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遥か異界で  作者: 伏桜 アルト
第4章 敵対者の離岸 
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買い出し

「単純に疲労だ。二、三日休めば大丈夫だろ」


 ウィリスのそんな診断により、フライアは一人ベッドで眠っている。

 しかし意外だ。ここにいるラグナロク兵の中でウィリスは軍医のようなことまでしていた。

 ほかに回復魔法を使える奴もいたが、使えるだけで診断は一切できない。

 しかもこれを機に俺たちを始末するかと思いきや部下に指示して護衛までしてくれるという何ともご都合主義な展開だ。

 絶対に裏があるぞ。

 そうだ、護衛という名目で常時監視。隙あらば後ろからグサリ……なんて考えたくもねえよ。


「アキトォ……」


 朝よりも熱が上がって、顔には汗がある。

 俺が見る限りは重度の風邪にしかみえず、生属性魔法をかけてはみたが効果なし。

 ほんとに疲労らしい。

 魔法でどこまで回復できるのか、この辺もうちょい知っておきたいな。


「あの、あとは私がついているので……」

「そういうことだ、後はリナに任せてお前は一緒に来い」


 リナが濡れタオルを絞って、俺はウィリスに引っ張られる。


「ちょ、なんで」

「あぁ? 汗をかいた身体を拭くのを見る気か?」

「そういうことか」


 そのまま襟を持たれ、ずるずると部屋の外へ。

 案外この服は丈夫だ。

 いままで散々、斬られて破られ貫かれ……というのに傷一つない。

 気づいた時には自動的に破れた個所が修復されているのだ。

 あの万屋のおっちゃんはいいものをくれた。

 まあ汚れはそのまま残るのだが。


「とりあえず、買い出しに行くからお前もついて来い。どうせ色々買い足しておくだろ?」


 宿を出て露天商のある区画へと赴く。

 この区画に入ったすぐ俺は目を瞠った。

 純粋な”人間”が見当たらない。

 角があったり翼があったり尻尾があったり鱗があったりと、どこを見ても人間がいないのだ。

 しかもその人たちを見て思うことは、誰も彼も爬虫類のような……どこか竜を思わせる部位がある。


「で、何を買う? こっち(ラグナロク)は行くところが決まっているからな」

「出来れば食料と、あとは石鹸とか」

「なるほど。ついて来い、後ろに二人いるが警戒は怠るなよ」


 そう言われて振り返ると臙脂色の軍服が確かにいた。

 男性一名、女性一名。

 胸のネームプレートにはビッグスとウェッジ。

 タトゥイ○ンの出身かな?

 腰には拳銃と剣という、なんともミスマッチな装備だ。

 せめてライトセ○バーだったらさまになるのに。

 しかし宿を出た時にはいなかったはずなのにいつの間に後ろに来たのやら。


 歩いているうちにそれなりに賑やかな場所に来た。

 通りの脇に絨毯を広げて箱と商品を並べて売っているトカゲ頭がいれば、同じようにして詩を歌う吟遊詩人までいる。

 ただ、ところどころに全身甲冑の兵士がいるのが気になる。

 ロングソードを腰にぶら下げて哨戒中のようだ。

 空いた手には紙切れを持っていて、通りすがりに訪ねている。

 もしかしてクレナイを探しているのだろうか?

 昨日の俺の情報が中のやつらには伝わってないってことかな。


「ここだ」


 ウィリスが立ち止まった。

 そこは雑貨屋といった雰囲気のこじんまりとした店だった。

 中に入ると髭の生えた年配のおじさんがカウンターで店番をしている。

 目つきが何とも鋭い。


「同じものを一セット。それと旅道具一式」

「おぅ、待ってろ」


 それだけで分かったのかおじさんは店の奥に入って行った。

 店内にショーケースのようなものはあるが、棚自体に魔法陣みたいなものが掘られていて赤いバリアが張られている。

 盗難防止用なのだろう。解析してみる?


