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さよならホームラン  作者: 多手ててと
3回

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17/20

3回表(2)

 合宿が終わって数日後、うちが中学生になってすぐに、野球界の偉いさんたちに呼び出されて、うちはわざわざ東京まで行った。


「監督からはこのようなトラブルがあったと聞いているが本当なのか?」


 この場を取り仕切っている爺さんにすごい上から目線で話しかけられる。爺さんとおっさん連中は座っていて私は席もないので立たされたまま。物理的には私が彼らを見下ろす形だ。当の監督とコーチも端の方に座って勝ち誇ったように私を見ている。


 そう言えばこのジジイは女子代表の設立にも反対していた。今回のトラブルを聞いて、うちにお灸を据えるいい機会だと思ったのだろう。良い歳したおっさん爺さんが並んで、中学生になったばかりの女子生徒をわざわざ大阪から呼びつけて何をやってるんやろね。うちがこんなことでビビると思っているのだとすると、何ナメとんねんて思う。


 もちろん顔色1つ変えずうちは答える。


「私の認識とは全然違います」


 うちがおっさんたちに包囲されても意に介さない様子を見せたからやろ。少し出鼻をくじかれたという顔をしている。先制点タイムリーというところやね。


「だが、監督だけでなくコーチからも君ははっきりトラブルメーカーだと聞いている」


 これは別のおっさん。その言葉に監督もコーチもうんうんとうなずく。こいつらも将来の事を考えるとまとめて早々に野球界から追い出した方が良いやろ。ちょうどええチャンスや。


「トラブルメーカーなのは彼らの方です。彼らは自分の立場を利用したセクハラを選手に行っていました。指導法も勉強していませんし、人間としても尊敬できません」


 この間まで小学生だった小娘に言い返されるとは思ってなかったのだろうか? その場が一気にヒートアップする。なおセクハラと言う言葉は今から10年ぐらい前から使われている。


「証拠はあるのか! 証拠もないのに馬鹿なことを言うんじゃない!」


「まったくガキはこれだから困る」


 『ガキ』ってこの場で使ってええ言葉なんか?


「証拠はあります。彼らが選手たちに迫っているところを録音したテープを持ってきました。再生するラジカセはありませんか?」


 私はカセットテープを取り出した。


「こいつの言っていることはでたらめだ」


 すなおに慌ててくれているところはカワイイと思う。けっ。


「それは再生すれば明らかになるはずです」


 うちは澄ました顔で続ける。


「小娘の戯言(たわごと)付き合っている時間はない」


「大阪から呼びつけられたのは私です」


 私は憮然とした口調でそう言った。コンサル時代なら両手を上げて肩をすくめて Shrug するところだ。やれやれだぜ。


「まあまあ、彼女にも言い分はあるでしょうから、とりあえずそのテープを聞きましょう。それから判断すれば良いのではないですか?」


 だが相手も一枚岩ではないらしい。比較的話が通じる人間もいるようだ。この爺さんをこの組織の次の頭に据えようかなとうちは考えた。


「いや聞く必要はなかろう。もしそのようなものが有ったとしても、そんなもの偽造でもなんでもできる。だが一応こちらで預かってこのあと聞いておこう」


 真ん中のジジイがこの場で再生することを止める。それどころか証拠まで取り上げようとする。私はジジイの前の机の上にカセットを置いた。


「それは公平ではないですね。一方の言い分だけを聞いただけでご判断されるのは、短慮に過ぎると思われます。証拠を取り上げるのも肩入れが過ぎると言わざるを得ません」


 うちの大人ぶった話しぶりが気に障ったんやろう。いやうちの落ち着き払った態度かもしれん。


「黙れ、お前がこの場に呼び出された時点で処分は決まってるんだ。お前は代表から永久追放だ」


 本当に危険なのは有能な敵ではなく無能な味方だという。おっさんずの中でも内心頭を抱えている人もおるんちゃうかなあ。どうやろ?


「あの、皆さんそれなりに御経験を積んでらっしゃるようですが、もう少し論理的で建設的な会話をしませんか?」


 うちは一旦議論を逸らしてみた。


「彼女の言い分も聞くべきだと……」


「黙れ」


 見かねた誰かが私に助け船を出そういうタイミングで、真ん中のよりちょい横のおっさんが私が机に置いたカセットを私に投げつけて来た。私はそれを払いのけることもできたが、敢えてそのまま顔面で受けた。思ったよりも痛い。そう言えば彼も現役時代はそれなりのピッチャーだったはずだ。プロにはなれなかったけれど。


「ちょっと何やってるんですか、よりによって女の子の顔に投げつけるなんて。出血しているじゃないですか。滝沢さん医務室に行きましょう。その間に私たちはそのテープの中身を確認しましょう」


 私に好意的なのはこの爺さんだけ。だが、他にも数人居たたまれない顔をしているおっさんも何人かいる。これだけの証人がいれば十分か。


「私はケガに馴れているので出血を気にしません。このまま話を続けさせて頂いてよろしいですか」


 そう言ってうちはにっこりと笑った。さすがの爺さんたちも何も言えない。


「ではまず、監督の指導法について申し上げましょう。彼自身が受けたと推測される前時代的な指導法そのままです。例えば……」


 私の話は飛び出してきたおっさんのゲンコツで遮られた。さすがの私もこれは避けた。間に机があるから少し離れれば簡単に避けられる


「今度は鉄拳制裁ですか。確かにここでお話することはもうなさそうですね」

 

うちは(きびす)を返した。滝沢枝里子、堂々と異端審問会場を後にする。ちょうど良い時間だ。うちはケガの手当もせずにそのまま永田町に向かった。ここからだと地下鉄ですぐだ。テープはわざわざラインケーブルでつないで録音した奴だから別に構わない。


 わざわざジジイ達の異端審問のためだけに東京までくるわけがないやろ。今日は懇意にしている大物政治家の卵、今はまだ野球好きの若手議員のリーダー、との座談会で、マスコミも多数お越し頂いているはずや。


 地下鉄の中でうちはICレコーダーを取り出して中身を確認した。うん、よく録れている。セクハラの現場も、先ほどの茶番劇も。頭からの出血はまだ止まっていないけど、特に問題はないのでこのまま顔を出した方が効果的やろ。


 こうしてうちは、野球界から女子への偏見を持っているお偉いさんを一掃し、私は中学生になったばかりで女子代表の監督の座を得た。そう遠くないうちに多分甲子園にも出場できるようになると確信している。


 もちろんゴミがいなくなった第1回の国際大会は全勝で優勝した。驚くべきことにうちより若い選手がオーストラリアにいたが、さすがにうちより若い監督はいなかった。

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