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多分非モテ男の妄想世界に転生してしまった 〜【男1:女5】の自分が主人公ではない貞操逆転世界〜  作者: ながつき おつ


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番外編9  普通っ子の幸せで幸せな日常

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普通っ子視点



 タイトル【召し上がれ】 作 わたし


 時間が尊いと思うようになったのは、あなたのおかげ。


「自分なんて」と否定しないようになったのは、あなたのおかげ。


 そんな私は出来立てのオムレツ。


 ふんわりと優しい口溶けで、あなたに幸せを届けたい――



◆



「(うわぁ……ちょっとこれは……)」


 今まさにできたてほやほやの自作ポエムが記されたノートの紙を、ビリっとちぎって小さくして、ポケットの奥の奥に封印した。


 いくら幸せだからといって、こんな小っ恥ずかしいものをこの世に残してはいけない。


 ……これを見せるのは、最低限カエデ先輩だけにしておこう。


 数学の授業を聞きながら、心の中で小さく決意した。


 私はなるべくカエデ先輩にだけは隠し事をしないようにしている。


 自分だけ心を読んで、私の気持ちを伝えないのは不公平だと思うから。


 こんなことを思ったのはカエデ先輩が初めてだ。


 きっと、カエデ先輩が透き通った心の持ち主だから、そう思わされてしまうんだろう。



 チラリと、私の幸せの原因である泰平に視線を向ける。


 泰平もこちらを見た。じわりと胸の内に温かさが広がり、手先にまで伝播していく。


「(ふふふっ)」


 自然と笑みがこぼれる。


――ねえ泰平? 私にとってあなたに見せる笑顔一つは、泰平への告白みたいなものなんだよ?


