79、蟷螂と小蜘蛛
「──────ッ!?」
右腕を押さえていた力が消え、左に倒れ込むのを、左腕を掴んでいた男が抑える。
右腕が異様に熱くなり、びちゃびちゃとぬめったい水音が鳴った。
「我ながら、良い腕前です。処刑人の才能があるかもしれませんね」
そう言うハルゴールに、黒ローブの人々からの拍手が送られる。
だからこそ、自分の右から鳴る異音が際立った。
「なんっ、あ、腕───?」
黒ローブの男が押さえているはずの、俺の右腕。
それが、なんだか異様に遠い。
俺の腕が、伸びてるみたいに。
違う。
違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う。
「あっ、が───!」
痛くは、ない。
ただただ熱い。それだけだが、それが怖い。
「斬ら………れた………」
黒ローブの男が持つ腕の断面から、ホースから垂れる水のようにドボドボと血が流れている。
俺の残った右肩からも、腕より多い量が流れている。
つまり………死ぬ?
「おっと、そうでした。布は………腕についているその布でいいでしょう」
左腕から渡り鳥の祈願が取られ、右肩に巻きつけられた。
布の藍色が一気に塗り潰されて、濃い朱色になる。
その後、左腕を掴んでる男が何かを呟いた瞬間、右肩の熱さがパッと消えた。滲み出ていた血も、止まった。
「これで冒険者ギルドの支援者も、我々の本気を分かってもらえるでしょう」
ビチャッと、俺の右腕はバケツの中へ放り投げられる。
ただのゴミのように。
「ですが………腕一本というのも、少々物足りない気がしますね」
「………え、は?」
血が付いていない剣がまた揺れて、今度は下を向く。
つまり、次は足だ。
「えっ、いや、もう───!」
「いえいえ、足りません。我々が侮られては、領主様に顔向けできませんからね」
ふふっと、冗談でも言ったみたいにハルゴールは笑った。
それが、とても怖い。
今までの真っ直ぐな殺意でも、ただ邪魔してやろうっていう小さい悪意でもない。
本気だ。本気で、俺を傷つけようとしている。
それが、理解できなくて怖い。
「次は、右か左か………」
俺の右腕を捨てた男が戻ってきて、両足を固定してきた。
怖い怖い怖い怖い怖い。
多分、足を斬っても終わらない。
俺を切り刻んで切り刻んで、死ぬギリギリまで細切れにしてくる。
そう、確信できる。
「右腕だったので、次は左にしましょうか」
剣が水平に握られ、ハルゴールの目が俺の左足に向く。
反射的に避けようとしたその足を、黒ローブの男が力ずくで押さえつけた。
「嫌っ、待っ───!」
『サイルガ家を出しな! あんただけの言葉じゃ奴らには届かない!』
「──────へ?」
脳内に、自分だが自分ではない声が聞こえた。
よく分からないが、確かに俺のご主人はサイルガ家だ。貴族の後ろ盾があるはず。
「動かないでください。狙いがズレるかも───」
「俺は、サイルガ家の所有物です!」
剣を大きく振りかぶったハルゴールの動きが止まった。
そして、
「はっはっは! 面白い冗談を言いますねぇ」
大きく笑い出した。
それにつられてか、黒ローブの奴らも笑い出す。
「ふふふ、信じるとお思いで?」
「よりにもよってあのサイルガ家とは!」
「子どもなので仕方のないことなのかもしれませんねぇ」
振りかぶられた剣が下がり、ハルゴールがさらに近づいてくる。
その革手袋に頬を挟まれると、ずいっと顔を近づけてきた。
「あなたは、少々頭が足りないようです」
ハルゴールが動き出した一瞬の後、銀色に鈍く煌めく剣が視界の半分を占めていた。
ハルゴールの顔にはもう、笑みはなかった。
「我々相手に貴族の名を出すことの意味が、分かりますか?」
(………これ間違いじゃない?)
変な声に従ったが、この感じサイルガ家も敵視しているらしい。
俺は、どうすれば………
『心配しなくていい。奴らも本気じゃない』
腕を一本斬り落とし、さらに足さえも斬ろうとしている奴らの、どこが本気ではないと?
