100、神と人
「いつの間に!? じゃあ、あっちの戦闘は───」
「幻覚ですー。結構簡単なものだったけどー、君達には見破れなかったみたいだねー」
「幻、覚………?」
女性達の壁の向こう、未だ戦闘しているジバとエンガラスさんの姿が見える。
いや、違う。あれは………絵? アニメみたいに動いてる、ただの絵だ。
じゃあ、この血は、こっちのエンガラスさんは、本物………?
「クソッ、君はなるべく遠くに!」
「え、あ………」
ネコエニシさんが真上に向かって跳び上がる。
ジバは頭上にいるらしい。
「エ、エンガラス、さん………!」
血肉に純白の欠片をわずかに残すエンガラスさんの腕を自分の首に回して、翼のせいで若干重いその身体を持ち上げる。
俺は回復魔術なんて使えないけど、生きてるならコレクションとかでどうにかなるはず………!
「なおぉぉぉ!」
「君ー、面白いねー。どー? 鞍替えする気はないー?」
「誰がするかッ!」
凄まじい激突の音を背で聞きながら、戦場と女性達から離れるように走る。
エンガラスさんは完全に気絶しているのか全く動かず引きずっちゃってるけど、この際気にしてる場合じゃない。
でも、なんで、どうして?
戦いは最初からエンガラスさんが優勢で、ジバは為す術がなかったはず。
あの幻覚は音は出さないっぽいから、少なくとも女性達から逃げるまではエンガラスさんが勝ってた。
じゃあ、なんで、今こんなことに………?
「んにゃっ!?」
「はい一本ー」
ザクッと嫌な音が聞こえたから少し振り返ると、変なバランスで立つネコエニシさんと、ネコエニシさんと同じ光を放つ棒状のものを咥えているジバが見えた。
これは………脚を一本やられたのか。
多分、ネコエニシさんは戦闘向きじゃない。というか、爪がない?
猫パンチが当たったジバの身体を見ても、引っかかれた跡がどこにもない。
もしくは、それだけジバの防御力が高いのか。
「君は前だけ見ろ! ウチのことは気にするな!」
「は、はい!」
俺が気にしてることを察したのか、ネコエニシさんは振り返ることなく叫ぶ。
俺はそれに従って、また前を向いた。
ジバがいた。
「へっ?」
「ざんねーん」
足を止めたその隙に、ジバの長い身体が俺を取り囲み、逃げ場をなくす。
それは獲物を捕まえて締め上げる、蛇のようだった。
「なっ、ネコエニシさんは………!?」
「んふふー、答え合わせするねー」
振り返っても、ジバの身体に遮られてネコエニシさんの姿は見えない。
でも、楽しそうに喋るジバと、それ以外の声が聞こえないことから、ネコエニシさんがどうなったのかは想像するまでもない。
「ちょっとー、聞いてるー? 最期なんだからよく聞いてー?」
「………はい」
視線をジバに戻す。
今のジバに目はなく、ただ大きく開かれた口があるだけだけど、それでも間違いなく笑ってることは分かった。
「君の疑問の答えはー、ここが半分夢だからーってとこー」
「えっと、つまり………?」
「カラスと猫はー、ここが君の意識空間ー、つまりは覚醒状態と同じ想像上の世界って勘違いしたみたいー。でもー、実際は夢と覚醒の狭間ー、いわゆる夢現の世界なんだよー。昔の人間はー、『神の閨』って呼んでたよー」
ええと、つまり、エンガラスさんとネコエニシさんは、そもそも前提が違うせいでやられたってこと?
あ、でも、確かに、前来たとき、ルルノイが『ジバが作り変えた意識』って言ってた気がする。作り変えたってことは、自分の都合のいいようにしたって考えられるから、そのせいか?
