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遥か異界で  作者: 伏桜 アルト
第4章 敵対者の離岸 
48/94

海人族の領地

 ニブルヘイム某所。


「エアリー、いつもどおり後ろから撃て」

「はい!」


 クロードは大鎌デスサイズを片手に前方の敵へと向かってゆく。

 杖を構えてリュックを背負った見た目は普通の青年へと。


「潰せるやつから潰すのは基本だ!」


 飛び上がり、後ろからエアリーが水弾を連射する。

 お世辞にも綺麗な形ではなく威力もあるとは言えない。

 それでも牽制としては十分なものだ。


「ディスターブ」


 敵の魔法使いが水弾を打ち消すために少しだけクロードから意識を逸らす。

 再び意識がこちらに向く前に鎌を振り下ろす。


「失せろ!」


 だが、火花が散ってはじき返される。

 相手の杖には燃え盛る諸刃の長剣が顕現していた。

 クロードは後方に飛びながら敵を重力場で押し潰そうとする。

 しかし相手は自らの足元を爆発させるという方法で逃れる。


「ほんとに厄介だな……」


 クロードも一度後退し構えなおす。

 距離を開ければ一方的に押し込まれる。

 かといって接近すれば強力な魔法の餌食だ。


「エアリー、そっちにいちゃいけない! こっちに来るんだ!」


 敵の魔法使いが叫ぶ。本当に悪者から救い出そうとしているように()()()表情だ。


「黙れよ」

「なあ、クロードだって本心からレイズ側にいるんじゃないだろ?」

「黙れってんだよ! 悪趣味な偽物つくりものはさっさと消えろってんだ!」


---


 あれから数日。

 大した危機もなく足手まとい気味の俺はベインたちと共に海岸に到着した。

 海岸まで来ると沖のほうには日差しが降り注いでいる場所もあった。

 海面がきらきら光を反射してときどき魚がぴちょんと跳ねる。

 そしてそのしたからザバーンと音を立てて巨大魚が口を開けて飛び出る。

 そしてさらにそのしたからドバシャーンと大きな音を立てて海龍らしきものが出てくる。

 立派に食物連鎖ができてるようで……。


 って、なんであんなでかいもんまでいるんだよ!?

 ここは白亜紀か!?


「こら、ぼさっとすんな。行くぞ」


 ベインに引っ張られて俺は歩き始めた。


「あ、そうそう、ここってサンドワームがいるから気を付けろ」


 それを聞いた俺は数日前のあの巨大ミミズを思い出した。


「ひぇっ!?」

「まあ、運が悪ければ片足持ってかれるな」

「冗談っすよね?」

「ああ」


 ふぅ、よかったぁ。


「普通は全身ばくっと喰われる」

「…………」


 シャレにならんて。それシャレにならんて。

 びくびくしながら砂浜を抜けると岩場につく。

 いたるところにイソギンチャクのような魔物とか貝殻かぶったスライムとか明らかに人殺せますオーラのあるカニとか角があるタコとか色々いる。

 さすが生命の宝庫、海。

 そしてたくさんの人間やら獣人がいる。

 なんかア○ターみたいな青い肌の奴までいるよ。

 あははー……え?


「なあベイン、あれって……」

「海人族だな。ここの住人だ、ちょっと話しつけてくるから待ってろ」


 そういってベインが海人族のほうへ行って五分。

 ひどく呆れた表情で戻ってきた。


「あー……」

「どうしたんだよ」

「スライムに住処を追われたから取り返してくれだとさ」

「「……………」」


 俺とフライアは呆れて口を開けなかった。

 なんでスライムに住処を取られてんだよ。

 そう突っ込むしかないだろ?


「まあ、とりあえず中に入るのはいいけどスライムを討伐するまでは通過することは許さないだと」

「討伐するふりして黙って通り抜けたらいけないのか?」

「それをすると契約違反だとか言ってしつこく追いかけてくる」


 話しながらほかの人たちのところに行く。

 いろんな種族がいる。

 ネコ耳、ウサ耳、イヌ耳、翼のあるやつないやつ普通の人間。

 でも共通するのはみんな武器を持っているところだ。


「こいつらカドラ商会のやつらだな」

「かどらしょうかい?」

「こいつらから買うのはいいが絶対に売るなよ」

「なんでさ?」

「話にのせられて気付いたら持ち物が貨幣だけだった。そんなことになるからだ」


 ベインとそんな会話をしていると、男二人が注意深く近づいてきた。

 手にはライフル。

 俺たちに向けはしていないがすぐに撃てる状態ではある。

 粗雑な見た目の男が訊ねてきた。


「お前たちもここを通るのか」

「ああそうだ、そちらもそうだな?」


 ベインが答えると身なりのきちっとしたほうが答える。


「ええそうです。見たところお連れの方がいいものをお持ちのようで」


 一人が俺に視線を向けてきた。

 舐めるように見ると俺の後ろ、背中のリュックから突き出ている杖に向いた。

 悪意ある視線ではないが気持ちいいもんじゃない。

 そして一通り見ると俺のほうに来た。


「良い杖ですな、いくらならお売り頂けますか?」


 いきなりだな。


「売らねえよ」

「ではリュックサックは」

「売らない」

「いい生地ですね、その服は」

「売らない」

「腕が立つとお見受けします。いくらなら」

「雇われない」


 言い終わる前にきっぱり否定すると諦めたらしい。

 なんだこいつら。

 押しかけ買取人か?

