第三十一話 テスト結果
ぱんっぱんっ。
二礼二拍手一礼。
「(今日もこの世界が崩壊しませんように)」
この世界での俺って割と成績はいいのだが、それでも俺の周りの人達が賢すぎるせいで、自分がバカなんじゃないかと思えてくる。
でも、逆に考えれば、周りのみんなが賢いおかげで、俺は傲慢にならなくてすむということでもある。
これが案外ありがたいんだ。
俺のことを一番深く知っているぶりっ子先輩曰く、どうも俺という人間は、ぬるま湯のような環境に限り、ある程度のレベルで満足し、努力をやめてしまう性質があるらしい。
だからぶりっ子先輩は、俺に対してだけはどんなことだろうと負ける気はないらしい。あなたのために常に上位互換として君臨してあげると、優しく微笑みながら言ってくれたのが懐かしい。
俺は周りの厳しくも優しい人達のおかげで、自分が賢い人間ではないと正しく認識できる、ちっぽけな人間だ。
うん、そう考えると、やっぱ俺ってとことんチートと相性が悪そうだ。俺に主人公は向いていないな。
「うし、普通っ子、行こうか」
「うん」
さあ、今日はどんな一日が待っているだろうか。
◆◆◆
「翼君、また全教科百点なんだって」
「しかも、それを自慢げにしないところがカッコいいよね」
「「ねー」」
テストが何事もなく終わり、結果が返ってきた。今日も主人公君は学園のくっそ可愛いヒロイン達から、モテにモテている。はー、羨ましい。俺には普通っ子がいるとはいえ、それはそれとして羨ましい。
さてと、憂さ晴らししよっと。
「あるぇ? 転校生ちゃんはその程度の成績なんだ。ぶふっ、賢そうに見えるのは、見た目だけですかぁ~???」
俺は近くの席に居た古風な転校生の成績一覧表をひょいと取り上げ、見え見えの嘲笑をする。
「くっ、黙れ下郎が。お前のような劣等種はどうせ私以下だろう。見せろ」
この言葉から分かるように、古風転校生は主人公君以外の男を下に見ている傾向がある。
そんな彼女に俺の成績が全て記されている紙を奪われ、まじまじと上から下まで確認された。
「………はっ?」
「プークスクス、やーい、劣等種に明らかに大差をつけて負けてやんのー! ケケケケケ、俺がバカじゃなくて残念でしとぁ~。次はもおっと頑張りまちょうね、お・バ・カ・さん♡」
煽れる時は全力で煽る。相手が主人公君のヒロインとか、そんなのは関係ない。それが俺のマイ・ウェイ。
打てば響くとはこのことで、煽れば煽るだけ彼女には響く。どんどん顔が真っ赤になっていく。あー楽し。
そんな風にはしゃいでいると、横から俺の机にドンと、一枚の紙が勢いよく置かれた。
そこに示す数字は「学年総合三位」の文字。俺は学年総合八位なので、明らかに格上だ。
「ひ、ひええ~、委員長様じゃあありませんか? さて、あっしは何をしましょうか、靴でも舐めましょうか? それとも、肩でもお揉みしましょうか? なんなら、おっぱいだって揉みましょうか!?」
手をワキワキさせながら、委員長様にやりすぎなくらいへりくだる。
「……こんなやつだから、泰平を相手にする時はテキトーで良いからね」
「なるほど。委員長殿、助太刀感謝する」
俺を当て馬に、このクラスで浮きがちだった古風転校生と、委員長の二人が仲良くなった。やめてよ、俺は無視されるのが一番しんどいんだから。
そんな光景を主人公君は微笑ましそうに見つめていたのだった。
さて、今回もなんとか一桁台をキープできた。一応前世でも高校も大学も卒業して、更に毎日勉強もした上でのこの成績が良いのか悪いのかはよく分からない。でも、俺はこの結果に満足している。
なぜなら……
「ぶりっ子先輩は相変わらず一位、まさかの元気っ子後輩も一位、白ギャル先輩は五位、俺が八位で、普通っ子が三十位と……ほうほう。普通っ子が三十位、ねえ。ほうほうほうほう。ほうほうほうほうほう」
「泰平、うるさい! これでも成績は上位の方なんだから、別にいいでしょ!」
俺達は柔道部全員で久々のアップをしながら、ついでに全員の成績を教えてもらっていた。
「あれれ~、普通っ子ちゃぁん? ちょっと青春にかまけすぎて、勉強の方がおざなりになってるんじゃあないかにゃあ~??? 頭がよわよわでちゅねぇ~~~」
「……次のテストは過去最高に本気出す。カエデ先輩、今度つきっきりで勉強教えてください」
「もちろん良いわよ。あーしも泰平のマウントを食らったことがあるから分かるけど、すっごくムカつくもんね」
