第三十三話 体育祭メンバー決め
ぱんっぱんっ。
二礼二拍手一礼。
「(今日もこの世界が崩壊しませんように)」
傍から見たら丸わかりなのに、渦中の人間には見えないことってあるよな。
そういうズレを減らすために、心を通わせるっていうのは重要だと思うんだ。俺は人間は究極一人でも生きられると思っているタイプだけど、あくまで生きられるってだけで、楽しく生きられるってわけじゃないからさ。
それを考えると、柔道の教えっていいよな。精力善用、 自他共栄、要はみんなでハッピーになれるようにエネルギーを使おうって、俺は雑に解釈してる。
柔道に関わることで初めて知った言葉だけど、いい言葉だと思う。ここで柔道を始めてよかったよ。
「うし、普通っ子、行こうか」
「うん」
さあ、今日はどんな一日が待っているだろうか。
◆◆◆
うちの学校は体育祭が派手だ。なぜか先生より権力のある生徒会が指揮を取りながら、全力で楽しい青春を送れるように作り上げてくれる。
去年身を持って知ったのだが、ここの体育祭はまるでテレビのバラエティのようにエンタメ性が強い。
大迫力の応援合戦や、滅茶苦茶なお題の借り物競争、異性との二人三脚、やたらグイグイ解説する放送委員など、とにかく盛り上がることを重視したものとなっている。
「いててててっ、……コホン。はい注目。先生からのお知らせです。今年の体育祭では例年通りクラスごとに鉢巻の色が決まるのではなく、クラスごとに十人ずつ分かれて三色で争ってもらうことになりました」
「「「「ええー!!」」」」」
ホームルームでのドジっ子先生からのお達しに、クラスがどよめく。
体育祭といえば、ラブコメイベントの宝庫だ。騎馬戦の練習をしたり、二人三脚の練習をしたりなど、仲を深めるのには絶好の機会。なので、主人公君とより仲を深めたい女子達にとって、違うチームになるのは絶対に避けたいことだ。
ただし、俺の場合は別にそうではない。
「よしよし、計画通り」
「計画通り? 泰平がなんか生徒会に掛け合ったの?」
「うーん、うんまあ、そうなるのかな?」
教室の影でこっそり不健康と会話する。みんな主人公君に夢中とはいえ、今から話すことがバレるとめんどくさいことになりかねない。
「ああそっか、泰平の柔道部の先輩って、生徒会のメンバーなのか」
「そう、ぶりっ子先輩は学年一位だからさ。あんまり仕事してないくせに、副会長なんて地位にいるんだよ」
ぶっちゃけ所属しているだけらしいが、それでも副会長は副会長だ。自分の意見を会議に通すことくらいはできる。
そして、ぶりっ子先輩が本気を出せば、謎の交渉術でたちまち思い通りに会議を進めることができるらしい。
そんなわけで、ぶりっ子先輩に「主人公君と違うチームになりたい」と相談したら、チーム決めのルールが変わり、本当にそれが叶いそうになっているというわけだ。
「じゃあ、ここからは委員長が指揮してもらえる? まだ体育祭までには時間はあるし、ゆっくり決めればいいからね」
「分かりました」
ドジっ子先生が教室を出て、代わりに委員長が教壇の前に立った。
「決まったものは仕方ないし、メンバーを決めるしかないんだけど……みんな、翼君と同じチームがいいよね?」
「もちろん」
「どうせ揉めるし、もう成績順でいいよね。学年三位の私は当然翼君と同じチームとして――」
「「「「ブーブー」」」」
委員長の横暴に、クラスの女子はブーイングの嵐を巻き起こす。まあ当然と言えば当然だな。
「なー、いいんちょー」
「何? 泰平くん。見ての通り今忙しいんだけど」
「男子は先に決めちゃっていいよな。俺等は翼君と同じチームになるつもりはないし」
「そうだね。じゃあ男子は先に決めちゃっていいよ」
「オッケー、なら、こうだな」
俺は教室の黒板の前へ行き、このクラス五人の名前を勝手に書いていく。
赤組は主人公君。白組は俺と不健康。青組はお福と貴族。仲の良さ的にもこれが妥当だろう。
「男子共ー。これで別にいいよな?」
「分かったよ」「意義なし」「いいよー、どうでも」「かまわん」
「うし、決まり。で、俺の権限で白組には普通っ子を入れるとして……じゃ、後はいいんちょーに任せた。殴り合いでもくじ引きでも成績順でもデスゲームで生き残った順でも何でもいいから、思う存分やり合って決めちゃってね」
「デスゲームまではしないけど……」
ってことは、殴り合いはする可能性があるんだな。こっわ。
「それよりユウカちゃん、いいの?」
「うーん、うん、まあいいよ」
普通っ子が困ったような、諦めたような表情をしながら頷いた。普通っ子だって俺と一緒のチームで嬉しいはずなのに、なかなか演技派だ。
