番外編10 泰平のクラスメイトの癖に、あまりにも存在感のない女
コメント、評価、ブックマークをしてくれると嬉しいです。お願いします!
発明家美少女視点(第二十八話で実質名前だけ登場したクラスメイト)
結論から提示しよう。
私――松田トウカという底辺のゴミクズは、これ以上ないほど幸運な人間である。
「トウカ、昨日は何してたの?」
「バナナ」
絶望的にコミュニケーション能力が壊滅していようが。
「どっちの服が可愛い?」
「………」
論理的な正解のないことを問いかけられると、脳がフリーズしようが。
「松田。理数系のように毎回百点とまではいかなくとも、もう少し国語の点数がどうにかならないか?」
「この作者が論理的に間違った文を述べているのが悪い。そもそもの頭の悪さが文に滲んでいて、読んでいられない」
「おまえ……もう少しオブラートに包むことも覚えような」
「? オブラートはデンプンを主原料に作られた、水に溶けやすい薄い食べられるフィルムのはずだ。何故今その話を?」
国語が壊滅的にできなかろうが。
「じゃあこの後みんなでカラオケいこー! ……って、トウカはああいう騒がしい場は無理だったよね。ごめんね」
「大丈夫だ。耳栓と目隠しと、私が最近発明した『特殊な電撃により脳の電源を一時的に切る装置』さえあれば、私でもカラオケに行ける」
「あははっ、それ、何にも楽しくなくない? ……まあいいや、行けるのなら一緒に行こっか」
人混み、音や光が多い場所に行くと、脳がオーバーヒートを起こしてうずくまってしまう体質であろうが。
「せんせー、あのね。この世界は歪じゃない?」
「トウカちゃん、どこがおかしいのかな?」
「……せんせーはまだ“そこ”なんだね」
幼少期から世界の脆さ、歪さに気づいてしまっていようが。
私は幸運なのだ。
私の理解者である師匠がいて、根気よく私に「情緒」というものを教えてくれる一ノ瀬翼がいて、私を異物扱いしないクラスメイトがいて、そんな温かく生ぬるいクラスの空気を作ってくれた泰平君がいて。
幸運だ。私は人に恵まれた。世界はとても私に優しい。
……今はまだ、私は自分のことで手一杯だ。人は余裕があって初めて、人に手を差し伸べられる。毎日がてんてこ舞いな私には、当たり前に他者に手を差し伸べる余裕がない。
ただ、私がもう少し成長し、余裕ができた時。
その時には、私の受け取ったものを倍返しにしてみせよう。
それから、師匠が私にしてくれたように、「自分が欠陥品」だと思い込んでいる若者の理解者となりたい。
こんな私にしか救えない子も必ずいるはず。その時は、迷わず私が幸運を与える者となるのだ。
それが私のささやかで、壮大な夢。
◆
国語の授業、さらに私がことさら苦手な詩の授業中。
あまりにも理解できないので、頭の中でまるでスピーチのように自己紹介を展開してみることにした。
ここ一週間ほど、ほぼ一言も話していないほどの陰キャゴミクズなので、心のなかでくらい口を開こう。
「松田トウカ、自己否定型のポジティブ人間。ただそれだけ」
……うーん、自己紹介が終わってしまった。
私が底辺のゴミクズであることは間違いない。ただ、その事実は当たり前すぎるので、全く悲観していない。
大事なのは、こんなゴミクズに皆々様が優しくしてくれているということだ。
この世界とこの世界の人間は、こんなゴミクズにも当たり前に心を砕いてくれる。本当にこの世界に生まれてよかった。
……などとしみじみ考えてみたが、これでは一秒程度しか暇が潰せない。もう少し自身を深掘りしてみよう。
「いわゆる私はギフテッドという存在だ」
そう聞くとカッコいい存在に思えてしまうかもしれない。ただ、実際はそんないいものではない。
もっと正確に表現するなら、特定の知覚と処理能力に極端な偏りを持った『欠陥品』と呼ぶ方が正しい。
「私が見る世界は、普通の人間が見ているそれとは解像度も時間軸も異なっている」
世界は常にスローモーションに引き伸ばされて見える。
「数式や構造の解析において、私が解に迷うことは一度もない」
視界に入った時点で、すでに『答え』はそこに配置されている。
「だが、この過剰な知覚は、人間社会を生きていく上では苦痛でしかなかった」
私には、他者の感情を推し量る力も、文脈や行間を解釈する力も著しく欠けている。
人混みに足を踏み入れれば、何千もの人間が発する過剰なデータが押し寄せ、数分と持たずに処理オーバーを起こして倒れ込む。
電卓よりも早く計算できたところで何になるのだろう。人の特殊性が見ただけで分かったとして、うまく会話できない自分に何の意味があるのだろう。
そう嘆いたことは数知れず。
「そんな私だが、決して異物ではない」
これは自信を持って断言できる。
師匠の受け売りだが、私など「脳のメモリが特定の感覚野に偏っただけの、バランスの悪い人間」にすぎない。
なんなら師匠は私のことを「究極のドパガキ」扱いする始末だ。
いくら自作のアプリでミソギ様の音声を五倍速で聞いていたからといって、その言い方はないと思う。
少し話がそれた。今話したいのは、私が異物ではない根拠だ。
「私程度が異物ならば、このクラスの人間は異物だらけになってしまう」
例えばあの外部から来た宇宙人。彼女なんて、分かりやすく普通とは違うと言えよう。
彼女は私ですら理解できない高度な知識や技術を駆使している。
それにもかかわらず、持ち前の明るさでごく普通に集団に適応している。コミュ力が皆無である私にとって、大尊敬すべき人物だ。
