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さよならホームラン  作者: 多手ててと
6回

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28/47

6回表(2)

 試合はこちらが先攻で始まった。相手は甲子園で投げたこともあるピッチャー。真っ直ぐとカットボールが持ち球。当たり前やけどええ選手や。初回は1番いい打順で挑めるから3者凡退は勘弁してほしい。


「1番、センター、高見沢君」


 なんとまあ、アナウンスまで付けてくれる。これは雰囲気でるわ。それに気を良くしたのかはわからへんけど、高見沢は9球粘って四球で出塁した。カーブとチェンジアップも含めた持ち球を全部投げさせたし、追い込まれてからもしっかりカットしてファールしていたから、大学生相手にちゃんと通用している。前には飛ばへんかったけどトップバッターとしては100点と言ってええやろ。


 2番の楠にうちはバントを指示。楠は初球をキャッチャーフライにしたが、キャッチャーが捕れなかったので助かった。ベンチでみんな変な声出たやん。気を取り直したのか2球目をきっちり決めて1アウト二塁。まあ……まあ、理想的な展開や。


「3番、サード、外井(とのい)君」


 クリーンナップは、外井、トモカズ、黒木の順番にした。もしうちの他にも予知夢なりタイムスリッパーなりがいたら、この3人が並んでいるのをみて驚くに違いない。凄いやろ? どちらかというとパワー系の外井とテクニック系の黒木は本来逆かなと思ったが、これまでの練習試合だと意外にもこちらの方が打線がつながる。


 とにかく3番なんやから頑張ってボールに当てて欲しい。うちの願いはちゃんと叶って2球目をぼてぼてのショートゴロ。この試合初めて前にボールが飛んだ。せやけどそんな中途半端に叶わなくてもええねん。高見沢はすぐさま二塁に戻り2アウト二塁になった。三塁狙ってたら刺されてたやろうから妥当な判断や。


「4番、ライト、大貫君」


 トモカズは背番号1を付けとるわけで、途中からは投げてもらうけど、1回裏からマウンドに行くようなことにはならないで欲しい。うちがそんなネガティブなことを考えていると、トモカズが思いっきり引っ張った球が、この大学の球場のライトフェンスを越えて行った。先制のツーランホームラン。1回生いうても関西六大学相手やで? マジか? 


 やっぱりうちの彼氏は流石やわ。そらMLBでMVPを何度も取るだけあるわ。そんじょそこらの高1やないで。高校卒業したらそのままアメリカ行けるやろ。


 うちがバットを持ってネクストバッターズサークルに行く途中でトモカズとすれ違ったのでタッチした。だが5番の黒木がセカンドライナーで倒れたのでうちはそのままベンチに戻った。せやけど今の打球も外野に抜けていてもおかしくなかった。少なくとも3~5番は大学生相手に通用する。


 で、問題は守備や。3イニング持たせると言っていた笹沢は見事に最初の3人をセンターフライ、セカンドフライ、ショートゴロでさくっと終わらせた。


「ナイピ」


 3凡で終わった1番の原因は相手がうちらをなめてたこと。なんで初球のボール球を大振りすんねん。2番目は笹沢の調子がいいこと。3番目はうちらの守備が内野も外野も高1とは思えないメチャ固いことで、4番目ぐらいがデータをこっちが一方的に持っていること。


 でも次の回から風向きが変わるんやろなあ。うちはあちらのベンチでコーチに叱られている3人を見ながら思った。うちがバッターボックスに立った時にはピッチャーも含め4人が交代させられていることを知った。


 一度の失敗ですぐ切る首脳陣ってどうなん? うちはそう思うけど、短期的に見るとそれが最適解やったみたい。この練習試合は交代制限もないしな。うちは左打席(左バッター用の打席)に入って4球目のシュートを捉えた。一二塁間を抜けるいい当たりやったけど、深く守ってたセカンドが飛びついて抑え、しかもその崩れた体勢から上手く一塁に投げよった。うちは男子の高校球児の中に入っても足が速い方やけど、間に合わんかった。やっぱり大学生はフィジカルだけじゃなくて上手いわ。


「7番、レフト、星野君」


 三球三振。本職はアンダースローの投手の星野は当たったら飛ぶんやけど……変化球についていけてない。ストレート一本に絞ったんやろうけど裏をかかれたんやろうな。練習では他の3人が投げるいろんな球を打てるようになったんやけど駆け引き入ると辛いなあ。


「8番、ファースト、鷲尾君」


 鷲尾も三振。6球はちゃんと粘った方だと思う。やっぱりうちは下位打線があかんな。大学生が本気出してくると難しいわ。まだこっちが勝ってるし、向こうは懲罰交代もあったから、これからは攻撃も本気で来るやろな。


 2回の裏、先頭の4番打者には正直持って行かれたと思ったけど、なんとかフェンス手前でトモカズが捕った。でも5番打者には初球をセンター前に運ばれた。高めが得意なのは知ってたけど、ボール球でも振って来るんやねこの人ら。


 さて6番。このバッターは低いボールをすくい上げて外野に飛ばすのが得意なローボールヒッター。うちらがまだ2回の途中やけど勝っているのはこういうデータのおかげも大きいわ。だから初球は外に外すストレート。


 なぜ外に外したかというと……案の定初球から走ってきましたよ、エンドランではなくて単独スチール。そんなに足も速くないのに、キャッチャーのうちが女やから走って来たんよね。これまで何度も見たパターンや。せやけどセカンドに投げて余裕でアウトを取った。これで2アウトランナーなし。多分今走った5番も懲罰交代させられるんやろうなあ。うちは少しだけ同情した。


 うちのメンバーは相手にとってみればほぼ無名だからやり辛いはず。ただひとり、うちだけは女子硬式で代表の映像がいっぱいあるので分析されている可能性はあるけど、先ほどの打席は分析ではなくて普通に抑えられた感じ。次の回からうちが投げるんやけど、投げるほうもあまり分析されてなければええなあ。


 ワンストライクから仕切り直しやけど、盗塁失敗で多少の動揺があるようだ。2球目は得意球のチェンジアップを要求。それが甘いコースに入ったのだけど、ストレート狙いだったのかタイミングを外せたのでショートゴロ。黒木が前に出て一塁へ。この回、ヒットこそ許したものの結局3人で終わらせた。


 大学生相手にきっちり6人で2回を終わらせたのは笹沢のスペックが高いことと、最初から2イニングしか投げないことを決めていたわけやから、ほぼ全力投球できたことも大きいやろ。


 3、4回はうち、5、6回は星野、7回はエースのトモカズが投げる予定だが、うちか星野が崩れたら、早めに継投するからトモカズのイニングが増える。さてさて、この後どうなるやろうね。

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