96、幕引き
「ん、起きたか? 痛いところはないか?」
目を開けると、見知らぬ誰かが───違う、ライムだ。
ライムが、顔を覗き込んできていた。
「おい、本当に大丈夫か?」
「あ、う、うん………いや、やっぱり痛いかも」
頭の奥底、脳の真ん中に鈍痛が広がる。
でも、不快じゃないというか、むしろ直ってく感じがするというか………
「もう少し休んでおけ。ここは職員寮だ。邪魔する奴はいない」
言われてみれば、周りは見慣れた暗い色の木材でできた壁や床が囲んでいた。
ここが職員寮らしい。ベッドに寝たままざっと見渡した感じ、学生寮とそう変わらない………………んん、まだ痛いな。
「首を動かすな。安心しろ、今度こそ正式に決闘に勝った。マレは何も心配しなくていい」
「そ、そう?」
また、知らない間に決闘に勝ったらしい。
ということは、俺はまた魅了で………
「あ、今度は動けてた?」
「………ああ、動けていた。この上ない活躍だったぞ」
「なら、良かった」
その記憶はないけど………ライムがそう言ってるなら間違いない。
ってか、まだ頭痛いんだけど。良くない痛みってわけじゃないはずだから、まあ耐えるしかないか。
というか、まだ眠みぃ………
「ん、もう一回寝るのか?」
「………ぅん」
「そうだな、それがいい。お前は背負い過ぎだ」
背負い、過ぎ………?
こんな俺の、どこが?
「今はゆっくり眠れ。これまでの流れから察するに、まだまだ忙しくなりそうだからな」
えぇ………一日二日くらいは休み、たいな………
「寝たか」
スースーと寝息を立て始めたマレを横目に、ベッドに腰掛けながら手に持っている本を読み進める。
その本のタイトルは、『宗教一覧』。現在まで確認されている各宗教の特徴や、その神話に出てくる神、精霊、モンスターなどを綴ったものだ。
しかし、その本の中に、白混じりの炎を纏う神に関する記述はなかった。
「単に炎の神というだけなら、珍しくもないのだがな………」
精霊、モンスター、果ては聖域についても見たが、出てくるのはただの炎に関するものばかり。
蒼い炎、いわゆる蒼炎や、灰から蘇る不死鳥など変わり種もいくつかあったが………やはり、白混じりの炎の情報は出てこない。
つまり、あの神に関する宗教はすでに廃れているのだ。しかも、この本に記述がないということは、遺跡や文献で見つかってすらいないということ。それだけ古い時代の神ということになる。
「………いや待て。重瞳でなら………いや、それでもか」
人の顔ほどある厚みのこの本を一通り見たが、重なる瞳についての記述も見なかった。
マレは一体、どんな神との縁を持ったのだ………
「え、えっと、ライムさん………?」
「ん、そのリボンは………ムニンか。どうした?」
本に集中していると、いつの間にか部屋に入ってきていたらしいムニンが声をかけてきた。
このタイミングで声をかけてくるということは、そういうことなのだろう。
「えっと、ルルノイさん達がそろそろ帰るって………」
「了解した。伝えてくれてありがとう」
「あ、う、うん、どういたしまして………」
私が感謝を述べると、ムニンは分かりやすく顔を赤らめる。
こういうところはマレと似ている。ムニンはより顕著だがな。
ムニンは少しの間褒められたことを噛み締めると、私が見つめていることに気づいてそそくさと部屋を出ていった。
とりあえず、私も行かなければ。マレが起きた後、事の顛末を伝えるために。
「じゃあ、行ってくる」
マレにそう呟いてから、本をそばの机に置いて私も部屋を出る。
リビングに向かうと、すぐ声が聞こえた。妙に興奮しているのはルルノイ、それとは対照的に冷静に話すのはバルデルハラ街のギルドマスターだろう。
「………ということを、お祖父様への報告とします。ですが、罰則がまだ軽いんじゃないですか? ファドマさん………いえ、様々な人々を傷つけたのですから、私刑でもいいと思いますけど」
「ルルノイ様、貴族なら分かるでしょう? 貴族というのは、それだけで大きな障壁なのです。しかし、二年間の懲役と席の剥奪は、上席貴族としてはかなり大きい罰ですよ」
