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多分非モテ男の妄想世界に転生してしまった 〜【男1:女5】の自分が主人公ではない貞操逆転世界〜  作者: ながつき おつ


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第百六話 恋奴隷


 ぱんっぱんっ。


 二礼二拍手一礼。


「(今日もこの世界が崩壊しませんように)」


 昨日は長い一日のようで、一瞬のようでもあったなあ。


 お前に……


 っと、そういや、もうこの世界にお前もいるし、なんならマイゴッドたんもいるんだよな。


 じゃあ、このルーティーンもやる意味はないのか。祈る対象も、語りかける対象も実際にいるし。


 ……いや、やめるとなると、なんかしっくりこないな。


 とりあえず一日の最初はこれをしないと、もはや気持ち悪くなっている。


 うむ、もう今まで通りでいいや。


 そもそも、これって別に宗教的な儀式としてやってるわけじゃないしな。


 ある種自己満足のためにやっているだけだし、俺がしっくりくるならそれが正解だろう。


「うし、普通っ子、行こうか」


「うん」


 さあ、今日はどんな一日が待っているだろうか。



◆◆◆



「た、泰平君!」


「うおっ、画家かぶれか。どうしたんだ?」


 画家かぶれ――外部生で、常に気取ったセリフを話す、ロリ爆乳。


 美術部ということや、席順などのせいで、俺は今までほとんど話したことはない。


 そんな彼女が、次の授業の準備をしていた俺に突撃するように声をかけてきた。


 しかも、いつもの気取ったようなセリフではない。やけに切羽詰まっているようだが、どうしたんだろうか?


「あの人! めっちゃ!!! エッチなんですが!!!!」


「…………はい?」


 画家かぶれのやけに長く、前髪が片目にかかり、アシンメトリーにセットした黒髪がふわりと揺れる。


 指を指した方向には、狂犬――愛がいた。


 クラスメイトの女騎士の手を握りながら、妖しげにニヤリと笑っている。


「ねえ、僕って女の子より可愛いかもしれないけど……ちゃんと男だよ? こっそり、確かめてみない?」


「な、な、な、ぬああああああ!!! わ、私には翼ががががががが」


 慌てる女騎士に、愛は自らの体を押し付ける。


「っふふ、大丈夫。今は翼君はこっちを見ていないよ。ね?」


「ごくりっ」


「それにしてもお姉さんの手、柔らかくもゴツゴツしてて、素敵だね。こういう手、好きだなあ……」


「ぬわー!!! あばばばばゴボボボボ……」


 女騎士がキャパオーバーにつき、陸で溺れた。


 女騎士がアスファルトの上で死にかけている虫のような反応しかしなくなったことを確認した愛は、今度はまた違う女性に同じように話しかけに行った。


 ……ほんほんほん、あー、なるほど。


 転校して早々、もう問題児やってるのか。


「ね?」


「なんかすまん。マジで」


 どうやら愛は、自らの可愛い見た目と、男という性別を存分に利用しているようだ。


 きっと教室の休み時間の度、ああやってクラスメイトの内に秘めた大きな性欲をがんがん刺激しているのだろう。


 いくらこの世界の女性がくっそ可愛いとはいえ、ああまで手当たり次第籠絡しなくてもなあ……


 愛もこの世界に女性の可愛さにテンションがあがっているのだろうが、やりすぎだよ。



 思えば、昨日の柔道部の時も愛はあんな感じだった。


『先輩? 僕に柔道のあれこれ、根掘り、葉掘り、それ以外のことも……ね? ねっとりと教えてくださいね。っふふふ』


 妖しげに笑いながら、ぶりっ子先輩の耳元でそう迫った。


 ついでに手の甲を擦り、上目遣いで覗く。途中で俺の方を向き、見せつけるように口の端をにぃと吊り上げるというコンボまで披露しやがる始末。


 魔性――その言葉が頭に浮かんできた。


 普通の女子高生なら、男性からああまで露骨に誘惑されれば、ひとたまりもないだろう。


 ただまあ、そこは俺の信頼するぶりっ子先輩。その程度じゃなびかない。


『なら、先輩としてじっくり身体の隅々まで教えてあげる。私は教えるだけだから、“本気で”私のことを好きにならないでね』


『うぇ?』


 そこでぶりっ子先輩はぶりっ子モードに変身。


『ふふっ、じゃあ、ルリが優しく教えてあげるね♡』


 と、なんなら見事にカウンターを食らっていたくらいだ。


 愛は俺と女性の好みが似ている。


 俺がぶりっ子先輩のぶりっ子モードに弱いように、愛もあれには太刀打ちできない。


『ちょ、泰平! この先輩、指先から表情の微細な動きまで、恐ろしいくらい完成されてるんだけど! かわいすぎるんだけど!! 理性がぶっ飛んで、自分が自分がなくなっちゃう! 助けて!』


『ええ〜、ルリ、全然可愛くなんてないよぉ。えへへ。ほら、もうちょっと一緒に頑張ろっか♡』


『うわああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!』


 と、これが昨日の一幕だ。


 こんなことがあったのに、昨日の今日でこれかあ。



「コホン。泰平君、君はあの子の飼い主だろう?」


「おい、飼い主扱いすんな」


 あんな狂犬、俺が躾けられるわけないだろ。なんならぶりっ子先輩とかのほうが、しっかり言う事聞くと思うぞ。


「とにかく、あれをどうにかするのは君の仕事だ。あんなふうにところ構わず誘惑されれば、おちおちと芸術活動にも勤しめないだろ? 未来の巨匠が筆をとれないなど、世界の損失だ」


