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え、あ、はい、ワームですよ?  作者: 素知らぬ語り部
祝福された呪い子

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91、似た者同士







「………申し訳ありませんが、僕はそれに賛同しかねますね」


「私も同じく。これは常熾の扱いについてではなく、常熾を扱うことそのものについてです。デリケートどころじゃないですからね」


「まあ、そうですよね………」


 常熾の人形をギルドマスターとルルノイに見せると、両名とも反対してきた。

 まあ、それだけ触れづらいってことなんだろうけど、じゃあどうやって戦えばいいか………

 最悪、自爆特攻する?


「………常熾が戦いで扱えないのは、歴史が絡んでいます。というのも、死なない命というのは戦争において大きな利点ですからね。あらゆる戦争に利用され、それゆえに『セントレインス条約』にて常熾の戦争利用が全面禁止されているんです。それは戦争ですらない個人間での争いにも波及し、戦いにおいて常熾を利用するのはご法度、戦いそのものを侮辱していると捉えられても仕方がないほどの行動なのです。しかし、それは常熾に限った話です」


 物騒な考えをしてたら、急にギルドマスターがそんな話をしてきた。

 んで、それってどういうこと?


「えっと、つまり………?」


「常熾の人形を作れたファドマさんほどの腕前ならば、常熾の性質を引き継いだ魔術を作れるのでは?」


 ………あーっと? ギルドマスターが言いたいのはつまり、常熾の性質、いわゆる不死性を利用した魔術を作れないかってこと?

 でも、不死を利用すんなら必然的に生物になるし………………いや? 不死性じゃなくて、不壊性って考えれば………?


「おや、もう何か思いついたようですね。ここではなく修練場に連れていかれては?」


「そうすることにするか。修練場に戻るが………ミズノと言ったか。誘導できそうか?」


「はい、できます。お母さん、行くよ?」


 不壊をつけるなら盾? いや、地面から武器を生やして攻撃&遮蔽に………でも、それだと地面が………決闘するところは学院か? なら地面を傷つけそうなのはやめて………


「………考え事をしてる時は、周りが警戒しないといけないな。こうも素直に誘導されてくるとは」


「そもそも警戒しなくていいっていう環境がありますから」


「信頼されているのか、ただ無警戒なだけか………」


 空中に浮かす? いや、それだと簡単に迎撃できる。なら、空間固定? この高速に自転する星で? あ、でも、天動説が信じられてるなら………信仰って宇宙まで歪めるもんか?


「修練場に着いたが………まだか?」


「………まだっぽいです。今のうちに準備しておくのがよさそうですね」


「………かかしでも立てておくか。魔術なら的が必要だろう」


 空間固定じゃなくて、何かを基準に相対座標にしたら………………お? 最強来たかこれ? いやでも、魔力バカ食いしそうだな………まあ、試すだけ試した方がいいか………………あれ?


「………いつの間にここに?」


 気づいたら修練場にいた。

 ハンターは俵を縦に立てたみたいなかかしを準備してるし、ミズノは少し不安そうにこっちを覗き込んでる。


「考えはまとまった?」


「あ、うん、とりあえずはだけど」


「ん、気づいたか。あのかかしは自由に使っていい。想像をぶつけてみろ」


 俺とミズノの会話で気づいたのか、ハンターがかかしを指差してそう言う。

 さっき見た感じかなり脆そうだったけど、いつの間にか金属鎧を着させられていて硬くなってた。

 でも、思いついた魔術は多分、鎧も両断できるんだよなぁ………


「詠唱は………俺が使うだけだしいっか」


 詠唱はせずに、思いついたアイディアのまま両手に力を込める。

 すると、俺の身長と同じくらいの長さの灰でできた棒が現れた。そこに、追加で力を込める。


「………なるほど、これは中々だな。一から武器を生み出すとは」


「しかも浮いてるなんて………さすがお母さん………」


 なんか後ろの二人がこそばゆいこと言ってくるけど、それは無視して手元にある灰の武器を見上げる。

 一言で言えば、灰に燻る斧槍。それは俺が今まで握ってきた斧槍と同じ形だけど、決定的な違いが一つ。

 この斧槍は、持ち手と刃部分が()()()()()()()

 いや、持ち手を基準として刃部分が持ち手との相対座標を維持してるから厳密には繋がってないわけではないけど、傍から見れば浮いてるように見える。


 んで、座標を維持してるのは刃部分だけだから、刃にどれだけ衝撃がかかっても持ち手には何の影響もない。しかも、常熾から派生させた不壊の属性を付与したから、魔術を解除しない限り壊れることもない………はず。

 それらを確かめるためにも、一度かかしに向かって振り下ろす。


 ギイイイィィン!!


