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多分非モテ男の妄想世界に転生してしまった 〜【男1:女5】の自分が主人公ではない貞操逆転世界〜  作者: ながつき おつ


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第四十九話 オムライス


 ぱんっぱんっ。


 二礼二拍手一礼。


「(今日もこの世界が崩壊しませんように)」


 白ギャル先輩もぶりっ子先輩も普通っ子も、俺が元気っ子後輩のことを愛しく思うことになぜか好意的だ。


 その疑問をぶりっ子先輩にぶつけたところ、『強面大柄男と小柄マイペース女子の初セックスみたいな?』と、返答かどうかも分からない答えが返ってきた。


 今朝、普通っ子にも聞いたところ、『なんでだろう。考えたこともなかった』とかなんとか。


 一体どういうことだってばよ?

 

「うし、普通っ子、行こうか」


「うん」


 さあ、今日はどんな一日が待っているだろうか。



◆◆◆



 今日は土曜日。やることは柔道の午前練習と、母と喫茶店デートと、夜にゲームをする日だ。


 柔道部のみんなとも、娘お姉さんやゲーマーお姉さんなど、たくさんの仲の良い人に会えるので、地味に好きな日となっている。


 柔道が終わり、いつものように喫茶ロゼルへ。


 カランコロンカラン。


「あら、いらっしゃい」


「……あれ? どうしたんだ? お手伝い?」


 今日はいつも温かい笑顔で出迎えてくれるマスターではなく、ツンデレ美少女が俺と母を出迎えた。


 パッと見たところ、マスターはどこにもいないようだが……


「表の看板を見てなかったの? 今日のこの時間は母に用事があるから、私が一時的に仮のマスターをやることになってるの。ああ、安心して。一応バリスタの資格は取得済みだから、コーヒーに関してならそこそこのもんなのよ」


「ほえー。そうなんだ」


 俺は相槌を打ちつつ、いつもとは違う格好のツンデレ美少女を上から下までじっと観察した。

 

 いつもストレートで流している髪を後ろで結び、紺色のエプロンをしっかりと着こなした彼女の姿は、まさに看板娘だ。贔屓目に見てもくっそ可愛い。少し恥ずかしそうにしているところも俺的にポイントが高い。


「うん。いいじゃん」


「あんまジロジロ見ないでよ。変態」


「ええー! じゃあ今は見ないから、写真だけ撮らせて! 家に帰ってから堪能するから!」


「キモいから却下。そんなことより、さっさと注文しなさい。ああ、泰平君のお母様。今日は母が作り置きしてくれるビーフシチューしか提供できないのですが、大丈夫ですか?」


「ええ、よろしくお願いします」


 母がニコニコと愛想よく返事をした直後、俺も手を上げて自分の存在をアピールする。


「はいはいはーい! じゃあ俺は、ツンデレ美少女の手作りオムライスで! ケチャップで『泰平ラブ』って書くのはマストな?」


「ここはメイド喫茶じゃないのよ。じゃ、泰平もビーフシチューね。料理は持ってってあげるから、泰平はさっさと二階のお姉ちゃんの部屋へ行きなさい」


「え? 早くない? もうちょっと母とのデートを楽しみたいんですが……?」


 あとあなたのエプロン姿を目に焼き付けておきたい。


「私だって泰平のお母様と二人で親交を深めたいの。たまには譲りなさい。ってことで、さ、男は邪魔よ。さっさとお姉ちゃんの部屋に行きなさい」


「えっ、ちょっと」


「料理は持ってってあげるから、ほら、シッシッ」


 そうして俺はツンデレ美少女に強引に追い出されたのだった。



 少し釈然としないものを抱えつつ、俺は娘お姉さんの私室に着いた。


「パパ。おかえり」


「? ただいま」


 この時俺は、ほんの少しだけ違和感のようなものを感じていた。ただ、何故違和感を感じたのか、何に違和感を感じたのか、それが分からない。


 なんでだ? いつもと一緒のお出迎えのはず。だが、どこか言葉に含まれるニュアンスがいつもとはほんの少しだけ違っていたような……


 うーん、気のせいだろうか。


 そうやって思考を走らせていると、ふといつもと違う部分が目についた。


「あら、なんかいつもより垢抜けてる?」


「えへへ、パパ、気づいてくれてありがとっ。今日はちょっとだけおしゃれしてみたんだ。でも、私っておしゃれが難しくてよく分かんないから、妹から誕生日にもらったヘアピンを付けて、寝癖を整えただけなんだけどね」


「そっかそっか。うん、最高に可愛いよ」


 さっきの違和感はいつもとは少しだけ格好が違うことが原因で感じ取ったと一人納得する。ただし、この納得にはどこか、喉に魚の小骨が刺さったような引っかかりがあったのだが、鈍い俺はその引っかかり自体をすぐに忘れてしまった。


「えへへっ。もう、パパはいっつもそればっかり。あんまり可愛いって連呼しちゃだめだよ」


 そうは言いつつ、娘お姉さんは嬉しそうに口元をモゴモゴとさせた。そういう反応が嬉しいから、俺は素直に言ってしまうのだ。


「さあ、こっちこっち。すぐに料理が来るはずだから、ゆっくりおしゃべりして待ってよ?」


「うん。ってあれ? まだ料理を食べてないって言ってないよね? どうして料理が来るって知ってるの?」


 と言い終わった辺りで、「そうか、いつもよりも早い時間に来たから察したのか」と一人で納得しかけた瞬間。


「あ、あのね。えっと、その……」


 なぜか娘お姉さんはギクッとした表情を浮かべたのち、しどろもどろになった。明らかに何かやましいことをした反応だ。どういうことだろう?


