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遥か異界で  作者: 伏桜 アルト
第5章 転移者たちの戦い
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霧の魔術師

 特異点。そう呼ばれた『穴』から降り注いだ光の柱。

 三層からなる世界の第一層と第二層を消し飛ばした、通称『大破壊』から四年。

 驚異的な生命力をもって再生を果たしたユグドラシルからは、新たな枝が伸び、新たな大地が創り上げられた。

『大破壊』に巻き込まれて第三層以下各地に転移させられた者の生き残りもそれぞれが帰ってきた。

 死者の数は未だに計り知れない、行方不明者も多々残っていたが、すでに四年たったこともあり捜索活動は打ち切られた。

 個人でその活動を続けるものはいたが、捜索隊は中規模以上の勢力主体であり、それらの勢力が街の復興に移行したため活発ではない。

 事実上は、全体としては『大破壊』の事件は終了していた。

 だが巻き込まれた当事者たちにとっては、まだ何も終わってはいない。

 新たに創りだされた世界、第一層と第二層では彼らの戦いはまだ続いているのだから。


 第二層、中央大陸南西部。

 魔法使いたちが多く集うセベージュという新興国。

 あの事件以来、第二層以上では魔法に関することわりが変わってしまっていた。

 使えば使うほどにレベルが上がり、より強くなるなるという事がなくなり、取得済みの属性でなければ使えないという事もなくなった。

 今や個人の魔力総量とどれほどに早く術を組み上げられるか、それが魔法の実力となっている。

 だが、それでも一度に行使できる属性の数については変わってはいない。

 魔法使いたちの階級も低い方から、ニュービー、ノービス、アーク、マスターの四階級制のままであり、レベルの概念がなくなったことで、昇級試験なるものを受け、認可を受けた者だけがその階級を名乗れるようになっていた。

 そんな変わりすぎてしまった世界で、未だに奪われたモノを取り戻すために戦っている男がいた。


 巷では同時に四属性の魔法を操る、若き魔導師として名を馳せている。

 傷ついた味方を瞬時に癒し、水を爆散させ霧を生み出し、光を操りそこに幻影を映し出すことから『ネーベル』や『幻影ファンタズマ』などと呼ばれている男である。

 彼はこの世界では珍しい純粋な黒髪だ。

 それも相まってかとにかく目立っていた。

 彼も彼とて、それを利用して自分の噂を広げているのだから悪いことではないのだろう。

 自分から探すだけでなく、もしかしたらあちらに気付いてもらえるかもしれない。

 そう思ってのことだ。


 ネーベルの朝は早い。

 日が昇ると共にベッドから起き出し、軽装で街中を駆ける。

 その爽やかな容姿は街の奥様方や娘たちに人気がある。

 時折り挨拶として振られる手に振り返し、朝日に塗られていく街を超える。

 街の端まで来ると、今度は外壁を駆け上る。

 もちろん()、ではなく()