「それは、分かっていますが………」
サイルガ家の息子達への処罰に、ルルノイは不満があるようだ。
確かに、あの男達がこれまでしてきたこと、そして竜巣での故意的な生態系破壊とそれで生じた被害を考えると、軽すぎるように感じる。
しかし、席の剥奪もまた、大きな罰だ。
ここネテリウネス魔術学国でも、デルンツ王国と同じような上席・下席制度を取り入れているので知っているのだが、席を取り上げることでの罰則には、二種類ある。
今後の活躍次第で席を取り戻せる『没収』と、二度と同じ席に座れない『剥奪』。今回の罰では剥奪になっているので、あの男達は一生上席貴族にはなれない。
そして、上席でなくなるということは、侯爵ですらなくなるということだ。しかも二年間の懲役ということは、貴族としては最下級の男爵になったのだろう。子爵から懲役が軽減されるからな。
まあ、それはそれとして、マレを傷つけようとした分はこの手で裁きたいが。
「あ、ライム様、ファドマさんの様子はどうですか?」
「軽い頭痛があるそうだが、すぐに眠った。それはそれとして、その様付けはやめろ。私はもう貴族ではない」
リビングでは、バルデルハラ街のギルドマスターとその秘書、そしてルルノイとその護衛達がいた。子ども達は別部屋でニャテルが面倒を見、その他の者は雑事で席を外している。
だが、ここのリビングはそこまで広くない。この程度の人数がちょうどいいだろう。
「それで、これからどうするんだ? それが本題だろう」
ソファに座りながら、そう切り出す。
話は早いほどいい。そもそも、各々に帰らなければならない理由もあるからな。
「そうですね………私達は全員、ハンターさんの飛行船でバルデルハラ街へと帰る予定です。その後、ハンターさん達は竜巣へ、私達は王都へ向かいます。ライム様はどうするおつもりですか?」
「だから様付けは………言っても無駄か。まあいい。それで、私の予定だったな? 私はこの職員寮の一室を借りて、レモンと一緒に暮らす予定だ」
「ファドマさんとその子ども達は………?」
「それは知らんな。だが………まあ、子ども達次第になるだろうな」
ルルノイの目を見れば簡単に分かるが、マレを連れて行きたかったらしい。というよりかは、謝罪の意味が大きいか。
ジバの呪いを解いてくれたとはいえ、命を落とすかもしれない決闘に身を投じ、魅了までされて一時的に別人格に身体を乗っ取られた。
確かに恩はあるが、それと匹敵するほどの苦労も負ったのだ。ルルノイが謝罪したいのも分かる。
だが………
「………ん?」
だが、ではない。子ども達が了承すれば、マレ達はルルノイとともに王都へ向かうだろう。
私に、それを止める権利はない。
前世のことまで話してくれるほど信頼していたのに、それを裏切った私には権利などあるはずがない。
「では、ファドマさんが起きた後に伝えてあげてください。今は、皆休んだ方が良さそうです」
ルルノイは一同を見回してそう言う。
私には分からないが、また疲れた顔をしていたらしい。私は疲労に鈍感なのだろうか。
「僕はまだ竜巣の件でハンターとの話し合いが残っているので、お先に失礼します」
「そうなのですか? 頑張ってください」
ギルドマスターとその秘書が部屋を出ていく。
ハンター達はデラクル達への訴状やら何やらを用意していたので決闘には来ていなかったが、その分余罪が出るに出たそうだ。
もしかすると、罰がより重くなるかもしれん。それが妥当な結末だと思うがな。
「私達も、そろそろ行きましょうか。一度学園長にお礼をしてから、ハンターさん達の飛行船に向かいます。ライム様、先ほどの話をファドマさんに伝えてあげてください」
「分かった」
「それでは」
ルルノイとその護衛達も、部屋を出ていく。
残されたのは、私一人だ。
「………私も、これからどうするか」
いや、予定はある。
まず、借りている部屋の整理をして、当面の生活のための金も調達しなければならない。それは他の司貴家から贈られた品々を換金すれば十分な金額が手に入るだろう。