 気になった俺は娘お姉さんの様子をじっと見てみることにした。


 目を泳がせ、手足をバタバタさせ、髪を何度も手ぐしで整え、冷や汗なんてものまで……うん、すっごく分かりやすくて、申し訳ないが、可愛い。このまま一生困った姿を見ていたいな。


「ご、ごめんねっ。私が妹に『パパともう少しだけ長く一緒にいたい』ってわがまま言ったのっ!」


 俺の視線に絶えきれなくなった娘お姉さんは、目をギュッと強く閉じながらそう打ち明けた。


「ああ、そういう」


 なるほど。だからツンデレ美少女は俺を追い出すような態度を取ったのか。


「だからね、うちの妹を悪く思わないであげて?」


「そんなこと、お願いされなくても大丈夫だぞ。この程度で信頼関係が壊れるほどの関係じゃないからな。どうせツンデレ美少女のことだから、何か意図があるんだろうなあって薄っすら思ってたんだよ」


「……パパは妹のことすっごく信頼してるんだね」


「うん、そうだけど……どうしたの? うつむいちゃって。何か寂しいことでもあった?」


「ううん。なんでもない。なんでもないよ」


 その直後、コンコンと扉を叩く音が聞こえてきた。それからすぐ、ツンデレ美少女の「ここにおいておくわね」というよく通る声が聞こえたので、扉の外に向かって「ありがとー」と返す。


「さて、ぱぱっと食べちゃおー。お?」


 俺が扉を開くと、そこにはいつも頼むカフェオレと、大盛りのオムライスが置いてあった。ケチャップで文字こそ書かれていないが、外からビーフシチューがかかっているタイプのオムライスだ。


 まさか本当にオムライスを作ってくれるとは思わず、自然と笑みが浮かぶ。


「あれ? 家の喫茶店のメニューにはオムライスなんてないはずだけど……」


「ああ、俺がふざけてオムライスが食べたいって言ったら、作ってくれたみたいなんだ」


「ふぅん、そっか」


 娘お姉さんは何かを言いかけて、やめた。少し待ってみたが、どうやらこれ以上何かを言う気はなさそうだ。


「いただきまーす」 


 俺がガツガツとスプーンを進めていると、娘お姉さんの視線からほんの僅かに恨めしげな感情を感じた。


「ねえパパ、おいしい?」


「最高においしい。幸せの味がする」


 口の中でふわふわの卵とともに幸せがほどけていく。とろとろの卵には強めにバターの香りがする。少し焦げてほんのりと苦みのある香ばしいケチャップライスとの相性は抜群だ。


「でもでも、うちの妹って……いや、なんでもない」


 また何かを言いかけて口を閉ざした。その揺れる瞳は娘お姉さんの心とリンクしているかのようだ。感情が複雑に揺れ動いているのは分かるが、何を感じているのかまでは俺には分からない。


 ただ、美味しそうに食べていることそのものを、どこか不思議がっている様子だけは読み取ることができた。


「娘よ、一口食べてみる?」


「うん、ちょっとだけもらうね? パパ、あー」


 娘お姉さんが小さな口を開けたので、俺は雀の給餌の要領でスプーンをツッコむ。何故か、なかなかスプーンを口から引っこ抜かせてくれない。スプーンを咥えた状態で、嬉しそうに頬を緩めている。


「むぐむぐ。むぅ? むふふふむふむふ」


「ほら、スプーンを離して。お行儀が悪いよ」


 少し力を入れると、口の中で押さえられていたスプーンはスルッと抜けた。


「うーん、ちょっと焦げちゃってるけど、それがアクセントになって、いつもより美味しい。うちの妹ってデザート以外の料理はそこまで得意じゃないはずなのに……」


「え? そうなの? パティシエ志望って言ってたから、てっきり普通の料理も得意なんだと」


「ううん。うちの妹はあんまり器用じゃないから、二つの事をいっぺんに進行させたりするのが苦手なの」


「マジか。でも、昔ツンデレ美少女に手作りのケーキを試食させてもらったことあるけど、俺のケーキ観を変えるほど美味しかったぞ?」


 だから料理に関しては最初からセンスの塊なのかとてっきり。


「それがうちの妹のすごいところなんだよ。人よりも不器用だし覚えも悪くて、失敗ばかりするけど、それでも決して諦めないの。そうやって一個ずつ丁寧に基本の技術を覚えていったから、今のかっこいい妹の姿があるんだ」


「ほえー、あいつ、想像以上に頑張ってたんだなあ」


 その話を聞いて、大きな感心と小さなもどかしさを同時に感じた。


 どうして少しだけモヤモヤしているのだろう。自分でもこの感情が何が原因で発生したのかが分からない。


「あ、でも、私がこんな話をしたのは内緒にしてね。うちの妹は見栄っ張りでもあるから、こんなことを話したのをバラしたら、怒られちゃう」


「ほーい」

 

 そこに関しては同感だ。


 それから俺はさっきよりもこのオムライスを味わって食べた。


 何度食べてもこのオムライスには幸せの味がした。


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