表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遥か異界で  作者: 伏桜 アルト
第4章 敵対者の離岸 
74/94

01000101 = E

「なんだよこれ……」


 空は茜色に晴れていた。

 いや、晴れていたというよりも、空が裂けてそこから別の晴れた空が見えていた。

 そして地上には横たわるステッペンウルフや紅龍隊のメンツ。

 少し離れたところではレイズが腕を組んで立っていた。

 白い長髪が風にたなびく。

 いつもの男物の白い長袖シャツとカーゴパンツ。

 足元にはベインと深紅のドレスを纏った竜人。


「ひっ……」


 リナがウィリスの背中に隠れる。

 まだまだあの時のことは記憶に新しいからな、恐れて当然だ。


「レイズ、何があった」


 ウィリスがきつめの口調で問いただす。

 レイズ一人だけが立っていて他は全滅。

 状況だけ見ればレイズが襲ったと言っても過言じゃあないだろう。

 第一に俺がばっちりと見た前科があるからな、狙ってきただけで味方を、リナを殺そうとした前科が。


「何があった、そう聞かれてもオレにも分からん。降りてきたらいきなり砲撃うけたもんでな」


 そう言って指さす先には大きな放射状のクレーターがあった。

 爆心地とでも言うべき場所はガラス化してしまっている。


「まあ、それはどうでもいいか。ウィリス、リナ、レナ、こっちに来い」

「なぜ?」

「いいから来い」


 レイズが指をクイッと動かすと、地面をすべるようにウィリスたちが引っ張られていった。

 まるでお湯のばあさんに引っ張られるあの娘のように。

 そして同時に俺の体が金縛りにあったように動かなくなる。


「お前いっつも強引だよな」

「それは置いておけ。とりあえずローラント側の代表は倒したから終戦だ、ほれ」


 足元の深紅のドレスの竜人を一瞥し、なにか紙切れをウィリスに見せた。

 酷い、竜人の方はなんかあちこち破れていて無残な姿だ。

 女同士の喧嘩はなんてひどいのだろうか。


「まあそういうわけでちょっと一緒に来い」

「その子細抜きで進めるのはやめような?」

「いいだろ、いつもこれで進めてるんだから」

「それがよくねえっつってんだろ!」

「ふぅ……」


 ため息をつくと、いきなりウィリスに拳を撃ちこんだ。

 打ちこんだというよりも撃ちこんだというべき、重たい音が響いた。

 呻き声すら漏らさずにウィリスが倒れる。


「な、なにす――」


 言おうとしたリナに向けて横薙ぎに腕を振るう。

 桃色の燐光がまき散らされてそのまま意識を失い、倒れた。


「レ、レイズ……様?」

「んでもってお前は……ああ、アキトとしたのか」


 かぁっとレナの顔が赤くなる。俺もだけど。

 うん、人にそういうとこ指摘されるとね、うんうん、仕方ないよね?


「まあ、それでよかったのか?」

「………………うん」

「ならオレは何も言わない。向こう側のバカどもは黙らせておいてやる、ついでに次手出ししたら竜族根絶やしにでもするっておまけつきで」

「それはさすがに……」


 ……やりそうだな。

 そしてレイズならやれそうだな。


「で、だ。お前――――」


 途端に小声になった。そこから先は俺は聞き取れなかった。


「(あいつらになにされた?)」

「(裸にされて……そのぉ……見られました)」

「(なるほどなぁ……あいつらは純潔かどうかってのにうるさいからな)」

「(それで……その、アキトとしたから……あたしはもういらないって)」

「(…………レナ、オレ今度ローラントの王族本格的に攻めるわ)」

「(でもそれやったら)」

「(大丈夫、もう一人ヤったから後は何人ヤっても同じだ)」

「(そういう問題じゃないと思うんですけど)」


 なにやら小声で言い争いをしている。

 せめて内容が聞こえればな……、というかこの金縛りのようなものはいつ解けるのでせうか?

