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多分非モテ男の妄想世界に転生してしまった 〜【男1:女5】の自分が主人公ではない貞操逆転世界〜  作者: ながつき おつ


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番外編4 泰平と関わりがあるのに、一切交わらない男性

評価、ブックマークありがとうございます。

感謝の二話投稿。


貴族視点



 今日も翼の周りで女子がかしましく騒いでいる。


 そんな中、俺は教室で一人、誰にも聞こえないくらいの声量でこの世を嘆いていた。


「つまらん」


 最高級の物を食し、最高級の衣服を身にまとい、最高級の邸宅に住む。


 宝石を身にまとい、財貨を惜しみなく使い、世の女たちを己の魅力によって翻弄する。


 それこそが、男という生き物の価値を高める、最も自然な生き方である。


「実につまらん」


 しかしながら、神というものは随分と意地汚い。俺は貧乏な家庭に生まれてしまった。男として生を受けた以上、王たる器を育てるには、それ相応の財力が必要だというのに。


 ……しかしながら、母の仕事である女優というのは恐ろしい世界だ。母はあれだけ映画に引っ張りだこだというのに、そこまで稼ぎがないとはな。


『ごめんね。私にはあなたを王にできる能力がなくて……』


 まったく、困ったものだ。


 いくら“本物”の男である俺でも、母親にそこまで懇願されてしまえば、無下にはできない。


 ただ、その程度の困難で諦める俺ではない。


『少ないけど、男の子を産んだ家庭には補助金が出るから、これは全部使ってね。あと、もし、もしだよ。男性モデルとして写真撮影でもしてくれたら、そのお金は全部男を磨くのに使っていいからね。男の需要は常に高いから、仕事ならいくらでもあるからね。ううっ、こんなことしか提案できない、ダメな母でごめんねっ……』


 一年もの間、補助金を貯蓄し、思った以上に儲けの少ない写真撮影の仕事の財貨も全て貯蓄。


 そして、機が熟したところで、その財貨の全てをドカンと自己投資してやった。


 ふはははは。


 こんな豪気な男、今どきいないだろう。


 ……だが、母は何故現金を手渡してくるのだろうか。まだ未成年故母にギャランティが振り込まれるという理屈は分かったが、俺の口座に直接振り込んでくれたほうが分かりやすいのだがな。