「うんうんだいぶ理解できたみたいだねー。それじゃあ、死のっかー」
「え?」
ジバの口の中から、翼に頭だけのもう一人のジバが現れる。
達磨みたいに丸まっているその無数の翼の間からは、女性達が握っていたのと同じ包丁を持つ小さな腕が一本出ていた。
「ここは他の神も入れない独壇場ー、君はそこにいるカラスと同じよーに死ぬしかないよー」
「───ッ!」
ジバが包丁を持ちながら口から転がり落ちてくる。
速度はそれほどでもないけど、エンガラスさんを持ったままでは………
「あ、いや───」
エンガラスさんの身体を放り出し、ジバの転がる直線上から余裕を持って回避する。
さっきジバが言ってたことが本当なら、エンガラスさんはもう死んでる。でも、それはこの世界での話だ。
前、ルルノイは一瞬で殺されたけど、起きたら普通にピンピンしていた。だから、ジバが言ってることの半分くらいは本当なことも分かる。
この空間は、半分夢。だからこそ、死んでも夢から覚めるだけ。
じゃあなんでジバがこんなに躍起になって殺しに来てるのか。
まあ単純に考えれば、ただ追い出したいから、でしょうねぇ。
今を逃せば、次は入れなくなるかもしんない。だから、エンガラスさんもネコエニシさんもいない今、俺がジバを倒してアリスを助けないといけない。
「うん、無理!」
ジバがエンガラスさんを通り越して転がっていくのを眺めながら、時間稼ぎの方法を考える。
あんなにコレクションがあるんだから、もう一度夢の中に入るやつだって一つくらいあるはず。
エンガラスさんがそれを使ってここに来るまでの間、俺は時間稼ぎをしなけれはならない。
幸い、俺のことを舐め腐っているのか、ジバは翼の達磨状態で転がるばかりで、本気で殺しに来ているとは思えない。
それか、これも『遊び』の一環か。
「いつまで避けられるかなー?」
さっきより少しスピードを上げてジバが突っ込んでくる。
まだ全然避けれるスピードではあるけど、エンガラスさんとネコエニシさんを瞬殺した技を持ってるはず。
そのスピードで来られたら、多分俺は知覚すらできない。ジバはおそらく、俺が回避不能になるまで徐々にスピードを上げるつもりだろう。
「マジで遊んでるだけじゃねぇか………」
それくらい、力量が歴然ということでもある。
一応、このジバの身体でできたリングを乗り越えることも考えたけど、ジバの身体には無数の鋭い虫脚があるから、乗り越えようとしたら多分切り刻まれる。
神無塔のあのロボットのときのように。
「──────あ」
思い出した。ジバとも張り合えそうなあのロボットの装甲をも溶かした攻撃手段。
「でも、『血融ノ斧槍』は使えないし………」
今の俺が使えるのは、常熾に関連する魔術とアリスに教えてもらった魔法だけ。
ってか、そうじゃん。大盾を生成すれば、見切れない限りはジバの攻撃を防げるはず。
「『原点・籠手』、『追加武装・大盾』………………あれ?」
詠唱はできたはず。間違えてもない。
なんで、魔術が発動しない?
「言ったでしょー? ここは他の神の干渉は受けないのー。つまりー、君は避けるしかできないー、逃げるだけだよー」
「え? いや、これは魔術………あ、そういや学園長が………」
常熾は半分魔法になってるとかそういう感じのことを聞いた気がする。
そのせいで発動できないのか。
「ほらほらー、危ないよー?」
「───ッ!」
いつの間にか近くまで来ていたジバの包丁を、大きくのけぞって回避する。
明らかにスピードが上がってる。このままだと、多分5分も持たない。
「ヤバイな………」
何もできない。本当に、何も。
やっぱり、俺自身は何も強くない。魔術魔法で力があるって勘違いしてた。
それらがなければ、俺は戦うことすらできない。
殺されるのを待つしかない。
「クソッ………」
どうする? このままだと何もできずに殺されるしかない。何か行動するなら、まだジバのスピードに追い付ける今しかない。
でも、何も思いつかない。武器はない上に魔術魔法も使えない。体術なんて習ってないし、ジバ自体に組み付いても筋力がバケモンの可能がある。
「言ってるでしょー? 君は避けるしかないんだよー」
そう言って転がってくるジバを避ける。
否定したいけど、ジバの言う通りかもしれない。武器も技術もないただの人間が、神に敵うわけがない。