『常駐型迎撃魔法陣』・・・許可なきものが触れるとその瞬間、炭になる


 よし、触らないぞ。

 触らないったら触らない。

 うっかりもなしだ。

 それよりも支払いどうしよう。

 俺は部屋から引っ張り出されたからリュックはそのままおいてきてしまっている。


「待たせたな」


 店の奥から大きな袋と一緒におじさんが出てきた。

 なんとも声があいつに似ている。

 これで眼帯つけて鉢巻つけたら蛇だな。


「いくらだ?」

「三十」


 ウィリスがポケットから小さな袋を取り出すと、白金色の硬貨を二枚出した。


「釣は要らん」


 荷物をお供二人に持たせると店を後にする。

 なんとも異様な店だ。

 棚に陳列されていたものも普通じゃなかったし、買うとしたら相応の対価を取られるのだろうか。


「アキト、この店はなんでもある。あの”万屋”の傘下だから注文すれば大抵のものは買うことができる」

「えっ? どこで○ドアも?」

「あれは……さすがに商売道具は売ってくれないだろうな」


 そうか、残念だ。あれがあればどこにでも行けるだろう。

 残酷な裏設定もないはずだ。


「ほかにいるものはあるか? さっきの旅道具一式に全部入ってるが」


 他に必要なもの。

 食料やらなんやら全部あるというのならまあいいか。

 ほかは……着替えだな。

 俺のは勝手に修復するから、もう魔法でガンガン洗って乾燥させてもよし。

 だがフライアのほうがな……。


「フライアに着替えを買おうかな」


 とは言っても女性ものの服を男が買いに行くってのもなあ、しかも好みも分からないし。


「ウェッジ、これで一式買って来い」

「分かりました!」


 ウィリスが白金貨二枚を渡し、ウェッジは人ごみの中へと消えていった。

 それにしても……人使いが荒そうだな。

 個人的な判断で護衛だの買い出しだのに使ってるところ見るとかなり上の立場……そういやサブリーダーだったな。

 副長と呼ばれていたし。

 そう、そういうことを言えばギルバートたちは、俺の部下(?)たちはどうなっているのだろう。

 うまいことギルバートが纏めてくれているのだろうか?

 見た目的にアレなやつらだからアレなことしていないだろうか?

 心配だ。勝手にリーダーにされた挙句、部下が勝手に悪さして知らないうちに罪を着せられでもしたら困るぜよ。


「なあ、もし勢力クランのやつが問題おこしたら責任ってどうなる?」

「大抵は無条件に監督責任ってことでリーダーかサブリーダーが罰せられる。具体的に言うなら『ジャッジメント』のやつらが何かしらのペナルティを下しに来る」

「ペ、ペナルティの内容って?」

「基本は他勢力への干渉禁止と一定期間の魔法封印。悪ければ殺されるな」


 あいつらがおかしなことをしないように願っておこう。

 神様なんてレイズが殺してしまっていないのだろうが、どうかあいつらが犯罪行為をしませんように。

 ……そういえばいつぞや出てきてすぐに消えた自称神はなんだったのだろう?

 ほんとに神だったのだろうか?

 ウォーデン、移動中に遭遇したアクロバティックなじいさんだった。

 とんがり帽子に青いマント、眼帯をつけた格好。


 ウォーデン、Woden、oden、おでん? 

 こんにゃくに大根にちくわの定番が串にささったあれ。

 いや、オーディンだろ。

 ……あれ? オーディンっつうと北欧神話のかなり重要なポジションの神ですよね?

 そんなことを考えていると、


「ビッグス、先に戻ってろ。アキトは一緒に来い」

「いいのですか?」

時属性テンパスの使い手はこの辺りにはいないから大丈夫だ」

「分かりました。ウェッジと合流し、先に戻ります」


 ウィリスが指示を出し、ビッグスもいなくなってしまった。

 急に心細くなる。

 辺りを見ても竜人と兵士ばかり。

 いきなり外国の言葉が通じない場所に放り出されたような感じだ。


「これからどこに?」

「ギルド、お前の登録を済ませておく。ついでに掲示板も見ておきたいからな」


 ウィリスの後をついて歩く。

 右を見ても左を見ても竜人ばかり。

 中には完全にドラゴンなやつまでいる。

 それにしても掲示板か、某チャンネルのものではないだろう。

 木の板に紙がペタペタ貼り付けられた、ゲームとかでよくみるやつだろう。


---


 歩くこと数分。

 人気の少ない通りまで来た。

 進む先にあるのは『ギルド』と書かれた看板が下がっている建物。


 もうこの世界の文字にも慣れ……あれ?

 俺いつの間に読めるようになった?

 というか最初の魔導書もらったときから読めてなかった?


