↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
多分非モテ男の妄想世界に転生してしまった 〜【男1:女5】の自分が主人公ではない貞操逆転世界〜  作者: ながつき おつ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

103/115

第九十三話 田舎っ子の見ている世界


 ぱんっぱんっ。


 二礼二拍手一礼。


「(今日もこの世界が崩壊しませんように)」


 料理がうまくなる上で、色んな人に料理を食べてもらうのっていいかもしれない。


 やっぱり、美味しいって言ってもらうのは、ものすごいモチベーションになる。それに、食べてもらう人の笑顔を想像するだけで、料理が一回り美味しくなる気がする。


 そういえば母も、俺を妊娠して息子が生まれると分かってから、料理の猛勉強を始めたとか。


 それまで自炊は嗜む程度だったが、生まれてくる息子に美味しい料理をいっぱい食べてもらいたくて、料理本を読みまくったらしい。


 それから、プロの味を独自に研究し、試行錯誤を重ね、今のプロ並みの料理の腕を手に入れたそうだ。


 そのエピソードを聞く度、俺は嬉しくなる。ああ、俺って愛されているんだなあ、と、しみじみと感じる。


 こんなんだからマザコンを脱却できないんだぞというツッコミが何処かから聞こえた気がしたが……俺は母を敬愛しているだけで、決してマザコンじゃないから。決してマザコンじゃないからな。

 

「うし、普通っ子、行こうか」


「うん」


 さあ、今日はどんな一日が待っているだろうか。



◆◆◆



 ランニングの復路でのこと。


「あんれ? 翼君と田舎っ子じゃん」


 俺と普通っ子はかなり朝早くにランニングをしているので、今までクラスメイトに会うことなんてそうそうなかった。


 なので、これは相当珍しい。


「うぃっす、うぃっすー。おはー」


「おはよー」


「「おはよー」」


「で、こんな朝早くにどうしたんだ? 早朝デート?」


「あぁっと……そうなん、かな」


「まあ、そんな感じ……うん」


 主人公君も田舎っ子も、顔を真っ赤にしながら小さくつぶやいた。


 二人とも、純朴だなあ。それでいて二人とも案外たくましいところもあるから、案外この二人は似ているのかもな。


「って、田舎っ子はデートならもうちょいおしゃれしろよ。そのTシャツ、微妙にダサいぞ。それでもまあ可愛いけど……磨けば確実に光るのに、ちょびっともやるなあ」


 微妙にダサいTシャツで、ジャージ姿というおしゃれに無頓着な姿。ただ、元が可愛いからか、こいつはこれで妙に可愛い。なんというか、素材そのままの味?


「別にウチの勝手やろ。都会のおしゃれは好かん。それに――いや、なんでもなか」


 独特の訛りで話していた田舎っ子が、途中で口をつぐんだ。


 ほんほんほん。このパターンは……


「ふーん。翼君の前でだけはおしゃれな格好したことある、と。それで、『他の人には見せたくない』とか、惚気られたパターンかな? なるほどなるほど」


「〜ッ! なんで分かったと!? 読心術の使い手か!?」


「あ、ほんとに当たってたんだ」


 心が読めるのは普通っ子の専売特許で、もちろん俺は心は読めない。でも、王道好きの主人公君絡みのことなら、ある程度なら予想できるんだよ。



「ねえねえ、今はどこの店も空いていないでしょ? こんな時間にどこにデートに行ってたの?」


「あ、それは俺も気になってた。こんな時間にデートなんて、人がいないくらいのメリットしかなくない?」


 まあ、人がいないのもそれはそれで乙なもんだが、それは一旦置いておこう。


「別にお金ば使わんでも、世界には素敵なもんがいっぱい溢れてる。蓮(はす)の花が開く瞬間やったり、日の出の瞬間、空が金色や濃い青色に染まる景色――いわゆるマジックアワーやったり……翼と二人で見た素敵な景色は、ウチの宝物や」


 頬を真っ赤に染めながら、世界で誰よりも幸せそうにそう告げた田舎っ子。それにつられ、頬を染める主人公君。


 なんかこの二人、いいなあ。見てるだけでポワポワと癒されるわ。少なくとも安易に茶化したり、そういうことは絶対にしたくならない空気感だ。


「世界には素敵なものがいっぱい溢れてる、ねえ……」


 まあなあ。この世界、自然も多いし、女の子はみんな可愛いし、なによりめちゃくちゃ平和だし……いいところはいっぱいだもんな。


 男女比、閉塞感、男女間のしがらみとか、悪いところももちろんある。けど、そういうのを嘆くより、いいところを目一杯楽しむ方が建設的か。


「なあなあ、今度でいいから、田舎っ子や翼君から見える早朝の素敵なところ、俺にも教えてくれない? 俺ってぼーっと生きてるから、そういうの見逃してそうなんだよな」


 俺は普段のランニング中、頭をなるべくニュートラルな状態にしている。無でもなく、有でもなく、全てでもなく、中道でもない。ただ自然に。これを意識しているからこそだ。


 そんな状態でも、いや、そんな状態だからこそ。朝の冷たく綺麗で新鮮な空気とか、鳥のさえずりとか、枝葉の擦れる音とか、そういう分かりやすいのは「いいなあ」と、しみじみ感じる。きっと心がいつもより柔らかく素直だから、世界のかすかな息遣いを拾い上げられているのだろう。