 頭の中で足に絡みつく風の流れを思い浮かべ、魔法でアシストして。


「うぉぉっ!? ……ってあんたか!」

「朝からすみませんね」

「毎日毎日よくやんなぁ。あ、もし暇があったら南の外壁を直しておいてくれよ」

「宿の贅沢盛りの大盛りメニュー三食おごりなら」

「お前……」


 軽く金貨二枚分の額。警備兵の食費一週間分だ。

 新しいこの階層は肥沃な土地が多く、拓いてしまえば作物の栽培は容易だった。

 そのため食料などの物価は少々安い。


「冗談ですよ、昨日の依頼で報酬もらったばかりなんで」


 かるく挨拶をして外壁から飛び降りる。

 街の外側には一歩出てしまえば、魔物が跋扈する危険地帯。

 門がある場所は定期的な討伐が行われているが、そうでない場所は見張りがいるだけだ。

 なので当然、


「さぁって、依頼内容は外縁の魔物を一掃だったっけな」


 言ってる間に魔物の群れに囲まれてしまう。

 ウサギのような見た目の魔物で長いしっぽに棍棒を持っている。

 可愛い見た目に見合わず凶暴な魔物で『バニット』と呼ばれる危険度E相当のもの。

 群れてしまえば危険度は一気にCランク、パーティで戦いを挑まなければ袋叩きにされるほどの危険種。

 そんなものにたった一人で立ち向かう、それが彼の基本スタイル。

 霧を使って攪乱するということもあり、連携を取ること自体が不可能に近いからだ。


「それ」


 軽く腕を振り上げればいつの間にか水球が浮かび上がり、パチンッと指を鳴らせば水球の中で爆発が起こり、一気に水蒸気の壁がまき散らされる。

 そして霧の中でも、視界の悪さを気にせずに動き回って一匹ずつ確実に仕留めるのだ。

 しかも、それを外壁一周のランニングがてらやってしまう。

 死骸もきちんと焼いてゾンビ化を防ぎつつ処理を終える。

 それが終わると再び外壁を駆け上って同じルートで宿まで走る。

 一仕事終えて、ちょうど戻るころには『弟子』が起きているころだ。


「よう、帰ったぞ」

「おかえり」


 弟子も同じような黒髪、ネーベルよりは少しぼさぼさしているように見受けられる。

 出会いはユグドラシルを上っている途中で魔物の群れに包囲されているところに遭遇し、助けたことだった。

 そのときは、服はこびり付いた血や汚れで酷い有様で、彼自身もかなり荒れていたが少し共に行動しているうちに冷静になった。

 どうも大切なものを掻っ攫われて意地でも取り返してやる、そう意気込んで自棄になっていたのだとか。


「で、今日の朝飯は……」


 厨房に目を向ければコトコト煮込まれる白いシチュー。

 料理人たちが忙しく動き回り、給仕たちが注文票を片手に料理を配膳して回っている。


「今日もシチューだな」

「……ふぅ、どこ行ってもこればっかりは変わらないか」


 朝の一仕事、もしくは運動を終える頃はちょうど街が動き出す時間。

 毎日毎日同じメニュー。いい加減に飽きてきてもいいころだ。

 だが安い。

 そのため朝食目当てに冒険者たちが宿に入ってくることはよくあることだ。

 そこで商人たちが金を払って護衛を雇うこともあれば、冒険者がパーティの募集をすることもある。

 そして固定のパーティをもたず、臨時でさまざまなパーティに入っては稼ぎの大きな討伐を行うのがネーベルである。

 今日も今日とてさまざまな所帯からお誘いがかかる。


「ぃよっす、朝から討伐ご苦労さん」


 ギルドランクA、厳つい顔に傷があるこの街周辺の魔物討伐を主とする剣士だ。

 魔法使いが多いこの街では唯一の接近戦派のパーティリーダー。


「苦労も何も、ラジオ体操くらいの気持ちなんだけど」

「ラジオ体操? なんだそりゃ」

「気にするな、僕がいた世界でのことだから」


 そう、ネーベルはもともとはこの世界の住人ではない。

 とある経緯で飛ばされた異世界の住人だ。

 そんな彼の知識はこの世界では知っている者がほとんどいないため先のようなことになる。


「そんなことより、今日の獲物は?」

「聞いて驚くなよ……」


 大きく溜めに溜めた。


「なんと槍亀グレイブトータスだ!」


 危険度Bに属する大きな陸亀。その尾は亀とは思えないほどに長く、先は鋭い刃となっている。

 大きさとしても成体ならば全長五〇メートルを超える巨体で、複数のパーティが合同で討伐に当たるほどの大物。

 ただ、その気性は穏やかであり、手出しするか縄張りに入らない限りは襲ってこない亀である。


