1回表(4)
2回戦も同じパターンの継投策だった。ウチは打順が6番に上がった。1回戦の6,7番は塁に出られへんかったからね。調子のいい選手を使うのが監督のやり方だ。トモカズは4年生のクセに3番。ちなみに1番も4年生が選ばれた。小学校は隣の学区だけど中学生になったら同じクラスになって私の隣に座る……可能性が高い。苗字がひらがな表記だと凄く近いからね。夢の通りであればだけど。
彼は私と同じぐらい足が速い。いや直線はうちの方が速いよ。同じぐらいなんはベーランの場合やからな。そして私と違って1回戦で2本のヒットを打った高見沢瞬くん。彼も中学卒業後、九州かどこかの野球強豪校にスカウトされて行ったことまでは知っているけど、その後どうなったのかは知らない。私が知らないということは少なくともプロで活躍はしていないはずだ。
いずれにせよ、その後名前が出るような選手は、小学校のうちからただものではないらしい。うちはこの試合で公式戦初ヒットを打った。しかもマルチヒットで打点もようけついた。
まず2点リードの2回表の先頭バッターとして、三塁側にセーフティバントをした。守備位置はやや前だったけど、うまく勢いを殺していいところに転がった。うちは一塁を走り抜けて内野安打。公式戦の初ヒットがボテボテの内野安打。実にうちらしいヒットだ。だが後のバッターが凡退でうちは一塁に釘付けのまま2回の表が終わった。
3回表、4番のトモカズが1アウト二塁からセカンド強襲のヒットを打って、三塁一塁、ここで5番が満塁策で敬遠、満塁でうちに回って来た。ちなみにこの時代には申告敬遠もない。1打席目のせいか、ほぼ全員内野と言っても過言ではない極端な前進守備を敷かれた。外野まで飛ばす力がないと思われとるんやろな。これでは仮に3遊間を抜いてもレフトゴロになるやろ。やっぱり外野に飛ばすしかない。飛んだらうちの足ならランニングホームランにできるやろ。
これまで練習で外野に飛ばしたことはあるが多いとは言われへん。だが絶対に外野に飛ばさないといけないと思うと多少緊張する。だが、これでもアメリカの大手コンサルで氷の女と異名を取ったこともある私だ。コンサル先の労働組合の男たちに囲まれながら論破したこともある。これくらいのプレッシャーがなんだ。
状況を整理しよう。1アウト満塁。もし1回戦のスコアブックを見ていたら、うちの選球眼が良いことはわかっているはずだ。ここで押し出しになれば何のために敬遠したのかわからなくなる。だから初球は絶対にストライクが来る。うちが初球の内角のストレートを思いっきり引っ張ると、ボールは外野の簡易フェンスを越えていった。
外野に飛びさえすれば長打になると思うけど、我ながらよく飛んだものだ。おもいっきり走る手間が省けたので文句は全然ない。それにこの後前進守備をされることが減るはずやからバントしやすくなる。いいことづくめやと思った。
次の試合からうちは2番バッターになって、まあそれなりにいい仕事ができたと思う。バントは全部成功させたし。だが、大会は府大会の準決勝まで進んだものの、そこで1点差で負けた。
「来年はもっと強くなれるから泣くな」
そう監督に言われてもうちは最後までひとりだけ泣いた。
こんなに野球のことばっかり書くとうちが野球ばっかりしているように聞こえるかもしれへん。実際そのとおりなんやけど成績は良かった。テストは満点が当たり前やし、クラスのガキどもの面倒を見るのも朝飯前、担任教師といい関係を築くのも簡単、両親にはもちろん私のいいところをアピールする。親の負担が大きい少年野球については、いつも両親に感謝の言葉を伝えた。ステークホルダーと良好な関係を築くのはビジネスでは不可欠な要素や。
うちは別にマキャベリストやなくて、普通に両親に感謝してるんやからな。ホンマやで。
5年生になるとトモカズとは別のクラスになったがうちは別にどうでもよかった。東荻ブルースでは下の学年には女の子も入って来たので、とてもいい感じや。女の子が入ってくれたのは多分うちがそれなりに活躍しているからに違いない。男子だけど5年から野球を始める子もいて、チームは結構賑やかになった。
そして5年生の夏、うちらは府大会で優勝した。こんなこと言ったら笑われるかもしれへんけど、1点差の試合でも勝つべくして勝ったと思う。こちらのチームはストレートしか投げてないから、メジャーで変化球を教えてもらえるようになったらもっと強くなれるかもしれない、などと皮算用をしてしまう。
マイナーだと本当にトモカズ様々だ。ホームランを含め長打をガンガン打つので打率が変なことになっているし、試合の後半(4~6回)にマウンドに上がるとほぼランナーを出さない。
言うとくけどちゃんとうちも協力しとるで。うちはただの壁やない。トモカズはそこまでコントロールが良いわけではないけど、去年よりはだいぶマシになった。だから内外や上下は、ある程度投げられる。あくまである程度で、インコースに構えてんのに、逆玉なんていうのも普通にあるけど、うちはちゃんとミットに収める。
まあミスもあるんやけど、一応うちのミットに構えたところに投げようとしてくれているのはわかる。それはうちの構えた所に投げきれたら、きっちりアウトが取れるということをトモカズもわかったからやと思う。トモカズよりうちの方がいろいろ考えてとるからな。うちはインサイドワークで勝負するキャッチャーやねん。おかげでトモカズ以外のピッチャーが投げる時もうちがキャッチャーをするのが普通になった。たまにセカンドとか外野も守るけど、このチームの正捕手はウチや。
だが、マイナーだから府大会より上の試合はない。これが21世紀なら、かのMLBの名を冠した全国大会があったりするのだがこの時代にはまだないんよ。でも強豪ひしめく大阪で優勝するというのは結構スゴいことなんや。そうして大会が終わるとうちらは5年生の夏、メジャーに進級した。




