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え、あ、はい、ワームですよ?  作者: 素知らぬ語り部
祝福された呪い子

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92/94

92、闘士は共に







「………これ、原型とどめてる?」


 名前を出してなんとか通った受付の先、俺が初めて魔術を使った練習室で、子ども達の魔術を見る。


 俺が作った魔術は六つ。

 『騎士ノ遺剣』に、『月海ノ歩調』、『拒棘ノ円盾』、『鳥囀ノ秘言』、『血融ノ斧槍』、『柔糸』。

 そのうち、『柔糸』以外の魔術を子ども達はそれぞれ改造してた。しかも、改造後の名前もちゃんと考えたらしい。


 ミズノは『拒棘ノ円盾』を『慈救ノ御盾』に。

 ムニンは『血融ノ斧槍』を『朱空ノ御槍』に。

 メルニスは『月海ノ歩調』を『海月ノ御調』に。

 モニは『鳥囀ノ秘言』を『旗頭ノ御言』に。

 マーリャは『騎士ノ遺剣』を『守騎ノ御剣』に。


「………天才にも程があるでしょ」


 一応、皆それぞれで使うから詠唱文は捨てたらしいんだけど、それってつまり言葉でのイメージ補完も必要ないわけで。

 ゲームやアニメで色んな魔術・魔法を見てきた俺とは違って、アリスの断片的な記憶と生まれて一ヶ月も経ってない記憶だけで無詠唱するのは、もうそういう才能を持ってるとしか思えない。

 まあ、改造元の魔術を見たことがあるってのが大きいんだろうけど。


 子ども達の魔術をそれぞれ簡単に説明すると、

 『慈救ノ御盾』は、術者を完全に囲む半ドーム状の真っ白な盾を展開する魔術。『拒棘ノ円盾』より展開時間が長くてガード範囲も広いけど、地形に向かって設置する関係上、展開速度は少し落ちてるらしい。

 『朱空ノ御槍』は、術者の上にいくつもの『血融ノ斧槍』を生成して一気に降らせる魔術。血融ノ斧槍』を連発するから、魔力効率は低いっぽい。引っ込み思案なムニンには合わないと思ったけど、本人はしっくり来るって言ってた。

 『海月ノ御調』は、術者の周りの重力を思いのままにする魔術。単純に『月海ノ歩調』の強化版みたいな感じ。発動中は結構な速度で魔力を消費するらしいけど、配布Mのおかげで辛くはなさそうだった。ちなみに、子ども達はシステムのこと知らないっぽい。

 『旗頭ノ御言』は、術者の周囲の人々へ言葉を届ける魔術。それだけ聞くと強くなさそうに思えるけど、聞こえる人は制限できる上に、魔力の継続消費はないみたい。モニはこれで周りの迷惑にならずに歌ってたらしい。もっかい聞いてみたいな。

 『守騎ノ御剣』は、もっと扱いやすくした『騎士ノ遺剣』を術者の周りに生成する魔術。『騎士ノ遺剣』は魔導無効化のせいで飛んでいかなかったけど、『守騎ノ御剣』は魔導無効化じゃなくて魔導反射にして、逆の方向に力をかけて移動させるみたい。一番扱いにくそうだけど、マーリャは結構自由に使いこなしてた。


「………皆すごいねぇ」


 子ども達の魔術に圧倒された俺の言葉に、子ども達全員が嬉しそうな表情になって、ニマニマし始める。

 褒めるだけでここまで喜んでくれるのはこっちとしても気持ちいいけど、ホントなんでこんな好かれてるんだろうな。

 やっぱサンドワームの習性を引き継いで刷り込みとかしてるんかな。でも、子ども達にはそもそも亜人でもないしなぁ………


「うン、私達にサンドワームの要素はなイ。私達ハ、マレがマレだかラ、マレが好きなノ」


「あ、ありがと………?」


 急にメルニスからそう言われて、顔が熱くなる。

 こんな感じに面と向かって好意を受け取ったのって初めてだから、嬉しいっちゃ嬉しいんだけど、それよりも恥ずかしいが強い。

 誰かに好きって言われるのって、こんな感じなんか………


 顔の赤さをごまかすために別の話題を探すと、あるものが目に入った。

 それは、ミズノ以外の子ども達の服。真っ白だから『柔糸』で作ったんだろうけど、その服は俺が初めて見るものだし、あんな羞恥心皆無な子ども達にしては普通の服だ。

 ムニンとマーリャが教えてくれたのかな?


