて仕方ないのだ。


「他の男みたいに口うるさくないから、ママもここまで甘やかしたくなるんだろうなあ」


 僕と似たような環境で育つ男は案外多い。


 どうしたって母という生き物は、息子を可愛がりたくなるらしい。


 だが、世の中の男は、いつしかそんな環境に満足しなくなる。


 もっともっと贅沢したい。こんなことしたくない。自分は特別だ。とにかく放っておいてほしい。などなど……


 どうやら人間の欲には際限がないらしい。


 ほんと、間抜けだよなあ。


「でも、僕は他の男とは違う」


 僕はある程度の幸せで充分満足できてしまう。


 毎日美味しいものを食べて、お菓子を食べて、ゲームや漫画を読んで、いっぱい眠る。


 これ以上を求める必要を全く感じない。


「もっと理想を言えば、高校生活も、大学生活も面倒ではあるんだけど……」


 まあ、将来この暮らしを継続するためにも、そこは我慢しなきゃね。


 ちゃんと大学を卒業した男は、男としての価値が高い。なんなら大学生の男というだけでも、女性によっては喉から手が出るほど求めてしまうこともあるくらいだ。


 ただ、大学の男の間では、「自身の妻達の収入によるマウント合戦」というのが有名らしく、それだけは今から面倒だが……まあ、そういうのは相手にしなきゃいいだけか。


「コスパよくそれ相応の経済力の女性が手に入りやすくなるんだから、大学卒業はし得か」


 めんどくさい学生生活だって、今までのようにぼーっとテキトーに過ごしてればいいだけだ。そうすれば、時間なんてあっという間に過ぎていく。


 それに、僕は男だ。掃除当番や委員会なんていう面倒くさい仕事は、放棄しても誰かがやってくれる。


 そもそもこういうのって、たとえ誰もやらなくても、案外誰も困りやしないしね。


 そういうのを要領よく選んで、適度にサボる。後は最低限大人しく授業を受けていればいいだけ。チョロいもんだ。



 そんなことを考えていると、扉からノックの音がした。


「晩ごはんができたわよ。今日は最近流行りのドーナツを買ってきたの。食後に食べましょう」


「はーい」


 このように。


 極論を言ってしまえば、男という存在は、生きているだけで幸せが転がり込んでくるのだ。


 僕は自分の重い体を転がし、ベッドから立ち上がった。


 ……匂いからして、今日の夕飯はカツ丼かな?


 最近また太ってきたから、本当はダイエットした方がいいんだけど……


 まあ、将来の僕が頑張ればいいよ。


 それに、太っている男性は、それはそれで一定の需要があるし。


 クラスの泰平君にも、『なんかふくふくしてて、ご利益ありそうだよなあ』と、お福と名付けられたくらいだ。なんとも縁起の良さそうなあだ名ってことは、まだ醜い太り方はしてないはず。


 ……いや、そうやって名付けられたのは、今より十キロほど痩せていた時だったっけ? まあ、何でもいいや。


 あー、晩ごはん楽しみだなあ。



◆◆◆



 もう六十年も昔のことなのに、今更になって高校生の頃をよく思い出す。


「本当に危なかったんですからね」


 ベッドの横で、若い男性の看護師さんが少し困ったような顔をして言った。


 最近では男性の社会進出も珍しくない。時代は変わったものだ。


「心筋梗塞だけじゃありません。糖尿病もかなり進行していますし、腎臓の機能も落ちています。血管もだいぶ傷んでいました」


「……はい」


「今回はカテーテル治療が間に合ったから助かったんです。あと少し遅れていたら、どうなっていたか分かりませんよ」


「そう……ですか」


 今までの僕なら、ここで適当に聞き流していたと思う。


 でも、今回はできなかった。


 命の危機に直面して、初めて現実を直視してしまった僕には、もう。



 ……心のどこかで、いつかこうなることは分かっていたんだ。


 それでも見ないふりをし続けていたが、そうやって誤魔化すことはできないところまできてしまったようだ。


(ああ、僕の人生は、なんて空虚だったんだろう)


 何にも興味を持てず、ただ転がってくる「その場限りの幸せ」を享受し、嫌なことはしない。働く人や頑張る人を冷笑し、頑張らなくても幸せな自分を正当化し続けた。


 そうやってここまで生き永らえた。それで満足だった。


 それなのに……


 本当に、なんて、なんて中身のない人生だったんだろう。


(そうか。僕は今、人生で初めて後悔してるんだ)


 窓の外で、木枯らしとともに枯れ葉が舞っていた。心にぽっかり穴が空いてしまったように、妙に寂さを感じる。


(病気にならなければ、死ぬまで自分が幸せだと思い込んでいただろうなあ)