そして、レモンの方も気づかわねばならん。初めての外国というのに、やったことと言えば逆賊との戦闘。気落ちしない方が珍しいくらいだ。
だから。そう、だから。
「私は、マレについていけない………」
ああ、違う。違うんだ。決してレモンを疎かにしているわけではない。むしろ、レモンを優先した結果だ。
しかし、マレを放っておけないのも事実。あいつを一人にすれば、すぐに誰かのため死に直面するのは目に見えている。
ましてや、『望まぬ縁』を持っている状態だ。どんな悲惨な結末がマレを待っているのか分からない。
ついていきたい。
だが、私には守るべき者がいる。守るべき秘密がある。
それを放って行くのは無理だ。
「………はぁ、いつから私はこんなに絆されたんだか」
いや、自分自身を重ねているのかもしれん。
その内容、理由は大きく異なるが、神によって迷惑を被ったという点では、非常に似通っている。
誰かを助けたくて、しかし力は無く。その力を得たかと思えば、望まぬ苦労に見舞われる。
そしてマレは、まだその力に気づかず苛まれている。ある程度知識のある誰かが、そばで付いてやらねばならない。
あのとき私が、そう望んだように。
「だが、私に、そんな資格は………」
マレは、気にしなくていいと言うだろう。
実際、私自身この自責はくだらないものと感じている。加害の直接的な原因ではなく、マレもそれを理解している。ならば、私が気にするだけ時間の無駄だ。
だが、前世では男であり自らを「俺」と呼んでいたマレが、呪いを受けた間で「私」呼びに変わっていた。マレは平気そうな顔をしていたが、呪いは確実にマレを蝕んだ。私が直接的な原因ではないのは理解している。しかし、間接的に、私は呪いに加担した。
だからこそ、マレに対して何かしらの行動をしようとしたとき、必ず声が聞こえてくるのだ。「お前にそんな資格はない」と。
「過去は、変えられない。事実は事実であり続ける………」
マレを拒絶した。その事実は、変えようがない。
私の心の奥底に、恐れが刻み込まれてしまったのだろう。また何かしらの影響で、マレの信頼を裏切ることを。守ると決めたはずの人を、自らの手で傷つけることを。
「少し、違うな………………ああ、そうか。マレは、きっかけに過ぎないのだな」
いつかグランシアに言ったが、私はレモンとマレを重ねている。
私はレモンに対して、ウィンダリア家と同じような接し方をしないか恐れているのだろう。
そして、それが現実になってしまったのが、マレの受けた呪いだ。だからこそ、私はマレに固執してしまっている。
「断ち切らなければ。乗り越えなければ」
そうして私は進んできた。
マレはもう大丈夫だろう。私がいなくとも、他の誰かが常にいるはず。それもすでに分かっていたことだ。
なら、今度は私の道を歩むとき。恐れを抱き、しかしそれを消し去ってみせよう。
だが、まずはマレに今までの話を伝えなければ。
ソファから立ち上がり、ドアノブに手をかける。
すると、背後から涼しげな風が肩を撫でた。しかし振り返っても、窓は開いておらず、冷暖房もついていない。
つまり、これは………
「私ではなく、ルルノイの方に行ってほしいんだがな」
私が魔術師になれない理由が、それだ。
生まれたときからついて回る、忌まわしき祝福。二つの嵐を翼に宿して飛ぶ、かつての嵐の王の一瞥。
私は未だ、ソレから逃れられていない。そればかりか、マレを探すときにその力の一端を使ってしまった。
これから、より多くの力を授けられるのだろう。
私が戦いをせずとも、それでも。
「………過去と向き合わねば」
どうすれば離れてくれるのか分からない。しかし、私とて人並みの夢は持っている。そのためにも、この力にも対処せねば。
「ああ、また考えるべきことが増えた………」
明日の心配をせずとも暮らせる日々が、私に来るだろうか。
「………んぁ?」
「起きたか」
目を覚ますと、まだライムがそばに座っていた。
もしかして、ずっと待ってた?