「っるさ!?」


「なっ、あれを両断!? 準備体操でバテる身体のどこにそんな力が!?」


「お母さんすごーい!」


 ハンターには貶されてミズノからは盛大に褒められたけど、それをまた無視してかかしを見る。

 甲高い音を立てて斜めに真っ二つになったかかしは、その干し草を盛大に撒き散らしながら倒れていた。

 中にあったらしい木の芯ごと鎧を叩き切ったはずの斧槍は、刃こぼれひとつしていない。というより、そもそも何かを斬れるほどの鋭い刃じゃない。現に、これで斬られた鎧と芯は何か大きな爪で引き裂かれたみたいにぐしゃぐしゃで、刃物で斬られたとは思えない傷跡になってる。


「………武器を持てば力が出るのか?」


「あ、そうじゃなくて、そういう魔術です」


「お母さん、それどうやってるの?」


「えっと………」


 気になって近づいてきたらしいハンターとミズノに、この魔術の解説をする。

 ミズノはすぐに理解したみたいだけど、ハンターは首を傾げるばかりで上手く理解できないみたい。


「ソウタイ、ザヒョウ? つまり、どういうことなんだそれは?」


「えっと………この刃部分は、絶対に持ち手の上を維持しようとするんです。なので、持ち手を振ればその上の刃も一緒に動きます。でも、刃と持ち手は繋がってないので、刃にどれだけ衝撃が来ても持ち手には一切影響がありません」


「じゃあ、さっき鎧を断ち斬った力はなんだ? ファドマの力じゃないのか?」


「そう………なりますね。私は持ち手を振っただけで、鎧を斬ったのは刃が持ち手の上という位置を無理やり維持した結果ですね」


「………頭がこんがらがりそうだな」


 ハンターはまだ理解できていないみたいで、頭を抱えてる。

 まあ、この世界の人には難しいと思う。そもそもハンターはそういうの苦手そうだし。


 でも、これで攻撃手段ができた。魔力消費は………一回1MMくらい? 継続消費はしてないっぽいから、出してても問題ないかな?

 じゃあ次は、これを応用した防御も………


「………あ、また集中モード入った。お母さん、お昼ご飯までには戻ってきてよ?」













「今日の昼に着くって。決闘に使う魔術はまとまった?」


「うん、これだけやれば、人相手には負けないはず」


 修練場で、お母さんが灰でできた棒を振り回す。

 その棒には何も付いてないけど、練習だけならこれでいいみたい。


 お母さんは灯火の魔術からオリジナルを作り出した後、三日間でそれをさらに発展させた。

 ベースは一本の長い棒にして、そこにお母さんがアタッチメントって呼んでる刃や盾を追加する方式。お母さんはそれを結構気に入ったみたいで、理論上では音速も超えられるかもって楽しそうに話してた。

 やっぱり、お母さんには才能がある。誰かのマネしかできない私達と違って。


「ミズノ? 大丈夫?」


 気づいたら、お母さんが私を覗き込んでた。

 その目は、心配そうに私を見ている。


「お、お母さん? 何?」


「いや、なんか辛そうな顔してたから………大丈夫?」


「う、うん、大丈夫。何もないよ」


「そう?」


 お母さんは棒を握り直して、また振り始める。握り方からして、両刃剣を想定してるみたい。


「………一緒に戦えたら」


 お母さんの盾になりたいのに、お母さんの剣になりたいのに、私には何もできない。

 お母さんを傷つけたのに、お母さんを傷つけようとするものから守れない。

 お母さんは、私を見捨てなかったのに………


 お母さんの役に立てないなら、むしろお母さんを傷つけてしまうなら、私がいる意味は?