 もしかしたら、そっちのほうが幸せだったのかも。


 けれど、今気づいてよかった。


 本当に心から、そう思っている。



「治療してハイ終わり、じゃありませんからね。これからは、しっかりリハビリ生活をしてもらいます」


「僕にできるかなあ」


「大丈夫です。それに、七十六歳になっても、まだまだ青春している男性は案外いるんですよ」


「いやいや、慰めようとしているのかもだけど、それは流石に嘘でしょ」


「嘘じゃありません。ほら、この本を知っていますか?」


 看護師から、一冊の本を渡された。


【親友が生涯青春を掲げている。僕の真隣で】


 そういうタイトルのエッセイ集のようだ。


 作者名には、どこか聞いたことがあるような男の名前が記されてある。


 この名前、どこかで……


「あっ、もしかして、不健康?」


「あれ、よくそのあだ名を知っていますね。ベストセラーですから、読んだことがあるのですか?」


「いや、ここ何十年も本なんて読んでないけど……」


 ペラリと一枚ページをめくる。


 そこには、僕の見知った同級生二人が、肩を組んでいる写真が写っていた。


 どうやらあの二人は、いつまで経っても仲良しのようだ。


 何故だろう。ガツンと、頭の中を鈍器で殴られたような痛みが走った。


「いいなあ……」


 二人の満面の笑みを見て、するりと口から言葉が出た。


 遅れて、自分が何を呟いたのかを認識する。

 

 僕は今、なんて言った? いいなあと言ったのか? 


 この二人を羨んだ、のか。


 ……そうか。


 今、気づいた。


 本当の幸せっていうのは、この二人みたいに、自ら泥臭く掴み取らなければいけないものだったんだ。自分から掴み取ったからこそ、こんなに幸せそうに笑えるんだ。


 七十六歳になって、死にかけて、そんな単純なことに初めて気づくなんて……


「ああ、僕はバカだ」


 乾いた笑いすら出てきやしない。涙すら出てこない。


 出てくるのは、自嘲の言葉と、ため息ばかり。


 感情を波立たせることをよしとしなかった僕には、そういうエネルギーの爆発のようなことは、もうできない。やりたくても、やり方を忘れてしまった。



「大丈夫ですよ」


 僕の落ち込んだ様子を見て、看護師さんが僕の肩に手を置いた。


「……でも」


「大丈夫なんです。その本に書いてあります。人間は何歳からでも青春を謳歌できるって。自分もその言葉を胸に、毎日頑張って働いています。だから、遅いなんてことはない。絶対に、ない」


「………」


 この若い男性の看護師は、僕に熱っぽく語る。


 きっとこの作者の大ファンなのだろう。


 言葉の節々から、そんな想いが伝わってきた。


「それに、ほら。窓の外から聞こえてきませんか?」


「ん?」


 かすかにだが、おじいさん、おばあさん達が集まって、はしゃいでいるような笑い声が聞こえてくる。


「この病院の近くの公園で、作者様とその親友様が、ゲートボールしているそうですよ。ほらね、その本に書かれていることは、決して嘘じゃないんですよ」


「そっ、かあ。そうなの、かあ」


「ええ、案外そういうもんらしいです」


「………」


 窓の外を見る。相変わらず木枯らしが吹いている。


 だが、枯れ葉だと思っていた葉っぱは、よく見ると色鮮やかな黄色や赤色をしていた。


「今からでも、青春ってできるのかなあ……」


 今までの人生は、僕は真面目に生きていなかった。この七十六年間、実質死んでいたのと変わりない。


 ただ、どうやら青春は何歳からでもできるらしい。


 なら、その言葉を信じてみよう。


 今日から生きることを始めてやろう。


 ……そうだな。


 思えば、別居している五人の妻にも、迷惑をかけた。放置していた子供や孫のことも、今になって気になってきた。たまにはプレゼントなんてしてやっても――


 心に張りができた途端、色々な楽しみが頭に思い浮かんでくる。感情がやけに波立つ。


 もしかしたら、これが生きるということなのかもしれない。


「なあ、看護師さん。この本、しばらく借りていいか?」


「ええ、いいですよ」


 僕はこの本を何度も何度も読んだ。


 それからしばらくして、ゲートボールの勉強を始めた。


面白い小説が読みたいけど、探すのがめんどくさいあなたへ


【長編:貞操逆転系】


笑ってはいけない貞操逆転世界!

https://ncode.syosetu.com/n1984mc/

貞操逆転スペースファンタジースローライフ!?~男女比が1:10の宇宙で男に生まれた俺が、辺境の無人惑星でスローライフする姿を配信する

https://ncode.syosetu.com/n4293kd/

男女比が1:5の男が少ない世界で、小物な彼女を振り回す

https://ncode.syosetu.com/n8582hx/


【長編:TS系】


さしすせそで攻略する異世界 〜ショタな天使族による無自覚な“可愛い”が止まらない〜

https://ncode.syosetu.com/n6154me/

心に「オジサマ」を飼うお嬢様のマナー~とんでもない名家のお嬢様なのに、気づけばクソボケ扱いされていました~

https://ncode.syosetu.com/n6820lw/



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。