「ねぇ、その服って新しく作ったやつ?」


「う、うん、全部、私が作ったの………」


 俺の問いに、ムニンが少しどもりながら答えてくれる。

 ミズノから事前に聞いていたけど、本当に皆喋れるようになったんだな。

 しかも全員同じ声。イントネーションとか喋り方で聞き分けられるらしいけど、初対面の人とか絶対に混乱するだろこれ。


 まあ、今はそれじゃない。

 我が子が褒められ待ちしてるなら、それに応えてあげるのが親の役目だ。


「よく頑張ったね〜」


「ふ、ふへへ………」


 ソワソワしてたムニンの頭を撫でると、嬉しそうな声でより頭を押しつけてくる。

 やっぱ子どもは可愛いねぇ。昔の甘々だった弟を思い出す。


 そのままわしゃわしゃし続けていると、羨ましくなったのか、他の子もそれとなく頭を近づけてきた。

 マジで天使だろこの子達。そりゃ全員撫でますとも。


「………何してるんだお前達」


 子ども達に囲まれながら至福の時間を堪能してると、仕切り板からライムが顔を覗かせる。

 その後ろから、レモンも顔を出した。


「………仲が良いんですね」


「まあ、それなりに」


 そういえば、ライム達の実家はかなり酷いんだっけ。そのせいでライムは家出したって言ってたし、レモンがどこか不思議そうな顔をしてるのも納得できる。

 多分、親からの愛を知らないんじゃないかな。どうにかしてあげたいところだけど、俺は親になるのはこれが初めてだし………


 ………ん? ()()()()()()()()()()? いくら人の役に立つのが好きだからって、さすがにそこまで踏み込むのはおかしい。

 なんだ、これ。この感覚は知らんぞ。でも、弟とか子ども達と遊んでるときの感覚と近いような………


「………まさか、母性とかか? 俺が?」


 どっちかっていうと父性だろ。いや、そうだったとしてもこの感覚に従うのはマズイ。

 なんかすんごくレモンとライムも甘やかしたくなるけど、誰かを守れるほどの力がないし人ができてるわけでもない、ましてや二人の親じゃない俺がそんなことをする資格なんてない。

 それはこれまでもだし、これからもそう。


 そう、なんだけど………


「お母さん? 大丈夫?」


「う、うん、大丈夫」


 顔を覗き込んできたミズノのおかげで、飛躍しようとしていた思考が止まる。

 なんか、脳の中に別の誰かがいるみたいで気持ち悪い。これが女になった弊害?


「おい、本当に大丈夫か? 決闘はやめにするか?」


「いや、そういう感じでやめられないでしょ。私は本当に大丈夫だから」


「私、か………やはり、重い枷をはめてしまったようだな」


 ライムはそう言いながら、仕切り板の外へ出ていく。

 レモンもそれについていった………んだけど、何しに来たんだ? ただの様子見?


「なんだったんだ………?」


 そう首を傾げていると、袖が引っ張られた。

 振り向いてみると、子ども達が『柔糸』で何かを作っている。


「………マーリャ、何?」


「あの、お母様のその眼帯なのですが、少し血が滲んでいるようなので、代わりを用意しようかと」


 袖を引いてきたマーリャはそう答える。

 確かに眼帯代わりにしている渡り鳥の祈願は、斬られた腕の包帯代わりにされたこともあるから、そのせいで汚れてる。

 あ、そういうこと? 確かに、血で汚れた布を眼帯代わりにしたら、他の人から見れば目を怪我してると思われそう。

 というか、子ども達がそう?


