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さよならホームラン  作者: 多手ててと
9回

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43/47

9回裏(1)

 甲子園も明日で最後の試合になった。長かったのは初戦が始まるまでで、そこからはあっという間やったね。3年の春でここまで来れたらええと思ってたけど、まさか1年でこの大舞台に辿り着けると思ってなかったわ。


 なぜうちらが決勝まで来れたのか。そこにはいろんな理由がある。まず地元。甲子園は兵庫県にあるけど、大阪府もまあ地元といってもええやろ。それから話題性。これについてはもう言うまでもない。開幕前からいい意味でも悪い意味でも一番注目されていたチームやね。


 うちも愛想よくマスコミ対応したから、府立川添高校は、新聞でもテレビでも良く取り上げられた。「川添旋風」とかありきたりなあだ名が紙面や画面に大きな見出しで書かれた。


 だから甲子園の魔物がうちらの背中を押してくれたんよ。うちらは普段の練習以上の力を出せて、相手はうまく調子が出ない。だからといってこのまま決勝も勝てるとはもちろん思わへん。甲子園の魔物は変なチームが好きやけど、逆に悲劇も好きなんよ。1年ばっかりのうちらがそれに打ち勝つことができるやろか? それは明日になったらわかるやろ。相手は千葉の立体大柏(りったいだいかしわ)だ。


 立柏(りっかし)は典型的な攻撃偏重のチームだ。ここ5試合でチームのホームラン10本はいかれてる。1試合を残してこれ、既に夏の甲子園の記録に並んでいる。それも特定の化物スラッガーではなく7人で10本。1番から9番、さらに代打までガンガン振って来てホームランにならずとも長打も多い。その反面三振も多いけど、いつこのボールをスタンドに持って行かれてもおかしくない、というとても恐ろしい打線や。うちがキャッチャーに入っていても、マウンドにいても常にそのプレッシャーに纏わりつかれるやろ。


「枝里子、もう寝た方がええよ」


「せやな。そうするわ」


 五十鈴(すず)さんの声に応じてうちはビデオを消して横になった。


 決戦の日、うちらはここ数日間と同じように宿舎を出た。ここに戻って来る時、うちはどんな表情をしとるんやろな。じゃんけんで負けたけど、立体大柏は先攻を取ってきよった。ここまでの試合も先攻が多かったから、初回からどついてくる野球なんやろ。タイブレークが導入された後も先攻を選ぶかは少し興味があるけど、それまで監督が一緒かは覚えていない。

  

 今日の先発は笹沢。彼が最低2回、できれば4回まで0で抑えてくれたら、と思うけどどう出るかは知らん。ただ立ち上がりは心配してない。笹沢が初回から点を取られたのはこの大会を通じて無かった。この試合でもボールは前に飛ばなかった。ふたつの三振の間にキャッチャーフライ。でも立柏も何も考えずに振り回すわけではなくて、ちゃんと考えて振り回しとるつぅことがわかる。これは怖いわ。

 

 そしてこちらの裏の攻撃も仲良くお付き合いして三者凡退。立柏のエースは力で押してくるタイプ。左右がちゃうけど未来のトモカズに近い。来年にはトモカズの方が球速も球威も上になってるて思うけど、今年に限ればトモカズの上位互換と考えてええかもしれん。それに連投の疲れも見えない。難敵や。


 直近の夢での将来の話をするとこの人は高卒ではドラフトの指名にかからず、進学した大学で故障を繰り返す。その後社会人で復活し、オールドルーキーとしてプロ入りし1シーズンだけ大活躍した。凄い選手でも……いや凄い選手やからこそケガには悩まされる。

 

 2回、この回も笹沢は三振ふたつを含む三者凡退。でも6番に打たれたレフトフライは一瞬嫌な感じがした。気を抜いたら、いや抜いてなくても力で持って行かれる可能性を感じる打球だった。うちらの攻撃もやはり三者凡退。なんであんな小さなボールを金属製のバールのようなもので叩いて手がしびれるんやろ。いまだに理屈がわからんわ。セカンドフライに倒れたうちは三塁側ベンチに急ぐ。チェンジやから急いでプロテクターとかレガースを付けなあかん。

 

 3回の表、先頭打者にレフト前に運ばれる。決して悪い球や無かったんやけど、左打者に逆方向にもってかれたね。まだ捉まる様子はないんやけど、場合によっては早いうちに替えた方がええかもしれんけど投手交代は一旦保留。次に前進守備に変えるかどうかやけど、それは定位置にする。まだ回も浅いから、1点は覚悟する。相手の8番がきっちり一塁線に転がしてきたので、一死二塁。笹沢、ふんばりや。

 

 まずは9番のこいつを仕留める事や。さすがに2連続バントはないやろ。それはうちの油断やった。初球、低めのストレートの勢いを上手く殺された。外井が素早くダッシュしてボールを捌いてくれた。でも三塁はさすがに無理なので一塁に投げるように指示。カバーに入った楠がベースを踏んでアウト。オールセーフにならなくて良かった。

 

 2死、されど三塁。そして打順は1番に戻る。敢えて初球はストライクから入る。バットが風を切り裂く音が聞こえて来る。チェンジアップを読んでたんかな? 2球目はシュートを要求。右打者のストライクゾーンから逃げるボールだけど、これも空振り。0-2。追い込んだけど、全然そんな気がせえへん。このアホが。うちは自分に言い聞かせる。笹沢を不安にさせてどうすんねん。

 

 「ええよ、ささざー」


 次はストレート、左のスリークォーターから右打者に対角線に投げるいわゆるクロスファイア。だが読み負けたのはうちやった。こいつも逆方向、ライトに飛ばされた。ライトのトモカズが一瞬ダイブしようとしたのが見えたけど、結局ワンバウンドで処理。ツーアウト三塁やから当たり前やけど、ランナーは悠々(ゆうゆう)本塁を踏んだ。

 

 あれを打たれてしもたか。うちはタイムを取って内野陣を集める。

 

「ささざー、ごめんなあ。チェンジアップにしといたらよかったな」


「ホンマやで。まあ三塁におったししゃあないわ」


 まだまだ笹沢は元気や。これやったら大丈夫や。


「それより打つ方をなんとかせなあかんなあ」


 うちがそういうとみんなが笑った。みんなも大丈夫。2死一塁でゲームが再開する。初球、笹沢がチェンジアップをいいコースに落として、相手の2番バッターがバットを振り回して。打球はバックスクリーンへと飛んで行った。ツーランホームランで3点目が入った。

 

 もう1回タイムを取るべきか? うちは取らずに自分のミットを大きく叩いた。


「まだや、頼むでささざー」


 3番には3球目を打たれた。高見沢(センター)が懸命に走って追いついた。この回、6人のバッターを相手にしたが、もっと多くのバッターとやり合った気分や。時間で言うたら1時間ぐらい? 体感時間はそんなもんやった。


「ささざー。ナイピ。たかみーも助かったわ。こっから追いかけていくで」


「わかっとるわ」


「やられたらやりかえさなね」


 声はバラバラやけどみんな負けてない。だからと言って打てるとは限らないわけで。この回も2三振の3者凡退。次や次。

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― 新着の感想 ―
 お、ようやくピンチらしいピンチ。  2-0かな?  勝っても負けてもお話にはなるから、どっちかなぁ?
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