「…………」

「なんだ、反応薄いな」

「いや、それこないだ『弟子』と一緒に仕留めたんだけどね……それも群れを」

「…………」


 今度は剣士のほうが絶句する番だった。

 いくら強いとはいえ魔法使い二人、それであの固い亀を、それも群れを撃破できるはずがない。

 さらにあの巨体の周りにはおこぼれに預かろうと常に小型の狼系モンスターがうろついているのだから。


「まあ、僕の霧と弟子の砲撃があれば楽勝ですよ。行きましょうか」

「ちょっと待て、槍亀が楽勝なら……龍の討伐ってのはどうだ?」

「いいですよ、以前単独で龍を撃破したことがありますので簡単でしょう」

「な……ん…………」


 龍を倒せば名声は跳ね上がる。そしてそれが野良の龍でなければ竜の支配域(ローラント)の竜族に命を狙われる。だがそんな噂は聞いたことがない。


「ほんとうか?」

「ええ、戦場で襲ってきたもので」


 戦場で襲ってきた、そう言われて納得する者はいないだろう。

 第一にその若さでどこの戦争に行ってきたというのか。

 見た目は十八前後の青年だ。


「それで、出発はいつです?」

「今日の昼頃に北門に集合だ、それでいいか?」

「分かりました」


 剣士がパーティ登録のため、いなくなるとようやく朝食に取り掛かる。

 毎日毎日一気に作ることができ、手間がかからないのはいいが同じものばかりだと飽きてくる。

 だが安い、だからがっつりと三杯完食した。隣に座る弟子もしっかりと同じ量平らげている。

 その後は使い慣れた杖を片手に二階建ての宿屋の屋根に上がる。

 杖はそこらで販売されている安物とは大きく違う。

 まっすぐな木製の柄、先端には透明で大きなクリスタルが填め込まれているものだ。

 俗に色付きと呼ばれる宝石ならば対応した属性を強化する。

 だが色のない透明なものは魔法の発動を極限まで補助してくれるのだ。


「すぅ………はぁぁ……」


 息を吸い、息を吐く。

 杖に意識を集中し、この世界で使っても問題ない属性を次々とイメージしては、自身の魔力をぶつけて消し去る。

 一般的な魔法使いならば詠唱をするところだが、ネーベルは詠唱を必要としない。

 未だにどう頑張っても四属性までしか扱えない。同時発動できる数ならば、数百もの魔法弾で壁を作る程度が可能な域だ。


「まだだ……まだこの程度ではアイツに勝つことなんかできない」


 ギリッと奥歯を噛み締める。

 一気にBB弾ほどの青色に輝く魔法弾を五百ほど作りだし、空高くへと放った。

 ただ属性だけの力だ、効果内容がなければ何も起きやしない。

 魔法弾は弾けて消えた。


「準備するか……」


 屋根から飛び降り、下にある窓の縁を掴んで自分たちが取っている部屋に転がり込む。


「うわっ!」

「おっと、悪い」


 危うく弟子に顔面からストライクするところだった。

 部屋には簡素なベッドが二つと二人の荷物のみ。

 お互い魔法使い。

 前衛職ではないというのに接近戦を得意とする、魔法使いの異端者。

 ネーベルは使い込んだフード付きの黒いマントを羽織り、愛用のリュックに杖を結び付けて背負う。

 弟子も格好こそはごく普通の青年だが、こちらも同じようにリュックにすぐ抜けるように杖を刺して背負う。

 咄嗟の対応ができなければ魔法使いは前衛職に、盗賊に襲われたときは一貫の終わり。

 その基本に則った装備の仕方だ。

 無論、このネーベルとその弟子には必要のないことだが。


「もう少ししたらこの街を発とうと思う。お前はなにかやり残したことがあるか?」

「とくに……ないな、それでいいや」

「よし、じゃあ明日、明後日は休日として……その次の朝に出発。いいか?」

「ああ」


 すべての荷を持って部屋を出る。

 いくら街の宿と言っても盗まれないという保証はない。

 宿を出ようとすればいつものように、あちこちのパーティリーダーや勢力の幹部クラスにお誘いを受けるが、今回はすでに約束があるためさっと躱して逃げる。


「ネーベルは誰を探してるんだ?」

「白いやつだよ、名前を知ったら厄介ごとに巻き込まれるから言わないけど」

「白い……」

「ま、長い付き合いだから早いところ合流したいもんだ。もしかしたら死んだと思われてるかもしれないしね」


 話しをしつつ街を抜け、門までたどり着く。

 そこには見知ったパーティ、見知らぬパーティが揃っていた。