「これ、目を怪我してるわけじゃなくて、ちょうどいい布がこれしかなかったから使ってるわけで………」


「そうなのですか? では、いらないですか?」


「い、いや、いる。多くて困ることはないし」


 マーリャの申し訳なさそうな目を見て、こっちが申し訳ない気持ちになった。

 まあ、髪切ろうと思ってたのに時間なくてできてないから、渡り鳥の祈願は髪留めにして、眼帯を子ども達のにしよう。


「ん、で、できた………!」


「ありがとうね」


 ムニンから手渡された布は肌触りが良くて、しかも眼帯用なのか紐も織り込まれていた。

 これ、絶対腕上がってるよね? 俺が作った尻尾も、今のムニンなら作れそう。


 とりあえず目を閉じながら渡り鳥の祈願を外して、子ども達が作ってくれた眼帯を付ける。

 だいぶ厚く作ってくれたのか、渡り鳥の祈願みたいに透けて見えることはないけど、これはこれで視界が半分に………

 いや、子ども達がせっかく作ってくれたものに文句言うのはおかしい。


「………うん、良い感じ。皆、ありがとう」


 またお礼を言うと、子ども達は照れくさそうにモジモジし始める。

 これはまた、撫でられ待ちかな?


「はい、おいでー」


 また皆の頭を撫でて、褒めまくる。

 ちょっと甘やかしすぎ………いや、呪いのこともあったし、俺がいない間も頑張ってたから、これくらいはいいか。



















「………なるほど。決闘は明日、寝泊まりは学院の方ね。とりあえずマレちゃん達を呼んで、その職員寮に移動しよっか」


 帰ってきたルルノイちゃん達から聞いた話だと、もう時間まで決まってるみたい。

 あのふんわりした優しいマレちゃんを戦わせるのは怖いけど………もう私の知らない魔術を作ってるみたいだし、心配しなくても大丈夫かな?


 ルルノイちゃん達は決闘に向けて準備があるとかで、もう学院に戻ってっちゃった。

 準備にはマレちゃんも必要だから、なるべく早くと言われたけど………


「あれを見ると、話しかけづらいよねぇ………」


 そっと受付の鉄扉から覗くと、子ども達に囲まれて笑ってるマレちゃんがいた。

 マレちゃん、他の人には優しいけど、ああして自分から笑うことは少なかったから、この時間を壊したくない。

 しかも、呪いのせいでさらに笑えない状況だったはずだし、なおさら………ね。


「でも、決闘の準備も大事。決闘の後でも、できるはずだから」


 負けても、マレちゃんには影響はない………はずだよね?

 結局はサイルガ家の中の話なんだから、元々関係ないマレちゃんが何かしら負債を背負うことなんて、ないよね?


「………呼ばないと」


 とりあえずマレちゃん達の仕切りに入る。

 すると、マレちゃんが私に気づいた。


「あ、グランシアさん。何かありましたか?」


「ルルノイちゃんから聞いたんだけど、決闘の時間が決まったって。今は学院の職員寮にいるから、そこまでおいでーって」


「学院………は分かりますけど、職員寮の場所は………?」


「まだライムちゃん達がいるから、一緒に行くといいよ。私はここでの仕事があるから、ついていけない」


「分かりました。じゃ、皆、行くよ?」


 マレちゃんが移動すると、子ども達もそれについていく。

 ホント、昨日までどんより暗い目をしてた子どもとは思えないね。まあ、それは私もなんだけどさ。


 私もマレちゃんについていって、入り口のカウンターにいたライムちゃん達と合流する。

 ライムちゃんはマレちゃんを待ってたみたいで、すぐにギルドから出ていった。

 私はそれに手を振りながら、見送る。


 私は明日、かなり大物の客人と面会があるから、決闘を見れない。

 だから、私がマレちゃんと次会うときは、マレちゃんが決闘に勝った後か、負けた後。

 負けた後は会えない可能性もあるから、これが最後かもしれない。


 そうならないように、私は願うしかない。






















「───と、作戦はこのような感じです。理解できましたか?」


「はい、分かりました。ですけど、これ耐え切られた場合って………」


「そのときは………すみません、マレさんの力で切り抜いていただくしか………」


「………なるほど」


 職員寮の共用スペース、ちょっとした会議室のような場所で、大きな長テーブルを囲んで話し合います。

 私が危惧していることと同じことを、マレさんも感じたようです。

 切り札など言っておきながら、それが有効打になるのか分からないのは恥ずべきだと理解していますが、それでも叔父様方の蛮行を止める方法はこれしかなく、これで突き進むしかありません。