「へいへい。まあ、美術部には来月の文化祭で頑張ってもらうし、大人しく言うことを聞いてあげるかあ」


「ふん、凡人と比べ、私の一秒は数千、数万倍もの価値があるのだ。はやくしたまえ」


 画家かぶれが常に腰に刺しているポーチから筆を取り出し、俺のこめかみ辺りに突きつけた。


 いつもこんな口調だから、俺は彼女とうまく仲良くなれてない。


 というかそもそも、どうも画家かぶれとは魂で会話している感覚がない。


 どこか薄っぺらいというか、なんというか……


 まあいい。俺はまだ画家かぶれのことをよく知らないのだ。


 仲が深まっていないのだから、心の深い部分までは見せてくれていない。今の関係値だと、こんなもんだろう。



「はいよっと。そうしますかあ」


 ということで、俺は愛の元に歩いていき、首根っこを掴んで元の席に戻しにいく。


「ちょ、なによ! 離せ!」


「やだね。というか、やるならせめてもう少し手加減してやれよ。それか、俺の目の届かないところでやれ」


「なによ。愛ってのは本来もっと自由なものでしょ。何も悪いことはしてないんだからいいじゃない」


 こいつの「悪いことはしていない」は信用ならない。


 暴走して宣戦布告してきたあの時だってそうだ。


 愛には、俺が想像していた以上に壮大な計画があった。


 元の世界と、パラレルワールドであるこの世界。その二つを深く繋げて、自由に行き来できるようにするのが愛の計画の全容だ。


 ただ、それを叶えるためには、かなりのリスクが孕んでいた。


 やろうとしたことは脳神経の手術に近い。


 世界と世界を繋ぐ以上、数コンマのズレすら許されない。もし失敗すれば、世界そのものに大きな負担がかかる。


 最悪の場合、この世界の一部、ないし半分ほどが壊死するなど、重大な欠陥を抱える可能性もあったとのこと。


『失敗しなければリスクなど一切ないのだから、何の問題もない。ほら、何も悪いことはしていないだろう?』


『いやいや! ダメだって!』


 必死で止めた結果、俺を元の世界へ連れ戻すことを妥協させた。


 自由に行き来することさえ妥協すれば、世界同士を無理に繋げる必要はないとのことだ。



「ま、どうせもうすぐ授業が始まるんだ。大人しくしてろ」


「はいはい。分かったわよ。ったく、野球部と美術部は全体的にチョロいから、私の恋奴隷にしてやろうと思っていたのに……」


 恋奴隷ってさあ。そんな業の深い言葉を使うなよな。


「はあーあ。女子高生なんてガキなら、もっと楽に籠絡できると思っていたのにねえ」


「ふぅん。愛でも多少は苦戦してるんだな」


 こんなのでも、俺は愛の人間的魅力をかなり評価している。大げさに言うのならば、愛に落とせない女はいないとまで、うっすら思っていたくらいだ。


「そうねえ。みんな翼に首ったけだから、“完堕ち”まではなかなかいけないわね。ほんと、大学生や社会人とは大違いだわ」


 その言い分だと、大学生や社会人はすでに完堕ちとやらをさせているのかよ……


 俺が言葉をなくしている間にも、愛は苦労を滲ませた声で続ける。


「この世界では愛の持つエネルギーが強いからか、愛に対してあっちの世界よりも誠実っぽいのよね。これはあなたにも当てはまるけれど、心に決めた人がいる女は、なかなかなびかないのよ」


 ふむ、愛がそう言うのなら、そうなのかな。


 その言葉を聞いた直後、俺は安心感を覚えていた。


 俺が一番危惧していたことは、愛が白ギャル先輩を籠絡してしまうこと。


 ぶりっ子先輩は一番信用している。普通っ子なら愛の好意を柔らかく受け流せる。元気っ子後輩は……まあ、ニブちんのおこちゃまには誘惑なんて通じないだろう。


 だから、一番押しに弱い白ギャル先輩が心配なんだ。


 今のところまだ出会っていないらしいが、俺と好みの似た愛が白ギャル先輩に好意を寄せないわけがない。


 ただ、現状だと白ギャル先輩の心は俺に向いている実感があるので、もう少し信じてもいいのかもな。



「にしても、こんな風にやりたい放題していいのか?」


 俺達男は基本的に主人公君の引き立て役だ。主人公君が嫌な思いをしていないといいのだが……


「いいのよ。これでも私なりにルールは守っているんだから」


 手をひらひらさせながらそう言うと、大人しく自らの席に戻っていった。



(なんで愛は主人公君に嫌われていないんだろう)


 数学の授業中、頬杖をつきながら物思いにふける。


 ヒロインとしても、引き立て役としても枠外な愛の行動に、主人公君は苦笑いするのみ。


 なんなら、愛の奔放な振る舞いも「子どものやることだから」と、特に気にする様子がない。



 この世界に愛のようなプレイボーイ(?)的な男が今まで存在しなかったのは、主人公君がそういう男があまり好きではないからだ。


 この世界にいる以上、俺達は無意識のうちに主人公君を優先してしまう。少なくとも、俺はそう感じていた。


 俺だってそうなのだから、愛だってこの世界にいるのならそのはずなのだが……


(愛だけが例外? いや、それもちょっと違うような……)


 うーん……わかんね。


 俺の脳みそで考えても解決できるような問題じゃないな。


 もう大人しく直接聞くか。せっかく今はこの世界に居るのだし、それが手っ取り早い。



 ということで、放課後直接聞いてみた。


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