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さよならホームラン  作者: 多手ててと
8回

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41/47

8回裏

 その日、府立川添高校(ふりつかわぞえこうこう)は朝から雰囲気が変だった。みんな浮足立っている。


 ドラフトが始まるのは夕方からやで。せやけど昼休み、うちが窓際の自席で受験勉強をしていると、テレビ局の中継車が校庭に入って来た。今年は大学生が豊作だけど、流石にトモカズ、外井、黒木の3人は確実に指名されると思う。うちは中継車を少し懐かし気に眺めてからまた勉強を再開した。夏までは部活に専念してたから、少しの空時間でも勉強をする必要がある。今回はこれまで学んだことのない工学部に進もうと思っている。インターネットの時代がすぐそばまで来ている。

 

 夕方になって、元野球部の3年全員が空き教室に集められた。どうやらここが記者会見場になるらしい。

 

「ドラフト始まったら1、2年もここに来るて言うてたわ」


「なんかあったらすぐサボりよるな」


 今年度からこの高校に、他校で野球部の指導経験がある教師が赴任し、これまでの先生に代わって顧問になってくれた。そして夏の大会が終わってからは、うちに代わってその先生が監督になってくれた。受験があるからうちは国体には参加せえへんかった。


 記者会見場になった空き教室のテレビがついて、そろそろドラフトが始まるのがわかった。だが、まだ誰もぴりぴりしていない。なぜかって? それは最初に自由獲得枠の選手たちが発表されていくからだ。大卒や社会人の選手たちが、各チームふたりまで事前に球団と合意済であることが発表される。つまりここで高校生の名前が挙がることはない。

 

 当たり前やけど人気のある球団、あるいはお金持ちの球団が使う制度で、実際自由獲得枠でふたり指名する球団、ひとり指名する球団。枠を使わない球団、本当にわかりやすい。大卒が豊作だということもあって、半数以上の球団がこの制度を使った。目玉の選手を確実に獲得できるのは美味しいよね。実質ここまでがドラフトのメインイベントと言ってもよい。


 ドラフト1位を戦力にできない球団には未来がないからな。

 

 メインイベントが終わった後、ようやく1巡目の指名が始まる。1巡目は入札制で、自由獲得枠を使わなかった球団だけが参加できる。なおこの時代はネットがない。テレビで中継されるのはこの1巡目が終わるまで。2巡目は自由獲得枠を使わなかった球団だけが参加できるウェーバー方式。つまり今年の成績の悪かったチームから順番に指名できる。3巡目は自由獲得枠をひとつしか使わなかった球団によるウェーバー。そして4巡目にようやく全球団が参加する逆ウェーバー(成績が良かったチームから指名する)になり、その後ウェーバーと逆ウェーバーを繰り返す。この方式が比較的短期間で廃止されたのは複雑すぎるからやと思う。

 

 今年1巡目を指名できるのは自由枠を使わなかった4球団だけ。


『第1巡目、選択希望選手、東京ナイツ、大貫(おおぬき)智一(ともかず)、投手』


 おおおっ


 空き教室にどよめきが起こると同時に、カメラのシャッター音がカシャ、カシャとあちこちで鳴り、シャッターが眩しく光る。トモカズ自身の希望球団は地元で人気のある神戸パンサーズだけど、パンサーズは自由枠をふたつ使っているからもう指名されることはない。


『第1巡目、選択希望選手、大阪ウォリアーズ、大貫智一、投手』


 またしてもトモカズの名前が呼ばれシャッター音が鳴る。この世界ではトモカズは神宮スパイクスに入らないのかもしれない。


『第1巡目、選択希望選手、神宮スパイクス、大貫智一、投手』


 これは競争率の高い抽選になるね。トモカズはどこの球団に行くんやろ。


『第1巡目、選択希望選手、名古屋パイレーツ、外井槍次(とのいそうじ)、内野手』


 おっパイレーツは外井を一本釣りか? 敢えて競合必至のトモカズを避けてきたようだ。結局トモカズはパイレーツ以外の3球団から指名され、抽選の結果神宮スパイクスに決まった。よくわからんけどこれは運命なんかもしれんね。外井はパイレーツにそのまま決まり、トモカズのハズレ1位で黒木平太(くろきへいた)が大阪ウォリアーズに決まった。この3人が肩を組んでいる写真や動画が撮られ、後者はそれが生放送された。


 ドラフト1位指名が3人。これだけの選手が揃ってたら、誰が監督でも甲子園でも優勝できるわ。そう思う人もいるだろう。でもこいつらをケガなくここまで育てたんはうちやからな?


 中継が終わった後、記者会見が始まった。急造のひな壇に並んだ3人とも無難なコメントをしている。もちろんうちの事前指導があったからやけど、外井とか1年の時からだいぶ進歩したと思う。そして記者会見中にざわめきが起きた。騒々しいな。なんやろ?


「笹沢青色(ささざわあおいろ)投手が3位指名されました」


 どこかの記者さんが叫ぶ。おおっ。ささざー。よかったやん。笹沢はプロの指名がなかったら、関東の大学に行くことが決まっていた。


「どこですか?」


笹沢が聞き返すが、その答えを別の記者の大声が上書きする。


「続けて星野敬一郎(ほしのけいいちろう)投手も指名されました」


 みんな頑張ったもんな。仲間たちが指名されるのがうちはどれも嬉しい。でも一抹の寂しさもあるんよ。


 指名された選手の分も席が作られる間に、楠雅延(くすのきまさのぶ)と高見沢瞬(たかみざわしゅん)も指名された。スカウトの人がよくこの学校には出入りしていたから、トモカズたちが指名されることには確信があった。でもこの時代はプロ志望届とかもないから、誰が指名されるかどうかなんかわからんねん。


「滝沢枝里子投手が6位で指名されました」


 えっ? この世界でもプロ野球は1991年に性別条項が撤廃されている。だからといってホンマに?

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― 新着の感想 ―
 お、ついに本人もプロ入りかぁ(^^)
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