「離れるなよ」


 そう忠告を受け、ギルドに入った。


 空気がどんよりと淀んでいた。


 それが第一印象だ。

 確かに人は多いが、誰も彼も顔が暗い。

 壁には一面に紙が貼ってあった。

 例の大規模な災害の犠牲者たちだ。

 細かい字で名前が書かれている。

 離れたところから見れば、単に黒い壁にしか見えないほどびっしりと。

 街や勢力別にまとめられて書かれているが、大半は黒く射線が引かれている。


「これって……」

「あの爆撃で犠牲になった奴は大勢いる。戦場に飛ばされたやつ、海に飛ばされたやつ、到底生き物が住める場所じゃないところに飛ばされたやつ、そもそも爆撃自体で消し飛んだやつ、いろいろだ。お前らみたいに比較的安全なところに飛んだのはほとんどいねえ」


 なっ……。

 俺は何も言えなかった。

 黙らざるを得なかった。


 色々ありすぎてそんなことは考えてもなかったし、忘れてもいた。

 よくよく思えば、あの規模の爆撃で生きているほうが不思議なんだ。

 俺は別の場所に飛ばされて生きていたから、当然ほかの連中も同じように生きてるもんだと思ってた。

 じゃあ、フェネは? アルは? キニアスは?


「……くそっ!」


 ウィリスが掲示板の一部を見ながら悪態をついた。

 俺も覗き込むと、ちょうどラグナロクのところだった。

 ウィリス、ビッグス、ウェッジ、ほか数名の名前も丸で囲んである。

 宿で確認した人数と同じだ。

 だが他の名前は黒く射線が引かれている。

 そのインクはさきほど塗られたばかりなのか、まだ乾いてはいなかった。

 全体をさっと見ると、リーダーであるヴァンは丸で囲まれていない。

 そして所属する者はほとんどが黒く塗りつぶされていた。

 プライバシーの保護か、機密の保護なのか。

 生き残りが少ない。大勢死んだんだ。


「アキト、お前は確認するやつがいるか?」

「キニアスとフェネを」


 エアリーとクロードについてはレイズの話からして生きている。

 ギルバートについても恐らく。

 アルはもともと魔物だし、こういうところに載ってはいないだろう。


「キニアスはまだ行方不明だ。フェネはあっちのほうの『七十二柱』ってところに載っているはずだ」


 言われた場所。

 一番端のほうにそれはあった。

 七十二柱と書かれた欄には七十一の名前があった。

 七十二柱だけに七十二人分の名前があるかと思いきや七十一か。

 上から順に見ていくとどれも丸で囲まれていた。


「これなら、生きてるか?」


 そして三十六番目に名前はあった。

 黒い射線が引かれていた。


 ぎゅっと、心臓が締め付けられるようなショックが襲った。

 ウソだろ?

 あのフェネが死んだ?

 不死鳥だろ?

 死んでも生き返るだろ?

 他は全員丸で囲まれているんだぞ?


 見間違いを願って、もう一度上から見直した。

 それでも、そう書かれていることが変わるはずはない。

 射線は引かれたままだ。


「は、ははっ、嘘だろ……」

「ああ嘘だろう。あいつは自由人だからな」

「……マジ?」

「マジだ。前も死んだと思ってたらひょっこり顔を出したからな」


 だったらそれを信じるとしよう。

 それにあの性格だ。

 生きていて変な輩を血祭りに……あ、不味いな、それは不味いな。

 むしろそっちのほうが不味い。


「こっち見てみろ」


 襟を引っ張られて別の場所に移動する。

 そこは、


「エスペランサ……それに俺の名前。もしかして……」

「そうだ、お前の勢力クラン。そして仲間の名前だ。よく覚えておけ」


 そう言って俺の名前に丸を書く。

 生存が確認された証拠。

 誰にも射線が引かれていないところを見ると、全員生きている可能性があるってことか。

 ははっ、改めて俺が結構な人数を率いる立場だと……実感できねえよ!

 それより心配だ。あいつらが変なことをしていないか。

 クロードと運悪く遭遇して全滅、なんてことにならないか。


---


 この後はギルドに登録して『ギルドカード』とやらをもらった。

 これがあるとギルドで仕事の斡旋をしてもらえるらしい。

 ランクというものもあったが俺のランクはFだった。


次回更新は4月26日の予定です。

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