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さよならホームラン  作者: 多手ててと
9回

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44/47

9回裏(2)

 4回表、うちがマウンドに立った。投手陣の中では1番球種が多いうちが3イニングは抑えたい。そして味方の反撃を待つ。うちは変化球を中心に投げて、4回表を4人で抑えた。6番にセンター前に運ばれたけど、無失点やから問題はない。この6番は一打席も外野に飛ばしているから要注意やね。元々内野だったけど、今はセンターを守っている。器用で足が速い。しかも飛ばせる。ええ選手や。


でも裏の攻撃は1番からやけど3者凡退。まだ1人のランナーも出ていない。なんでこんないつもスロースタートやねん。そろそろ打者陣は目を覚まして欲しい。うちは選手権監督であり、一番責任がある自分を棚に上げてそう思う。


 だって1年生しかおらへんねんで? 全員が小学校から硬球触っているっていうたかて、やっぱり守備練習から入るやん? 旧ラグビー部の遺産があるいうたかて、うちの面々はまだウェイトトレーニングにはちょっと早い。


 学校によっては高校生に入ったらウェイトトレーニングを本格的に始めるところもあるけど、うちは早くて1年の秋、遅い選手は2年生からでもええと考えている。かつて指導者やったうちはそう考えているから、連中をトレーニング室には最低限しか入れていない。だから力負けする。


 そしてラグビー部は当たり前だけどピッチングマシーンを持っていなかった。幸いうちらには甲子園のマウンドに立てるレベルの投手が4人いるので、打撃練習は投球練習を兼ねて行っている。キャッチャーは全然足りないネットを立てる。


 幸いなことに大阪府から公立高校として数十年ぶりに甲子園に出場したことで、(野球部は新設なので学校の)OBOGや地元からの寄付金をかなり集めることができたようだ。そしてうちのメディア対応のおかげで、それらは膨れ上がっている。あまり縁があるとは思えない篤志家からもまとまった寄付を頂いたそうだ。ありがたいことだ。


 そしてうちらに目を付けた国、府、市の議員たちも蠢動しているので、何らかの予算がつきそうだという話もある。それはあまりあてにしていないけれど、生徒会からはある程度の活動費をふんだくることができると思っている。


 それらを使えばピッチングマシーンを導入するぐらいはできるし、電気代も賄うことができる。グランドにはラグビー部の遺産の照明があるけれど、秋になり日が短くなると照明の電気代がこれまで以上に必要になるだろうからね。 


 そういった世知辛い話は試合の後にちゃんと考えよう。5回表、うちはきっちり3人で終わらせた。一死で9番バッターからサードライナーを打たれた時はちょっとだけ焦ったけど。外井がきっちりとライナーを受け止めた。


「と~の~い。ありがと。打席でも頼むわ」


 前の回に外井の打席はショートゴロでチェンジになったのを知っててそう言った。外井の守備はいつものように心強い。一方打撃はまだまだ伸びる余地がある。冬場に筋トレするだけでもだいぶ違うやろ。うちが個人個人に合わせたドリルを作成する予定や。


 でもなんやかんや5回裏の折り返しやからね。そろそろ点を入れないと拙い。そうおもっていると、トモカズが2球目をバックスクリーンへぶち込んだ。さっきの仕返しやね。さすがうちの大黒柱。頼りになるわ。これがうちらの初ヒットやけど、初めて塁に出た、って言ってええんかな? ネクストバッターズサークルに向かいながら、すれ違い様にトモカズに球種を聞いた。

 

「ストレートやったで」


 あのくそ重たいストレートをバックスクリーンか。やっぱりトモカズは化物やな。そう考えている間に黒木が三塁側に上手く転がしてセーフティバントを決めた。まだ5回、1点取った後やしここは確実にいこ。うちは初球をきっちりバントした。一死二塁。この回でなんとかもう1点返したい。


 うちの次は星野なんよ。ここでまた出合い頭の1発が出ぇへんかな。そう思っていると、相手のバッテリーエラーが出た。暴投か捕逸かの判断は記録員に任せるとして、ランナーが三塁まで進んだ。勝手にチャンスが拡大する。ここで1点とれば1点差。星野だからスクイズよりは打たせた方が確率は高いかな?


 うちの期待に応えて星野の打球が外野深くへ飛ぶ。これはさすがに届かないか? 三塁走者の黒木はタッチアップ体勢。浜風のせいか相手のレフトが少し目測を誤ったのだろう。妙な体勢で捕球しながらグランドに倒れこんだ。黒木は足も速いので普通に本塁はセーフだけど、こぼしてくれていたらチャンスが広がる。


 でも審判の判定はアウト。でも星野はよくやった。これで1点差まで迫った。うちが下りた後はマウンドにもいい気分で立ってくれるだろう。そして鷲尾が三振でチェンジ。


 5回裏が終わりグランド整備が始まる。この間にうちは状況をチームメイトと確認する。それが終わってからうちはみんなに言い渡す。


「これで1点差。1点差やったらうちがなんとかする。せやからここから離されんようにぴったりついて行くで。それが相手にはプレッシャーになるんやよ」


 当たり前やけどみんなやる気や。これやったらなんとかなる。グランド整備が終わりうちはマウンドに向かう。うちはこの回までやから、すべてを出し切る。これまで1度も公式戦で投げていないシェイクも使って相手の2番から4番の3人を三球三振に仕留めた。これで少しはこちらに流れが来てくれたらええねんけど。


 6回の裏、先発を務めた笹沢に変えて設楽を代打に出す。設楽はゴロに終わるが、トップに戻って高見沢が8球粘って一塁に歩いた。一死の状況で送ってもあまり意味がないと思ってそのまま楠に打たせる。ショートゴロ、併殺崩れでランナーが入れ替わる。思わず漏れそうなため息をこらえ、ベンチに戻ってきた高見沢を賞賛し、バッターボックスの外井を応援する。高見沢を見習ったのか、外井も柄になく粘ったけど6球目を空振りして三振。そらそんなうまいこといかんわな。でも食らいついていく姿勢はいい。これが終盤に効いてくるはずや。

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