 ただ、マジックアワーや、蓮の花が開く瞬間なんて、今まで意識したことがない。そういうのが素敵だという認識が頭になく、頭にないから、そこにあったとしても見えない。


 全く知識として知りもしない素敵なことを拾い上げるのは、どうしたって難しい。


 理想論でいえば、心を豊かに、感性を豊かに、広く深く好奇心を持ち、観察すれば未知の素敵だって拾い上げられるのだろうが……


 まだまだペーペーの俺は、まずは知るところから始めよう。


「なら、この後一緒にウチと来るか? せっかく会ったんやしね」


「ん? デートの邪魔しちゃ悪いから今度って言ったんだけど、いいのか?」


「うん。翼は朝から今度の夏祭りで神楽舞の練習があるけん、元々そろそろお別れやったんや」


「うん、そうなんだ」


「ほえー。夏祭りはお盆の日だから……確かに時期で言えばもうすぐか」


 装束を着て、清らかかつダイナミックに舞う主人公君達の神楽舞は、見るものによって様々な感情を受けると評判だ。


 俺も小さい頃から何度も見ているが、あれはなかなかすごい。舞の美しさと迫力に、俺は何度も圧倒されたものだ。


「どうする、普通っ子。俺は田舎っ子の誘い、大歓迎だけど」


「うん、私も楽しみだし、いいんじゃないかな」


「っていうことで、田舎っ子、それでいいか?」


「よか」


 この後それぞれ都合などを詳しくすり合わせ、約三十分後に俺の家に集合ということになった。


 俺はランニングの後朝ごはんを作る予定があったり、あの二人がもう少しだけ一緒にいたそうにしていたこととかを考慮したのだ。


「ついでに、朝ごはんも俺んちで食ってけよ。米はいっぱい炊いてるからさ」


「うん、おじゃまさせてもらうわ」


 二人が時間いっぱいまでデートを楽しんだ後、田舎っ子は直接俺の家に。その後、一緒に朝ごはんを食べて、朝散歩に出かけるということに決めた。


「じゃ、デートを最後まで目一杯楽しんでこいよー。あっ、でも、早朝の神社に人がいないからといって、あんまりエッチなことはしちゃだめだからなー」


「口塞げドぐされ坊主。あんまだらず抜かしでっと、ドタマぶっ飛ばして死なすぞ!」


「おぉう。こってこての田舎言葉、音圧があるなあ。何言ってるのか分かんないけど、絶対に罵られてるのは分かった」


 ……にしても、こってこての田舎言葉をこいつから聞くの、懐かしいなあ。


 小学校低学年の頃は、田舎っ子もこんな田舎訛りの強すぎる言葉を使っていた。それがどんどん矯正されていって、今の少しだけ訛った言葉となったんだ。


 あの頃の田舎っ子は、自分だけ訛りの強い言葉を使うことが恥ずかしかったのか、いつも下を向いてモジモジしていた。


 そんなボソボソと小さく喋る彼女に、俺はただニコニコしながら話を聞いていたっけ。確かに聞き取りづらかったが、それでも自分の言葉を捨てるという選択をとらなかったのが、なんだか嬉しかったんだよなあ。


 そんな彼女が今では、肝っ玉お母さんのようなたくましさと、少しだけ訛りを残して自身の武器とするあざとさまで獲得している。なかなか成長したもんだ。



 普段は使わない濃い田舎言葉を俺に放った田舎っ子は、振り返って俺にニヤリと笑ってみせたのち、翼君を連れて神社の方までゆっくり歩いていったのだった。


「あの二人の空気感、いい感じだったね」


「なー。田舎っ子なんて、本当に世界で一番幸せそうに笑ってたもんなあ」


 なんかあの二人って、とにかく纏う雰囲気が清らかなんだよなあ。飾り気がなくて、純情で、ポカポカと温かい太陽みたいな穏やかさがある。


「私達の関係とは全然違うね」


「……羨ましくなったか?」


「ううん。全然。だって……ね?」


 普通っ子が「しーっ」と唇に人差し指を立て、片目を閉じた。


 それだけで普通っ子の言いたいことは充分伝わった。俺はニンマリと挑戦的な笑みを返したのだった。



 復路を走りながら、俺はある言葉を思い出していた。


『それでも、好き』


 これは俺達の合言葉。


 こうして合言葉を決めたり、二人でたくさん話し合ったり、柔道について技巧を深めたり、悪巧みしたりは、全て「秘密特訓」の一端だ。


 夏休みに入ってからは特に、普通っ子とはこっそり色々やってるんだよ。秘密なので内容は言えないが、とにかくいっぱい話し合っていることだけは確かだ。


「そうだなあ。今の俺達の目指す方向とも、言ってみれば真逆だし……ああいうのは俺達がお年寄りになってから目指そっか」


「そうだね。今は清濁(せいだく)併(あわ)せ呑む秘密の関係を、もっと深めていこ」


「おう! 普通っ子が闇落ちしても、全部飲み込んでやるからな」


「私が闇落ちするときって、泰平が浮気して私を捨てた時だから。そうなったら……ふふふっ」


「ヒエッ。おまっ、俺の股間を見て、手でチョキチョキするなよ……」


「ふふふっ。こんな私でも、ちゃんと受け入れてね。私も泰平が極度のマザコンなところを受け入れてあげるからさ」


「マザコンじゃねえよ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。