4-6 黛良太⑤
黛良太にとって学校での楽しみは昼休みだ。
なにせ弁当を食べて、クラスメイトとふざけたり遊んだりできる。放課後を除けば、高校生が使用できるもっとも多い時間だ。
自分が楽しむのもいいが、やはり他のクラスメイトの笑い声などで、クラスが賑わっている雰囲気が好きだ。
そんなことを考えながら、母親が作ってくれた卵焼きを食べていると六花が声を掛けてきた。
「あのリョウくんちょっといいかな」
「どうした、りっちゃん。顔真っ赤だぞ?」
そう心なしか彼女の顔が赤く染まっている。
――熱でもあるのか?
いや、みたところ体調が悪そうな感じではない。
俯いた彼女は、声を緊張させて、続きを口にした。
「あ、あのね、ちょっと屋上にいかない?」
なんとなく今、教室を満たしている雰囲気にむずがゆさを感じる。
気のせいか?
クラスの連中の視線を妙に感じるんだが……。
男子からは敵意に似た何かを感じる。女子からは好奇の目だろうか? いや、女子たちはどこかそわそわしている雰囲気だ。
窓際で腕を組んでいる叶に目を向けて状況説明を求めたみたが、
――ばーか。
と視線で返された。
なんだ?
クラスの雰囲気、叶の態度、六花の行動、これらから得られる結論を、良太は想像できないでいた。
とりあえず、六花の提案に応じるか。
「ああ、別にいいけど、ここじゃだめか?」
良太の返答が予想外だったのか、六花があたふたと動揺した。
「ここで?! いや、それはわたしとしてはとても……」
動揺の結果は困り顔だった。
それに気が付いたのか、教室中から声が上がった。
「そうよ、黛君は気を遣いなさいよ」
「良太、お前バカだろ。さっさと屋上いけよ、目障りだ」
なんで自分は罵倒されてるんだ?
自分だけがこの状況を理解していない。ということだけを認識できた。
騒ぎの中、事態が停滞している六花をみてみれば、このままどうかするんじゃないかというぐらい、六花の顔が真っ赤に染まっていた。
これ以上ここにいると、六花がゆでが上がるか。
仕方ない。クラスメイトの提案に従って屋上に移動することにした。
「とりあえず、行こうか」
クラスメイトたちの温かな視線と、幼なじみの冷ややかな視線を受けて、教室を出た。
教室よりは静かだが、廊下も休み時間中の生徒の喧噪で賑わっていた。
階段を二階分昇る。
屋上へ続くドアを開けると、風が吹き込んできた。
気持ちがいいほど晴れ渡った青空から降り注ぐ陽光に目を細める。
適当に歩きながら、
「で、話って?」
「えっとね、あっちにいかない?」
六花が指さした方は、人気が少ない。
「ん? そうか」
指された方へと歩いて行くが、未だに良太は自分の置かれている状況がわからない。
屋上で昼食を取っている学生達は、良太たちをみてヒソヒソと言い合っては、好奇の視線をこちらに投げかけてきた。
屋上の縁、あとあるのは金網と眼下のグラウンドぐらいだ。
そこで六花はゆっくりと、言葉を選ぶように、口を開いた。
「あのね……」
言葉が途切れる。
六花は俯いてしまった。
良太は先を促さず、彼女が続きを告げるのをただ待っていた。
一呼吸、二呼吸。
沈黙は十秒続いた。
「わたしね」
俯いていた顔を上げた。
輝いてみえるほどの笑顔だ。
「わたし、リョウくんのことが好きなの。だから、幼なじみじゃなくて、彼女として……」
六花が必死に言葉を紡いでいる。
単語を重ね、声を重ねて、想いを重ね、伝える。
けれど、良太の耳には途中から、彼女の言葉は届いていなかった。
必死に伝えようとしてる彼女の声も、表情も、まるでスクリーンの中の出来事みたいだった。
好き?
りっちゃんが俺を?
――俺と彼女は、幼なじみで……叶もいて。
六花のことは好きだと思う。
それは異性としてではない。
彼女のことを異性として、見れるのか?
「だからね、リョウくん!」
「りっちゃん」
「え、あ、はい!」
白原六花。彼女は幼なじみだ。頭一個分小さな彼女。
彼女の瞳を真っ直ぐに見つめる。
良太の視線をすぐには受け止められない六花の瞳は、左右に戸惑うように揺れ、やがて見つめ返した。
「気持ちはすごく嬉しい。俺だってりっちゃんのような可愛い彼女がいればと思う」
「じゃあ!」
「でも、ごめん。俺はりっちゃんを幼なじみとしてしかみれないんだ」
良太の言葉を聞いた六花は、あからさまに肩を落とし落胆した。
また俯いてしまった。
「大丈夫、りっちゃんならいい人みつかるって」
ポンっと、頭に手を置き、撫でる。
さらさらと細い髪の感触と体温が伝わってくる。
六花はただふるふると頭を左右に揺らすだけだ。
「……悪い、先に戻るな」
コクリと六花は頷いた。




