↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
さよならホームラン  作者: 多手ててと
1回

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/21

1回表(1)

 なんだかすごく長い夢を見ていたような気がする。だいたいなんでうちが43歳やねん。うちのおかんより上やん。うちはまだ1桁やで。せやけどまあ、コンサル会社のパートナー? とかいうのもカッコよかった。英語もペラペラやったしな。さすがうちや。夢に出てきたのがトモカズというのが少し気に食わへんけど。


 トモカズ、大貫智一おおぬきともかずはうちのクラスメイトや。まあ顔ははっきり言ってブサイクやし脳みそも足りへんと思う。だけど、体は大きいクセにすばしっこくて運動はなんでもようできる。せやから男子の間では人気者だ。

 

 そしてトモカズはいかつい顔をしているくせに、結構優しいところもあるので、そのギャップからか一部の女子の間でもそこそこ人気があるようや。うちとは席が前後ということもあってそれなりに話をしたりする。まあ悪い奴やない。せやけどなあ、あいつがプロの野球選手になるとはうちには到底思えん。そもそも野球やってんのかな? まあ夢のことなんか考えてもしゃあないわな。


 そんなことを考えているうちにうちは学校に着いた。教室のいつもの席に行くとうちの席に男子が座っている。うちの前の席がトモカズで、その仲間たちが集まっている。教室の1番窓側やから、前がこんなでかぶつでも、ちゃんと黒板が見える。それにしてもいつもは遅いクセに今日はなんでこんなに早いんやろな?


「おはよ、なんか知らんけどみんな早起きなんやね」


 うちのクラスは比較的男女の仲が良い。他のクラスだとだいたい男子は敵だったりするが、このクラスは比較的まともな男子が多いからだと思う。実際男子ってたいがいアホやん? 特に集団になるとアホばっかりになるやん? そういう意味でうちは、アホにはならないこのクラスの男子を少しは気にいってる。


 そしてクラスをそういう雰囲気にしたうち自身の努力も、少なくともうち自身と担任は認めてくれている。ああ、なるほど。うちが夢の中でコンサルのパートナーとやらになるのもなんとなくわかるわ。


「ああ、ゴメン滝沢。座らせてもらっとった」


 こんな風にうちが何か言う前から、素直に謝って立つところなんか見どころがあると思う。


「うちがおらん時は別に座ってくれてかまへんねんけど、なんで集まってんの?」


 うちは男子たちに聞いてみた。


「いや昨日俺な、東萩(ひがしはぎ)ブルースの練習に参加させてもろてん。特別にな」


 うちが自分の席に座ると、トモカズが興奮した口調で話し始めた。


「東萩ブルース?」


 ここが東萩小学校やから、この地元の何かであることは間違いない。


「野球。少年野球のチームやねん」


 うちは今朝見た夢を思い出した。こいつがホンマにあの大事な試合でサヨナラホームランを打つんやろか?


「トモのこと監督がメチャクチャ褒めとったもんな」


 全員がと言うわけではなさそうだが、一緒に参加した男子もいるらしい。


「夏休みになったら絶対通うわ。オカンもオトンもええやんて言ってくれてん」


 少なくとも小学生レベルでは才能があるらしい。それにしても気になることがあるのでうちは素直に聞いてみた。


「なんで今すぐ入らへんの?」


 うちが聞いたらトモカズが待ってましたとばかりに答えよる。


「よくわからんけどブルースは小3の夏からなんやて。せや、滝沢も入ったら? 少ないけど女の子もおるねんで」


 トモカズはえらい突拍子もないことをいうなあ。


 確か「全国高等学校女子硬式野球選手権大会」ができたのが1997年のはず。それも最初のうちは参加校が数少ない。後4年後だから、私が高校生になる頃には参加することができる。ってなんでうちはそんなん知ってんねん。夢をうのみにしてどうすんねん。


「滝沢めちゃ足速いもんな」


 あの夢はトモカズのサヨナラホームランで終わったけれど、43歳のうちはかなりの野球オタクで、日米のプロ野球は当然、女子野球のこともまたよく知っていた。その知識が頭の中に残っている。変な夢やったなあ。


「滝沢も野球せえへん?」


 トモカズらしからぬ熱心さでうちを野球に誘う。少年野球やで? 女子は数人って自分で言ってたやん。そして奇妙なことに、トモカズの友人たちは黙って、多少ニタニタしながらトモカズとうちのことを見ていた。


「なにがおもろいん?」


「野球は見てるだけでもおもろいけど、自分でやったらもっとおもろいねん」


 うちはトモカズに聞いたんやなくて、その取り巻きどもに聞いたんやけどな。まあええわ。


「夏になったらやろ。日曜日とかに校庭でやってる奴やろ。ちょっと見に行ってみるわ」


 ウチがそう答えたのがよほど意外だったらしい。誘ったトモカズはもちろんその周りの男子たちもびっくりしていた。


「なんなん?」


「いや、思ったより簡単にきてくれるんやな、って……」


 トモカズがぽつりとそう言った。


「まあ、そやな、気ぃ向いた時にな」


 これが本当にあの時代を代表する大打者、大貫智一になるんやろうか?


 大貫智一、入団から43歳で引退するまで神宮スパイクス1筋のフランチャイズプレイヤー。プロ通算25年、通算打率 .289、2521安打、本塁打578本。つまり4本のヒットのうち1本がホームラン。まあそんなバケモンがこんな近くにおるわけないわな。あれは夢やから気にせえへん方がええやろう。


 でも……もしかしたら正夢という奴かもしれない。ええっと、たしか大貫智一は未婚だったはずだ。トモカズははっきり言って顔は今もブサイクだけど、夢の中では超一流と言って良いプロ野球選手だった。有名人で金持ちがモテないはずがないので、さぞ女をとっかえひっかえしていたのだろう。そう考えるとなんかムカつくものあんな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
>>大貫智一、入団から403歳で引退するまで 吹いたwww
 ああ、やっぱりちょっとファンタジjー入った恋愛ものお上手ですねぇ。  ややツンデレ気味なヒロインが可愛い(^^)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。