 龍の討伐ともなれば基本的に数百名規模で行われるものだ。

 前衛の剣士や盾役、そして後衛の大火力を誇る魔法使いたち。

 だというのにここにいるのはたったの二十人。


「やけに少ないですね」

「おいおい、魔導師とそのお弟子さんが参加するともなれば少人数で十分だろう?」

「その本音は」


 聞かれて総リーダーの剣士が黙り込んだ。


「まさかとは思いますが、少ない方が取り分が増えるとかいう考えですか?」

「……………そうだ」


 言われてネーベルは少しばかり嫌になった。

 それはつまるところ、討伐は任せきりで使える素材の運搬をやると言っているようなものだ。

 この少人数で攻撃したところで大きな損害を出す以外にはないのだから。


「……まあいいでしょう。その代わり僕らの取り分は五で」

「せめて二で頼む!」

「では四」

「この人数考えてくれよ、二と半分だ」

「三。これより下を要求するなら僕らで龍を倒して全部もらいます」

「あぁ……仕方ねぇ、なんもないよりかはマシだ」


 交渉を終えて出発する。

 後ろからは別のパーティがかなり距離を開けてついてきている。

 他のパーティの獲物を横取りする悪徳な者たちか、それとも活躍の場を見聞きして話す吟遊詩人たちか。


「おいネーベル、後ろのやつらは?」

「見たところ楽器を持ってますから、害はないやつらでしょう」

「なら放っておいていいか」

「いえ、話のネタになるよう派手にやって、後で金を巻き上げます。どうせ吟遊詩人たちは人の活躍を謳うのですから、ネタの分の金は取ってもいいと思いますよ」

「なにげにお前、酷いな」


 少々パーティリーダーの剣士を引かせながら現場まで歩く。

 若草の生い茂る平原は見晴らしがいい。

 遠くまで見える分、魔物たちの襲撃を予測しやすいのだ。


「見えるか?」


 弟子に話しかける。

 ネーベルが指さす先にはターゲットではないが槍亀がのそりと平原を闊歩していた。

 ここにいるという事は、この場所が縄張りなのだろう。

 そしてこのまま歩けば縄張りに入るのは必須。

 そうなってしまえば余計な消耗をしてしまう。


「届くな?」

「ああ、この距離なら一発で当てられる」


 弟子が杖を構え、ネーベルが他の者に耳を塞ぐよう注意する。


「しかしまあ、アウトレンジからこの威力は脅威だな」


 両手で耳を塞いでいる間に、弟子の杖には巨大な水の砲弾が形作られている。

 これは火薬を使った砲撃ではない、魔力を火薬の代わりとなる推進剤に使った砲撃だ。

 だからプラス方向であればどんな角度であっても任意の地点まで飛ばすことができる。

 弟子は杖を約八〇度で構え、高射界砲撃をするようだ。

 砲弾は真上から槍亀に突き刺さる。そうなれば円形のクレーター一つで済み、余計に大地を汚すこともない。

 凄まじい音で射出された水の砲弾は天高く上がり、頂点で綺麗な円弧を描いて落ちた。

 のそりと歩く槍亀、その固い甲羅をやすやすと突き抜けて一撃のもと沈黙させる。


「す、すげえ……」

「この距離から試射なしに一発か……」

「やっぱネーベルは弟子まですげえよ!」


 砲撃を見て子供のようにはしゃぐ仲間たちを見もせずに弟子は杖をしまおうとした。

 だが、そのわずかな音に気が付いた。

 翼が風を切るその音に。


「ネーベル!」

「分かってる、いつも通りやろう」


 杖を手に持ち、内部に爆破魔法を組み込んだ水弾を無数に作り出す。

 相手は飛龍。

 本来ならば地上にいるところを奇襲する予定だった。

 空を飛ぶ飛龍は風の魔法で素早く動き回り、火の魔法で大地を焼き払う。

 だから襲われたなら”普通は”勝ち目などない。

 奇襲して翼を封じ、背後からその背に上がって剣士たちが剣を突き立てるやり方でなければ、飛龍には勝てない。


「霧を掛けます、全員下がっていてください」

「あんたたちだけで大丈夫なのかよ」

「むしろあなた方がいたほうが勝率は下がりますので」


 遠まわしに邪魔だからさっさと失せろ、そういわれた他のメンバーは逃げた。

 魔法の使えない剣士たちがやや気がかりではあるが、こういう”仕事”をする以上は命を失うのはいつであってもおかしくはない。


「よしやるぞ」

「ああ、いつもみたいに俺は囮でいいのか?」


 コクッと頷いて走る。

 二手に分かれ、まずは弟子が攻撃を始める。

