第二十六話 事情説明
ぱんっぱんっ。
二礼二拍手一礼。
「(今日もこの世界が崩壊しませんように)」
今日からこのランニングに普通っ子も同行することになったよ。
俺が世界が崩壊しないことを願うように、普通っ子は俺がこの世界から消えないように願うんだってさ。
世界の崩壊も、俺が消えることも、そんなこと起こるわけないって普通の人は思うだろう。俺だって普通っ子だって、本気でそんなことが起こるとは思っていない。
でも、俺がこの世界に来たのだってありえないようなことなのだ。だから不安になるし、神頼みなんてものにすがりたくなる。
そして、もしその懸念が現実となったのなら……その時はそれぞれの生きる場所でしっかり幸せになってほしい、かな。それこそ、お前とそう約束したみたいにな。
だからこそ、俺は今を大切に、日々を全力で淡々と生きる。
「うし、普通っ子、行こうか」
「うん」
さあ、今日はどんな一日が待っているだろうか。
◆◆◆
俺達がこっそりと心の中で交際宣言が成功し、結ばれようが、日常はそう変わらない。
そもそも俺達はこっそりが得意な二人だし、基本的にバレることはありえないだろう。
それに、たとえ勘の良いヒロイン達にバレたとしても、みんな主人公君を万が一にでも傷つけたくないのは同じなので、そういう話は徹底的に隠し、噂が回ることもない。
それでも万が一バレてしまったら、最終手段もある。普通っ子が俺に何か弱みを握られているとか、テキトーな理由をつければ、いずれ主人公君が動き、何かしらの決着はつくだろう。ただしこれはあくまで最終手段だがな。
ということで、対主人公君対策ならどうにでもなるのだ。
問題なのは……
「……むぅ」
さっきから爆発しそうなくらい頬を膨らませている白ギャル先輩だ。
放課後、白ギャル先輩の家に俺と普通っ子が呼び出されたと思えば、こうして不満をあらわにしている。
「なんか、二人の距離が近いというか、通じ合っているというか……絶対おかしい」
俺と普通っ子の関係をいち早く察してしまったのだろう。
別に白ギャル先輩には勘の良いイメージはなかったのだが、普通っことも俺とも仲がいい白ギャル先輩には、全てお見通しだったようだ。
これは、どう説明したものか。言い訳(?)しようにも、白ギャル先輩が具体的に何に文句があって、何を不満に思っているのかがはっきりと見えてこないんだよなあ……
とはいえ、なんとなくなら、なんでこう露骨に不満そうな顔を見せているのかは分かる。雑に言うのなら、俺達が持つ秘密に感づいたのだろう。
とにかく白ギャル先輩にはそんな顔をさせたくない。
とりあえず俺は白ギャル先輩の膨らんだほっぺたを、人差し指で優しく刺した。ぶすっと空気が抜ける。ふふっ、ちょっと楽しい。
「……むぅ」
ダメだ。こんなことしてもジトッとした目で見られるだけで、現実逃避にしかならない。
「(普通っ子、ヘルプ! なんとかしてくれ!)」
「(無理。私はカエデ先輩にだけは嫌われたくない。なんといっても一番よくしてくれている先輩なんだから。泰平が頑張るしかないって、お願い!)」
普通っ子は白ギャル先輩のことがかなり大好きだ。心が読めるせいで普段からあまり友達に深入りしようとしない普通っ子でも、白ギャル先輩の愛され力には敵わなかったらしい。
「ほら、やっぱり二人とも仲がいい。そうですか。どうせあーしは除け者ですよーだ」
「うそうそうそうそ! 嘘ですやん!!」
とっさにこう口から出たが、自分でも何を言っているのかよく分からない。とにかく白ギャル先輩を傷つけたくない一心で、なんかこうなってた。
「そうですよ! カエデ先輩に隠すことなんて一つもありません!」
「じゃあ、何があったのか教えてくれる?」
追い詰められた俺達は、何があったのかを洗いざらい吐くことになったのだった――
「ということです。こっそりやったバグ技みたいなものなんで、あんまり口外しないでくれると助かります」
「ふぅん、そっか。ユウカは頑張ったんだねえ」
全ての話を聞き終えた白ギャル先輩は、普通っ子の頭を優しく撫でた。心が読めることや事の顛末なんかより、頑張った後輩を褒めることが先にくるのが白ギャル先輩らしい。
撫でられた普通っ子も、顔をほころばせて嬉しそうに白ギャル先輩に甘えている。
……えっと、そんなとろけるような幸せな表情、俺には見せたことないよね? まさかの白ギャル先輩がライバル? そんなの勝てるわけねえだろうが! ふざけんな!
