7回表(2)
組み合わせの抽選が終わり、夏の大会が始まり、そしてうちらの試合が近づいてもうちは練習の強度は落とさなかった。200校近くあると、会場が複数あってもなかなか試合が始まらへん。練習を続けているうちにようやく1回戦を迎えた。
初戦の相手は昨年は初戦敗退。秋の大会も春の大会も同じく初戦敗退。残念ながらそれ以外にデータはない。直近3大会が初戦敗退だからといってそれだけで今年も弱いとは言い切れないのが学生スポーツの怖いところであり醍醐味でもある。データが無いのはお互い様やしね。だからここからは様子を見ながらになる。一番見られるのは試合直前のシートノック。うちは後攻だからまずは相手に見せつけないといけない。
うちは10人しかいないので、うちがノッカーをするとキャッチャー鷲尾、ファースト設楽、ピッチャー笹沢という、うちがケガでもしない限りあまりない守備位置でノックを受けることになるのでもう少し工夫したい。
うちは基本通り、内野ゴロでファーストへ転送、内野ゴロでダブルプレイ狙い。そこから外野から内野への中継プレイ。それぞれのポジションからボールバックをする。最後は真上に上げるキャッチャーフライで〆る。このシートノックを見たら、うちらが普通の1年生でないことはわかるやろ。こうやって相手に情報を与えながらプレッシャーをかける。その効果はすぐにわかった。相手のシートノックがぎごちないものやったからや。元々下手くそなのか、うちがプレッシャーを与えたからなんかどっちやろ。試合が始まると、どうやら元からあかん方やということがわかった。
だから試合展開も楽なものになった。笹沢が5回を完封し、打線も繋がってコールドゲームで終わった。本当はずっとベンチにいる設楽も出したかったけれど、その後にケガ人が出たら困るから、可哀想だが試合には出せなかった。この試合を2回戦の相手は絶対に観戦しているはずだから、ここでもプレッシャーを与えることができればええねんけどな。ただこのあたりは試合間隔が長いから対策を立てられる可能性もある。でも相手は次が初戦やからこちらは相手のデータは得られへん。
2回戦は星野が先発して5回コールド。多分アンダースローが先発で出て来るとは思ってなかったんやろね。タイミングが全然合ってなかった。3回戦はうちが先発して7回コールド。4回戦はトモカズが先発して7回コールド。4試合通して総失点はわずかに2だが、それよりも良かったのは、与えた四球がわずかに4。死球は0。エラーも0。これは高校野球としては脅威的な数字やよ? ちなみに奪三振が38で総得点は47。
これらの数値を見て、対戦相手はうちらがただの新設野球部の1年やないと警戒しよるやろな。実際警戒される方が見下されるよりもよほど良い。ここまでうちらは文字通り破竹の勢いで勝ちまくった。結果だけ見れば上々や。やはりこれはうちらが強いというよりも相手が弱かったと思うわ。本当に組み合わせに恵まれたと思う。
そしてもう1つ嬉しかったのは、勝ち進んでいるうちに学校が夏休みに入ったことで、生徒たちが球場に応援に来てくれたこと。正直言ってうちは校内の宣伝まで手が回ってなかった。川添はインドアで結構強い競技もあるのに、実は応援団がない。それなのにこうやって自主的に応援してくれるのはとてもありがたいことやと思う。うちは4回戦が終わった後、スタンドに向かって深く頭を下げた。
そしていよいよ5回戦。これに勝てば大阪のベスト8でノルマクリアだ。もし今『ベスト16の要因はなんですか』と問われたら、『組み合わせです』と正直に答えてしまいそうや。でもここでいきなり甲子園で優勝したこともある学校と対戦する。ただそれは30年も前の話だから、強豪というよりは古豪。今はそこまで強いとは思えへん。ここ最近は大阪大会を勝ち抜けてへんしな。もちろん5連勝も、いやこの相手は4連勝した学校が弱いはずがないのでもちろん油断はしない。
うちの馬鹿どもは大阪中央大との試合を見ても思うのだけど、相手が強豪の方がやる気が出るタイプ。負けず嫌いが揃っているからな。だから派手さはないけれど、今回の相手のように地味に勝利を手繰り寄せる相手の方がモチベーションが落ちそうで怖い。もちろんうちも口を酸っぱくして言い聞かせるつもりやけどなんせ高校生やからな。
結果から言うと心配する必要は無かった。私は夢の中で何度か甲子園の土を踏んだ感触を覚えているけど、うちの面々にとっては夢にまで見た初舞台。この後はボスラッシュが控えているとは言え、あと4試合勝ったらあそこに辿り着く、という思いをとても強く持っている。甲子園に出る機会なんて春夏合わせても最大で5回しかあらへんからな。振り返ってみたら最初の1回が最大のチャンスやったね。そんなんは普通に聞く話や。