今はただ、避け続けるしか………
「痛っ!?」
「はーい、一回目ー」
ギリギリで避け切れなかったジバの包丁が、俺の腕を掠める。
インナーのお陰で血は出てないけど、衝撃はそのまま伝わってきた。
チャレンジするなら、ここが限界ラインだ。
「はぁ~………………よしっ」
「おー? やる気ー?」
向かってくるジバを正面に捉えながら、その振り回される包丁の軌道を読む。
こっちに真っ直ぐ突っ込んでくるだけなら、読むのは難しくないはず。
あとは包丁を避けながら、あの達磨みたいなジバを蹴り上げるだけ。リングの外まで飛ばせたら、かなりの時間を稼げる。このままジリ貧で行くよりも、こっちの方がまだ可能性はある。
「でもざんねーん!」
「え、はぁ!?」
こっちに転がってきていたジバは突然翼を広げてその弾みで宙を舞う。
翼が全て開かれた先にあったジバの身体は、マネキンのようなのっぺりとした少女のカタチをしていた。
それが、俺に向かって突っ込んでくる。
「がっ───!?」
「かくほー」
ジバの身体を避け切れずに、床に張り倒され馬乗りにされる。
背中と頭を盛大に床に打ち付けられ、特大の痛みが襲ってきた。
「────!」
「んふふー、痛いー? でも大丈夫ー。もーすぐ痛みに慣れるからー」
上手く呼吸ができない。頭もぐわんぐわんするし、涙のせいで視界も滲む。
それでも、ジバが振り上げた包丁は見えた。
その腕を掴み、振り下ろされるのを直前で止める。
「おー、まだ動けるー? でもー、見た目通りに力がないって思ったー?」
「───ッ!」
ジバの力が段々と強くなる。両手で押さえても、それでもじわじわと包丁が近づいてくる。
まだ呼吸ができないせいで、力も出しにくい。それどころか、普段の体力の無さが祟ってか、腕の力が抜けてきた。
「そのままー、ゆっくりー」
せめぎ合う力でぷるぷると震える包丁の切っ先は、それでも常に俺の顔を捉えている。
インナーや作業服のあるところならまだダメージは軽減できるだろうけど、顔面には何の防御もない。
つまり、刺されたら死ぬ。まだ、エンガラスさんが戻ってきてないのに。
「ぐ、う………!」
「んー………………そーだねー、もう少し待ってみようかー」
「え、は………?」
ジバの腕から急に力が抜けて、包丁の切っ先も外を向く。
どうやら心変わりをしたらしいけど………殺されかけている状況は変わらない。
「じゃあー、100数えても来なかったらー、もっと楽しいことしよっかー」
来るというのは、多分エンガラスさんのこと。俺が時間稼ぎをしていることに気づいたらしい。
俺としては、その100秒の間にエンガラスさんが来てくれることを願うしかない。
でも、その願いを裏切るように、エンガラスさんの身体はピクリとも動かない。
わずかに見える表情は絶望も映さない無であり、蒼いはずの瞳も血に朱く濁ったままだった。
「50ー、動かないねー? 助けてくれないねー?」
ジバの数え上げる声がノリノリになってくる。
多分、あの女性達もこういうことをされて絶望し、ああなってしまったのだろう。
俺の身体を要望通りに改造してくれたときはちょっと良い?と思ったけど、結局は邪神だ。
「90ー、あと10だよー? 祈ってもいいんだよー?」
「………………………」
なんか、こんなときに思いついちゃいけないんだろうけど、あることが思い浮かんだ。
小説やらアニメやらで悪役がこういうことをしてきたとき、その悪役もその経験をしたことがあるというのが定番だ。
ジバも、神として崇められる前は、こういうことをされたのかな。
「100ー、うーん、動かないねー? 助けてくれないねー? 君は必死に頑張ったのにー、カラスも猫も君のことなんてどーでもいいみたいー」
「………そう」
そんなことはないと分かっているから、ジバの煽りもただ空しいだけになっている。
ジバ自身もそれが分かったのか、少しつまらなさそうな表情になりながら包丁をいじり始めた。
「君ー、もー大体分かってるねー。だからさー」
「………え?」
ジバが包丁を後ろへ放り投げる。
それに呆気に取られていると、ジバが作業服の裾に手をかけた。
「はーい、ばんざーい」
「えっ、ちょっ」
予想外の行動に上手く抵抗できず、作業服を剝ぎ取られる。
そこから流れるように、インナーのファスナーに手をかけられた。
って、マズイ!