「いや、一度別室で話し合いをしてきた。要約したものを伝えるぞ」
そうしてライムから聞いたのは、ギルドマスターとルルノイ、そしてハンターのこれからの予定だった。
とりあえず皆、バルデルハラ街に帰るみたい。
「マレはどうする? 一緒に帰るのか?」
「んー、どうしよっかねぇ………」
正直言って、帰ってもやることがない。
あ、でも、りゅか姉ちゃんと会いたいかも。身体がこんな変わったし、どこかで再会しても気づかないなんてことありそうだし。
ん? いや待てよ? 一応魔術は使えるって分かったし、ギルドとかの依頼で金を稼げば、りゅか姉ちゃんを引き取れる?
身分証も用意してもらったし、装備は自分で作れる………
「あぁ………子ども達がいるのか」
それ考えると………砂漠には連れて行きたくないなぁ………
やっぱり、子ども達のために魔術学国に残った方が良さそう。
魔術を教わったって言ってたし、学園長のコネとかで入学できたらもっと腕を伸ばすはず。
「───って感じかな」
「そうか、ここに残るか。私も、子ども達には才があると感じていた。入学できずとも、私が教えられるぞ」
「え、ホント? じゃあ、入学できなかったときはお願いしていい?」
「ああ、調べもののついでだ。他者の魔術を見ることで、己を深く理解できるからな」
「ありがとう」
じゃあ、当分は宿探しか。
ここの冒険者ギルドに泊まれはするだろうけど、それはグランシアさんの罪悪感を利用してる感じがして嫌だ。
サイルガ家の息子達のせいで離れた学生寮も、そもそもこんなに姿が変われば出入りできない。
そして、金もない。あれ? これどっかで妥協しなきゃいけない感じ?
「………なんだ、宿の心配をしてるのか?」
「あ、う、うん、でも自分達でちゃんと泊まりたいっていうか………」
「それに関してだが、学園長から言伝を預かっている。どうやら、この部屋を『療養』として使っていいらしい。いわば、珍しい決闘を見せてくれたお礼と言っていたが………」
「いたが?」
「………いや、何でもない。まあ、そういうことだ。今日からここはマレ達の療養室となる。期限は言われなかったが、そうすぐ追い出すこともしないだろう」
じゃあ、その間に金を稼いで宿を探せばいいか。
まあ、俺が仕事できるかどうかは別問題だけど。
「今後の予定はそれでいいとして………後はエンガラスさんとの約束か」
「エンガラス? 誰だ?」
「あ、まだ言ってなかったっけ。えっとね───」
ライムにあの大書庫での出来事、そして、まだこの身にいるかもしれないジバからのアリス奪還の約束があることを説明する。
ライムはまたか………みたいな顔して聞いてたけど、魔女の話のときに表情が固まった。
「なっ、少し待て。『魔女サンドリヨン』と言ったか?」
「う、うん、知ってるの?」
「………知っているも何も、学院で三大罪人の一人『獣の魔女フェアリー』の師とされている魔女だ」
「フェアリー………?」
獣なのに、妖精?
いやそこは重要じゃなくて、三大罪人の一人? サンドリヨンの弟子が、ここで何かやらかした?
「今から………だいたい100年前か。この学院の真上に浮かぶ照月を破壊しようとしたらしい。だが、いかんせん昔の出来事だ。学院も少なくない被害を負った影響で資料自体が少ない。学園長が迎撃にあたったとされるが………詳しいことは分かっていない」
100年前とはいえ、学院にそこまでの被害を出すほどの魔女だったの?
まあ、あの大書庫作った魔女の弟子って言われたら、すんごい納得だけど。というか、コレクション使って攻め込んできたのかな?