 私が、生きてる意味は?


「───ノ? ミズノ?」


「あ、な、何?」


「いや、飛行船のスピードが落ちたから、降りる準備しようかなって思ったんだけど………」


「う、うん、一緒に行く」


 いつの間にか、相当時間が経ってたみたい。

 慌ててお母さんの背を追って、修練場を出る。


 ………私も、何か鍛えておいた方がよかったかな。













 












「えっと………とりあえず、おかえり。そして、ごめんなさい」


 相手の姿形が大きく変わっていることへの混乱から回復したグランシアが、珍しく丁寧に頭を下げた。

 その相手とはもちろん、マレだ。


「だ、大丈夫です。というか、グランシアさんはあまり変わってなかった方で………」


「ううん、あのときの私は、マレちゃんを追い出したい気持ちでいっぱいだった。償うって、決めてたのに」


「つ、つぐな………? いや、そんな気にしてないので………」


 ネテリウネス魔術学国の冒険者ギルドの執務室、バルデルハラ街のギルドとは全く違う落ち着いた雰囲気の中、マレの帰りを待っていた者達が頭を下げていた。

 マレはそれに困惑しながら、必死に頭を上げさせようと言葉を選んでいる。


 それが、マレがマレたる所以だろう。あそこまでの仕打ちを受けたのなら恨み言の一つでもあるだろうに、マレはそんなことは口にせず、気にしていないと言い放つ。

 その優しさが、彼らの後悔をさらに深めているとも知らずに。


「………そのくらいでいいだろう。謝意など、受け取る相手がいらないのならただの迷惑だ」


 私の一言で、彼らはやっと頭を上げる。

 しかし、グランシアにニャテル、ムニン、メルニス、モニ、マーリャ、そしてあの場にいなかったはずのデカブツ騎士まで、未だ暗く沈痛な表情をしていた。

 騎士は兜のせいで分からんがな。


 今この場にいるのは、先ほど言った者達と、私とレモン、マレ、ミズノだけだ。他はサイルガ家を探しに、一足先に学院に向かっている。

 だからこそなのか、頭を上げた後は、誰も何も言わない気まずい沈黙が流れる。


 その空気を破壊したのは、意外にもマレだった。


「………あの、メルニスに聞きたいことがあるんだけど………いい?」


「う、うン………」


 子ども達の中から、緑のリボンを着けた子が出てくる。

 以前見た時はそこら辺にいる町娘みたいな恰好をしていたが、今は他の子ども達も含めて真っ白な服に変わっていた。

 罪滅ぼしの一つ、なのだろう。


「えっト、それデ、聞きたいことってなニ………?」


「あ、ネル・ラリウスの魔術について聞きたいんだけど………」


 マレはそこで言葉を切る。

 周りを見る仕草で気づいたが、この場にいる全員がマレを見ていた。確かにこれでは会話しづらいだろう。

 だが、彼らも何も思わずに見ているわけではないことは分かっている。その胸中は、私がマレは生きていると伝えた時以上に後悔に苛まれているはずだ。


 マレは私が何もしないつもりだということが分かると、諦めて話の続きを始めた。


「えっと、『種火』使ったんだけど、体力を消耗した感じはないんだよね。ミズノから聞いた話だと、ネル・ラリウスの灯火魔術?って体力を消耗するはずなのに………」


「………ちょっと見てみていイ?」


 メルニスがマレの手を取り、そのぬくもりを閉じ込めるように固く握る。

 しかし、マレが身に着けている全身を包み込むような黒い服が邪魔なのか、首を横に振りながら手を離した。


「ごめんなさイ。よク、分からなイ………でモ、魔術なら必ズ、魔力を消費すル。もしかするト、お母さんは魔力で代用できる体質なのかモ?」


「これ、体質で片付けられるものなの………?」


「お母さんも知ってる通リ、魔導は個人差が大きイ。全く使えない人もいれバ、腕を振るうだけで使える人もいル。お母さんの体質モ、ありえないものじゃなイ」


 魔導に対する個人差は、確かに極端なものだ。しかし、その極端とは使える使えないだけでなく、マレのように特殊なものも含まれる。

 周囲の魔力を使う、言葉にするだけで発動する、発動した魔導が別の属性に置き換わる………これらはほんの一部で、体質による特徴は大量にある。

 というより、それが普通だ。魔術を使えぬ者は学院に入れず魔術を学べない。魔術が使えても、魔法は自ら学ぼうとしなければそもそも触れない。そのせいで、自分がどんな魔導を使えるのか、どんな体質を持っているのか、それを知る機会がない。

