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遥か異界で  作者: 伏桜 アルト
第4章 敵対者の離岸 
59/94

vs???

 夢、夢……ゆめ?

 いや違う、これは現実?

 夢にしては、はっきりしすぎている。

 そうだ……これ、昔の記憶だ。

 記憶の追体験、記憶遡行か。


『走れ、走れ! ランナー!』


 耳元からおっさんの声が響く。

 俺に向けられた言葉じゃない。

 前を走る誰かに向けられら言葉だ。

 いつかと同じように体は勝手に動く。

 両手にはそれぞれロングソードのような両刃の剣が握られている。


「くそっ! なんで俺が!? 潜入工作のはずなのに思い切り囮じゃねえか!」


 前を走るやつが悪態をつきながら逃げ回る。

 無機質な金属の通路を走り抜ける。

 ちらりと壁のマークが目に入った。


 二股の槍の先端を逆さにして、その中に赤丸を書いた紋章。


 フライアの胸にある紋章と全く同じ。

 俺はどこでこれを見た?

 そもそもここはどこだ?


「中尉! もう撤収しません!?」

『クロード准尉』

「はい?」

幸運を祈る(グッドラック)

「ざけんなぁ!!」


 クロード?

 俺の前を走るやつがクロード?

 そうだとしてなんであいつを追いかけてんだよ。


「―――――――」

「うるせえ!」

「――――――――」


 自分が言っていることがわからない。

 自分の記憶のはずなのに、自分の言ったことだけがぼやけている。


 やがて開けた場所に出た。

 そのまま勝手に動く体が追跡を続けていると、前方に人が見えた。

 片方は黒髪、もう片方は青い髪の女だ。

 てか、レイア?


「シルフィ! リンドウ!」

「伏せて!」


 クロードが身を投げ出して倒れると、二人が持っていた銃が火を噴いた。

 黒髪のほうは両手にサブマシンガン、青髪のほうはスナイパーライフル。

 おかしいよな。

 サブマシンガンは二丁持ちで使うものじゃないし、スナイパーライフルだって立ったまま撃つもんじゃない。


「―――――――――」


 到底見て反応できる速度でも、間合いでもない。

 なのに体は勝手に動いて、躱して、剣で弾いて、あるいは切断して……は?

 斬ってもそのまま向かってくるだろ、なんで落ちてんだよ。

 ……自分の事であるはずなのに冷静すぎる自分が怖い。


「二刀流の魔狼、噂には聞いていたがほんとにいたとは……」

「クロード、私たちで戦って勝てる?」

「無理だ。シフトができないこの場所でやりあえば俺ら全員真っ二つにされるぞ」

「おっし、そうと決まれば逃げるぞおめーら」


 黒髪の女、見た目は美人なのに口が残念だな。


「―――――――」


 体が勢いよく動く。

 両手の剣を振りかぶり、クロードに叩き付ける。

 クロードは剣に対してコンバットナイフを抜いてきた。

 当然負けてそのまま吹き飛ぶ。

 重力操作をしなかった。


「「クロード!」」


 女二人が悲痛な叫びをあげる。


「大丈夫だ。いつも通り、俺が殿しんがりをやる。お前らは逃げろ、境界ボーダーまで行けばなんとかなるだろ」

「死なないでよ」

「おめーは絶対に生きて帰ってこい、借金はチャラにしねえからな」

「へいへい……」


 二人が走り去ったところで、俺は斬りかかろうとしていた。

 なんでこうなっているのだろう。

 俺はまだ思い出していないことがあるのか?


「さて、あいつらのためにも頑張るとするか」


 クロードが両手に、逆手持ちで大ぶりのナイフを構える。

 そして雰囲気が一気に黒くなった。


「グラビティランナーと呼ばれる俺はそう簡単には抜かせない。あいつらに降りかかる死は俺が振り払う!」


 体を地面に押さえつけていた重力がなくなり、制御を失った自分がいる。

 その自分を殺そうとするクロードがいる。

 ほんと、なんでこうなっているんだろうか?


 クロードがパーカー下のベルトから何かを放った。

 筒状の――――ズパァァンッ!

 真っ白な閃光に目を焼かれ……。


 ―――


「うわっ!」


 から飛び起きた。

 目に入ってくるのは見慣れた俺の部屋。

 もう存在しないはずの完璧なヒキニートの聖域サンクチュアリ

 テレビ、ゲーム機、パソコンになんでも揃っている。

 体は思うように動く。

 だが、ここはどこだ。

 夢から醒めてまた夢か?


「なんだよ……」


 はっきり言ってしまえば、ニート時代に戻りたい。

 なんだかんだあって色々と言われるのなら最初から関係が繋がる可能性のないニート時代に。

 ただ虚しくネットやら仮想現実ヴァーチャルリアリティゲームに潜りっぱなしの毎日で、ピンク色の展開がなくとも、死ぬ危険性のないニート時代に。

 働くことが無くても生きていけていたNEET時代に!