「泰平、バカなこと考えてないで、もっと頑張ってね」
「頑張るとは?」
「うーん、秘密。これはカエデ先輩の大事な秘め事だから、私からは絶対に言わない」
なるほど、俺は白ギャル先輩とのことに関して、何かもっと頑張らなければいけないってことか。秘密と言いつつ、ヒントを出してくれてありがとう。
「偉い! ユウカは口が硬くて世界一偉いよ!」
「えへへー」
いいなあ。俺も白ギャル先輩に撫でられたい。
俺が白ギャル先輩に頭をつき出そうとすると、普通っ子にきっと睨まれた。
あっ、そうですか。今は普通っ子が愛されるターンだから、邪魔すんなって顔してますね。はい大人しくしています。
「私は先走って頑張りましたけど、カエデ先輩は何にも頑張らなくていいですからね」
「そうかな? もうちょっとあーしから動いたほうがいいんじゃないかなって、最近思うようになったんだけど……」
「大丈夫です! 確かにカエデ先輩から動けば確実に望みは叶います。ですが、カエデ先輩はもっと欲張りましょう! 今まで通り、最良の結果を望んで良いんです。それで望みが叶わなかったのなら、全てはあのヘタレ野郎が悪いんです」
「そうかなあ……うん、ユウカがそう言うのなら、そうしようかな」
ええー、何の話? ヘタレ野郎と普通っ子が言った時、ちらっと俺を見たから、ヘタレが俺だと言うことは分かったんだが……
とりあえず、普通っ子からこっそり出してくれていたヒントはここまでか。これ以上は自分で答えを導き出せってことだね。
俺が何を頑張るのかの答えは、白ギャル先輩が柔道部に入った理由や、今日少しスネていたこと、俺がヘタレなこと、それら全てが繋がるのだろうが、今のところまだ綺麗にまとまってはいない。
シンプルに「白ギャル先輩が俺のこと好きなんじゃね?」って考えれば簡単なのだが、それだと少しだけ上手く繋がらない。今でこそこんな感じだが、柔道部に入った当初の白ギャル先輩からは、好意なんて全然感じなかったし。
「うし! 何にも答えは出てないけど、とりあえず動きますか。白ギャル先輩! ヘタレと言われるのは癪なので、態度で示すことにしますからね!」
俺は普通っ子と白ギャル先輩の間に強引に挟まりに行き、持ってきた問題集を広げる。今回の集まりは一応テスト対策の勉強会ということになっているので、そういう体で。
「ほら白ギャル先輩! 別に分からないところはないですけど、何でも良いので教えてください! そして勉強を教えるという体で、こっそりイチャイチャしましょう!」
「……なんかちょっと違うけど、まあいいよ。あーしが教えてしんぜよう」
「ははー」
それからは三人で真面目に勉強に明け暮れた。
案外柔道部のみんなは俺を含め、成績がいい優等生が多い。
……いや、自分で言っておいてなんだが、俺達は成績はよくても優等生ではないか。ぶりっ子先輩や俺が優等生かというと、なんかものすごく違和感があるし。
ちなみに、元気っ子後輩だけが知り合ってまだそこまで時間が経っていないので、成績についてはよく知らないが、とりあえず自認は優等生とのことだ。ホントかあ?
黙々と問題集を進める中で、ふと白ギャル先輩に好意を伝えるいい言葉を思いついた。
すでに書類上に五人の恋人がいる俺にできる、精一杯の表現だ。とりあえず今はこの程度しかできないが、これからも継続して態度で示しながら、白ギャル先輩との関係を模索していこう。
「俺はカエデ先輩のこと、ユウカと同じくらい好きですよ」
何の脈略もなく、ボソリと呟いた。
「~~ッ!」
「うーん、おしい。泰平、もうちょっと頑張って」
「おう! おしいってことは、方向性は合ってるってことだよな。うし!」
「ちょっと、ユウカはヒント出しすぎ!」
「えへへ、バレましたか」
「もう、可愛い後輩達なんだから……」
よし、なんとなくいい雰囲気になったな。なら、俺もそろそろ白ギャル先輩に頭を撫でてもらおう。
「白ギャル先輩、頭を撫で――」
「カエデ先輩、もっと私の頭を撫でて下さい!」
「ふふ、ユウカは可愛いなあ」
「えぇ……」
俺の疑似恋人が白ギャル先輩を巡る恋のライバルとなってしまった。
てか普通っ子め、俺の心を読んで先回りしやがって……
白ギャル先輩はみんなのものだ! 独占を許すな! 俺も仲間に入れろよ!
「じゃあ膝まく――」
「カエデ先輩! 膝枕もお願いします!!」
「頑張ったユウカにはご褒美が必要だよね。はーい、もちろんいいよ」
くっそ!!




