番外編・泰平とは決して交わらない女性
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一人目・フレッシュちゃん視点
私は今年高校を卒業した、大学一回生の若々しい女の子! 何にでも前向きで、笑顔の時のエクボがチャームポイントだよっ!
座右の銘は一生懸命! 何にだって挑戦し、どんなことでも素直に楽しむの。だってその方が人生が楽しいでしょ?
「高校では翼君に振られちゃったけど、切り替えよう! これからは色んな男性と関わり合って、薔薇色の大学生活を送るぞー!」
卒業後に翼君と付き合えたのなら最高だったんだけどなあ。好きだったし、好かれていた自覚もあったけど、こればっかりは仕方ないよね。この恋の経験が私を強くしてくれるはず。割り切って大学でいい男を見つけなきゃね。
「でも、世間では『高校を卒業してからが地獄の始まり』だとか『大学生になると女性は皆強烈な処女をこじらせる』なんて言葉が有名だけど……私なら大丈夫だよね!」
だって私は先生や部活の後輩からの受けもいいし、クラスには仲の良い男の子もいたし、サッカー部でもレギュラーだった。そんな私がモテないってことはないと思うんだ。
だから、大学でも同じように仲の良い男の子を作って、飲み会を重ねて一緒の部屋に泊まったりなんてして、彼が私を見て熱い眼差しで『寂しいな』なんて呟いて、それから私のこの行き場のなかった性欲を……うへへ。
大学生ってなんて素晴らしいんだろう! なんでみんな大学のことを地獄みたいに扱うのか、私には分かんないなー。
「さあ、大学生活、楽しむぞー!」
半年後――
「であるからして」
「……はぁ」
大学の講義をBGMに、私は一人小さくため息を吐いていた。
ここのところ、ため息ばっかりだ。
大学生活は思っていたものではなかった。
サークルの先輩達と夜通し遊ぶ日々は、楽しいは楽しい。でも、とにかく男との関わりがない、灰色の世界なのだ。
「……はぁ」
気づけばまたため息が出た。現実っていうのは、どうしてこうなんだろう。どうして期待してたような現実が訪れないのだろう。
大学生となってから、私の心の恋愛センサーは過去最高に超高感度モードだ。それなのに指針が動く気配は全く無い。その事実が私を無尽蔵に虚しくさせる。
気づけば私の片方の瞳から、一筋の涙が静かに頬を伝っていた。
講義終わり、仲の良い先輩と二人で学食を食べる。
席について、周りを見渡す。
女、女、女、女……もうこりごりだ。
「先輩! 世界に男の香りがしないんですけど!!!」
私は人目もはばからず叫んでいた。叫ばずにはいられなかった。
「あひゃひゃひゃひゃ! ようこそ地獄へ。しぶとかったお前も、ようやく染まってきたようだな」
「……いや! 私は地獄には行きません! まだ、まだもう少し粘ってみます!」
私は絶対に“その世界”には足を踏み入れない。
先輩という悪魔にどれだけ誘われようと、一生懸命頑張れば「男」という希望は見えてくる……はず! どっちを向いても、どこに進もうと果てしない闇しか広がっていないように今は見えるけれど、走り続ければいつかは「男」という光はある……のかなあ?
そう弱音を吐いてしまうほど大学には男がいない。
いや、正確にはいるのだ。でも、大学生の男達はほぼ全員が東キャンパスに通う。東棟はとんでもないセキュリティで守られており、女性は立ち入り禁止となっているので、会う手段がないのだ。
ああ、高校の頃はよかった。少ないとはいえ、どこに居ても男が居て、普通に話すことができて、そんな景色が当たり前で……
戻りたい。あの頃に戻りたいよお。
「私はダイジョウブ私はダイジョウブ私はダイジョウブ……よし! 頑張れ私! もう一回だけ。もう一回昔仲の良かったクラスメイトと連絡を取ってみるもん!」
「けけけっ、もうずっと返事が返ってきてないんだろ? どうせブロックされてるよ」
「そんなっ! そんな事する子じゃないはずです!」
「一度目の連絡の時に決められなかった時点でお前の負けだ。女にセカンドチャンスはない。ガツガツする女って見てられねえからなあ」
確かに三回目の連絡で「ごめんね。僕の妻が独占欲が強いみたいだから、今後は連絡しないでほしい」と連絡が来たときは目の前が真っ暗になった。
それでも! それでもまだゼロパーセントではないはずっ!