 立ちっぱなしはきつい。


「(まあそれは置いておこう。アキトにはオレも目を付けてたからな)」

「(どこが気に入ったんですか?)」

「(あいつの性質だな、近くにいるとなんとなく気分が悪くなったろ?)」

「(はい)」

「(それだよ、近くにいるだけで体内の魔力をおかしくして、最悪は死ぬという性質)」

「(それじゃ、あたしはアキト一緒には……)」

「(いられない、でもあれは耐性を付けることができるからな。子細はベインに伝えてある、アキトには悪いが強引にやらせてもらうぞ)」

「へっ?」


 レナの頓狂な声が聞こえたと思った瞬間、レイズが桃色の燐光をまき散らした。


「レイズ……さ…………」


 ぱたりとその場に倒れた。

 途端に俺の金縛りも解けた。前のめりに倒れそうになるのを踏ん張る。


「てめっ、何しやがる!」


 レイズがゆっくりと俺の方に向かってくる。

 その手には桃色の燐光を纏わせて。


「さあ、説明してる時間はない。邪魔されるのもなんだからお前も眠っとけ」


 腕が横薙ぎに振るわれる。

 桃色の奔流が迫るが、これは回避なんてできない。放射状に広がってくるため、横にも後ろにも上にも効果範囲が及ぶ。


「くそっ!」


 せめてもの抵抗として全力で魔力障壁を展開する。

 弱い魔法はこれで打ち消せるがレイズの魔法なんてレベル1000、こんなもんで――


「防ぎやがったか」


 防げてしまった。

 燐光が魔力障壁にぶつかると霧散して虚空に消えてゆく。


「しゃーない、時間もないことだし実力行使といきますか」

「なんでこんなことすんだよ!」

「説明が面倒だ、さっさと終わらせる」


 何も聞いてくれない悪魔が向かってくる。

 到底勝ち目のない死が向かってくる。

 レイズからすれば、俺はRPGの雑魚モンスターと変わりはないのだろう。

 なのになぜここまで俺に着目する?


「悪いが、オレとていつまでもこんなところにいるわけにはいかないんでな」


 ザザザザザァァッ!


 なにかが変わる。最初の変化は風向きだった。


「さすがにクロードに負けた手前、クロードに”勝った”ことのあるお前には本気でぶつかるべきだろうな」

「何言ってんだ……」

「んん? 忘れたか? お前は過去に数回、クロードを撃退しているじゃないか。白き乙女が”学生”たちの攻撃にさらされたとき、紛れて襲ってきたクロードを」

「なんのことだよ……俺にそんな記憶はねえぞ!」

「確かに……いや、まだ”見ていない”だけか。第三世代の特権だよなぁ……自身の記憶封鎖。今思えばあのころは如月寮にレイアがいたからな、お前の頭の中に埋め込んだチップはレイアが少しばかり手を加えていたかな?」


 ザ                         ザザザザ

 ザザザ               ザザ

 ザァァァ


「ああ、流れが遅くなった……これならまともにやりあえるな」


 次に変わったのは温度だった。

 風の流れは感じる。でもそれが温かいとか冷たいとは感じられない。

 まるですべての差を均等に均したかのように温度の差がなくなった。


「さて、オレにとってはもう何回目か分からないが、今のお前にとっては二回目だろう」


 ドンッ! と地面を殴りつけた音が聞こえた時には真っ黒な世界に立っていた。

 シリコンウェーハよりもまっ平らな平面が続いていた。

 それは空と地の境界の向こう側まで続いている。


「なあレイズ、あんたなんでこんなことを平気でやるんだよ」

「こっちもいろいろあるもんでねぇ……まあ、気に入ったやつの実力くらいは見ておきたいし」


 指先にそれぞれミニチュアの太陽が出現した。

 それはブワァッ! と空気を切り裂いて真っ白なブレードを創りだす。

 俺はあのとき負けてあの子を助けられなかった。

 だから…………。

 だから今度こそ負けられない。

 だから今度こそ守りきらなければいけない。

 勝てば何を得る? 負ければ何を失う?