 泰平は私の笑みを見て、少し頬を染めた。


 その後、誤魔化すようにノートに文字を連ねだした。


 あー、楽しい。本当に泰平は良い反応をする。


 泰平の心の中で、「可愛すぎるっ!!」といった慟哭が聞こえてくる。


 また、胸の内でニヤリと笑う。


 授業の合間のちょっとした小さなやり取り。誰にも気づかれていないような、視線で交わす秘密。 


 意味もなく、私は自分の机の上に「泰平」と指で書いてみた。


 ああ、なんて幸せなんだろう。怖いくらい幸せだ。



 午前の授業が終わり、お昼休み。今日はカエデ先輩と一緒に学食を食べる。


「カエデ先輩、今日ですね――」


 食券を買うために並んでいる間、カエデ先輩の耳元で、今日あった幸せな出来事を小さな声で話した。


 体育の授業の片付けで、泰平と一緒にマットを片付けていた時、体育倉庫で数分間二人きりになれたこと。


 示し合わせたようにお互い近づいて、扉を閉め、ちょっとだけ抱きしめられたこと。


 幸せで幸せで、幸せが勢い余って黒歴史ポエムをこの世に誕生させてしまったこと。


 その後、授業で目が合ったことなど、時系列順に。


「泰平と同じクラスなの、いいなあ……」


「いいでしょ?」


 つい胸を張って笑う。


 カエデ先輩は心の中の感情と、自分の放つ言葉にほぼズレがなくて、会話が心地良い。


 それなのに、泰平といる時は一転して感情と言葉がぐちゃぐちゃになるから、それもすっごく可愛いんだよね。


 その時だけはドッドッドッと実際に聞こえてくるくらい、心の中がワーキャーと忙しいカエデ先輩。後輩の分際でこんなことを言うのもあれだが、愛おしいったらない。



 注文した料理を受け取り、隅の方の席に座る。


「で、そのポエムはどんなのなの?」


「あー、そう言われると思って一応持ってきました。こんなのです」


 ポケットから小さく折りたたまれた紙を出し、カエデ先輩に手渡す。


「ふふっ、オムレツねえ。いいじゃない」


「あんまりニヤニヤしながら読まないでくださいよー」


 恥ずかしいが、私もカエデ先輩の恥ずかしい心の内を何度も読んでいるので、我慢。


「最近気づいたんですけどね。泰平って大抵の食べ物が好きなんですけど、卵料理は特別好きなんですよね。食べてる時、顔がふにゃっととろけるんです」


「あー、師範の卵焼きとか、大好きだもんね」


「その癖、自分が頭一つ抜けて卵料理が好きってこと、自分では気づいてないんですよねー」


「ふふふっ、細かいことを気にしない泰平らしいわね」


 笑い合う。ふにゃっととろけるような笑い方をするのは、カエデ先輩も同じだ。


 それでいて、お肌ももちもち、柔らかそうな頬。そりゃあ泰平も夢中になる。女の私ですらドキッとするんだもん。



 私は皿の上のとんかつを箸で掴み、パクリと食べた。


「それにしても、ユウカってほんと、抱きしめられるのが好きよねえ」


「そうなんですよ。ギューは私の生きがいです。抱きしめるのも、抱きしめられるのも特別好きですね」


 泰平は私を抱きしめる時、いつもより深く心をフルオープンにする。


 心を読める私にとって、あれほど確かで直接的な愛情表現はない。


 少し背伸びし、おでことおでこを合わせて、お互いの体温を感じる。腕を回し、お互いに包まれ、呼吸まで重ねていく。


 次第に境界線が溶けていき、二人で一つになる感覚。


 余計な考えはすべて消え去り、ただただ多幸感の波に溺れていく。


 漫画の記号で表すなら、きっと私の身体からは、甘いハートが幾つも浮かんでは消えているはずだ。


「特に何の取り柄もなかった私に、こんな幸せを手に入れるとはなあ」


「ユウカが取り柄がないなんてことはないでしょ?」


「私なんて平凡も平凡ですよ。ただ……」


「ただ?」


――私の可能性を心の底から信じているあなたがいる。


「……いや、これはやめておきます」


「何よー。私には何だって教えてくれるんじゃないのー」


「ふふふっ、私だけの秘密なら何だって教えますが、“私達の秘密”はカエデ先輩にも教えませんよ」


 私と泰平は共犯者だ。いいところも悪いところも全てさらけ出し、一心同体になって一緒に成長している。


 それは、優秀な先輩に追いつくため。それは、天才肌の後輩に追いつかれないため。


 だめな部分を認め合い、改善する術を二つの脳で考えながら、『それでも、好き』と言い合って心を満たす。それが私達の生存戦略。



 そんなことを考えていると、カエデ先輩は食後に購買で買ったメガチョココロネを食べていた。


 一口いる? と提案されたので、首を縦に振る。


 甘くて、少し苦くて、香り高い。


 それでいて、ちょっと色っぽくて、かぐわしい。


 ほんの少しだけ泰平の醸し出す香りに似ている気がして、私はくすりと笑った。


「ところで、午前中の泰平ってライ麦パンみたいな香りしません?」


「わかるー! すれ違う時、香ばしい香りする時あるもん! 男の子って不思議だよねー」


 泰平にはそばにいる女性をリラックスさせる力がある。纏う香りもその要因の一つかもしれない。


「カエデ先輩、この幸せは絶対に守り抜きましょうね」


 カエデ先輩がチョココロネを食べ終わった姿を見て、ふと、私の心からなんの飾り気のない感情がこぼれた。


「もちろんよ」


 この甘さが当たり前ではないことを、私は知っている。


 ああ、幸せだなあ。



◆



 今日は泰平と同じペアで、二人きりで帰れる日だ。


 帰り道、とりとめのないことを話し、とりとめのない話を聞く。


 話はコロコロと転がり、「挫折について」なんて話題で盛り上がった。


 泰平は案外小さな挫折を幾度となく繰り返している。


 リコーダーの授業でどうしてもいい点が取れなかったこと。自信を持って提出した美術の課題に『泰平君はもっと普通に描こうか』とたしなめられたこと。一度自分で髪を切ってみようとして、めちゃくちゃになったこと。


 それから、「俺なんか失敗ばっかだよ」と、何故か話が変な方向に進み――夏休み、翼と一緒にお風呂に入った時、シャワーしながらおしっこして怒られたことなんかまで。


 そんな泰平に対し、私は人生で一番大きな挫折の経験を話した。


 私の初めての挫折――


 幼稚園の頃、大好きだったトップアイドルのライブに連れて行ってもらえたこと。カエデ先輩と同じくらい心の中までキラキラと輝いていて、本気でアイドルに憧れたこと。


 それからというもの、鏡の前で振り付けを真似し続けた。その後が初めての挫折だ。


 私は踊りながら満面の笑みをしていたつもりだった。なのに鏡の向こうの私は、薄っぺらい愛想笑いの姿しか映し出さなかったのだ。


 それから何年も挑戦したが、幼い頃の私では、一度たりともあの日見たような自然な笑顔を作ることはできなかった。



 それもそのはず。幼い頃は人の心の闇が見えてしまうことが辛く、心がすさんでしまっていたのだ。その影響か、真顔がデフォルトになってしまうほど、表情筋が働かなかった。


 初めて挫折した夜、私は絶望した。変わらず真顔のまま、しばらく一人で押し殺すように涙を流し続けた。


 そんなつまんない自虐話を披露したら、泰平はいっぱい慰めてくれた。


『俺にとってユウカはトップアイドル』『幼い頃にタイムスリップできれば、俺が慰めるのに』『当時の真顔普通っ子とか、絶対可愛いじゃん!』『今から目指せばアイドルになんじゃない?』『いや、やっぱり俺だけのアイドルでいてほしい』


 泰平は気の利いた言葉なんて言えない。


 だから、とにかく数で。身振り手振りも交え、とにかく必死に私を慰めてくれた。


 泰平が泰平らしくて、少し笑えて。


 幸せだなって。じんわりと温かい愛おしさが、バターが溶けていくように、胸の内に広がっていった。



「お母さん、ただいまー」


「おかえりなさい、ユウカ。もうちょっとで晩御飯できるからねー」


「はーい」


 私は自室に戻り、荷物を置き、私服に着替える。


 そうしていると、やけにお腹が空く暴力的な香りが漂ってきた。


「今日はカレーか。大好きなんだよねー。ふふっ」



 タイトル【共に生きていくということ】 作 わたし


 あなたは具材のゴロゴロ入ったカレー。どんな具材でも包みこんでしまう。


 肉、じゃがいも、にんじん、たまねぎ、ご飯、福神漬け。それとも、冷たい麦茶?


 なにくそ。今日はカレーを卵に包んで焼いてやった。私はあなたの情けない部分だって、誰よりも知ってるんだから。


 想像より優しい味が舌の上で溶けてった。



 ああ、またやっちゃった。


 私はノートをちぎって、引き出しの奥の奥に封印した。


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― 新着の感想 ―
面白過ぎて一気に読んでしまった! ラブコメの文才が爆発してて思わずニマニマしちゃう! これからも無理の無い程度に毎日更新してくだせぇ!!
こういうキュンキュンな話が読みたかった
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