 まあいい。王たる器の俺は、細かなことなど気にしない。


 とにかくだ。こんな果てしない逆境でも、できうる限り最善を尽くしただろう。



「はん、つまらんな」


 そうだ。俺は“理解”している数少ない男だ。


 男とは生まれながらにして王。選ばれし種族。女とは、生まれながらにして身分が違う。


 威風堂々。本物の王とは、何もせず、座して待つ器を持つもの。決して努力などというみっともないことはしてはいけない。


 嘆かわしいことに、その真理を理解している男は少ない。


 俺はその一握りの男なのである。


「つまらん」


 本来ならば、王の周囲には、その身分に相応しい女が自然と集まってくるはずだ。


 しかし、現実はどうだ。俺の周囲にいる女たちは、見る目というものを持ち合わせていない。


 俺が思うに、いい女とはこれらの願いを叶えられる家柄と資産力を持つものだ。それが俺を満足させる最低限の資格。それすら持たぬ女など、俺の視界に入る価値すらない。


 二束三文のどうでもいい女ならば、いくらでも寄ってくるのだがな。


「つまらんな」


 それにしても、この高校生活は特に窮屈だ。


 誰も俺の望みを叶えない。誰も俺の世話をしない。家では使用人がやってくれることを、誰もやらない。


 まったく。本物の王に奉仕する機会など、そうそうないというのに。


「ふん」


 そもそも、なぜ俺がこんな低俗な場で低俗な学問を学ばなければならないのだ。


 そう憤っていた時だった。


 俺の前を歩いた女から、ふわりと高貴な香りが漂った。


 ……そうだった。


 こんな環境にも過去に一人だけ、少しばかり興味を持った本物の女がいた。


 西園寺。名家の令嬢であり、莫大な資産を持つ女。家柄も容姿もなかなかに悪くない。


 歩くとふわりと揺れる美しい金髪。


 そしてなにより、その凛とした立ち姿は、まさに女傑と言うにふさわしい。



 俺が小学四年生だったあの頃。


 若気の至りか、俺のほうから声をかけてやったことがあった。


『さ、西園寺、将来俺と共に暮らす権利をやろう』


『ごめんなさい、私、あなたでは満足できそうにないの』


 それは、冷徹な施政者のような冷たい目だった。



 ……断られた?


 バカな。男からの誘いを断る女など、どこにいる?


 愚かだ。本当に愚かだ。


『後悔してもしらんぞ!!!』


 捨て台詞のようにそう言って去ったあの夏のことを、俺は未だに覚えている。


 それから、俺の中であいつは偽物の女となった。


 家柄がどれほど立派であろうとも、男の価値を理解できないのであれば意味がない。


 無価値だ。そう、無価値なのだ。


「くそっ」


 本気でそう見限っているのに。


 どうしてかまだ、俺はあいつの後ろ姿を目で追ってしまう。


(……きっと、惜しいだけだ)


 本来ならば、本物の女になる資格を持っていた。それが、愚かな判断によってその資格を失ってしまった。


 俺はただ、それを惜しんでいるだけだ。


 ……そうに決まっている。


 そう思っていた、そのとき。


「なあなあ、金髪ドリルお嬢様〜」


 耳障りな声が聞こえてきた。


「俺って将来どうやって働くかまだ迷ってるんだけどさあ。俺が行き倒れたら雇ってくれよ〜」


 あいつは、いつもヘラヘラと軽薄な笑みを浮かべ、男のくせに女に媚びる、このクラスで最も理解しがたい男だ。


 そもそも、働くなど下々の者にやらせておけばいいのだ。高潔な男が自ら価値を下げるとは、考えられんな。


「ふん」


 俺は鼻で笑った。


 そもそもだ。西園寺。あいつは俺の誘いを蹴った強欲な女だ。俺ですらそうだったのに、お前ごときの頼みを聞くわけがないだろう。



「そうねえ、泰平なら私も満足できるかしら」



 ……は?


「お? マジ? 金髪ドリルお嬢様の肘置き係くらいなら喜んでやるし、足くらいなら奴隷のように丹念に舐めるぞ?」


「〜〜ッ! バカ! 西園寺家にはそんな役割はありません!」


「今一瞬、エロい顔になったな? 足舐めフェチか? 速報速報! 西園寺家のお嬢様! 男に足を舐められるのがお好き!?」


「うるさい!」


 二人がくだらないやり取りをしている。


 声は聞こえている。


 なのに、意味が頭に入ってこない。


 俺の視界には、西園寺の顔だけが映っていた。


 ……なんだ、あの表情は。


 俺には見せなかった顔だ。


 あの女が、あんな温かい目をするとは。あんな生き生きとした表情をするとは。


 なぜだ。


 なぜ、お前は――


 泰平には、そんな顔を向けるのだ。


 一ノ瀬翼、あいつにならまだいい。あいつに夢中になるのは、一種の流行り病のようなものだ。いずれ熱も冷める。


 だが、泰平は今を生きる男だ。常に俺と同年代で、俺のような高尚な男と常に比較されるような、悲しき運命の男。


 なのに――


「……くだらん」


 本当に、理解できない。



 泰平。あのクソ真面目は、いつだって気に入らない男だった。


 ポイ捨てするな。物は大事にしろ。借りたものは返せ。横柄な態度を取るな。


 小学生の時からずっと「俺の前だけでもいいから、そういう事はしないでほしい」と、そんなどうでもいいことを言い続けてきた。そんなルール、下々のものだけが当てはまるものだというのに。