はー、楽し。社会に出ても役に立たないのになんで勉強するのかっていうよくあるテーマがあるが、ここに答えがある。人より上に立つのが気持ちいいからに決まってるじゃん。
そんな風に胸を張って威張っていると、ぶりっ子先輩が俺の下へ駆け寄り、ついでに耳をネロリと舐めながらこう囁いてきた。
「ねえ、一応私も先輩だし、学年一位なんだけど……? どうしてユウカは私には教えを請わないのかしら?」
「そりゃあ、ぶりっ子先輩がぶりっ子先輩だからだよ」
そんな「?」みたいな顔されても、それ以外に答えはない。後は自分で考えてくれ。
「てかさあ、元気っ子後輩が学年一位なことに、マジでビビってるんだけど」
「なんでビビる必要があるんですか? 言ったじゃないですか? 私、勉強はできる方だって」
それにしたって学年一位はちょっとあれだぞ。この学校の女子みんな、少しでも自らの魅力を上げようと、勉強にだって本気も本気だからな。そんな中で一位を勝ち取るって、相当のことだ。
「だって、いかにもアホっぽそうな佇まいだし……」
「そんなの、泰平先輩もそうでしょ? 明らかに賢そうには見えませんよ」
「流石学年一位だ。隙の一切ない、見事なカウンターだ」
俺は大げさに膝をついて、地面に倒れ込む。
そんな俺の背中にダイブした後輩は、ニンマリとした笑顔を浮かべながら、俺の耳元に口を寄せる。
「……泰平先輩も勉強できるって言ってた割に、頭よわよわなんですね。ぷふっ」
「ぐはっ」
まさかの元気っ子後輩からの追撃。死体撃ちはマナーが悪いぞ、やめちくり。
「先輩がた、敵は取りました!」
「よくやった!」
元気っ子後輩はシュタッと立ち上がったと思えば、手を広げて待っていた普通っ子に駆け寄っていき、抱きしめられに行った。
くっそー、みんなして俺を踏み台に仲を深めやがってよぉ。なんでこうなるんだよ。
「毎回全力で煽る泰平が悪いんじゃない?」
おい普通っ子、心を読んでからの正論やめろ。正論が正しいなんてやっぱりおかしい(?)。あー、これ、世の中が悪いわ。これは確実に完全無罪。誰も悪くないってやつだな、うん。
普通っ子からのジトッとした視線はもちろんスルーしてっと。
「にしても、元気っ子後輩ってそんな優秀だったんだな。柔道の動きを見ても運動神経も抜群だし、完璧じゃん」
なんであなたみたいなポテンシャルある人が柔道部になんて入ったんですかね。いくら恋愛にクッソ疎いおこちゃまといえど、それでもなあ。
あっ、もちろん俺は嬉しいよ。だって元気っ子後輩、可愛いんだもん。
「そう、私はなかなかの完璧美少女なんですよ。でもですよ。私も二年に上がったら、一位は取れなくなるでしょうね。はあーあ、嫌だなあ」
「ああ、なにせ翼君がいるからなあ」
翼君は全教科百点とかいうチートだ。ウチの高校の定期テストはセンター試験くらい難しいのに、よくやるよ。
「大丈夫よシホ。別に二位だってものすごく価値があるし、理論上は同率一位だって取れるわ。なぜなら去年私が一度だけ同率一位を取ったから、それは証明済みよ」
シホというのは元気っ子後輩の名前だ。あんまりその呼び名で呼ばないので、たまに忘れそうになるな。
ぶりっ子先輩が励ましたのか自慢しているのか分からないような言葉をかけると、元気っ子後輩は腕を組んで唸る。
「ふぅむ。なるほど。同率一位ですか。それはなかなかハードな道ですね」
「まあ一位を勝ち取らなくても、自らの価値はいくらでも証明できるわ。シホも柔道部に来て、そろそろ気づき始めたんじゃない?」
「………」
元気っ子後輩がぶりっ子先輩の言葉を受け、押し黙った。人懐っこい後輩がいつもなら絶対にしないような、珍しい反応だ。
スルーされるくらいならぶりっ子先輩は気にしないだろうし、問題はない。それより心配なのは元気っ子後輩の方だ。何か痛いところでも突かれたのだろうか。
ぶりっ子先輩はごくたまーに核心を突くような言葉を発することがある。きっと今回もそのパターンだろう。あんな性の獣であろうと、一応あの人は真っ当な天才でもあるのだ。
「それでも、それでもですね。私はどうしても一位を目指したいんです。私にとって一位以外は、なんの価値もないんですよ」
どこか弱音を吐くようにそうこぼした元気っ子後輩をどうにかしたくて、とりあえず俺は頭を撫でてみた。他の面々もどこか下を向いてしまった後輩を心配そうに見ている。
(元気っ子後輩には、いつもいつでも元気でいてほしいもんだなあ)
後輩が楽しそうに笑っている、俺達はそれだけで満足なのだから。