『殺せるなら、もう殺してる。これだけは断言できる。奴らはあんたを殺せない』
それを信じる判断材料が、俺にはない。
信じていいのかすらも、分からない。
『大丈夫だ。信じなくてもいい。今はとにかく、サイルガ家の後ろ盾があることを強調しておきな。この街にいるんだろう? はた迷惑な息子達じゃない、サイルガ家が』
(………そういえば)
轟雷龍襲撃の際、領主から俺を庇おうとしたサイルガ家の少女。
あの子なら、助けてもらえるかもしれない。
(今の俺を? メリットは?)
真っ先に思いつくのは、そういうことばかり。
魔術もろくに使えず一般知識もなく、生きることさえ出来なくなりつつある俺を助けるメリットが、どこにもない。
メリットがないのならば、助ける理由もない。
『あんたは本っ当に卑屈で自信がないねぇ。大丈夫さ、あたしがいる。最悪、あたしが全部なんとかしてみせる。あんたはただ突き進んでいけばいいだけさ』
先ほどから聞こえる、自分だが自分ではない声。
その声の主が誰なのか分からないが、少なくとも目の前の騎士よりかは信用できる。そう、思える。
もとより俺には何の策もない。従うのが最善なのだろうし、その方が楽だ。
誰かに従えば、その責任を丸投げできるし、何も考えず従えばいい。
誰の迷惑になるとか、誰の為になるとか、そういうことを考えるのはもう、疲れた。
『こりゃ思ったより弱ってるね。まあ、そりゃ仕方ないか。自分の身長を超える大人どもに拷問紛いのことをされているんだからね。んじゃ、少し怖いかもしんないが、あんたの耳と口を借りるよ』
その声が頭の中で響いた瞬間、何も聞こえなくなった。
静寂に残る耳鳴りもない、完全な無音。
しかし声の予想に反して、俺はそれに安堵を覚えた。
あんな悪意の塊みたいな声を、聞かなくていい。
「──────」
そして、俺の意思とは関係なく、口が動く。
何も聞こえないので何を言っているのか分からないが、おそらくは頭の中の声の主だろう。
自分の意思を無視して動くという不思議な感覚に包まれながら、ことの成り行きを見守る。
「───」
「───、──。──────」
声の主とハルゴールがいくつか言葉を交わした後、突然音が聞こえ出す。
そのときにはもう、抜き身の剣は見えなくなっていた。
「………分かりました。矛盾もないですし、運試しといきましょう」
『とりあえず、サイルガ家に会えることになった。今は奴らについていきな。その後のことはあたしが考える。あんたは少し休みな』
その声に甘えて、俺を先導して歩くハルゴールに何も考えずついていく。
周りの黒ローブは不満気ではあったが、力関係的にはハルゴールが一番上らしく、ハルゴールに従って俺を囲みながら移動している。
はたから見れば護衛のように見えるのだろうが、実際はロシアンルーレットをしに行く囚人を監視しているようなものだ。
片腕をなくしてバランスの悪い状態の中、路地裏を抜け、大通りを抜け、辿り着いたのは孤児院。どうやら、一旦報告をしに来たようだ。
「あなたはここで待っていてください。くれぐれも、逃げようとは思わないように。あなたの身のためでもありますから」
ハルゴールはそう言い残し、孤児院の敷地に入る一歩手前で、俺と黒ローブ達を待機させる。
そして、ハルゴールは離れている俺でも聞こえるほど、力強くドアを叩いた。
中から慌てて出てきたのは、シーエさん。
しかし、騎士を初めて見たのか、視線はハルゴールに釘付けになって俺の方は見なかった。
シーエさんはハルゴールと少し話した後、中に向かって何かを叫ぶ。
すると、今度はビューリさんが出てきた。
ビューリさんはハルゴールを無視して周りを見渡した後、黒ローブに囲まれている俺と目が合う。
その老いた瞳に何が映ったのかは分からないが、ビューリさんはすぐにハルゴールに向いた。
「あの───、───」
「───、ですが───。──────サイルガ家を」
「───? しかし──────、分かりました」
