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さよならホームラン  作者: 多手ててと
7回

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34/47

7回表(3)

 5回戦。先発は笹沢にお願いした。1回戦以来の登板やから少し心配してたけど、ちゃんとうちの構えたところに生きたボール来るのをミット越しに感じる。先頭打者の強烈なサードゴロを外井(とのい)が綺麗に捌(さば)いたのを見て守備も安心した。みんな落ち着いている。

 

 で、問題は攻撃の方。相手の先発は全員が3年生。相手のエースにはうちらが脅威やと思う決め球と言えるほどのものはない。だが守備は堅く、典型的な打たせて取るゴロピッチャー。良い投手によい守備、素晴らしいチームや。せやけどそれだけやと足りてへんところがあるんよ。1回の裏、2死で楠が一塁にいる状況、トモカズの打球が外野フェンスを越えていくのをうちは見届けた。

 

 府立高校の創部1年目、1年生しかいないチームが強豪ひしめく大阪でベスト8、しかも選手(主将)権監督が1年生の女生徒。客観的に考えてもこれで報道陣が群がらない方がおかしい。

 

「それではまず勝利監督としてお伺いします。今日の試合、勝因はなんでしょうか?」


うちはその質問を意図的に無視した。


「すいません。まず最初にチームをここまで支えてくださった、校長先生始め教師陣の皆様、そして新設の部にも関わらず応援に来てくれた先輩達やクラスメイト。そして愛すべきチームメンバーのご家族にまずはお礼を言わせてください。ここまで来ることができるとは正直思っていませんでしたが、これもみなさまの手厚いサポートの賜物だと思います。それでは質問に答えますね。勝因として挙げられるのは、やはり初回の攻防だと思います。初回の表を無得点で抑え、裏で先取点を取れたこと。あそこが今日の1番のポイントだったと思います」


 うちはこれを淀みなく言える。『えっと』とか『あのう』、『そうですね』等は無用だ。こう見えても元女子アナやしな。


「滝沢さんはご自身も2安打1打点。6回から8回をパーフェクトリリーフですが、こちらについてはいかがですか」


昔のうちなら『そんなことよりも』などと口を挟んでいたかもしれないが、今はマスコミを利用させてもらう立場なんは理解している。


「毎日の練習の成果が出せて嬉しいです」


 今日は8回の裏に追加点を入れてコールド勝ち。本来は先発の笹沢を降ろした後は、ライトに設楽(したら)をいれるべきなんやけど、やっぱりベンチに誰もおらんようになるのは怖い。笹沢をライトに入れて、設楽は今日ずっとベンチを温めていた。でも2回戦、4回戦はフル出場してたから許して欲しい。

 

 設楽とは小学生からの付き合いやけど、本当に便利なんよ。このチームだと攻撃力ははっきりいって下の方やけどバッテリー以外の内外野どこでもきっちり守ることができる。ある意味このチームの命綱(いのちづな)やねん。せやからちゃんと活躍の場は与えてあげたい。次の6回戦、つまり準々決勝では今日先発した笹沢がベンチを温める番や。

 

 その準々決勝。この時代はまだまだ球児の体調とかを考慮してくれないので、このあたりまで来ると毎日試合がある。先発はアンダースローの星野、途中からトモカズがリリーフする予定。このチームの5回戦は現地で見てたんやけど、荒いチームなんよ。対戦相手の方が格上やったからそのまま負けるやろと思ってたんやけど、8回に打者1巡の6点を入れて大逆転。うちらもビッグイニングを作られないようにしないといけない。

 

 この試合も初回から動き始めた。先攻のうちらは3番の外井がストレートのフォアボールで一塁に歩いて満塁。昨日の試合でも四球9つやからコントロールが良くないのはわかっていたけど、連投の疲れが出たのかもしれん。ここでトモカズだけど、相手は思い切ったことをしてきた。初回とは言え、無死満塁からトモカズを敬遠した。1点捨てた上に無死満塁で黒木と勝負ということだ。黒木かてこの大会4割打ってんねんで。それでもトモカズ相手は拙いと思ってるんやね。トモカズは凄いね。この試合はもちろんやけど、もし勝ってもこの後の試合でもまともに勝負してもらえへんかもしれんね。

 

 なお相手の作戦は裏目に出た。黒木は右打席に入ってわざわざ右方向に流し打ち。前進守備の中、ひとりだけ深めに守っていたセカンドがなんとかボールに飛びついたけど体を起こした後、どこにも投げることはできなかった。まあよく外野に抜かせなかったと褒めるべきやね。ノーアウト満塁のまま打順がうちに廻って来た。

 

 さてうちも黒木みたいに右打席に入るべきやろか? このチームにはスイッチヒッターが3人もいる。楠、黒木、うち。3人とも中学の頃から両打。10人しかいないチームやのに贅沢なことや。うちは敢えて左に入った。そしたら前進守備がより露骨になった。スクイズだと思ったのだろう。もちろんうちの狙いは違う。スクイズの構えだけして、相手にボール球を投げさせてカウントを整えた。高見沢、(左に入った)楠、ついでに敬遠やけどトモカズまで左打席で四球3。このピッチャー左バッター相手に投げにくいんちゅうかな、と考えたからや。実際データでも得点圏にランナーを出した時の左打者で四球が多い。予想したように7球粘って最後はフォアボール、押し出しで3点目。もちろん無死満塁のまま。ここからは下位打線やけど頼むで。

 

 うちは一塁ランナーやったけど全力で走る必要がなかった。今日の先発投手の星野が初球をレフトスタンドまでぶち込んだからや。入るか微妙なところやったから、うちはハーフウェイで打球を見ていた。星野は大きいのが打てるんやけど、フリースインガーだから宝くじみたいなもんやねん。せやから高校野球で初ホームランは嬉しいやろな。多少気分屋なところがあるけど、今日はいい方向に行きそうやね。ピッチャーとしてもノってくれると思う。

 

 結果、準々決勝を5回コールド。試合途中、ツーアウトからの連続エラーもあったから、相手の悪いところが全部出たって感じやね。でもこれでベスト4ですよ。ちょっと上手く行き過ぎちゃうか? でも次の試合は、昨年秋の神宮大会を優勝した大阪上院(じょういん)。いきなりボスキャラってゲームバランスおかしくない? でもその前にまずは報道陣相手に猫を被らなあかん。

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 あ〜、女子アナ経験ってそういう…
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