 ニードル状の氷を連射し、ヘイトを引き受けながら敵の視界からネーベルを外す。


「イッツショウタイム」


 器用に水弾を操り、この戦闘エリアを囲むように空高くまで配置。

 半分を爆散させ霧の壁を作りだす。

 残りは未だに霧の中。さらに光を捻じ曲げてあるはずのない影を作り出し、どこに水弾があるのかを分からなくさせる。

 トリックの基本は相手をだますこと。

 無作為に爆破させたことで水弾はもうないと思わせ、その影は偽物だと信じ込ませる。

 今回は相手が龍だという事が幸いした。龍はそこらの魔物と比べ、遥かに高い知能を持ち、人の連携を打ち破るからだ。

 続いて龍の視界外の地上に霧を張り、自らの身をも隠す。

 弟子の役割はネーベルの舞台が整うまでの前座。

 何か一つに集中すれば他がおろそかになる、それは人に限りはしない。


「さあ、本番メインの始まりだ」


 弟子が全力でニードル弾を撃ち、時折り爆発を起こしながら龍を引き付けている。

 それらの攻撃は強靭な鱗にすべて弾かれ、翼を狙った攻撃は風圧で叩き落とされていた。


「空を駆ける強者は地に落ちよ」


 龍のさらに上、そこまで広がっていた霧から一発の水弾が飛び出た。

 それは龍の背後から翼を突き抜け爆散する。

 翼に大穴を穿たれた龍は落ちる。

 弟子はすぐさま霧の中へと駆け込む、霧は弟子の周りにだけは薄くしか纏わりつかない。

 龍が霧に突っ込もうとしたところでさらに水弾が叩き込まれる。

 一発一発は大したものではない、しかしそれが次々に撃ちこまれダメージを蓄積させる。


「ギャアァァ!」


 業を煮やした龍が口を大きく開き、赤い燐光を纏う。

 吐き出されたのは火焔。

 しかしそれは霧に阻まれる。

 その火焔は魔法、霧も魔法。

 相反する属性であり、互いに魔法ならばより強い方が残り、弱い方は打ち消されるのが理。

 シュウゥゥと音を鳴らしながらも霧の領域に火焔は踏み込めない。


「トドメは霧より出でる幻影の獣たち」


 パチンッと指を鳴らすと残っていた水弾が弾け、真っ白な霧の幻獣が生まれる。

 飛龍はそれを見た途端に火焔を止め、逃走にかかった。

 龍には知能がある、危なくなればすぐに逃げに移る。

 だが、


「ジュガアァァアア!!」


 飛龍の咆哮が響いた。

 その身に霧で出来ているはずの幻獣が確かに食らいついていた。

 固い鱗の隙間に牙を刺し、獲物に群れるアリのようにたかっていく。

 そしてもがく飛龍に弟子が水の砲弾を叩き込んだ。


 ---


 一通りの霧を吹き飛ばし終えた頃、下がっていたパーティが戻ってきた。

 さすがに魔法で作った霧と言えど、その後はごく普通の霧として残ってしまうため吹き飛ばすのが最も簡単な処分の仕方だ。


「マジで倒しやがったのか」

「さすが天才魔導師」

「伊達にニヴルヘイムやらユグドラシルを走り回ってたわけじゃねえんだな」


 杖をしまいつつ、その手にナイフを作り出す。

 鋭利な大振りの刃物。

 

「いえ、さすがに二人でしたからね。楽勝ですよ。ほら、さっさと解体しましょうよ」

「そうだな。しかしこれだけ運べるかね?」

「欲張って帰りに襲われたら困りますし、適当な量採ったら残りは全部焼きましょう、他のパーティのおこぼれなんかにはしたくないですし」


 手早く解体作業を行い、水で洗ってリュックに詰められるだけ詰める。

 肉は冷凍して市場に出せばそれなりの値がつく、鱗や骨は加工して武器や防具になるが、もとから杖一本でやってきているためすべて売り払う。

 依頼報酬よりもこちらの方が金なるのだ。


 こうしてネーベルたちは六十日は遊んで暮らせるほどの大金を手に宿に帰る。

 金が入ったことで普段より少し豪勢な夕食を取り、部屋へと行く。

 寝る前には杖の微調整を行う。

 ネーベルの武器である杖は、一般的な魔道具などとは違いそのときの魔力や魔法に合わせた調整が必要となる。

 別にそれはしなくてもいいが、していれば常に最高のスペックを発揮できるからやっていることであり、長年の相棒を粗末に扱いたくないという思いもあるのだった。


少々書き方変えてみましたが……。

やはり『遥か異界で』のコンセプトはごちゃ混ぜだぁ!

こんな書き方は少なめしていこう。


次回更新は6月3日の予定です。

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