4-5 倉田叶⑨
三人で勉強会をおこなった翌日、叶と六花は一緒に登校していた。
それは登校途中の僅かなに生まれた何気ない沈黙。
仲が良くてもずっと話してるわけではない。
一つの話題が終わり、次の話題に移るまでの、わずかな沈黙だ。
時間にすれば五秒程度のことだっただろう。
沈黙を破ったのは六花だった。
「あのね、カナ。ちょっと聞きたいんだけどね……」
珍しく遠慮がちな彼女の声。
「ん? なにか悩みごと?」
「カナちゃんは、リョウくんのことどう思ってるの?! ほら、前にリョウくんに屋上に呼び出されてから二人ともギクシャクしてるよね? や、やっぱり告白されたの?!」
目を瞑って勢い任せの言葉。
それに叶は目をぱちくりとさせるだけだった。
何を言ってるの?
えっと良太がどうしたって? 私が良太を……前に屋上に呼び出されたこと? 理解が追いつかない。
登校途中の学生達が、何事かと興味の視線を向けるが、首を傾げて学校への歩みを止めることはない。
青空をしばし見つめて、六花に視線を戻すと、彼女の変化に気が付いた。
彼女の頬は桜色に染まっている。
たったそれだけで理解した。
――そっか。
近くてわからなかった。
彼女――白原六花は、黛良太に好意を寄せているんだ。
凄いな。
自分も六花も、そして良太もこの十六年を同じ速度で歩んできた。哀しみいことも、楽しいことも、辛いことも、嬉しいことも、全部共有してきた。
誰かの誕生日なら、お互いの家でお誕生日会を開いたこともある。
誰かが病気をすれば、お見舞いにだっていった。
誰かが泣けば、慰めた。
でも、いつからだろうか。
無邪気にそういうことができなくなったのは。
良太、六花、そして叶。
三人はいつのまにか、少しずつ距離を取るようになってきた。
表面上は変わらない。
でも、お互い成長して、性差を無意識的に認識始めたころだろうか?
小学校の、あれは四年生ぐらいか? そのぐらいまでは三人でお風呂に入っていたこともある。それも高学年になったころから、なくなっていた。
幼なじみ。
言葉にすれば短い単語だ。
けど、繋がりは深い。
お互いがいるのが当たり前で、友人で、家族で、そしてクラスメイトだ。
白原六花はそれらをわかった上で、いつしか線引きしていた関係性を超えていこうとしている。
自分には出来ないことだ。
「別にどう思ってないよ。アイツは幼なじみで、それだけ……。ギクシャクしてるのは別のことが原因」
叶は今まで通りに接しようとしているけれど、やはり良太に自分がロザリアだとバレている可能性があるため距離をどこかで取ってしまってるんだろう。
良太も六花も、日常側にいてほしいんだ。
日常と非日常をわける境界線は、叶自身にある。
『倉田叶』と『魔法少女ロザリア』、どちらも同じ存在だ。だからこそ、日常と非日常に身を置く自分が境界線だと思う。
できることなら、良太はこれ以上ロザリアに関わって欲しくない。関わることが出てきてしまえば、彼は非日常側になってしまう。
――二人は、私の日常のシンボルなんだと思う。
今のままでいたい。
六花は叶の言葉に、喜びを隠しきれずに、再度問う。
「ほ、ホント?」
「うん」
良太に対して、何も思っていない。
彼は幼なじみの男の子。
だから、何も思っていない。
「わたし、今日リョウくんに告白しようと思うの」
いつから決めていたの? とは聞かない。きっと六花は悩み抜いて、告白を決めたのだろうから。
その理由を、その決断を、聞くのは野暮だと思う。
「そっか、がんばれ」
ズキリ。
なぜだろう。
六花の問いかけに答えた自分の胸に痛みが走った。
痛みの正体はなんだろうか?
――変化するのかが恐いの?
六花が良太に想いを伝えたら、幼なじみという関係が変わってしまう。
それが痛みの正体?
いや、違う。
否定する。
変化自体を恐れているなら、それはおかしい。
自分はどうだ?
一度死に魔法少女として生き返り、それでもまだ日常を望んでいたのではないか? 変わってしまった自分が何を恐れているんだ?
それを自覚したからこその痛みなのではないか?
校門が見えてきた。
けれど叶は、自分の中の疑問に答えを出せないままだった。
「そういえば、今日は夕方から雨が降るんだっけ」
青空をみて、呟いた。