 それは分かりきっている。


「ざけんなよ……勝手な都合で人様に不幸を押し付けんじゃねえ!」


 思い切り地面? を蹴って突き進む。

 気づけば赤色の光が俺に追従していた。


「おいおい、魔術まで使うとかどんだけ規格外なんだよ」


 爆音が炸裂した。

 十本のブレードが急速に伸長しながら迫る。

 黒い地に赤い奇跡を焼き付けながら俺を殺すために。


「うおおおおおぉぉっ!」


 水平方向のものはしゃがんで躱す。目で追えば地平線の彼方まで届いてしまっている。

 その威力が垂直方向から……今の体勢からは横に動けない、なら一か八か、運任せで殴りつける。

 ヒィィィィン……と聞きなれない音が響いた。


「ははっ、やるな。まさかディスペルされるとはな……」


 後半はかなり小声だったが聞こえた。その驚いたような表情からは、これで俺をやれるとおもっていたらしい。


「って、待て待て待て待て……オレの全力の魔法を消せるって……勝てないじゃん!」

「なに一人で叫んでんだよ……」


 たったの一撃。

 それを防がれただけであの慌てよう。

 もしかして、いままで強すぎて負けをしらずにここまで来たのだろうか?

 スコールのような化け物にしか負けたことがなくて、それ以外の対処を考えるのが苦手なのだろうか?

 俺がこうして考えている間にも一人でわーわー叫んでいる。

 こいつ……もしかして精神メンタル的に弱い?


「こないならこっちから行くぞ!」

「え、あ、ちょっと待って?」


 うろたえているところに一撃ぶちかました。

 フルスロットル魔力パンチ、この威力は三割で実証済みだ。

 それを全力で放てば、レイズであれば吹き飛ぶくらいだ……。

 続けて頭の中にふと浮かび上がってきたイメージをそのまま投射。

 俺の周りの赤い光が飛び散って、レイズを中心に真っ赤な灼熱色の魔法陣が浮かびあがった。

 大きさは目測で半径十メートル程度。


「チッ、火のウルカヌスの召喚陣かよ」


 レイズが飛び退いた瞬間に、火の柱なんてものじゃない、マグマの柱が、そう言えるほどのものが噴出した。

 柱の中から巨人が歩み出る。それはいつかの戦場でフライアが呼び出したらしき魔人にそっくりだった。


「神格級の召喚なんざ一月かけてやることだろうが!」


 水弾を乱射しながらレイズが走り回る。

 しかし十メートル越えの巨体にとっては、BB弾ほどの大きさになる水弾だ。当たるたびにバシュゥと音を立てて瞬間で蒸発してしまっている。

 だが押し切れるわけがない、レイズも魔術とやらは使えるのだから。

 でもなぜ使わない? それとも、使()()()


「くそがっ! スティールがききゃしねえ、なんだよこれ!?」

「焼き払え!」


 炎の魔人に命令を下す。

 俺が召喚したのなら、召喚者の命令は聞いてくれるはずだ。ゲームだって召喚獣は召喚士に従ってるじゃん?