「分かってくれた──────、これから───どうしますか?」
「──────、お願いします」
よく聞こえはしなかったが、ビューリさんは了承したらしい。
ハルゴールはビューリさんにお辞儀し、こちらへ戻ってきた、その瞬間、
「マレ!」
中へ戻ろうとしたビューリさんの足元を抜けて、アイレが走り出してきた。
咄嗟にハルゴールが服を掴んだが、ボロかったこともあってか掴んだ部分だけが破れ、アイレは肩を丸出しにしたままこちらへ向かってくる。
しかし、黒ローブに行く手を阻まれた。
「あの子にはあなたが必要なの! こんな奴らに連れて行かせない!」
そう叫びながら黒ローブをめちゃくちゃに掻きむしるが、子どもと大人の差は残酷だった。
「きゃっ!?」
アイレの小さな身体が、大人の膂力によって跳ね飛ばされる。
その落下先には、すでに移動していたハルゴールがいた。
「お嬢さん、事情は分かりませんが、勝手なことをするのはやめていただきましょう」
「勝手なことって何よ! あんた達の方が勝手じゃない! あの子は私と約束したのよ!」
ハルゴールに受け止められながらも、アイレはポコポコと拳で抵抗する。
しかし、騎士の力には全く敵わず、慌てて追ってきたビューリさんに渡された。
「嘘つき! 帰ってくるって言ったのに! なんでまた連れて行こうとするの!」
「それは………」
アイレの必死な問いに、ビューリさんは言葉を詰まらせる。
アイレはその隙を突き、ビューリさんの腕から逃れてまたこちらへ走り出そうとするが、今度はハルゴールに捕まえられた。
「残念ですが、お嬢さん。この子にはまだ行ってもらわねばならない場所があります。そこで特に問題もなければ、帰すことができるかもしれませんね」
「かもって何よ、かもって………!」
アイレは腕や足をバタつかせながらも、ビューリさんにがっしりと掴まれて教会の中へ入っていく。
ハルゴールはそれにため息をつきながら、俺に向き直った。
「それでは、あなたが言ったことが本当か、確かめに行きましょうか」
ハルゴールはそう言い、黒ローブ達を先導しながら歩き始める。
黒ローブは時々躓く俺を押しながら、ハルゴールについていった。
先ほどハルゴールが言ったことは、俺ではなく頭の中の声がそう言ったことなのだろうが、おそらくはあのサイルガ家の娘に会いに行くのだろう。
バルデルハラ街とネテリウネス魔術学国の距離は一ヶ月単位で離れている。あの息子達がもういるなんてことはないはずだ。
『ただまあ、もう一回戻れるかは分からないとこだけどね。あのサイルガ家の娘もそれなりに強情そうだ』
(強情………?)
そのような認識はなかったのだが、頭の中の声はそう捉えたらしい。
そういうことならば、りゅか姉ちゃんに何か一言言っておきたいが………
「おや? まさか戻りたいと言うつもりですか?」
「………いえ」
一瞬教会を見ただけで、後ろにいた黒ローブが圧をかけてきた。
言葉も何も分からず状況が把握できないりゅか姉ちゃんには悪いが、しばらくは我慢してもらう他ない。
一人ではない上、孤児院は賑やかな場所なので、寂しくなることはないだろう。
「さて、あなたが突然言い出したことなので、あのサイルガ家にはまだ面会を申し込んでいません。滞在している迎賓館は分かっているので、そこまで案内します。そこから先は………自分で何とかしてもらうとしましょう」
『そこはあたしがやる。責めるように聞こえるだろうが、あんたは説明に時間がかかるようだからね』
(………それは、まあ、はい、お願いします)
あの場を切り抜けられただけでも、この声は信用に値する。
それ以前から信じていたような気もするが。
やがて、街の中心部を通る大通りを抜け、領主の城館のさらに向こう側、俺が行ったことのない街の反対側に着いた。
そこは木材や鉄板などで水殿に補強を施したものが多く、道端に砲台や大型の槍などが置かれている。
どうやら、ここは轟雷龍を相手していた『龍戦場』の近くのようだ。