 そんなことを思っていると俺の隣にいたフライアに目を付けたらしい。


「な、なによ」

「嬢ちゃん、美人だね、一発いくらで」


 とん、とやさしく男の肩に手が置かれた。


「俺は一応ヴィランズの所属でなぁ……」


 ベインがおどすような低い声で言った。

 それだけで男は慌てて、ライフルを落としそうになりながらも俺たちから距離をとった。


「い、いらないものがあったらなんでも買い取りますよ?」


 最後の最後までこいつは……。

 男たちが離れるのを見届けてから俺たちは座れそうな場所を探して座った。


「きっぱり断れればいいんだが、たまにノーと言えないやつが餌食になるんだよなー」

「その言えないやつって?」

「まあ、冒険者になりたてのやつとかだな」


 おもむろにベインが立ち上がって背負っていた袋から例のくそ不味い回復薬を取り出した。


「ちょっと待ってろよ」


 ベインはすべての回復薬を抱えてカドラ商会のやつらがテントを張っているほうへと赴いた。

 なにを話しているかは聞こえないが、一本手渡してぐいっと一飲み。

 ブハッと男が噴いて怒ったような表情を見せる。

 そしてベインが回復薬をすべて置くと、某通販番組の社長的な感じで商品紹介のようなことを始めた。

 しばらくするとベインが袋を二つ受け取って戻ってきた。


「稼いだ稼いだ。ちょろいな」


 ……本当の悪党はここにいた。


「やられたらやり返す、これ基本だ」

「……それって不用品ゴミを押し付けて金をぶんどったと言えるんじゃないのか」

「言えるな」


 ベインは袋を地面に置いた。

 片方からはじゃらりと金属の擦れる音がして、もう片方は茶葉の匂いか?


「アキト、ちょいリュック貸せ」


 取られて困るものは杖以外ない。

 見られて困るものはありすぎる。


「なんでだよ」

「その中に穴の開いた鍋が入ってたろ?」

「あるけど」


 いつぞや釣り上げてそのまま放り込んだまますっかり忘れてた。

 取り出してベインに渡すと、穴のある場所をさっと撫でた。

 すると穴が消えていた。

 魔法ってホント便利だ。

 そして魔法で水を入れて魔法で火を起こして沸かし始めた。

 ある程度わいてきたところで茶葉を投入。

 いい匂いと色が出てきたな。


「とりあえずは今日はここで寝る」

「えっ? 洞窟に入らないのか」

「引潮の時にしかこっちからは入れないんだよ」


 魔法で作り出されたコップにお茶が注がれて俺とフライアの前に置かれる。


「だから、あしばらくはここで待ちだ」


 お茶を飲みながら適当に無駄話。

 ここの海底洞窟はほんとに海底洞窟なんじゃなくて、岩が浮いていて、その隙間を洞窟とよんでいるだけらしい。何らかの魔法で内部には空気が充満していて迷宮のように入り組んでいるとも。

 そして途中からカドラ商会の髭面のおっさんも混じってきた。

 おっさんの話によるとカドラ商会はどこかに定住したりはせずに年中あちこちを移動しながら売り買いしているのだと。

 いろんな地方の珍しいものを安く大量に買い込んで別の場所で高く少しずつ売る。

 そうやってやりくりしながら何十年と続けているんだと。

 そんでもってここの名産品は? と聞いてみると、海と言やあ魚介類だろうがよ、と当たり前の回答がきた。


「なあ、おっさん、名前は?」

「なぁに短い付き合いだ、名前なんて覚えてもしゃあねえよ」


 と、気楽に話はするがあまり関係を引きずるような方向のことは答えてくれない。


「そうか……そういや、なんでも買い取るんだよな?」

「ああそうさ。なんかいいもんでもあんのかい?」

「これなんだけど……」


 ベインとフライアに見えないように(変態と思われたら嫌だから)リュックから例のコスプレフルセットを取り出した。


「こりゃすげえ、素材はなんだ」


 興味津々の子供のような感じだな。


「神龍の皮だ」

「……へっ?」

「だから神龍の皮だよ」

「さすがに……それは買い取れねえ。うちが潰れちまう」


 ……潰れる?

 まさかそんなに高価なものか、これは。


「そっか」


 再びリュックに放り込んで留め具をきちんと閉めた。

 杖はすぐに引き抜ける位置に固定。

 そのあとも適当に話をして気づけば夜。

 カドラ商会のやつらもテントに引っこんで、髭のおっさんも帰って行った。

 その後はベインが獲ってきたカニ? とかタコ? とかを食べた。

 見た目は完全に魔物、食いたくない彩りであったが意外に美味だった。


「さて、寝るか」


 ベインが腕を振る。

 それに従うように夜の闇の中にべつの黒いものが波打った。


「……なんだ?」

「召喚兵だ。少し前に説明したろ?」

「ああ、そうだったな」


 ベインは真っ黒な何かをたくさん召喚して、俺たちの周りに壁と屋根を作った。

 ごつごつした固い岩場に寝る。

 さすがにこれは明日がつらいぞ……。

 そう思って目を閉じた。

 波の音が小さく響く静かな夜だった。

 ときどき、ぐちゃっ! とかぐちゅっ! とか精神的によろしくない音が聞こえる夜でもあった。


 ---


 朝。

 もうれつな血の臭いが鼻を刺した刺激で起きた。

 俺が起きた時にはすでにみんな動き始めていた。

 周りを見れば血と肉片、ところどころに白い骨。

 何があった!?

 ……いや、わかってるけど。夜中のうちに襲ってきた魔物だろ、これは。



次回更新は4月6日の予定です。

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