 だから、マレのような体質の者が『珍しい』となる。私も、よく奇異の目で見られたものだ。


「そっかぁ。まあ、そんなもんって考えればいっか。んで、次は皆に聞きたいんだけど………」


 マレの目が子ども達に向く。

 そういえば、私が飛行船と合流した後、マレは子ども達に聞きたいことがあると言っていた。


「皆、私の魔術を改造してたんだよね? それ、見せてくれる?」


 マレの言葉に子ども達の目が輝くが、その瞳はすぐに翳る。

 褒めてもらいたいという気持ちと、自分なんかがという気持ちがせめぎ合っているのだろう。

 子どもゆえに、分かりやすい。


 子ども達の中から、マーリャが一歩前に出てくる。

 その目は何かの希望に縋りたくて、しかしそれを自制する、相反する思いが渦巻いていた。


「お母様、私達は酷いことをしました。これは一生許されるべきではありません。でも、それでも………」


 マーリャの言葉が揺れる。その砂色の瞳から、大量の涙が零れる。

 大人ぶったその態度から、ただの一人の少女へと変わる。

 母の許しを請う、子どもへと。


「私達を、許してくれますか………?」


 震えた口からかろうじて紡ぎだされたその言葉に、マレは照れくさそうに顔を赤くしながら、両手を広げた。


「いいよ」


 その言葉で決壊したかのように、子ども達がマレに飛びつく。

 それは、以前会った子ども達から考えられないくらい、幼いものだった。


 それも当然だろう。子ども達はすでに私より大きく成長しているが、まだ一歳にもなっていない赤子のようなものだ。親が付きっ切りで世話をしなければならないほどの年齢で、しかし自分でそれを否定し、そのせいで母が死んだのかもしれないという後悔に苛まれ………

 これほど子どもに酷なことなど、この世にあるだろうか。


 そう考えると、あの愉悦神とやらも殴りたくなってきた。

 私の力ならば、一発くらいなら………


「………魔術を使うなら、練習室に行くといいよ。マレちゃんもマーリャちゃん達も、自由に使えるようにしてあるから」


 やっと立ち直ったらしいグランシアの言葉で、思考が中断される。

 マレは「ありがとうございます」と頭を下げ、自分に引っ付く子ども達を連れながら部屋を出ていった。

 早速、子ども達の魔術を見に行くつもりらしい。


 前よりも遥かに伸びたその背が扉の向こうに消えると同時に、グランシアは自分の机に倒れこむ。

 どうやら、無理をしただけだったらしい。


「………いつもの喧しいお前はどうした。マレは気にしていないと言っているぞ」


「ん………実は、そこで落ち込んでるわけじゃないんだよね………」


 どういうことだ? 私はてっきり、親しい者を拒絶した後悔からだと思っていたが、そうじゃないのか?


「………前に言ったことあるよね。私の家族について」


「ああ、あの腹黒商人一族だろう? 前任のギルドマスターに追い詰められて、国外へ逃亡したと聞いているが」


「その通り。その一族にいた頃の私は、奴隷みたいな扱いだった。でも、奴らは人当たりだけはいいから、酷い扱いをされてるって気づけなかった。レイナードおばさんが引き取ってくれた後に、普通を学んでいったんだけど………私、呪いの影響を受けてた時、奴らみたいな接し方しちゃった。それが一番嫌いなはずなのにね………」


