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さよならホームラン  作者: 多手ててと
7回

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7回表(1)

 ようやくうちがクジを引く順番が回って来る。年の大阪の夏大の出場校は179校もあるから、トーナメント表はこの大きな会場の大きな舞台ですら、はみ出そうな程大きい。そして1回戦からだと8連勝しなければ甲子園に出ることはできないことも思い知らされる。そんなとても大きいトーナメント表のすでにほとんどの場所に学校名を書いた札がぶら下がっている。空いているところはほとんどない。

 

 うちがクジを引くのは後ろから11校目。まだ空いているところの中に、絶対に引いたらあかんところがまだ残っとるんよ。昨年、決勝で大阪上院(おおさかじょういん)を破って甲子園に行った清廉舎(せいれんしゃ)の隣や。ヤバいな。なんかうちがひいてしまいそうや。


 だがラッキーなことにちょうどうちの前の番の学校のキャプテンが清廉舎を引いてくれた。私の心の中で拍手が沸き起こり、心の中ではガッツポーズをした。もちろん残りの10か所の中にもとても良いところと、まあ仕方がないところはあるが、これで安心してクジを引くことができる。


 うちの前に引いたキャプテンもインタビューを受けている間、うちらは待たされたけれど、それ以上にうちの後のキャプテンたちは待たされると思う。そら女子選手では初のキャプテン、しかも監督兼任、と話題性は多い。


「それではお待たせしました。府立川添高校、滝沢枝里子主将です。高校野球では初めての選手権監督を務めます」


結局監督に加え主将もうちがやることになった。最近になってから決めたんやけど、誰かが「もう、たきざーでええんちゃう」と言い出し、そのまま皆がうなずいた。人望があるのも困りもんやね。


「よろしくお願いします」


 うちは余所行きの満面の笑顔を浮かべた。普通の対応をするだけなので助かる。


「昨年から女子選手の出場が可能になりましたが、流石にキャプテンは初めてです」


この時代、大阪だけでも200近い学校が出場する。全国ならひとりぐらいいてもええと思うねんけどいない。選手権監督もそうや。


「はい。昨年先輩方が切り開いてくださった道を歩めるのはとても嬉しいです」


 実際に切り開いたのはうちやけどね。


「そして選手で監督を兼任するのは男子選手を含めても初めてです」


 それもうちの功績だと自負しているけれどもちろんそんな事は言わない。


「なにぶん創部初年度で1年生しかおらず、右も左もわからない状態です。私が監督を任されたのは、女子硬式での経験があったからだと思います。皆様お手柔らかに対戦して頂ければと思います」


 うちはしおらしく答えた。まだ対戦相手の研究はできていないけれど、内心では組み合わせに恵まれたと今の段階では思っている。


「今回の目標を教えて頂けますか」


「はい、まずは初戦突破というのが現実的な目標だと思っています。また個人的には試合に出場したいと思っています」


 昨年から女子選手が参加できるようになった。だからベンチに入った女子選手は何人かいたが、グランドに立った選手は日本全国でたったふたりだけだと聞いた。その双方が地方の初戦かその次で敗れている。うちはそうはいかへんからな。

 

 「滝沢主将、ありがとうございました」


 こちらこそありがとうございました、そう言ってうちはカメラから離れ、このやけに広いホールの一角にいるチームメイトの元へと向かう。先ほどの映像は確実にニュースに使われるはずや。関西ローカルはもちろん、全国で流されてもおかしくない。うちは女子硬式で知名度もあるしな。


 「ぱっと見た感じ悪く無さそうだけどどう?」


 私は席に戻ると五十鈴(すず)さんに話しかける。この時点で既に最後まで抽選は終わっている。


 「いやメチャええで。これ4回戦までは練習試合みたいなもんやで」


 すずさんに話しかけているのに、妙に興奮した様子の黒木が後ろの席から話しかけて来た。


 「すずさん、そうなん?」

 

 黒木を信用していないわけではないが、より確実な人物に確認しておく。


 「せやね。少なくとも強豪と思われてる学校にはしばらくあたらへんね。5回戦の相手もせいぜい古豪、そもそもDブロックには優勝候補がおらんからベスト4も夢やない。多分うちらだけやなくて他の学校もそう思っとるやろね」

 

 それはええことや。でも高校野球の経験値を稼げないままで、いきなりボス戦が始まるのもいやなもんやな。ないものねだりの贅沢な悩みやけど。先ほどのインタビューでは初戦に出たい、そして勝ちたいという話をしたけれど、それを達成しただけでは来年、再来年にいい新人が来てくれへん。


 そら東荻(ひがしおぎ)シニアの後輩は来てくれるかもしれんし、外井とか他のチームの後輩も来てくれるかもしれん。でもうちの頭の中にはひとつ下の世代の有望株のリストがあって、彼らをスカウトもするつもりやねん。


 でもやっぱり実績ないと辛いやん? だから組み合わせに恵まれるのは大変ありがたい。大阪で新設校がベスト4? そんなありえへんことを起こしたらインパクトは大きいやろう。もちろん本当にうちらが勝てるかは下駄を履かなわからへんけど、準備はするべきなんよ。

 

 「よし、ほな帰って練習すんで」

 

 うちはみんなに声をかけた。全員が抽選前より緩んどる。これは気合を入れ直さなあかんね。実際問題、高校野球では前評判が良かったチームがあっさり負けることも少なくない。その原因はいくつもあるけど、油断はその最たるものと言ってもええやろ。ギチギチにネジを締めてガチガチにしたるからな。

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