「おや、どうやらご存じのようで。サイルガ家はこの区画の迎賓館にいます。まず、受付から話を通さなければいけませんが………」
ハルゴールはチラッとこちらを見るが、その冷たい目はお世辞にも綺麗とは言えない俺を映していた。
確かにこれでは、門前払いが当然だろう。
「………取次はこちらで処理しましょう。まあまず、本人には会えないと思いますが」
『相手は貴族だからねぇ。だが、護衛とは顔見知りなんだろう?』
向こうが覚えてくれていたら、の話だが。
街中は陽が昇るとともに人で溢れ始め、それに伴ってこちらを見る奇異の目も増える。
ハルゴールおよび黒ローブ達はそれを気にも留めずに、道のど真ん中を歩いていく。当然、その中心で囲まれている俺も同じ視線に晒されるわけで。
しかし、サンドワーム時代に同じような視線を向けられたことがあるので、もう慣れたものだ。
しばらく歩いていると、目の前に大きな館が見えてきた。
領主の城館と比べると遥かに小さいが、周りの水殿よりかは大きく、しかも水殿を使っていない、ちゃんと一から建てられたものだった。
大きく開け放たれた大扉の先には、まるでアニメに出てくる城のダンスホールのように、赤いカーペットの上に煌びやかな装飾が施された丸テーブルがいくつも並んでいた。
その高級感だけで、気圧されそうになる。
「ここが迎賓館です。あなたは………外で待っていてください。そのような身なりでは、そもそもの立ち入りも拒否されるかもしれませんからね」
ハルゴールは一人、物怖じも躊躇もせず中へと入っていく。
俺は黒ローブに囲まれ、この小さい身体を隠すように周囲を固められた。
歩いている途中で見られまくっているので意味ないと思うが、別の思惑があるのかもしれない。
少しして、ハルゴールが中から出てきた。
その後ろから、見知った顔が出てくる。
「それで、お嬢様に話がある子どもとは?」
燃えるような赤い髪に鋭い目つきを持つ女性、あの少女の護衛の一人だ。
ハルゴールの視線を追って下を見たその人と、目が合う。
「あなたは………いえ、ですが………?」
女性は頭を押さえながら、首を傾げた。俺を忘れたのだろうか。
自分で言うのもおかしな話だが、目の前で卵を産んだ亜人は忘れないだろう。確実に覚えているはずだが………
『ああ、やっぱりアイツで確定だね』
(………びっくりしたぁ)
一瞬、突然脳内で響いた声が自分のものかと思ってしまった。同じ声なので、どうにも紛らわしい。
しかし、頭の中の声は、女性が首を傾げている理由が分かるようだ。
『分かるというか、見たことがあるというか………本当に厄介なものに目をつけられたね。まーだこんなことやってるなんてね………』
(それってどういう───)
頭の中の声に問う前に、女性が口を開いた。
「その子は………その子どもは、知りません」
「………え?」
『なに?』
………いや、考えてみれば当然だ。あの時から姿が変わっている。知らないと言うのは至極真っ当なことだ。
ならば、名前を言えば………
「あ、俺はファドマって言います………!」
「ファド、マ………………いえ、そのような名前も、知りません」
「えっ───?」
しかし、女性は首を横に振った。
おかしい。絶対におかしい。
この女性は差別するような人ではないと思っている上、あのサイルガ家の少女が俺を保護したがっていたことも分かっているはずだ。
それなのに拒否する理由が分からない。
『これが奴の祝福さ。記憶はそのままに、印象だけを最初に戻しちまう。要は、記憶は保ったまま初対面にするわけだ。そしたら、知らないやつとの記憶はただただ気持ち悪いもんになっちまう。そいつと仲が良ければ良いだけ、それは強くなる。そうして、一人ぼっちの完成さ』
(………つまり、どういうこと?)
『あんたが嫌われるように仕向けた奴がいるってことだ。ちなみに、これは龍すら防げない代物だ。あんたが元から嫌われやすいやつでも、あんたが油断してたからでもない。あんたは、何も悪くない』
(そう、だったの?)