「………私はもう貴族ではない。それを承知で無礼な言い方になるが………これで挑もうなどと考えていたのか? いや、確かに私はサイルガ家の息子達の実力を知らん。しかし、魔術を学ぶものとして断言できる。魔術士がこの程度で降参するわけがない。あっちにも必ず、秘匿している『切り札』があるはずだ。それの対処も、マレに全て投げるのか?」


「それは………」


 ライム様から、手痛い指摘を貰いました。

 その言葉には怒りも含まれており、マレさんへの感情を伺い知れるものでした。


 確かに、ライム様の指摘は私達が持ち得ない魔術士の視点であり、だからこそ失念していた箇所でもあります。

 ですが、決闘は明日です。すでに叔父様方にも私達の来訪は知られているはずですし、道中で彼らの兵士とも会いました。今から決闘をやめにするなど、不可能です。


 なればこそ、叔父様方の切り札への対処を考えなければなりません。

 実は、叔父様方は世辞にも魔術が上手いとは言えません。魔術を主体に戦えるのは四男だけであり、次男と三男はともに刺剣を用います。その二人は相手への牽制として魔術を使用しますが、四男だけはサキュバスの先祖返りで得た魔力での波状攻撃を仕掛けます。

 そして、切り札とは大抵、通常の戦闘スタイルから相手の予想を欺くもの。ということは、次男と三男は何かしら大きな魔術、四男は接近されて近接戦になった状況を打破する魔術があると思われます。


 ということは、それを防ぐ、あるいは回避する方法があればいいのですが………


「───私達は刻印を持たず、決闘に直接介入できません。なので、マレさんに頼ることになってしまいますが、知っている全てをお教えします」


「えっと、とりあえず相手の魔術を防ぐ方法があればいいんですよね?」


「それは、そうなのですが、相手の魔力量が量なので………」


 私がそう答えると、マレさんは何やら考え込む姿勢に入りました。

 まさか、もう対処法を思いついたのでしょうか。

 いやしかし、それに甘えてはいけません。私は私なりに、マレさんがどうすれば勝てるのか考えなくては。


「………いや、はい、大丈夫です。三人相手なら多分………勝てます」


「………え?」


 そう言ったマレさんは、その自信のないような言い方とは裏腹に、目は強く確信していました。

 魔術での実戦経験のないマレさんがそれほどまで思えるとは、どれほどのものなのでしょうか。


「ほう? それくらい言うとは、さぞ良い方法があるんだろうな?」


「これは、まあライムくらいしか分からないと思うけど………」


 マレさんはそう前置きし、説明を始めました。

 その言葉の多くは私にとって、いやこの場にいるほとんどの者にとって理解不能なものでしたが、ライム様方とマレさんのお子様方は理解しているようでした。


「………なるほど。その、ソウタイザヒョウというもので身を守るということか。その位置を維持する力はどれくらいだ?」


「鎧を両断するくらい。だから、大体は防げると思う」


「それに、お母さんは私の魔術を見てるから、イメージもしやすいと思う。これなら、咄嗟のときも展開できる………と思う」


 確かミズノさん………でしたっけ。青いリボンをつけたお子様の魔術とは、どんなものなのでしょうか。

 聞いた感じでは、防御魔術のように思えますが………


「………ふむ、聞く限りでは問題ないだろう。だが、マレには経験がなさすぎる。どうやって見切るつもりだ?」


「それは………まあ、もう勘しか………?」


 マレさんはライム様の問いに首を傾げます。

 しかし、それはライム様の言葉が分からなかったわけではなく、何か思いついたようです。


「………あ、なら、モニの魔術を使って───」






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