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多分非モテ男の妄想世界に転生してしまった 〜【男1:女5】の自分が主人公ではない貞操逆転世界〜  作者: ながつき おつ


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第三十七話 恋愛相談


 ぱんっぱんっ。


 二礼二拍手一礼。


「(今日もこの世界が崩壊しませんように)」


 今日は土曜日。いつものように柔道を午前中に終わらせ、母と喫茶店に行き、娘お姉さんと遊び、夜は遅くまでゲームする日だ。


 そして日曜日が終わり月曜となれば、ついに体育祭の開幕だ。


 今回の体育祭は、かなり気合を入れて望むつもりだ。事前練習もたくさんしたし、やれることはやっただろう。


 ただ、体育祭にかまけてそれ以外の日常がおざなりになっては元も子もない。


 俺は今日もいつも通り今日という日を淡々と全力で楽しむよ。


「うし、普通っ子、行こうか」


「うん」


 さあ、今日はどんな一日が待っているだろうか。



◆◆◆



 いつものように柔道を終え、母と共に喫茶店でご飯を食べた。その後、娘お姉さんの部屋に遊びに行く。二十五歳の引きこもりで、俺のことをパパと呼ぶことでおなじみの娘お姉さんだ。


「パパ、おかえり!」


「おう娘よ。ただいま帰ったぞ」


 今日も俺と娘お姉さんのごっこ遊びが始まる。


「パパ! 頭撫でて!」


「しゃあないなあ」


 言われた通り、俺は娘お姉さんの少しぼさっとした髪を撫でながら、ついでに癖を整えてサラサラにする。女性特有の少し甘い香りと、人間の生々しい匂いの混じった鼻腔をくすぐった。


「えへへ、どうしてか、パパにだけは素直に甘えられるの。なんでだろ」


 そう言いながら、長い前髪の奥の瞳を上目遣いにさせ、俺を見上げてくる。可愛い。いつも通り可愛いのだが。


 うーん……? なんだろう、この違和感。


 俺の気の所為でなければ、今日の娘お姉さんの瞳には、どこか「もっと深い関係になりたい」と言う期待の光が含まれている気がする。


 臆病な娘お姉さんにしてはかなり珍しい反応だ。いつもなら俺への好意は隠さないにしても、異性としての思慕は表には出さなかったはずだ。


 まあいい、俺の早とちりかもしれないので、普通に返事しよう。


「さあなあ。俺が父性溢れるダンディな大人だからかなあ」


「あはは、パパって冗談も面白いね」


 冗談と断定されてちょっとだけ「うん?」となったのだが……まあ、そこは口に出すまい。


 それから普段通り会話を続けたが、どこかいつもよりもぎこちない時間が続いた。


 じれったくなった俺は、少しだけ核心に迫るように問い詰めてみることにした。


「今日の我が娘はどうしたんだ? いつもと様子が違うけど……」


「…………えへへ」


 娘お姉さんは力なく笑うと、正面からポスっと俺の胸に体重を軽く預けてきた。


「ねえパパ」


 時計の針がカチカチと音を鳴らしている。その音が静かな部屋にやけに響いていた。


「んー?」


「もうちょっとだけこのままでもいいかな?」


 しんみりした様子でそうつぶやいた娘お姉さん。その言葉の抑揚と佇まいに、俺は今にも泣き出しそうな子どもの姿を幻視した。


「ったく、しゃあないなあ」


「えへへっ、やっぱりパパって優しいね」


 それから俺達二人は何も話さず、お互いの体温だけを感じていた。


 いつもなら、これだけ可愛い女性と密着すれば胸が高鳴るはずだ。だが今日はそうならなかった。


 俺の心臓は不思議なほど穏やかで、ドクン、ドクンといつもよりひどくゆっくり深く鼓動を刻んでいる。


 その原因はきっと、この場に漂う独特の空気のせいだ。


 俺は彼女の中に小さな生命の息吹を感じていた。まるで生まれたての子鹿が必死に立ち上がろうとするみたいに、彼女が彼女らしく生きるために、今まさに戦っているのだ。


 何と戦っているのかは皆目見当もつかない。それでも彼女は今、自分の中に絡まった感情を一つひとつほどきながら、懸命に前へ進もうとしている。それだけは分かる。


 ゆったりとした時間の流れの中で生きる彼女には、時にこうして立ち止まり、自分と向き合う時間も必要なのだろう。



「ねえ、パパ?」


 五分ほど経った時、娘お姉さんがその重い口をようやく開いた。


「うん、どうした?」


「パパはさ、私のこと可愛いって思う?」


「うん、可愛いよ」


 娘お姉さんは可愛い。やけに色白な肌も、少しもちっとした頬も、意外とパッチリと開かれた目も、豊かなお胸……は置いておいても、全体的に俺の好みに刺さっている容姿だ。


「そっか、やっぱりそうだよね」


「うえ? やっぱりって?」


「だってパパからは、アイドルを見るような目で見られることもちょくちょくあったんだもん。おかしいなーって思ってたけど、『可愛い』って即答するってことは、本当に私の容姿が気に入ってるんだね」


「へへっ、まあね」


「ふぅん……そっかそっか。えへへっ、嬉しいな」


 心から嬉しそうに笑う娘お姉さんにつられて、俺の口角も上がる。彼女のくしゃっとした少し幼く見える笑い方は、本当に魅力的だ。


「いや、嬉しいのは分かったけど、それがどうしたの?」


「うーん、まだ秘密! というか、まだ私も私の気持ちがあやふやだから、秘密未満、かなっ!」


「秘密未満かあ、残念」


 異性との関係では秘密がつきものだ。秘密にされること自体はもどかしいが、多少秘密がある方が健全ってものだろう。


「あのね。これはその秘密の話に少し関係してるんだけどね。最近のパパって、恋がちょっと進んだんだよね?」


「うぇ!? よく分かったね。周りには秘密にしてるつもりなんだけどなあ」


 おそらく普通っ子との関係のことだ。恋愛は表でするものではないこと、主人公君に隠れてやるべきであることから、俺は徹底的にお互いが想い合っていることを秘密にしてきた。


