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多分非モテ男の妄想世界に転生してしまった 〜【男1:女5】の自分が主人公ではない貞操逆転世界〜  作者: ながつき おつ


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第十七話 ゲーマーお姉さん


 お昼に娘お姉さんの部屋で長めの昼寝をするので、土曜日の夜には遅くまでゲームをすることが多い。


 そしてそのお供は大抵、俺の小学生時代からのゲーム友達、「ゲーマーお姉さん」だ。


 ゲーマーお姉さんとは小学生時代から付き合いが続いている。特に小学生時代は、学校のことや個人的な悩み、時には性癖なんかまで、“ある一つの秘密”以外はつい何でもチャットで話してしまうほど、俺は彼女に懐いていた。


 当時、俺達は本気でプロゲーマーなんて大層な夢を目指していた。チャット上ではあるが、お互い本気で意見をぶつけ合い、ゲームについて語り合い、切磋琢磨しながらゲームの腕を磨くことにばかり熱を入れていた。


 一番熱を入れていたゲームがサービス終了したことなど、様々な事情が重なり、俺は今ではすっかりエンジョイ勢だ。それでも、小学校高学年から中学一年くらいまで彼女と本気でゲームに打ち込んだ日々は、俺にとってかけがえのない青春だった。


 ただし、それだけ長くて濃度の濃い日々を過ごしたからこそ、俺の黒歴史を深く知る人物でもある。あの頃はこんな距離感になるなんて想像もしていなかったからこそ、何だって話してしまった過去の俺を責めることはできない。


 今では一緒に遊ぶのは週に一度くらいだ。それでも、あの頃ほどの熱はなくとも、ゲーマーお姉さんとのゲームの時間は今でも俺の生活の一部となっている。



 俺はPCから通話アプリを開き、ゲーマーお姉さんと繋いだ。いつものように「配信始めるけど大丈夫?」と聞かれたので、大丈夫と返す。毎回律儀に聞いてくるところが生真面目な彼女らしい。


「じゃあ、配信始めちゃうね」


「分かりました」


 ゲーマーお姉さんは「ミサ」という名前で配信者をやっているので、彼女は最初にこうして視聴者に挨拶をする。


「どーーーもーーー!!! ゲームに魂を焼かれた女、ミサでーす!! 今日は毎週土曜日恒例! 私の唯一の男リア友である泰平と遊んでいきまーーす!!」


 勢いと大声だけで押し切るキャラが彼女の配信者としての姿だ。彼女は売れるためにあえてそうしている。普段の大人しくてマイナス思考の彼女を知っているだけに、無理をしていないかと心配になる。


 だけど俺は何も言わず、優しく見守ることにしている。


 今でこそこうして空回りしているが、それだってゲーマーお姉さんが悩み抜いた上で選択した人生の決断だ。


 それに、そもそもの人の良さは、上辺だけのキャラでは隠せないはず。配信者という仕事柄、いつか素の部分は自然と表に出るはずだ。きっと彼女のそういう部分がバレてからが、本当の配信者としての道を進むことになるのではないだろうか。


「泰平です。よろしくおねがいします。今日も俺の親がミサさんに人質を取られているので、こうして泣く泣く参加することになりました」


「ちょいちょいちょーい!! そんなことしてへんわー!! 本気にするやつでてくるんだから、やめれー!!」


 別に普段は関西弁なんか使わないのに、何故かゲーマーお姉さんは関西弁のツッコミを好む。


「まあ、もちろん嘘ですよ。は、ははっ、ははははは」


「っておいおーい! から笑いすんなー! その反応だとホントっぽくなってしまうでしょうがー!!!」


「さて、つまんない漫才を披露したところで、今日も勝ちますかあ」


「だね。このミサ様が存分に姫プレイしてあげるから、気楽に楽しんでね」


 男女比が偏っていても、「姫プレイ」などの言葉が「王子プレイ」などと変わっていたりはしない。前世の意味そのままだ。おそらく主人公君が分かりやすいように、前世の感覚のままなのだろう。


「んー? 泰平、何ぼーっとしてるの?」


「ああ、ごめんなさい。考え事してました」


「もう、こんなゲームの上手い年上のお姉さんと遊べることが嬉しいのは分かったけど、お姉さんのことばっか考えちゃあダメだゾ?」


「……はっ」


 あえて多くは口に出さず、分かりやすく鼻で笑った。


「なんでよぉ!! 漫画だと年上のお姉さんに淡い恋心抱くのは定番じゃん! 昔はあんなに慕ってくれてたんだから、ちょっとくらい好意をチラ見せしてくれてもいいじゃん! あー彼氏欲しい!! セ◯クスがしたい!!! 大学生になったんだから、だれか私の処女を奪ってよお!!」


 ゲーマーお姉さんは大学生なので、例に漏れず分かりやすく性欲が爆発している。人がいいとか関係なく、今の言葉は確実に本音だろう。


 彼女はボーイッシュな格好を好む陰キャ気味の優しい美少女なのだが、こういうところはしっかり年相応だ。いいところもいっぱいあるのは知っているのだが、うーん……


「はぁーあ、俺を男と知る前の昔のミサさんが戻ってこないかなあ」


 俺は昔、自身の性別が男であることをひた隠しにしてゲーマーお姉さんと接していた。


 これが昔の俺の秘密だ。殺伐とした上位ゲーマー界隈では、男という称号は邪魔になることは分かりきっていたので、俺はネット上では女と偽っていたのだ。


 それでもやはりゲーマーお姉さんにだけは俺が男であることを伝えてもいいかと、勇気を出してオフ会を開いたのだが……これが全ての間違いだった。


 俺が男だと認識した途端、ゲーマーお姉さんの態度がガラッと変わってしまったのだ。


 当時の淡々とゲームプレイを磨く職人みたいな彼女が好きだった俺としては、その事実は残念に他ならなかった。


 そこからだ。あれだけ濃かった関係が、どんどん薄くなっていったのは。



「なんでよ! 今の私を愛して! お金上げるから!!」


「はいはい、さっさとゲーム始めましょう」


「あっ、やんべ、麗しい男子高校生と一週間ぶりに話したせいか、ちょっと濡れてきちゃった。パンツ替えてくるから、ちょっと待ってて!!」

 

