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さよならホームラン  作者: 多手ててと
9回

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42/47

9回表

 ここは阪神甲子園球場。よう1年目の夏に辿り着いたな。やっぱりレベルの高い投手が4人おるんがよかったんやろね。うちらは甲子園の近くの宿に泊まっている。大部屋なんやけど、うちと五十鈴(すず)さんにはさすがに別の部屋が用意されている。後の時代やとホテルとかやけどな。

 

 大阪大会の決勝戦はいろいろとラッキーだった。準決勝が終わった夜に見た夢の中で、うちらは1年の夏は決勝で清廉舎(せいれんしゃ)に負けていた。チャンスで結構ヒットを打たれたからや。

 

 途中まではうちも流石清廉舎はチャンスに強いわ、と思ってたけど途中で気が付いた。サインが盗まれとるやん。この時代サイン盗みはグレー。あまり露骨にすると審判に注意されるけど、バレないようにするのがむしろ戦術とされていたところもある。ランナーが二塁の時に特に酷いけど、他のランナーや一三塁のコーチャー、ベンチ、さらにはスタンドまでが敵やったわけや。

 

 もちろんうちかて無防備では無かったけど、相手の方が上手(うわて)やったってことやね。これは完全にうちのせい。途中からサインをわざと偽のサインを出したりすると相手の攻撃がちぐはぐになったけど時既に遅しって奴や。

 

 うちは夢から覚めた後、試合を分析して、配球や作戦を変えた。それが功を奏したんやろ。星野からトモカズのリレーで無失点、3対0でうちらが決勝を制し、創部1年目で甲子園の切符を掴んだ。

 

 公立高校が夏の大阪大会を勝ち上がるのはちょうど10年ぶり。それが創部1年目で当然1年生しかおらず、主力に女子選手がいて、その女子選手が監督を務める。甲子園が始まる短い期間に取材が相次いだ。その最初はもちろん試合直後の勝利監督インタビュー。

 

『滝沢監督、昨日は執念とチームワークで勝ったとの発言がありましたが、今日の勝利についてはいかがでしょうか』


 予知夢を見たと言ってもそもそもそれが現実になるかなんてわからない。もし予知通りだとしても、こちらの行動を変えてうまくいくとも限らない。だから普通に勝ったと誇っていいと思う。

 

『チームメイトとその家族、先生方、先輩方など学校関係者の皆様のご尽力、そして多くの幸運に恵まれてここまで来ることができたと思います』


 ほぼ定型文です。

 

『府立高校、それも1年生だけでの予選突破、素晴らしい偉業だと思いますがその辺りはいかがでしょう?』


『その判断はまだ早いと思います。全国は1回戦で惨敗するかもしれません』


 普通に考えたら負けるわ。昨日や今日も勝ったんがおかしいからな。普通の指導者がそんなことを口に出したらあかんねんけど、うちは選手権監督やからな。もちろん気持ちでは甲子園でも勝つつもりやけどな。

 

『甲子園での目標はいかがですか』


 うちは少しだけ迷ったけど言い切ることにした。


『目標はもちろん優勝です。大阪予選を突破したチームにはその義務があると思います』


 ほな神奈川とかどうなん? とか聞かれたら困るけど、それぐらいの気概は必要やろ。


 幸いうちらの初戦は大会7日目の2回戦から、というのも恵まれている。単純に1戦減って5回勝ったら優勝ということになる。夏の甲子園の日程の決め方は結構コロコロ変わっていて、今年は最初に3回戦までの組み合わせが決まる。数年後には以前行われていたように、まず初戦の相手だけが決まって、1戦を終える度に次戦の抽選がある方式に戻る。しかしさらに数年後にはまた今年と同じ方式になる。わけわからへんやろ?

 

 で、2回戦から出られるわけやから、ピッチャーの組み合わせを変えてもいいかもしれん。予選では、笹沢からうち、星野からトモカズというリレーばっかりやったから、このパターンはさすがに読まれていると思う。準決勝と決勝はローカルとは言えテレビで流れてるしな。実際うちも初戦の静岡の高校のビデオを女子硬式の代表チームメイトから手に入れた。

 

 最初のうちは試合の間隔も開いてるはず、と思ったけど、2回戦からやから思ったよりも詰まってた。2回戦に勝てば中3日で3回戦。そこから中1日で準々決勝。それ以降は毎日試合やね。もちろん勝ち上がればの話やけど。あと半年もせんうちに20世紀が終わるというのにまだこんな日程や。

 

 トモカズからうち。星野から笹沢とかを試してもええかもしれん。タイプの違うピッチャーをスカウトしたので、大阪中央大と対戦した時みたいに、3番手、4番手とリリーフするのもあり。府予選の決勝後のインタビューで優勝は義務みたいなことを言ったけど、実際に勝てるとは思てない。普通に考えても無理やろ。たまたま結果が出て大口を叩く。そのくせ負ける。そして春か来年に甲子園に出て上の方にいけたらええんよ。その方が盛り上がるやろ。実際直近の夢の中では3年生で春夏連覇したしな。

 

 だが本当にそうなるかはわからん。

 

 初戦(2回戦)、静岡の学校相手にはトモカズから笹沢にリリーフした。オーバースローとスリークォーター。投げ方はちゃうけど左から左のリレーをしてみたら相手を無失点に抑えた。攻撃はトモカズ、外井、星野にそれぞれ一発が出た。全部ソロやったけど勝ったからまあええか、という大味な試合。

 

 3回戦はうちから星野に繋ぐ。こちらはオーバースローからアンダースローとは言え、右から右。こちらも勝った。継投が上手く行ったというより、相手が初回から自滅した。エースが四球を3連発した後、トモカズをゲッツーコースに打ち取った……はずの当たりをセカンドが見事なトンネル。可哀想すぎるけどそこに付け込むのが勝負やねん。三塁のベースコーチに入ってたうちが腕を回したら、セカンドランナーの楠が変な顔をしながらホームへと懸命に走って生還した。

 

 そのまま楠にうちの代わりにコーチに入ってもらってうちはネクストバッターズサークルに入るために急いだ。こういう時に限って黒木が初球を外野に運ぶんよな。結局ワンアウトも取れずにエースが降板し、うちは2番手投手と対戦。精神的にも動揺しとったやろし、まだ肩も温まってなかったんやろね。棒球がど真ん中に来たのでうちも左中間を破る長打が打てた。これで5点先制。やっぱり気持ちええよね。その後うちはセカンドゴロの間に三塁に進み、ライトフライでタッチアップして生還した。6対0。

 その後もちょくちょく点を入れて大勝。途中からあちらのチームは明らかにやる気が無かった。

 

「こんなんでベスト8になってホンマにええのん?」


スコアブックを付けながら五十鈴(すず)さんがポツリと呟いたけど、うちらは何も悪いことをしていない。何を恥じる必要があるねん。さて次は中1日で準々決勝。そこからは毎日試合がある。4人の投手を使い分けているうちにとっては過密日程の方が有利なんだけれど、だからといって選手に負担を強いるこの日程が好きなわけではない。どこかで一日ぐらい雨になってくれへんかな。

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― 新着の感想 ―
きっと延長戦や再試合が・・・・
 もうじき最終回、ですか。  や、9回自体が最終回ですけど(^^)
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