「なんでっ、なんで既読が付かないの! 男女比が1:5で、男は5人の女と結婚できるはずなのに! ここに余った女がいます! 世の中にはこんなに余った女がいます! おかしいでしょ!」
「そんなのお前も分かってるだろ? ほら、よく聞きな。結婚しない男。五人も結婚しない男。正妻の独占――」
「いやあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛! 現実を突きつけないで!!」
男は全員五人の女性と結婚しろよ! というか国がそれを義務付けろ! 国死ね! 多様性死ね!
「けけけけけけっ。あー、これだから目がキラキラした大学一回生はおもれえんだ」
キラキラした大学一回生が転げ落ちるように目の光が消えていくのは、大学の風物詩だ。
そんなことは私も知っていた。でも、根明でチャーミングな私なら絶対大丈夫だと思ってたんだ。
「まあ、お前らの時代には“ミソギ様”が居るんだから、まだマシだろ? 性欲だけは満たせるんだからさ。私の時代なんてミソギ様すら居なかったんだから、もっと地獄だったんだぜ?」
「それは……本当にご愁傷さまです」
ミソギ様。その言葉を聞いて、私の灰になってしまった心に灯火が灯った。
ミソギ様は本当に神だ。私も何度もお世話になっている。
彼の声を聞くと、冷たく凍えていた心がゆっくりほどけていく。耳元で囁かれるたび、まるで優しく抱きしめられているような安心感に包まれ、本能が愛で満たされる。
そして、その優しさで脳みその中枢がバチバチと弾ける。胸はじんわりと熱を帯び、その熱は愛となって全身を駆け巡る。同時に体が勝手に動き、性欲までも綺麗に溶かされてしまう。
たとえドSロールプレイを演じているときでさえ、彼の声には不思議な温かさが宿っている。だからこそ、私にとって彼の声は生きる希望なのだ。
ただし、少し注意すべきこともある。
これは以前、絶望の中で彼の作品を聞いた時のことだ。
あの時は快楽に溺れそうになり、本当に心臓が止まりかけた。人は強すぎる多幸感でも死ねるのだと身をもって知った。
だから最近では、遺書を書いてから彼の作品を聞くようにしている。私のように遺書を書いてから彼の作品を聞く女性は、珍しくないらしい。
それほどの破壊力にも関わらず、懲りずにまた私は、いや、私達は彼の作品を聞き続ける。
もう私達は彼なしでは生きていける気がしない。少なくとも私はとっくの昔に彼の声に落ちている。人は恋に落ちるというが、声にも落ちるらしい。
そんなことを考えていると、不意に昔の自分が恋しくなった。
私はスマホを取り出し、高校の頃の写真を開く。
ああ、あの頃は満たされていたなあ。
「あっ、そうだ! あんまり仲良くはなかったけど、一年下の後輩の男の子ならどうかな! いける気がしてきた! かなり嫌な男子だったけど、もうそこに居てくれるだけでいい! 男の子の香りを嗅ぎたい!!」
「けけけけけ。どうせ断られるだろうが、せいぜい足掻け。そして、早くこっちへ堕ちてこい。お前の感じている闇なんてまだまだ浅瀬だ。この闇は深く、濃く、どこまでも果てしない。さあ、一緒に傷を舐め合う大学生活を送ろうぜぇ~」
「いやあああ!!!!」
先輩のような淀んだ瞳にはなりたくない! 人間として終わりたくない! 私は男を作って、薔薇色の大学生活を送るんだー!
フレッシュちゃんは腐っていくのか、はたまた勝ち組となるのか――
次回(あるか不明)
フレッシュちゃん、五歳の甥っ子とビデオ通話するも……
「あれ? 私、今までどうやって男の子と喋ってたっけ? 分かんない。わかんないよーっ!」
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