それじゃあ、その呪いを解けば───
「よく分かりました。時間を取らせてしまって、申し訳ありません」
「では、私はこれで」
「あっ───」
女性が中へと戻っていく。
引き留めるべきだと分かっていても、何を言えばいいのか分からない。
初対面になっているらしいのだが、それはつまり、この女性には初対面の亜人の産卵シーンの記憶があるということ。しかも、目の前にいるのは、その亜人の親戚に見えなくもない子ども。
こんな状況で何を言えば説得できるのか、全く思いつかない。
『………すまん、あたしに任せろとか強気で言ったが………あたしもどう言えばいいか分からない。まさか、ここまで拒否されるなんてね』
頭の中の声もお手上げらしい。
ここで女性を引き留められなければ、ハルゴールに斬り刻まれる。それどころか、無駄な時間を過ごさせたとかでさらに残虐にやられるかもしれない。
殺されないのは分かっている。だからこそ、救いがない。
「待っ、待ってくだっ───!」
「私はあなたを知りません。何があったかは知りませんが、お引き取りください」
女性は冷たくそう言い放つと、今度こそ中へ戻っていく。
残された左腕を伸ばすが、その肩を後ろから掴まれた。
「さて、あなたのあては外れたようですね。先ほどの路地に戻って話し合いの続きと行きましょうか」
「嫌っ、待───」
「ん、訪問客がいたんじゃないんですか?」
「いえ、全く知らない方だったので、お断りしておきました」
「そうなんですか?」
豪華絢爛な装飾の中にどこか格式ばった建築様式が使われている部屋の中で、この国には数少ないお菓子を嗜みます。
私はいらないと言ったのですが、領主様から色々と押し付けられました。普通は、サイルガ家は追い出したいはずなんですが………
いや、それよりベイラです。普段より、少し冷たい感じがします。それほど嫌な訪問客だったのでしょうか。
少し、嫌な予感がします………
「ベイラ、少し外を見たいです」
「で、ですが、今はやめておいた方が………」
「周嵐が近いのか、今日は雲が多いです。ですので、かねてより見に行こうと思っていた龍戦場に行きたいです」
嘘ではないです。先日まで調査のために封鎖されて見れませんでしたし、日差しを理由に外出を規制するのも、雲の多い今日は使えません。
つまりは、外出日和なのです。
「………では、騒動を避けるため裏口から───」
「私の存在は公表されていませんよね? サイルガ家に娘がいることなんて、誰も思ってもないでしょう」
やはり、怪しいです。
ベイラは私を外へ、正確には出入り口の方へ行かせたくないようです。ベイラからは何かを隠しているような雰囲気があります。
おそらくは、先ほど私との面会を申し込んできた訪問者。それがベイラにとって、もしくは私にとって不都合なものなのでしょう。
ですが、腐っていても私は貴族です。現実を見てこそ、人の上に立てるものです。
「というわけで、テンの迎えに行くがてら、外を見に行きましょう」
言外に、隠しているものを見せてと圧をかけます。
すると、ベイラは折れてくれて、黙って部屋の扉を開けました。
それにしても、あっさりしていますね。
あそこまで食い下がったのなら、もっと抵抗すると思っていましたが。
それか、もう気にする必要がなくなったのでしょうか。
「まあ、見てみたら分かることですね」
館のどこへ行っても常に床にある赤い絨毯を踏みしめながら、一階へと移動します。
この迎賓館は二階建てで、一階は舞踏会や親交会の舞台にされる大広間があります。出入り口は、その大広間に直接繋がっています。
その出入り口から、身を乗り出しました。
「相変わらず、暑く眩しいですね………」
ここに来てから、王都での暮らしがいかにぬくぬくとだらけ切った生活か、嫌と言うほど身に沁みました。
この灼熱の世界で懸命に生き、それでも私達貴族のために税を払ってくれている国民は、尊敬に値します。
だからこそ、やめてほしいのです。
私と同じくらいのたった一人の子どもを、威圧感のある黒ローブを着て囲むなど、そのような脅迫紛いを。