咄嗟にジバの腕を掴み、ファスナーを下ろされないように押さえる。
何がしたいのかは分からんけど、インナーを脱げば下は地肌。包丁どころか爪でさえ傷つけられる。
こんな状況で弱点を晒すなんてことできるわけがない。
「でもざんねーん、ちょっと遅かったねー」
「え?」
ジバの腕を掴んでいたはずの手が、スカッと空振り拳を作る。
見れば、俺の手の中にジバの腕は無く、ファスナーはすでに最後まで下げられ切っていた。
「え、な、なんで………」
「だからー、ここは僕の世界だよー? なんでもできちゃうんだからー」
………なるほど、そういうことか。エンガラスさんやネコエニシさんを殺したのは圧倒的なスピードと思ってたけど、そうじゃない。
純粋に、ここはそういう空間ってだけだ。ここでは、全てがジバの思い通りになる。
なら、なんでエンガラスさんはやられた? 200年もコレクションに囲まれて、この日のためにジバについて調べた人が、なんでこれを知ることが出来なかった?
それとも、知った上で何か作戦を───
「んふふー、綺麗だねー」
「………変態」
「綺麗なものを綺麗って言ってー、何がダメなのー?」
ジバがインナーを左右に開いて、俺を上裸にする。
よくよく見れば、下腹部にある新生サイルガ家の紋章も消えている。他の神からの干渉を受けないのは本当らしい。
ん? でも、前来た時は紋章は………
「それじゃー、手術を始めるよー」
「………手術?」
ジバは楽しそうに、俺の腹へ両手を当てる。
その小さな手には人間的な暖かみがあって、だからこそ、この血の通ってなさそうな神からそれを感じることが気持ち悪い。
人間のことを何も分かってなさそうな化け物が見た目だけ人間に寄せているような、煽りとも侮蔑とも取れるその手は、少しずつ力が込められていく。
抵抗しようにも、ファスナーを下ろされたときに同時に動いたのか、無数の翼で両腕が床に押し付けられている。
だから、俺は見ることしかできない。
「痛っ………」
「んー、ここだねー?」
「何を───」
一瞬、腹にかかる圧力が消えたかと思うと、どぷんっと音を立ててジバの両手が腹の中に沈んでいった。
「………え、はあ!?」
「喋らない方がいいよー。余計痛くなるからねー」
「え、なっ───」
ジバが手を動かすと、まるで内臓そのものを弄られているような、気持ち悪い感覚が襲ってくる。
いや、まるでじゃない。本当に弄られている。どういう原理かは知らないけど、出血もなくジバは俺の腹に手を入れて遊んでいる。
それに伴って、猛烈な吐き気も込み上げてきた。
「んぶっ………ぐぅ………」
「気持ち悪いー? 気色悪いー? でもねー、気持ちいいでしょー?」
………認めたくない。感じたくもない。でも、ジバの言う通りだった。
「嫌、だ。なんで、こんな………」
こんなことをされて、快感を感じる?