「えへへ、パパのことなら何でもお見通しなの。……ていうのは嘘で、妹から教えてもらったの。最近の泰平は浮き足立ってるから、絶対に恋関係で何か進展があったってね」


「……マジか」


 我ながら結構上手く隠しているつもりなのだが、俺って隠し事が下手なのかな。いや、白ギャル先輩とツンデレ美少女くらいにしかバレていないはずだし、そこまで下手ではないと思いたい。


 てかあいつもさあ、察しちゃったのなら、もうちょいお見通しですみたいな雰囲気を出せよ。少しも態度に出さねえでやんの。こっそりダメなことをやっている俺達に釘を差すなり、怒るなり、なんにでもやりようがあっただろうに。


 ……いや、ツンデレ美少女はそんなことしないか。あいつっていい女だから、あえて心の内に留めてくれていたのだろう。自らの姉にだけは話したのだって、俺には分からない何らかの意図があるはずだ。どちらにしても彼女の深い優しさが故ではあるはず。そう断言してしまえるほど、俺は彼女のことを信頼している。


「それを妹に伝えられてからさ、なんだか私、悪い夢を見るようになったの」


「悪い夢……それはどんな?」


「泰平が私をボロ雑巾のように捨てて、他の女のところへ行っちゃうの。それからはもう、泰平は二度と戻ってこない」


「………」


「悪夢だって分かってるけど、弱い私はどうしても気にしちゃって、辛くてしんどくてたまらなくて、どうしようもなくて……」


「そっか」


 なんかすまんなあ。どう謝ったらいいのか分からないし、謝ることでもないのかもしれない。でも、とにかく申し訳無い。


「でもね。きっと今日からはもう、その悪夢は見ないはず。だって……」


 ここで娘お姉さんは口を閉ざしてしまった。


「うえ? だって?」


「えへへっ。ここから先は有料となります!」


 続きを促すも、娘お姉さんは口の前で指でバツ印を作りながら、笑顔でそう告げた。その無邪気な笑顔を見ていると、「もう何も心配いらないな」と、素直に思えた。


「たはー、マジかぁ、これだから資本主義社会は世知辛いんだよなー」


 俺の大げさなジェスチャーを交えた気楽な言葉をきっかけに、それからはいつものように普通に楽しく雑談に励むことができた。ただし雑談中にちょくちょく秘密について追撃してみるも、どうやっても教えてはくれなかったのだけは残念だ。


 その後、いつも通り俺は寝かされ、目覚めたらいい時間となっていたので、ラジオを撮ることに。


 ラジオごっこすることに慣れた俺達は、滞りなくフリートークやコーナーを進めていった。


「では次のコーナーに参りましょう。お便りのコーナー!」


 お便りなど募集していないので、いつもこのコーナーではテキトーにネットで拾ってきた悩みについて話すコーナーとなっている。


 ただ、今日の質問コーナーはいつもとはほんの少し毛色が違った。娘お姉さんがいつもは避けるような恋愛についての話題を持ってきたのだ。


「ラジオネーム、……ええっと、棚から五億からいただきました。『結局陽キャが恋愛強者なのでしょうか? 陰キャには男にアタックすること自体、ハードルが高すぎるんですが! もううどうしろってんだ!』とのことです」


「ほーん。恋愛系の悩み事ねえ。恋愛に陰か陽かなんて関係なさそうだけど……結局動くか動かないかってだけじゃないのかな? っていうのは男視点すぎる?」


「うーん、どうだろ。私も一応女の子だけど、あんまり恋愛は得意じゃないから……そうだなあ。私って、好きな人の好みに合わせてみる、くらいのせせこましい努力くらいしかしたことないんだよね。逆に言えば、棚から五億さんもそれくらいはできるんじゃないかな?」


「なるほどねえ。うーん、好きな人の好みに合わせる、か……」


「あれ? あんまり反応が良くないけど、パパ的にはこのアプローチはダメなの?」


「まあ、うーん……うん、そうだね。世の男子のことは知らないけど、個人的にはそんなかな」


「それはなんで?」


「なんでだろ? 俺が大抵の女性を可愛いって感じるからかな? それか、芯がある女性を好きになりがちだからってのもあるかも……」


「え、えっと……ね、ねえパパ! そもそもパパってどんな女性が好みなにょ!?」


「なんでそんな目をぎゅって瞑って聞くの? まあいいけど。さて、俺の好みねえ。感覚で生きている分、こういうのを言語化するの苦手なんだよなあ」


「ほ、ほら。質問者さんのためにも、何か絞り出して!」


「うえー、うーん……強いて言うのなら、俺は分かりやすく頑張っている人に惹かれがちな気がするかも。そこで目に止まった人と徐々に心を通わせていって、恋を深めていくイメージ?」


「そっか、頑張っている人、か。もうちょっと頑張らないとなあ」


「……うん? 後半が小声過ぎて聞こえなかったけど、なんて言った?」


「ううん。なんでもない。じゃあ棚から五億さんはもうちょっと頑張りましょうということで、次のお便りへ行きましょうか」


 それからもラジオごっこはつづがなく続いていったのだった。


気が向いたらでいいので、コメント、評価、ブックマークをしてくれると嬉しいです。お願いします!

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