「一番分かりやすく普通ではないのは、一ノ瀬翼だろう」
そもそも彼は永遠に年を取っていない。そのうえ、ほとんどのものがそのことに違和感を感じていない。
私の分析によると、一ノ瀬翼という存在はどうやら、特殊なNPC――ノンプレイヤーキャラクターのような役割を持っているのだろう。
ただ、見ていれば分かる。彼は確かに独立した一人の人間ではあるのだ。
明らかに普通ではないのに、ある意味でとても普通。そんな不思議な存在。
これらの原因について、私は一部しか理解できていない。
私はどちらかと言えば、ミクロの視点を持つ。
師匠のような、私と真逆の性質のギフテッドである「マクロの視点」まで備えていれば、完璧に理解できたのかもしれない。
また少し話が逸れた。元の流れに戻す。
「細かい点をあげていけば、このクラスは普通じゃないもので溢れている」
内部生ですらそうだ。
極限の集中状態において、気配や視線の動きを瞬時に理解し、人知を超えた動きをする者。
人間が思考する際の微弱な電気信号を感じ取り、心を読むことを可能にした者。
他人の人格情報を丸ごとするりと受け入れ、当たり前のように自分と融合してしまう尋常ではない融和性を持つ者。
一人ずつ挙げていけばキリがない。
私は大好きな皆のことを深く知っているが、私が知っていることを、皆は知らない。
なぜなら私はコミュ障を自覚しているタイプのコミュ障だから。
「皆、私なぞよりよっぽど普通ではない、いわばファンタジーな存在だ」
この世はどうもファンタジーで溢れている。今の未熟な私では解明できないことが多い。
「だから面白い。科学者にとって、こんなに面白い場所はない」
などと暇つぶしがてら頭の中で巡らせてみたが――時間にするとまだ一分も経っていない。相変わらず私にとって世界はスローモーションだ。
ただ、師匠はかつて、私にこう言った。
『トウカさんにもいつか、のんびりとした時間を愛せる日が来ますよ』
そうだ。私は人よりもたくさんの時間を持っている。一分しか経っていないが、この一分は最高に楽しかった。これを何度も何度でも続けられるなんて、なんて幸運なのだろう。
さて、次の暇つぶしは何にしよう。
(次はクラスの素敵な男の子達でも観察して、悦に浸っていようかな)
こんな欠陥品な私でも、一人の思春期の女の子であることには変わらない。男に棒があり、女に穴がある限り、お互いは影響し合うものなのだ。
幸運なことに、このクラスにはじっと見ても怒られない男の子が三人もいる。
もし目が合ってしまっても、一人はふわりと笑ってくれる。一人は「きゃー、えっちー」と、大げさにふざけて終わらせてくれる。もう一人は……まあ、冷たい目でじとーっと非難してくるけど、それでも本気では怒りはしない。
……が、最後の一人は最悪、セクハラに発展させられる可能性がないとは言い切れない。そうなった時は師匠に金で解決してもらおう。
私達のような欠陥品にとって、金は大きな武器だ。金さえあれば大抵の欠点は解決できる。
おっと、泰平君が私の邪な視線に気づいたようだ。
彼はふっ、と挑戦的に笑い、「えっち」と口パクしたかと思えば、それだけで許してくれた。
あうあうあー。うあうあうあうあうあうー。にゃあああああん。ちゅきちゅきちゅき〜〜〜。
表面上は私も平静を装っていたが、脳内では私の脳の全てのスペックを活かし、超高速でお祭り騒ぎが始まっていた。
いいなあ……泰平君、いいなあ……いい男だなあ……滾るなあ……肉の棒で、私の肉の穴をめちゃめちゃにしてくれないかなあ……
コホン。失礼。いつの間にか十分間も浸ってしまった。
流石泰平君。師匠のお気に入りなだけある。
ついでに言えば、このクラスの一人に、「あなたと一緒にいると、この世界の全てを敵に回しかねない。だからこそ深く関わらない」と決めている人がいるのも分かるほど魅力的だ。
もし本当に彼女が世界を敵に回し、一人になってしまったら……
その時は、なけなしの勇気を拾い集め、絶対に手を差し伸べよう。私はあなたの不器用な優しさに、何度も救われているんだから。
そうと決まれば、脳内で練習だ。
「たとえ世界が敵になろうが、私だけは味方だからっ!」
……いや、待て。冷静に考えれば、そんなヒーローのようなセリフを挨拶みたいに言えてしまう人なら、このクラスに何人も心当たりがある。
私が手を差し伸べるより先に、誰かが助けてしまうのだろう。
それでもいい。そんな世界なら、きっと悪くない。いや、最高だ。
やっぱり私は、これ以上ないほど幸運だ。
頭を空っぽにして読みたいあなたへ
作者の他作品↓
【長編:貞操逆転系】
笑ってはいけない貞操逆転世界!
https://ncode.syosetu.com/n1984mc/
貞操逆転スペースファンタジースローライフ!?~男女比が1:10の宇宙で男に生まれた俺が、辺境の無人惑星でスローライフする姿を配信する
https://ncode.syosetu.com/n4293kd/
男女比が1:5の男が少ない世界で、小物な彼女を振り回す
https://ncode.syosetu.com/n8582hx/
【長編:TS系】
さしすせそで攻略する異世界 〜ショタな天使族による無自覚な“可愛い”が止まらない〜
https://ncode.syosetu.com/n6154me/
心に「オジサマ」を飼うお嬢様のマナー~とんでもない名家のお嬢様なのに、気づけばクソボケ扱いされていました~
https://ncode.syosetu.com/n6820lw/