 そう言うと、ゲーマーお姉さんは離席して、バタバタと大忙しで着替え始めた。


「クソがよお」


 つい汚い言葉が口から出る。


 ほんと、男に対する態度さえどうにかしてもらえれば、今でも素直に尊敬できるんだけどなあ……


 俺の性格上、一度気に入った大切な人には自ら縁を切るようなことをしない。だから今でもこうやって遊んでいるし、ゲーマーお姉さんのことは結構好きだ。


 ただ、最近ではゲーマーお姉さんへの好感度グラフは右肩下がりだ。このパターンの人は案外周りにはいなかったので、俺達の今後の関係がどこに着地するのか、俺自身もよく分かっていない。


 昔あれだけ尊敬していたのが本当だからこそ、あんまり落胆したくないんだけどなあ。ままならないものだ。



 そんなふうにして、ようやくゲームが始まった。


 ゲーマーお姉さんは自ら前線で大暴れしながら、同時に後ろにいる俺にも次々と的確な指示を出していく。



「そうそう、泰平。そこで右高台に隠れて。その辺りは隠れた刺客だから、そこから奇襲すればうまくいくよ」



「泰平、基本はしゃがみ歩きでいいの。ダッシュするのは相手を狩る時だけ。もどかしいかもだけど、最終的にはそっちの方が良いキルスコアが出るの」



「ほら泰平、敵に対面したら、軽く右にフェイント入れて、左に動く! テンプレの動きだけど、テンプレってやっぱり強いでしょ? 案外みんな咄嗟に対処できないし、フェイントだと決め打ちされ始めたら逆にまっすぐいけばいい。そこは読み合いだね」



「………」


 カチカチ、カチカチ、カチカチ――


 ……ゲーマーお姉さん、すげええええ!


 彼女の適切な助言と、ものすごいゲームスキルによって、俺の中で下がっていた好感度が一気に急上昇した。


 俺はどうもゲームの上手い人に弱い。本気でプロを志していたからこそ、彼女の洗練された動きが常人ではできないことがありありと分かってしまう。


 それに、真面目にゲームをプレイしている時だけは、あの作ったようなキャラクターは鳴りを潜める。俺は素のゲーマーお姉さんが好きなので、それがなにより嬉しい。


 こうして俺の下がった好感度をゲームの腕で挽回してくるの、ズルいよ。そうされると、また昔のようなただゲームを単純に楽しんでいた関係に戻ったみたいで、どうしたって心が踊ってしまう。



「じゃあ、今日はここまでにしよう。みんなー!! 少しでも『面白いな』『バカだな』って思ったら、チャンネル登録と高評価、よろしくお願いしまーーす!! じゃあねえーーー!!!」


 ゲーマーお姉さんが配信を終了したと同時に、素の姿に戻った。



「へ、へへっ、ぜ、全然あれなんだけど。ねえ、泰平。へ、へへへっ。あのー、ね」


 配信が終わったことをしっかり確認したゲーマーお姉さんが卑屈に笑いながら語りかけてきた。


「んー?」


 カチカチ、カチカチ、カチカチ――


 俺は彼女に教えられたことを試し撃ち場で何度も反復しながら、返答する。


「へへっ、あのー、ね? 全然、全然断ってくれてっ、いいんだけども……えっと、その……お金払うから、腹チラ写真だけでも送ってくれな――」


「いやです」


「なら、鎖骨だけでも!!」


「ダメ」


「うぎぎぎぎ、ドア・イン・ザ・フェイス、全然効果ないじゃん。ネットって嘘の情報しかないなあ……」


 こうしてまたゲーマーお姉さんへの好感度が急降下していく。


「あー、情けないなあ……大学生つらい。男の子が恋しい。もう私は男にどう話しかけていたのかも思い出せないよ……はぁつらい、性欲の行き場がなくてしんどい。男の体内で死にたい」


「はいはい。メンヘラになってるところ失礼します。そういうのはダメですけど、ゲームならいくらでも付き合いますから、もうちょい教えてください」


「うへへっ、やっぱり泰平って私のこと好き――」


「はっ」


「なんでよぉ……男の子難しすぎるよぉ……私は誰でもいいから男と結婚して、毎日ただでセックスがしたいだけなのにぃ……」


「馬鹿言ってないで、ゲームやりましょ?」


「はぁ……泰平はゲームが下手くそだから、仕方ないなあ。全然いいよ」


「ゲーマーお姉さんがうますぎるだけですって。ネットではあなた、バーサーカーって呼ばれてて、それが浸透するくらい有名なんですからね。そんな化物と比べないで下さい」


 結局俺達はこんな進展も後退もしないダラダラとした関係を、一生続けていきそうな気がする。


 俺はそう思っているが、ゲーマーお姉さんは現実的にはどう考えているんだろうなあ……


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