「でも、いまのこれは夢だろ? どうせ偽物だろ?」


 そう思って色々と確認した。

 冷蔵庫を開ける。中にはボトル飲料がぎっしり。

 戸棚を開ける。中にはレトルト食品とパックの白飯にカレールー。

 パソコンの電源ボタンを押す。あっさりと、起動した。

 窓を開ける。外には見慣れた風景がある。


 細かな部分まできっちりそのままだ。

 廊下に続くドアは――


「…………?」


 真っ白だった。

 不気味なほどに真っ白だ。

 綺麗すぎると何も住まなくなくるほどに、毒と思えるほどに気持ち悪い。

 不自然に自然すぎる状況の中で明らかに不自然な存在。

 開けぬわけにはいかぬ。

 かるくドアをたたく。


「トラップとかないよな?」


 即死トラップ級のモンスターがいたからな。

 いままでの経験上、ドア型のモンスターがいたところで不思議じゃないさ。

 ほら、アレに出てきた、ドアを開けようと近づいたらバクリ! なんてシャレにならんからな。


「だ、大丈夫だよな? 開けたらドアに爆弾とかもないよな?」


 かなりびくつきながらドアを開けた。


「……」


 立っている黒いシャツに黒いズボンを着た青年と……。

 黒いパーカーを着た白い少女がいた。


 少女はうつむいて、身体を抱くようにしてペタンと座り込んでいる。

 泣いているように見える。

 股には一筋の真っ赤な鮮血……。

 考えるまでもなく、言うまでもない。


 これ、犯罪の現場ですよね。


 クロードォォ!! てめ、ついにレイズをヤってしまったのか!?

 ギラッと光る瞳が俺を捉えると同時、瞬間的にドアを閉めた。


「……レイズ、まさか、なあ、まさか?」


 振り向いて部屋の真ん中まで行くと、俺が寝ていたであろう布団の枕元にスゥがいた。

 手を伸ばすと、ぴょんと跳ねて乗ってきて、そのまま頭の上に自ら登って行った。

 さて、とりあえずはこの夢が覚めるまで、もしくはここから脱出する方法が見つかるまでどうするか。

 と、頭の上のスゥがぐいぐいとあのドアを示した。

 開けろと言いたいらしい。

 俺はもう一度あの禁断パンドラのドアを開けた。


「………………………………」


 これは言ってやらねば。


強姦レイプ魔‼」


 そしてすぐさまドアを閉じる。

 なんだいなんだい。

 壁際までレイズを追い詰めて無理やりに唇を奪おうとしてたよあいつ。

 腕を捻り上げて片手で胸のあたりを抑えて。


「はぁ…………」


 ため息をついてどうするかを考えていると、またもドアを開けろとぐいぐい頭の上で動く。

 もう嫌なんだけど。

 それでも、とくにやれそうなことがないのでドアを開けた。


 今度は違った。

 死体が転がって、肉片とヘモグロビンが飛び散った空間だった。

 その中心には両手に剣を持った人間がぽつりと立っていた。

 赤いフードを軽く被ったやつ……。


 筋肉はついていないが、太っているわけでもない。

 背は俺と全く同じ。

 髪は黒髪でところどころがクセでピンと跳ねている。

 イケメンでもブサメンでもなく、フツメン。

 顔のパーツの配置、立ち姿勢、服装、見れば見るほど”俺”だ。


「えっ……?」


 気づけば周囲一帯が血と何かだった赤いモノで埋め尽くされていた。

 後ろにドアは、部屋はない。

 スゥもいない。


「お前……誰だよ?」


 まさかな、ドッペルゲンガー?

 見たら死ぬとかしゃれにならんぞ。


交戦開始インゲィジ!」


 ドバっと衝撃波をまき散らしながらやつが向かってくる。

 声は俺と全く同じ。

 そしてそれと同時に、


『リンク確立・ネットワーク接続再開』


 いつか聞いた無機質な声が頭に響く。

 視野に次々に文字や情報が展開される。


「ああ、ここって仮想現実ヴァーチャルリアリティなのか」


 分かってしまえば早い。そういう夢なら、夢らしくなんでもできるだろ。

 それにここは異世界行きになる前、俺がさんざん意識ごとダイブしていた仮想世界じゃないか。

 周囲が遅く感じられる中、俺は覚えていないはずのことを手慣れた手つきで実行していた。

 無意識に刻み込まれたことが勝手に実行される。


「ハッ!」


 四本の銀閃が交差し、火花を散らす。

 気づけば両手に剣が握られていた。

 重さはちょうどいい、しっくりきすぎるくらいになじんでいる。


「ぐっ!」


 ギャリギャリ音をいわせながら、刃が擦れ合う。

 押せもせず、押されもせず、拮抗する。

 パワーも機動力も耐久力もすべて、わずかだけどやつのほうが上だ。

 なのになぜ拮抗できるか。今の俺には魔力があるからだ。


 だけどこのまま拮抗状態で続けば、魔力切れでジリ貧だ。

 こうなれば、やりたかないが肉を切らせて骨を断つ。


「いい加減にしろ!」


 左の剣で俺から見て右の剣を弾く。

 やつの剣が俺の腕を捉え、その隙に自由になった右の剣で首を刺す!


 ―――


 目が覚めた。

 窓からは相変わらず曇天の空が伺える。

 そして隣では、俺を抱き枕のようにして抱き付いて眠るフライアがいる。

 顔が赤く、汗をかいている。若干息も苦しそうで……。


「フライア? 大丈夫か?」


 肩を軽く揺すっても起きない。

 おでこに手を当てれば熱かった。

 熱がある。


 いままでの疲れが一気に出たのだろう。


次回更新は4月24日の予定です。

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