第十一話 ぶりっ子先輩と同じ穴のムジナ
ぱんっぱんっ。
二礼二拍手一礼。
「(今日もこの世界が崩壊しませんように)」
普通っ子が言った昨日の勉強会のあれ、どういう意味だったんだろう。
彼女が主人公君のために頑張ってきた過去を俺は知っている。だからこそ本当に意味が分からない。
クラスの女子みんなは本気も本気で主人公君に夢中のはず。義務告白なんて言葉を使うなんて、絶対にありえないはずなのだ。
主人公君がフるのはいつものことだからまあ分かる。どれだけ告白されても「この学校、恋愛禁止だから」と断る。断るというか、「僕が卒業するまで待っていてくれ。その時に僕から返事をするから」というような、現状維持につとめるのはいつも通り。
主人公君はただ学生時代に周りから死ぬほどモテたいだけで、恋愛関係までは求めていないのだろう。
みんなそれが分かっていて本気で告白するし、全力でワンチャンスを掴みに来る。そのうえでこの高校にいる限り、たとえフラれたとしても主人公君を思う気持ちは続くはず。もはやそれはこの世界のルールと言っていいほど、みんなそうであるはずだったんだが……
まあ、俺の脳みそは答えのないことについて考えるのが苦手だ。本人からどれだけ聞いても教えてくれなかったのなら、分からないままで進むしかないか。
「うし」
さあ、今日はどんな一日が待っているだろうか。
◆◆◆
今日は休みの日だ。ぶりっ子先輩が俺の家に遊びに来て、のんびりとくつろいでいた。
ぶりっ子先輩はもう何度もここに来ているので、我が物顔で俺のベッドに寝転び、俺の布団に入りながら仰向けで漫画を読んでいる。ベッドのわきには彼女の脱ぎ散らかされた服が乱雑に捨ててある。何故いつもぶりっ子先輩は俺の部屋に来て下着姿になるのだろうか。
その状態で、ベッドの外に足をだらんと出している。
まあ、別に今更いいんだけども。ちょっとだけ裸足フェチが入っている俺としては、素足がちょいエロいなってだけで。
「清々しい体外式ポルチオ」
……またいつも通りよく分かんねえこと独り言で呟いてる。俺もいるってこと、すっかり忘れているな。
「おーい、そういやぶりっ子先輩に相談したかったことがあったんでした」
俺はぶりっ子先輩の寝転ぶベッドに腰掛ける。ここは俺のベッドのはずなのに、ぶりっ子先輩の汗やフェロモンなどが混じった複雑な香りがして、ちょっとだけ身体が熱くなった。
「どうしたの、珍しいわね」
ぶりっ子先輩は何にも態度を変えず、口だけ動かして返答する。
「ぶりっ子先輩、義務告白って言葉、どう思います?」
「義務告白? ああ、もしかしてユウカのこと?」
「よく分かりましたね」
ユウカとは、普通っ子の名前だ。
ぶりっ子先輩はこんなのでも、案外察しのいいところがある。変なところに目をつむりさえすれば、この人はただの天才だ。
「私からしたら考えられない概念だけど、ユウカにはユウカの考えがあるんでしょ? 別にそれだけだと思うわ」
軽いなあ……
「考えられないっつっても、ぶりっ子先輩だって変な告白したじゃないですか?」
「私のは義務なんかではなく、本音も本音よ。といっても、成功すると思ってやってはないけどね。ぶっちゃけあなたの心を少し乱して、私の沼に深く沈める目的のほうが強かったわよ。そんなことあなたもとっくに分かってたでしょ?」
「分かってた上で、やめてよって言ってるんですよ」
百パーセント成功しないとは頭では分かっていたけど、ワンチャン成功したらとか考えて、気が気でなかったんだからな。
「そもそも、ユウカは柔道部になんてものに入っちゃう子なのよ。その時点で普通の子なわけないでしょ。あそこは刑務所みたいなものなんだから」
「ちょっと、俺が作った部活をアルカトラズ島扱いしないでくださいよ」
「脱獄不可能とまで言ってないわよ。犯罪者みたいなもんって言いたかっただけよ」
犯罪者ねえ。それは少し表現が強すぎる。確かに主人公君のヒロインとしては失格かもしれないが、そこまでじゃないでしょ。
どちらかと言うと、脱獄兵とか、そっちの方が俺はしっくりくる。
「てかぶりっ子先輩、さっきからやってる足で俺の身体をなぞるの、やめてもらえます?」
さっきから絶妙にくすぐった気持ちいい。身体の中がむずむずしてたまらない。
「嫌よ。あなたが声を出さないようにしてるの、興奮するんだもん」
ぶりっ子先輩が家から持ってきて俺の家に置いたままの、「YES・YES枕」を裏返してまたYESの面にして、俺に見せびらかす。