あっ、でも最後にちょっと油断したのか、今少しだけまんざらでもない表情を浮かべた。だめだぞー、普通っ子。口元をニマニマさせるの可愛すぎるので、俺的にはポイント高いけど、ダメったらダメなんだからな。
やべっ、俺も口元がニマニマしてしまうのが移っちゃったじゃん。早く真顔にならないと。
いや、ごまかさなくていいか。そのための作戦も考えてるし。
「たはー、普通っ子が可愛すぎて、精液のやり場に困るわあ~」
俺がそう言うと、「またいつものやつね」みたいな空気になった。
ただし、俺が精液と発言した時、このクラスの数人が頬を赤らめたのを俺は見逃していない。みんな表に出さないとはいえ、むっつりだからなあ。主人公君に好かれたい一心でこんな必死に性欲を隠して、健気な奴らだ。
クラスでの俺と普通っ子の関係は、完全に秘密にするのではなく、このように俺が一方的に普通っ子に心底惚れているという関係に落ち着かせた。
そうしたのは、白ギャル先輩から「泰平は二人だけの秘密を喜ぶタイプだし、本人が思っているほど隠し事が上手くないよ」とアドバイスを受けたからだ。とりあえず俺だけでもフルオープンしたほうがよく、でないとバレかねないとかなんとか。
この教室では主人公君が中心とは言え、一応この世界では男女比が偏っている影響か、男のことを尊重してくれる傾向が強い。だからこそ、この形が取れる。
懸念としては主人公君が俺達の関係を勘違いして、「ユウカを自由にしろ」みたいな展開になってしまうことだが、まあそれも大丈夫だろう。
ここまで一緒のクラスで過ごして少しずつ主人公君への理解が深まっているので、ありがた迷惑みたいなことをほぼしないことが分かった。
時々残念な部分が透けて見える主人公君だが、そういう面では俺は割と信用しているのだ。
「よし! じゃあ赤組になりたい人は、放課後に旧校舎の体育館に集合! 最後まで立っていた九人が赤組になれるってことでいいよね」
「「「意義なし!!」」」
いやそれ、デスゲームと何が違うんですかね。ちょっとだけ主人公君が引いてるから、一旦クールダウンしたほうが……いえなんでもないです。もう好きにして下さい。怖いので。
それから数時間後、部活終わりにみんなで集まってだべる。
「てことで俺の作戦通り、無事に柔道部のみんなが白組になれましたー。拍手!」
みんながパチパチパチと拍手する中、元気っ子後輩だけが釈然としない表情を浮かべていた。
「こんなズルしていいんですかね?」
「いいのいいの。この程度のことは誰でもやっているから。人間って生き物はそんなに清廉潔白じゃないのよ。人に迷惑さえかけなければ、何の問題もないわ」
ぶりっ子先輩が軽い様子で答える。
「そうなん……ですかねえ」
渋々と言った様子で頷く。納得しようとしているのだろうが、まだ少し納得ができていないらしい。
元気っ子後輩、なかなか真っ直ぐないい子だよな。白ギャル先輩ですらこの程度のことを悪いと思っていないのに。
ぶりっ子先輩はパンと手を叩いて注目を集めた。
「さて、我が柔道部はイベントに本気で取り組む方針だから、各々全力で準備や練習をするように。分かった? 特に青組にだけは絶対に負けちゃダメよ?」
「え? 赤組はいいんですか?」
「ええ。この体育祭は赤組が百パーセント勝つもの」
「そんなこと分からないじゃないですか」
「いいえ、分かるの。百パーセント絶対に赤組の優勝よ」
後輩は納得していないが、俺も同意見だ。なにせ赤組は主人公君がいるからな。
過去のデータでも、主人公君がいるチームは一度も負けたことがない。たとえ接戦になろうが、序盤の立ち上がりが悪かろうが、最終的に勝つのは主人公君のいるチームだというのは揺るがないだろう。
ただ、元気っ子後輩は優勝を目指さないことに納得がいかないようだ。そんな様子を見て、ぶりっ子先輩がこう告げる。
「なるほど、まあいいわ。ならシホ、あなたは優勝を目指しなさい」
「はい、言われなくてもそのつもりでした」
まあそれもいいんじゃないかな。
ちなみに俺も思う存分楽しむために、主人公君を本気で倒すつもりではいる。勝ち負けとか、倒せるかどうかは別としてね。
「泰平先輩も、もちろん優勝を目指しますよね!」
うぐっ、元気っ子後輩の仲間を見る時のような純粋無垢な目が眩しい。そんな目で見られたらこう言うしかない。
「おう! 柔道部全員が集まれば百人力よ! 我等最強卍軍団が負けるわけないもんな!」
「ふふふっ、そう! それでこそ勝負ってものですよね! 流石泰平先輩です!」
たはー、あっちー。元気っ子後輩のキラキラとした若さが眩しいぜ。やっぱ太陽みたいな元気っ子後輩が大好きだわ。
コメント、評価、ブックマークをしてくれると嬉しいです。お願いします!