「しゃあない。来たれ、波の乙女!」


 魔人から灼熱なんて言わず、プラズマの息吹が放出される。

 対するレイズ側からは―――――何も放たれなかった。


「ウソだろ……」


 ぽつりと言葉を残してプラズマに呑まれかけた瞬間、魔人ごと切り裂かれた。

 ()()()()の奔流ごとウルカヌスを叩き斬られた。

 辺り一面に焦熱の嵐を吹き荒らし、赤熱させる。

 レイズの前に立っていたのは……スコールだった。

 片手には長剣の取り付けられた緑色の大型狙撃銃を抱えている。


「覚悟はできてるんだろうな?」


 スコールは、それをレイズに向かって言い放った。


「ちょい待て、オレは」

「後処理ほっぽり出して遊んでんじゃねえぞ! 女王を倒したらそのまま転移して帰ってこないとかなあ、それは職務放棄だろ」

「だから話しを聞こう? な?」

「お前がそれを言うか……」


 俺もそれについては同感だ。

 人に何も話さずに始めるところとか特に。


「とりあえずだな、オレは黙って出撃したようなもんだから帰ったら確実に部屋に引きずり込まれてなんやかんや言われるんだが」

「知ったことじゃない」

「お前だよな!? オレを引きずって戦場に放り出したの!」

「だからなに? 帰ったら大人しく部屋に連れ込まれてしけこんでご機嫌とっとけ」

「嫌だよご懐妊でハーレムハウスから出られなくなるとか!」

「水系の魔法でそこはなんとかできるだろ」

「……もういやだ、なんでこんなやつがオレの仲間なんだよ」


 完全にレイズが負けている。

 精神的に弱いかな? とは思ったけど流れに押し流されるほどとは。

 とか思ってたらいきなり二人が喧嘩を始めやがった。


「スコールをぶっ飛ばしてオレは一人旅に出てやる!」


 腕を横薙ぎに振るい、虹色に煌めく数多の魔法を撃ち出す。


「またそれを言うか……スティール」


 対してスコールは、その魔法を奪い取った。

 球体となった煌めきはスコールの周りにぷかぷかと浮かぶ。


「はい手詰まり、以上終わりだな」

「…………」

「前にも言ったろ? 詠唱済みならいくらでも奪えるって」

「……………………斯くなる上は」


 レイズが何かを呟いた。

 それは言葉だったと思う。

 だけど、それは人の――――いや、通常の存在が理解できない『何か』だ。

 直後にガラスに低速の弾丸を撃ち込んだように、黒い空間が壊れた。


「リリース・グングニル!」


 スコールが叫ぶ。

 茜色に裂けた空から光の槍が一筋だけ落ちた。

 カッッ!! と輝いて、光の爆風をまき散らす。


「うわあああっ!」


 目を閉じて両腕を使って眼球を守っても、頭の後ろ側まで突き抜けるほどの光だった。


 ---


 気づいた時には俺は倒れていた。

 身体が動かない。

 視線だけを動かして周りを見れば、息が絶え絶えのスコールとレイズが対峙していた。


「はぁ……」


 一息吐いて、レイズが膝をつく。

 体中に小さな傷ができている。


「まったく……最初はただの学生だったくせに……」

「さすがにあれだけ繰り返せば嫌でも戦闘の技能は身に付く」

「だろうな、二五六回も繰り返せば」

「無駄話は要らん、さっさと戻るぞ」


 スコールがレイズの首根っこ掴んで無理やりに立たせる。

 まるで親猫に咥えられた猫のようだが、その顔はものすごーく嫌そうな顔だ。


「ちょい待て、こいつら運んでくぞ」

「全員か?」

「ああ、ユグドラシルが再生しているころだから、一番上まで頼む」

「そこで這いつくばってるやつは?」