「相変わらずですねえ。まあ、その点でいえば、今や俺も同じ穴のムジナなんですけど」
別にぶりっ子先輩とは、キスしたりまぐわったりなどはしていないし、付き合っているわけでもない。けれど、VIOを含めた俺の身体の全てをぶりっ子先輩は見ているし、逆も然り。単純なまぐわい以上にアブノーマルなことは何度も経験している。
俺は過去にこの人にあらゆる開発をされたせいか、本来なら男は性欲が薄いはずなのに、突如性欲が爆発してしまった。
その時のぶりっ子先輩は、やたらと満足げだったことを覚えている。
「あなたにする分にはいいでしょ? どうせ将来をともにするのは確定なんだから」
「まあ、そうですけども」
好きとか結婚しようとか、直接的な言葉は交わしていないが、俺達は幼馴染であるということを活かし、ある裏技で想いが通じ合っている。
ぶりっ子先輩が俺の家に来た時、俺が「書いただけで渡していないぶりっ子先輩宛てのラブレター」を、彼女が勝手に持っていく。逆も然り。
そうやって俺達は渡せなかったラブレターを通して、百回以上心の底からの想いをこっそり交わし続けている。
ラブレター上でなら何度も気持ちのすり合わせは行われているので、実質付き合っているようなものだし、結婚もしているようなものだ。
「だからこそ、あなたは高校生の間に私以外の四人、結婚相手をしっかり確保しておきなさいよ。あと四人も見つけなきゃいけないのに、カエデに時間をかけすぎね。一年もかけてようやくデートにまでこぎつけたのが一人だけって、流石にペースが遅すぎるわ」
「いやまあそうなんですけど」
去年は白ギャル先輩との恋愛未満のあれこれが楽しすぎて、ちょっとモタモタしすぎてしまった。あの人、掘れば掘るほど素敵すぎて、真面目に時間をかけてアタックする以外にしたくなかったんだよ。
「いや、私が言いたいのは、時間をかけるのはいいけれど、もっと複数と同時並行でアタックしなさいってことよ。高校を卒業して翼という隠れ蓑がなくなれば、流石にあなたの魅力がバレるわ。それに、同級生にはもうバレてるってユウカは言ってたわよ」
「マジかあ。んじゃ、俺の平穏な大学生活のためにも、そろそろ本腰入れないとなあ」
この世界の大学は一つしかないが、東西南北と、中央で五つに別れている。東が男子専用だったり、中央が高偏差値だったりときっちりと分けられており、基本的に北に属したのならば、北以外は出入り禁止だ。
ほとんどの男子は男子専用である東キャンパスに入学するが、俺は大学の中央キャンパスで首席を取る野望があるので、周りは女子ばかりとなる。
流石にその状態で首輪なしだと、性欲が爆発した女子大生に肉体を蹂躙されてしまうだろう。そうなればもう婚活どころではない。
俺が落ち着いて婚活できるのは高校時代くらいしかないのだ。
「ぅん。ちょ、ぶりっ子先輩、胸の辺りを足で円を描くようになぞらないで。あなたのせいでここはれっきとした性感帯なんですから」
「……男の乳首って、なんで存在するのかしら?」
あーこれ、自分の世界に入ってしまって、聞いてないな。
「ぶふっ、そ、それにしても、ふふふふふ。男のち、乳首って存在、面白すぎるわあははははっ! 女と比べてちっこすぎるし、ある意味も分かんないし……ぶふっ、あははははっ、ヤバいツボに入った。お腹痛いお腹痛い、はー、なんでこんなに男の乳首は魅力的なのかしら。愛おしいったりゃありゃしないわ」
「はいはい、そろそろ正気に戻って下さい。で、そろそろ俺の収録に付き合って下さい。いいですよね?」
俺は腰掛けたままぶりっ子先輩の身体を持ち上げ、自分の膝の上に乗せる。そしてあえてイケボを作って耳元で囁いた。
「収録するのね! こっちもいい感じにムラついてきたから、私は準備万端よ!」
くっそ、こんなに濃厚にメスの香りを漂わせやがって。こっちは収録に備えて昂ぶらないようにしてたのによお。俺がここでもぶりっ子先輩のことぶりっ子先輩って呼んでたの、ブレーキかけるためなんだからな。
「……個人的に楽しむのはいいとしても、絶対に声を出さないでくださいよ? 相手役が居るなんて思わせたくないんですから。分かってます?」
「むふふふふっ、これは俄然楽しくなってきたわ。にしても、ち、乳首あはははははっ!」
まーた聞いてねえし。
まあいいや。ある意味いつも通りだし、自らの仕事はちゃんとやってくれるだろうしね。
じゃ、今日は性に疎すぎるピュア男子役として、世の中の女性達を幸せにしますかね。俺の吐息濃度千パーセントのイケボで、存分にお耳を妊娠させてやるからな。