「………私と同じか」


 私も、あのときマレに抱いていた感情は、レモンを除く家族に抱いていたソレと似ていた。

 結局、竜の子は竜ということなのだろう。私も、奴らと何も変わらない。


「でも、変わらないとね。竜っていう生まれは変えられなくても、振る舞いは変えられる。何が何でも隠さなくちゃ」


 グランシアは自らの頬を思い切り叩くと、そのまま机に広がっていた書類を集め始めた。

 やはり、私と違ってグランシアは強い。


「私は、そのうち押し潰されるだろうな………」


 私にとって、背負っているものは重すぎる。

 グランシアの感情も、レモンの導き手も、アンスクの隠し事も、マレの秘密も、私の手に余るものばかりだ。

 だが、放っておけない。誰かが、手を差し伸べなければ。


 私が、やらなければ。


































「………それは素晴らしいお考えですね。決闘場の貸し出しに限らず、その他支援もしましょう」


「本当ですか? ありがとうございます!」


「しかし、決闘という形式、そしてその相手がサイルガ家ならば、貴族達が観戦をねじ込んでくるでしょう。決闘をするそのファドマさんは、勝つにしろ負けるにしろ、学院にて貴族に喧嘩を吹っ掛けた者として注目されてしまいます。そうなれば、厄介ごとが舞い込むのは必然です」


「顔を隠した方が良い、ということでしょうか?」


「貴女が聡明で何より。そして、それはファドマさんだけでなく、ルルノイ様も同様です。貴女は世間一般に知られていないこともあって、ファドマさん以上に注目される可能性があります。十分にご注意を」


「心得ます。ところで、決闘場はどのような場所でしょうか?」


「下調べですね。決闘場は石床でできた円形状の広場です。直径は、竜一匹を飼えるほど広いので、風魔法を得意とするサイルガ家には少々分が悪そうですね」


「それは叔父様方も同じのはず。そうなると、私の嵐で防護壁を削り切れるかどうか………」


「防護壁………確か、デルンツ王国の上席貴族に与えられる防御魔術でしたね。その硬さは魔力量によって変動するとか」


「はい、その通りです。そして、叔父様の四男、デラクル・サイルガは魔力量が多く、その分防護壁が硬いのです。それを突破して、あわよくば降参まで追い込みたいのですが………」


「そう上手くはいかないでしょうね。そういえば、ファドマさんの腕前はどうなのでしょうか。ルルノイ様が選ばれた方なのですから、相当お強い───」


「いえ、全く。魔術に関しては類稀なる才能をお持ちのようですが、それを使った実戦を経験していないらしく、鍛錬はしていますがそれも短期間のみで………」


「………戦えないかもしれない、ということですか。ならば大変危険な行為ですが、その継角なるものをこっそりと拝借して───」


「すみません、そうではないんです。私はただ………ファドマさんに傷ついてほしくないんです。これが現状と矛盾しているのは分かっていますが、それでも私は、戦ってほしくないんです………」


「お優しいんですね。しかし、決闘に参加できるのは継角の所持者、またはその刻印を持つ者に限定されているのでしょう? 私達は、ファドマさんが勝利を掴み取るのを祈るしかありません」


「………はい、その通りです。だからこそ、歯痒いのです」


「そのお気持ち、お察しします。私も、戦うことをやめてくれない人がいますから」


「そう、なのですか?」


「ええ。しかし、不幸自慢などしても意味がありません。今は前向きの話を」


「はい。進むしか、ありませんもんね」


「とりあえず、ルルノイ様方には職員寮を使用していただきます。少々窮屈かもしれませんが、そこはご了承ください」


「こちらが突然押しかけたのです。贅沢など言えません」


「しかし、貴女は他国の貴族であることに変わりありません。そこは、分かっているでしょう?」


「それは………はい、理解しています」


「サイルガ家の息子達に知らせるのは、こちらでやっておきます。しかし、彼らの性格上、すぐに戦いたいと言い出すはずなので、限界まで引き伸ばしたとしても、おそらく決闘は明日になると考えられます。その間、可能な限り支援しますので、作戦を確実なものにしてください」


「分かっています。私達はその決闘のためだけに、ここまで頑張ってきたのですから」


「その覚悟に、期待していますよ」








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