5回表(2)
というわけで結局選手はうちを入れて10人に戻ってしまった。控えがひとりしかいないというのは詰んでいるような気がする。しかも来年度以降の事を考えるとひとりぐらいは普通の子に残って欲しかった。こう見えてもうちは初心者を鍛えるのも得意やから、1年あればひととおりは仕込むことができたとおもう。
そして元よりそのつもりやけどケガだけはホントにあかん。ケガは絶対禁止。いやあ、そんなん無理やんなあ。それはわかってるねんけどせめてケガの防止を徹底するしかない。1番ケガしやすいのはキャッチャーに入った場合のうちやから、そのあたりを特になんとかせんとあかん。鷲尾との両立はもちろん、第三キャッチャ―も作った方がええやろな。
ホンマにため息が出てしまう。だってほら、女の子だから。
いやいや、ネガティブなのはダメ。ダメダメ。ポジティブにいかなあかん。少数精鋭にはメリットもある……よね? この人数やと隅々までうちの目が届く。ここにいる連中は野球バカばかりやから、サボるような奴はいない。でも努力の方向を間違う奴もいるし、ケガを隠して練習するような奴はいるかもしれない。
ケガの兆候をうちがきっちり見据えれば、練習の強度はもちろん密度も上げることができる。うちらと一緒にシニア世界一メンバーになった鷲尾や設楽がこのチームの潜在能力ランキングやと最下位争いやからなあ。
うちが知っている最新の夢情報では、トモカズ……大貫が複数のチームから投手でドラ1指名される。ポジションは左利きというのもあってピッチャー。この学校だとマウンドにいない時はファーストやライトに入ってもらうことになると思う。
そして高卒で上位指名されるのは黒木と外井。ふたりとも既に複数ポジション守れるけど、このチームだとショートとサードにするのがうちの初期構想。このふたりの鉄壁の三遊間は、うちも早く試合で見てみたいと思う。このふたりは大貫とそう変わらんフィジカルを持っていて、高卒2年目の頭から外井はレギュラーで、黒木はちらほら出始める。うん、十分化物やわ。もちろんまだまだ鍛える余地があるので、うちのプログラムを叩きこむつもりや。
育成含めた高卒、あるいは大卒や社会人経由でプロの一軍まで行くのが高見沢、楠、星野、笹沢。そして社会人野球を続けるのが鷲尾と設楽になる。いや社会人野球って相当レベル高いんやで。そこらのプロの育成選手より上手い場合もある。一軍の試合には出れず、いつクビになるかわからない育成選手よりも、大企業のチームに入った方が長期的にはかなり安定した人生を過ごせると思われる。企業によってどの程度の練習時間が確保できるかは変わるけれど、ケガをしても引退しても定年まで勤めることができる。無論例外はある。
これでわかってもらえただろう。つまりここにいるうちが集めたのは全員が普通の高校、いや強豪校でも1年からレギュラー取れるレベルの選手だということを。これは確かにやり過ぎたんかもしれんね。トモカズが渡米した後やけど沢村賞、プロの先発、特に完投型ピッチャーに与えられるものすごく栄誉ある賞を受賞する笹沢が、このチームやと3番手か4番手投手になってしまうからな。
そもそもこの全員がちゃんとこの高校に入れるとは思てなかったしな。そしてこのメンバーを、この時代ではまだうちしか知らないフィジカルを始め走攻守、あらゆる技術を鍛えるための濃密なドリルをうちは使いこなすことができる。
そして知恵を絞らないといけない所もいっぱいある。例えば練習相手。当たり前やけどこんな新設校と試合を組んでくれるような強豪校はいない。どんな相手でもええよ、という高校と練習試合をすると、おそらく一方的な展開になるのではないかと思う。うちも連中も手を抜いたりせえへんからな。そんな練習試合では経験値を貯められない。経験値を夏の大会本番で得るしかないのは辛すぎる。ちょうどいいレベルの相手を見つけるのは中々骨が折れそう。
うちのロードマップやと、1年目の目標は大阪府大会のベスト16。でももうちょっと上までいかないと今後の練習試合はもちろん、来年に向けたスカウトにも困るかもしれん。でもまだ4月とは言え、高校に入ってからほとんど練習試合できてないから1年目から結果を出すんは難しいわな。
プラス要素としては全員のプレイの質が高いのはもちろんだけど、やる気もメチャメチャあること。練習はうちがしんどいメニュー組んだけど、みな文句も言わずについて来てくれる。そうそう、練習メニューやメンタルトレーニングについて、うちが最初に決めると言うた時、多少の不満も出たけど、内容を見て説明したら納得してくれる。やはり野球脳はいい連中だ。
全員がこんな無名校にいるのがおかしなぐらい強くて速くて上手い。さらに今よりもっと野球が上手くなることに貪欲で、そして試合に勝つことに飢えている。繰り返しになるけど大阪は強豪私学が多い。組み合わせに恵まれないとベスト16かて難しいわ。
ただこの時代、というかうちらが卒業したはるか後でも、大阪に限っては夏の大会はノーシード制が続く。他の都道府県であれば春季大会の上位校のだいたいベスト8ぐらいまでがトーナメント表の端や真ん中の方にシードされ、お互いに早い段階ではぶつからないようにする。だが大阪はその制度が導入されるのが2020年。だから山の片方に強豪校が固まることもあるし、優勝候補が初戦でぶつかることだってある。だから運任せの部分は多いけど、まったくチャンスが無いわけではない。
盡人事待天命。
うちらは広いグランド、充実したトレーニング設備、そしてうちの野球理論。これらを存分に使って濃密な練習を続けた。