もしかすると、痛覚を快感に変換されてるかもしれない。でなければ、普通は内臓を触られて痛いと感じるだろうし、気持ちいいとは感じないはず。
「このままー、快楽漬けにしてあげるねー」
「んっ………」
そのまま弄られて、声が漏れる。
男子高校生たるもの一度や二度は、自分自身を慰めることはあった。そのときの感覚とは全く似ても似つかない。
なのに、快感だけはかなり似ていた。
嫌だ。こんな奴相手に、こんな状況で達することは。
死んでも、嫌だ。
「んあっ………んん………」
「気持ちいいでしょー? 君の内臓は僕の手製だからねー。そういう風に作っておいたかいがあったよー」
ジバの言うことは、ジバが与えてくる感覚は無視して、タイミングを見定める。
内臓が弄られているということは、内臓に触れているということ。
そして、痛覚が快感に変換されていること。この空間で死んでも現実では死なないこと。この三つが分かっていれば、捨て身もできる。
「それじゃー、次は───」
「───ッ!」
ジバの手が少し上に来た瞬間、大きく身を捩る。
ジバの手に包丁はないけど、人間の身体を模してるなら爪くらいあるはず。穴を開けるとまではいかなくとも、漏れ出るほどの傷をつけられたら………
「あっつーい!?」
ジバが両手を勢いよく引き抜く。
そのせいでちょっと達しかけたけど、思惑通りにいったらしい。
引き抜かれても体液の一滴も付いていないジバの両手は、右手は小指から親指の付け根まで、陽がりては薬指の先から親指の先までが溶け消えていた。
やっぱり、ジバの弄りやすいように改造されたとはいえ、サンドワームの胃液までは変えられなかったらしい。
でも、これは………
「なんなのーもー。もっと過激なのが欲しいみたいだねー」
「──────」
ジバがなんか言ってるけど、俺にそんなことを気にする余裕はなかった。
というのも、思ったより胃液が出てしまったらしく、身体の内をどんどん溶かしていっている。
その痛みもまた、快感に変換されていた。
「………んもー可愛いねー。僕への反撃しか頭になくてー、その後のことを考えてなかったなんてー」
「んん………」
背中に暖かい液体が広がっていくのを感じる。どうやら貫通したらしい。
ただ、胃液はもう枯れたようで、体外へ漏れ出た分はそれ以上溶かすことはなかった。
「ふー………ふー………」
「満身創痍ーって感じだねー。でもまあー? 結構楽しませてくれたしー、せっかくならこれでお終いにしてあげるー」
いつの間にか手が全回復しているジバは、翼の中に手を突っ込んで何かを取り出す。
銀色の光を反射するそれは、子どもが工作で使うような桃色の持ち手が付いた可愛らしいハサミだった。
ジバはそのハサミを、俺の喉に向ける。
「じゃあねー、マレ君ー。これからはもう二度と───」
「『切ってください』!」
「──────え?」
ジバのハサミを持つ手に向かって、灰色の小さなナニカが突き刺さる。
よく見るとそれは、蟹の鋏だった。
でも、それは重要じゃない。さっきの声はエンガラスさんの………
「「ああああああああああああああああああああああ!!!」」
「え、な、なに………!?」
ジバが突然絶叫する。
それは大きい方のジバも同じで、重なる二つの声は次第に弱まっていく。
それと同時にジバの翼と大きい方の身体が、空間に溶けるように薄まり始めた。
「「いや、だ………僕は、二度と………」」
その言葉を最後に、大きい方のジバの身体は完全に消え、俺に馬乗りになっている方のジバの身体から翼がなくなる。
そしてただの少女と化したジバは、俺に覆い被さるように倒れてきた。
「え、いや、何が………」
「申し訳ありません、マレ様」
頭上から声をかけられて顔を上げると、傷一つない天使状態のエンガラスさんがいた。
その笑顔を見るに、よく分からんけど上手くいったらしい。
「重ねて申し訳ありませんが、マレ様のお身体はかなり危険な様子。一度書庫へ戻ることを推奨しますが、その場合は今のマレ様の意識を昏倒させる必要があります。少々手荒な手段にはなりますが、よろしいでしょうか?」
「ま、待ってください。アリスは………」
「無事回収いたしました。今はネコエニシに介抱させています。他の女性達も回収済みです」
確かに、周りを見渡しても俺達以外の姿が見えない。
ネコエニシさんも見えないから、全員現実に戻ったっぽい?
でも、ジバにそれを気づかせることなくできるって、一体どうやって………
「痛っ? あ、う………!」
思考を中断するように、腹に強烈な痛みが走る。
ただの腹痛と痛みはよく似てるけど、こっちのはじゅくじゅくとした感じで、範囲も広かった。
「マレ様!? 早く書庫へ戻りましょう!」
「は、い………お願いします………」
エンガラスさんの言葉に頷くと、エンガラスさんが右手を振る。
すると、一本の白い槍が虚空から現れて、俺にその鋭先を向けた。
あ、戻るってそういう………
「一瞬ですので、我慢してください」
エンガラスさんの右手が振り上げられる。
死なないと分かっていても、大きな槍が俺の顔へ突き刺さるのは怖い。それゆえに目を瞑る。
そして、ビュオッと風切りの音が鳴