 さらに気に入らないこともある。


 泰平は女が自由であることを許しているのだ。


 男という格上の存在が引き締めなければ、女など愚かなままだというのに。


 このクラスの生ぬるい空気や、男に窮屈で不自由な空間。これを作り出している根本は、間違いなくあいつ。あいつがいるから、女はまるで許された存在のように、のびのびと過ごしている。


「実に不愉快だ」


 もちろん選ばれし俺には、泰平の言うルールなど気にする必要はない。


 だが、俺がそんな些事を実際に無視しようとすると……


「………」


 じとーっ。


「………」


 じとーーーーーーーっ。


 高橋。泰平に不健康と呼ばれる高橋が、俺を批難するように見ている。


 何も言わない。注意しない。命令もしない。


 高橋は、ただ見てくる。泰平が気に入らないことをしようとすると、必ず。それほどやつは泰平のことを気に入っているのだ。


 あいつの視線は、やけに迫力がある。


 まるで虫けらを見ているかのような。そして、何も見ていないような。粘着質で闇が深い、暗く淀んだ瞳。あの視線に魅入られると、俺は動けなくなる。


(ちっ!)


 男の格は、連れ歩く女の質によって決まる。


 その理屈でいえば、現時点では――


 俺は、あいつより劣っていると言えなくはない。


 ……ただし。


 それは「現時点」の話だ。


「ふん」


 俺があえて争わないのは、単なる戦略だ。


 気圧されたわけではない。


 決して。


 断じて。


 俺は心が広いのだ。


 そういうことにしておいてやっているだけだ。



 居心地が悪くなった俺は、教室を去った。



 放課後。


 今日の西園寺を見て、少し思ったことがある。


 もしかして、愚かだったのは過去の話で、今ならば……?


 そう思った俺は、西園寺と他国のプリンセスとやらが所属するオリジナル部、「Salon de la Belle Époque (サロン・ド・ラ・ベル・エポック)」へ向かった。


 部活動などという低俗なものに属するつもりはない。


 だが、ここだけは例外だ。


 サロン部も俺という男が入部することで、格も上がる。向こうも俺を歓迎するだろう。

 

 むしろ、入部を願われる側なのは俺だ。俺の入部を大歓迎するに決まっている。


 さあ、西園寺。これは慈悲だ。


 もう一度だけチャンスをやろう――



「申し訳ありません。入部はお断りします」


「なぜだ!」


「あなたが、自らの価値を高める努力をしているようには見えませんので」


 西園寺だった。またあの時と同じ、冷たい目をしていた。


 ただし、言葉遣いだけは妙に丁寧だった。


 それがかえって、俺との間に明確な線を引かれているように感じられた。


「俺ほど自分の価値を理解している男はいない!」


「そういうところです」


「………」


「お引き取りください」


 扉が閉まった。


 俺は一人、廊下に取り残された。


「……後悔しても知らんぞ」


「………」


 返事はない。


 俺の声が廊下に虚しく響く。


 扉の中では、西園寺ともう一人が自らの教養を深めるため、日本の華道というものを教えている声が聞こえてきた。


 いつも二人は、交代交代で自分たちの国の素晴らしい文化を教え合っているらしい。


 実に楽しそうだ。


「………」


 この胸に蔓延るのは……敗北感?


 まさか。


 まさか、この俺がそんな物を抱くわけがない。


 こんなのは気の所為だ。気の所為に決まっている。


「後悔しても知らんからな!」


 いずれ。


 いずれお前たちは、俺の輝かしい未来を見上げることになるだろう。


 ああ。嘆かわしい。


 本当に、この世は愚かな女ばかりだ。





 その後の未来。


 貴族は母の紹介で五人の妻を娶ることになる。


『『『『『ごめんね。私達が貧乏で……』』』』』


 貧乏(?)で、世渡り上手な妻五人に上手く踊らされ、男性モデルとして毎日のように働かせられることになるのは、また別の話。


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