1回表(3)
まあトモカズはうちと違って体もマイナーのくせに大きいから、力があるのはわかる。けど守備かてうちの方が練習しているのにトモカズの方が多分上手い。ウチが勝っているのは足の速さだけやな。
そして難しいノックもちゃんとさばけるようになると、うちは紅白戦にも出してもらえるようになった。まだスポーツでは野球が1強と言って良い時代なのにマイナーチームには学年で20人もおらんからね。将来は隣の区域と統合したりせなあかんのちゃうかなあ。ともかくうちは最初は外野。そのうち内野も守らせてもらえるようになった。練習だとピッチャーとキャッチャーもやった。この時代ではまだ発見されていないかもしれない変化球の名前をうちは知っているのに、その握り方や投げ方までは知らないのでそこは残念というしかない。
キャッチャーとしてはトモカズの球を受けることが多かった。同学年だとトモカズの球をこぼさないのはウチだけになった。トモカズはこの年で100キロに近いストレートを投げることができるので、他のマイナーのキャッチャーは取れない。そう言えば高校で投げ過ぎたので、プロでは野手に転向して成功したんやっけ? あの忘れられない夢の話やけど。
4年生になる前にトモカズは練習試合に出るようになった。ウチが初めて対外試合、もちろん非公式戦やけど、に出たのは4年生になってからや。ウチの学校は3年と4年の間はクラス替えがないので4年でもトモカズと同じクラスや。
うちの初めての打席は平凡なショートフライだったけど、三振じゃなかった、ちゃんとバットに当たったと褒めてもらえた。そして次の試合でうちはサードにボテボテのゴロの内野安打で出塁した。うちにしては上出来やと思う。
そして4年生の夏を過ぎると、うちはレギュラーになって公式戦にも出られるようになった。ポジションはセカンド。ライトも守るトモカズがピッチャーの時だけキャッチャーにポジションチェンジする。
初めての公式戦は、トモカズが先発するのでうちがスタメンキャッチャーやった。トモカズは先頭打者にいきなりストレートのフォアボール。いや落ち着けって。マウンドに行くべきやろか? でも練習試合でもうちがマウンドに行くとかえって力んだりしとったしな。とりあえず落ち着けというジェスチャーだけにとどめた。
ストライク入らへんからしゃあない、うちはストライクゾーンのど真ん中にミットを構えたけど、飛んできたボールは外れている。そしてランナーが走ってきた。うちは走ることを予想していたから二塁に投げて普通に刺した。
リトルリーグでは盗塁はほとんどない。なぜならボールがホームベースを通過する、あるいはバットに当たるまでランナーはベースを離れてはいけないルールやから。簡単に言うとリードは禁止なんよ。
だから単純にキャッチャーが二塁に投げるまでの時間、それをポップタイムというがこの時代ではその言葉はまだ普及していない、それとランナーの走る速さとの勝負になる。もちろんセカンドかショートがランナーにタッグするための時間も必要だけどうちはすぐにタッグできる場所に投げている。つまり捕手がノーコンか肩が弱い場合のみ盗塁をかける、ってことやね。
うちが女やから走ってきたんやね。でも1番バッターを完全にアウトにしたからもう走ってこないだろう。でもシニアになったら当然リードもありやし、ピッチャーがモーションに入ったところから走り始めるので、ウチがキャッチャーを続けるならもっと肩が強くならんとあかん。この辺のノウハウは監督からいろいろ教えてもらわなあかん。監督は元キャッチャーやったらしいし。
というかやっぱりネットが無いのは不便やなあ。図書館でも調べたけど、監督から聞きかじった話の方が説得力ある場合もあるし、このあたりはいろいろ改善せんとあかん。とはいえ乏しい材料の中から、問題点や改善点を見つけるのはコンサルのお仕事なので、私は色々調べたり監督はじめいろんな人にヒアリングをして回った。小学生で野球をやっている女の子、という身分を利用して少し離れた強豪の高校のコーチに突撃したこともある。思ったよりも丁寧に色々教えてくれた上に、またおいでと言ってくれたのはラッキーやね。
話を試合に戻すと、とにかくこの盗塁阻止でトモカズは落ち着いたのかもしれない。100キロのストレートをどんどんミットに投げ込んでくるので、盗塁失敗の後はあっけなく1回の表が終わった。
トモカズは3回で降板して外野に移ったので、それにあわせてうちも4回からセカンドに入った。6イニング制、つまり同点でなければ6回の裏でゲームは終わる。この時代、球数制限のルールはまだないけど、投げすぎは良くないと考えてくれている東荻ブルースではそのあたりもきっちり指導されている。変化球もメジャーになってから教えることになっているので、ちゃんと監督たち指導者が将来のことも考えてくれていると思う。個人的には試合間隔がある場合、球数はそれほど気にせんでもええと思う。
でもトモカズは高校で投げ過ぎて投手としてはダメになったと聞いた。シニアまではちゃんとした指導者に恵まれてたってことやね。いやうちらがシニアに上がった時には方針が変わっとるかもしれんけど。
ともかくウチの初めての公式戦は8番キャッチャー、そしてセカンドでノーヒット。せやけど四球を2つ選んだからそんなに悪くないと思う。エラーも無かったし。チームも勝って2回戦へと進んだ。
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