「しかし、聞く限りでは、そのサンドリヨンは温厚そうだな。師と弟子は必ずしも同じ道を歩むとは限らないわけか」
エンガラスさんなら何か知ってるかもだし、行くついでに聞いてみるか。
なんかライムも気になってるみたいだし。
「あ、えっと、これで書庫のときの話は終わりかな。あとは、ライムも一緒だったから分かるでしょ?」
「ああ。だが、一つ気になることがある」
「何が?」
「その追憶書庫とやらは、私も行くことが出来るのか?」
「あー、どうだろう………」
一応、『魔女の道導』を使った人で判定してるっぽいし、俺が発動した後に一緒に入れば………………いや、よく分かってない魔法だし、エンガラスさんに聞いてからにするか。
「それも聞いてくる。というか、今聞いてくる?」
「いや、いい。事が粗方片付いたときにしろ」
「了解」
これで話は終わりらしく、ライムは立ち上がって本を持ち上げる。
その本はかなり分厚く、装飾はないけどかなり上等そうだった。
「………気になるか?」
俺の視線に気づいたライムが、その本を差し出す。
けど、まだ文字読めないんだよなぁ………
「まだ読めんか。暇なときに読んでやろう」
「うん、よろしく」
「ああ。では、私はもう行く。何かあるか?」
「んー………何も。またね」
「ああ、また」
ライムは本を小脇に抱えてドアノブに手をかけた。
そこで、こっちを振り向く。
「ん、何?」
「………無理はするなよ」
「え? う、うん」
ライムはそれだけ言うと、部屋を出ていった。
多分、ジバとの戦闘になりそうだから、そう言ったのかも。
「いや、にしても………はぁ………」
ベッドに、身体をさらに沈み込ませる。
いや、決闘は終わったしジバとの取引も完遂したのに、やることがまだまだ残ってるんよ………
「あーどうしよ………まあ、まず子ども達のとこ行くか………」
学院に入学したいか聞いてみよう。
んで、入りたいなら学園長に………いや、学園長は今の俺の姿を知らないか。確か名前はマレで入学したはずだけど、この姿でも認めてくれるかね。
ニャテルさんにでも聞いてみるか。ライムの話だと、子ども達と一緒にいるらしいし、ちょうどいい。
「よいしょっと………んじゃ、動きますかね」
痛みのなくなった頭を振り上げて上体を起こす。
確か、出て右の部屋って言ってたっけ。
『───ってことで、遅々として進んでない。ごめん』
「あなたが謝ることではありません。むしろ、謝るのはこちらの方です。ごめんなさい。貴女をそこに閉じ込めることになってしまって」
『それ毎回言ってる。私が好きでやってることだし、気にしないで』
「ですが、貴女はもう139年もそこに………」
『そうそこ。私が謝りたいのはそこ。魔女とか言っておきながら、こんだけ時間かけておきながら、まだ障壁の一つしか破れてない。ごめん、役立たずで』
「ですから、貴女の謝ることではありません。そもそも貴女がいなければ、私はそのステージにすら上がれていないのですから」
『君の実力ならそんなことないと思うけど………まあ、この話はここで終わり。現状はさっき言った通りで、解放できるのはまだ先になる』
「いえ、解放できると分かっているだけでも心強いです。ああ、それと、『信者』を見つけました」
『え、ほんと? 100年以上経ってるのに?』
「ええ、本人に自覚がないのが残念ですが、『降ろし』までできていました」
『え、『降ろし』まで? でも、こっちにそんな反応………ちょっと待って。もしかして、あの黒いのは………』
「どうしましたか? 何か、問題が?」
『もう少しよく見てみる。まさか、シュネーがそんなこと………』
「深刻そうですか? 私ができることは?」
『………………なるほど。たった今、とても悪い知らせが一個できた』
「覚悟はできています。遠慮せず、言ってください」
『その言葉、信じるよ。しっかり聞いて』
『堕天が始まった』