「アキトは……………………」

「早くしろ、上で待たせてる」

「よし、おいていく」

「分かった。……リリース・シルフィード」


 紫色の燐光が舞い散って風が吹き荒れる。

 俺以外の全員が浮かび上がって、だんだんと高度を上げてゆく。

 こんなのは嫌だ。

 動け俺の体。

 今は、今回はまだ諦めるには早い。


「待ちやがれ!」


 無理やり叩き起こした体で空を見る。


 ――魔法は核を壊せ。


 あいつらが飛ぶために使っている魔法は、レイズのモノを奪ってスコールが行使しているってことでいいだろうな。

 狙いを定め、スキルを使う。

 魔法妨害、同レベル以下の魔法を無効化するもの、あの飛行に使っている魔法のレベルは分からないが……。


「あぶねっ!」


 ぐらっとバランスを崩したところを見るに、効いたようだ。

 上昇が停まり、スコールだけが落ちてくる。

 片手に持った狙撃銃を投げ捨て、形は綺麗じゃないが受け身を取って立ち上がる。遅れて光る球体も降りてくる。


「殺すなよ!」

「分かってる!」


 大声で交わされた言葉。それが風に消えると、殺すなと言われたにもかかわらず殺意が向けられた。


「なんでそんな魔力制御に長けた能力を保持しているのかは知らないが――」


 そう言われてみればこれはあの堕天使にもらったスキルだな。

 なんで俺に魔法妨害なんて渡したのか、なんで魔力吸収なんて渡したのか。

 どちらも俺には必要なかったはずだ、この多すぎる魔力でどちらも補ってしまえるのだから。


「――ここで処分するに限るな」


 スコールが間合いを詰めてくる、俺はそれに合わせて拳を突き出した。

 さっと躱されて横合いから火炎がぶつけられる。

 それを左手で払いつつ、回避行動を取ったばかりの体勢であるスコールに右手を握りしめ、叩き込んだ。

 なのに――


「魔力を扱う限りは勝てやしない」


 素手で受け止められた。

 こうして間近で見ると殺意のこもった無表情は怖い。


「アイデンティフィケーション・リード――」


 スコールの手から何かが流れ込んでくる。

 どろっとした感じ、ではなく、人が認識できないような電気信号。


「――ブレイク」


 何かが……俺の中の、すでに斬りつけられていた何かが打ち砕かれた。

 と、同時に急速に魔力が抜けていく。


「なに……しやが、った」

「じゃあな」


 がくっ、と膝をついた俺に見向きもせずに、狙撃銃を拾い上げて再び空に舞い上がる。

 いったい何をされた? 自分の状態は『解析』で知ることができるか?

 そう思い、いままで通り解析を使った。


 ………………………………………。


 だがいくら待ってもなにも表示されない。

 何度使っても、何度も使ってもなにも起こらない。

 まさか……異世界定番のスキルだの魔法だのを壊された?


「……」


 いや、それはない。

 だったらなぜ俺は周りに飛び散った火炎の熱さを感じていない。

 なぜ俺の周りに不自然に、透明な壁に遮られるように揺らめく炎がある。

 魔力があるなら魔法はまだ使える。


「待てよ……クソ野郎!」


 火炎弾を一発? ぬるい、その程度じゃ効くわけない。

 百発と言わずに数千発だ、同じ魔法ならいくらでも多重で発動できるんだから。

 その背に圧縮した獄炎を放った。

 温度が高すぎて真っ白に光り輝く、罪人を焼き滅ぼすような光弾を。


「ッ! チッ」


 振り返りざまにスコールはそれを握りつぶした。

 その手からはジュウッと音を立てながら白い煙が昇っている。

 効いた?


「弱いな、たった一枚の障壁を焼くのが精一杯か?」


 防がれた、しかし奪われずに障壁を壊すことができた。

 その障壁が一体何枚あるのかは分からない、でも俺も無尽蔵の魔力がある。

 絶え間なく攻撃し続ければ、あるいは。


「降りて来いよ、まだ終わっちゃいねえ。これからだ!」

「いや、これで終わりだ」


 すっ、とスコールの腕が俺に向けられる。

 背後に付き従う光球が蠢く。


「…………リリース・フリューゲルブリッツ」


 瞬間、ゴォッ!! と。光の柱が襲い掛かってきた。

 赤、黄、青、緑、紫、桃、白、黒、金、銀。

 いままでに見たことのある魔法の燐光。

 それがすべて混ざった極大のレーザー。

 これを凌げばあいつにはもう魔法がない、だったらこれで勝敗が決まる。


「おおおおおおおぉぉぉっ!」


 迷わずに両腕を前に突き出す。

 身体に宿るすべての魔力を全面に押し出して。

 関節からゴキュッと嫌な音が響く。

 だが痛みは感じない、危機的状況で脳が処理を放棄したんだろう。

 でもそれでよかった、痛みを感じなければ無理やりに押し通せる。

 まるで傘をさした状態でホースの水を受け止めるように、光の柱は俺にぶつかった瞬間、四方八方に飛び散ってゆく。


「いける……これな…………! 食い込んでくる!」


 手の平の皮膚がピリピリと痛む、だんだんとヤスリのように吹き付けるレーザーが魔力障壁を削り取っている。

 既に全力、だというのにミリ単位で俺の方に近づいてくる。

 しかもよく見れば、レーザーだと思っていたものはそれぞれが魔法弾。

 飛び散ったそれは色とりどりの羽根に変わり、ふわふわと降ってくる。


「魔法士を殺すにはまず、無意識に展開する魔力の壁を取っ払う。それくらい知ってるだろ?」


 ふわりと、一枚の羽根が俺の頬に当たるギリギリの場所を舞い落ちた。

 ギャリギャリと魔力障壁をものともせずに削りながら。


「この魔法はレイズの多重障壁を破壊できたこともあるものだ」


 ボギリ……指が曲がってはいけない方向に折れ曲がる。

 足が震える。


「まだまだ”一周目”の雑魚程度がどうにかできるものじゃない」


 ようやく光の柱が消えた……。


「くっ……」


 もう逃げられない。

 なんとなくだけど分かる、たった一枚でも直に触れたらただじゃすまない羽根。

 そんなものが細氷ダイヤモンドダストのようにきらきらふわふわ舞い降りてくる。

 そしてその無数の羽根は、今の俺がどうにかできるとは思えない。

 全力の魔力障壁を苦も無く削り取ったのだから。


「大切な誰かを守りたいなら力を示せ、それはどんな力でもいい。誰かのためだけに自分を殺しつくす、そんな強く醜い意思でもいい。レイズがお前を”気に入った”以上は相応に釣り合う力を示せ」


 ふわりと舞い降りた羽根が肩に触れる。

 たったの一枚、たったの一撃で鈍器で殴られたかのように重たい衝撃が走り抜けた。

 半身が動かなくなって、その場に倒れ、さらに俺の上に羽根が舞い降りる。

 意識が遠のく。

 無理に顔を上げれば、無表情のまま振り返るスコールと、悲しそうな顔をしたレイズが見えた。


 またか……


 また俺は奪われて終わるのか……


 なにも守れないまま……


 ---


 何もない荒野に冷たい風が吹き抜けた。

 俺は起き上って空を眺める。

 そこにはもう裂けた茜色の空も、レイズもスコールもレナもリナもウィリスも誰もいない。

 どうしようもない、また奪われた。

 俺が誰かの為に何かをしようとして、何かを得るたびに奪われる。


「…………」


 フライアたちがいるはずの場所へ向かって歩を進めた。

 随分と距離があるはずだったが、気づけばついていた。

 途中の記憶が抜けている。ただ体中にこびりついて固まった赤黒い血を見るに、魔物を蹴散らしてきたらしい。


「なんでだよ…………なんで誰もいねえんだよ!」


 確かに人のいた痕跡は残っている。

 焚火の跡、テントを張っていた跡、いくつもの足跡。

 そして争ったそうな跡……魔法で焼けこげた地面や吹き飛んだ地形。


「あぁ…………」


 思えばいままで散々な人生だった。

 何一つとしてやり遂げられていないダメな時間の中でただ生きてきた。

 結局、最初の時にポッキリ折れた俺にはなにもできないやしないのだろう。

 結局、俺は何も成長できていない。

 大勢を率いる立場になった? それはただ聞かされただけで、実際はそいつらにあってすらいない。

 強力な魔法を使えるようになった? だけどそれでかなう相手はいなかった。

 結局ダメな人間はいくら頑張ったところでそこから抜け出すことなんてできやしないんだろうさ。

 そう、俺みたいな。

 ……すべてを諦めかけたとき、ふと思い至った。


「ああ、そういやユグドラシルの一番上だったか……」


 レイズの言っていたことが思い出された。

 まだ行先の手がかりも道も残されているじゃないか。


 そこに行くための足はある。

 障害を打ち壊すだけの魔法はある。


 だったら言ってやる。


「俺だってまだやれる、あんな奴らなんかに負けられない」

 

 こうして俺はまた歩き出した。

 空の遥か彼方、霞む世界樹、ユグドラシルの頂上を目指して。


これにて第四章は終わります。


FinishのFじゃなくてEndのEであるところに意味はあるのか!?

そして主役の座はクロードに移ってしまうのか!?


次回、来月のいつかに更新します。

私の方でもおかしな点やら誤字脱字は多々確認しております。

そういうところを「さっさと直せよ!」という感じで言われたら、それはもう指の動きが速くなるでしょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