3回表(1)
「じゅあ滝沢、最後に皆に挨拶せえ」
最後って縁起でもない。カナダでの大会が終わったらちゃんと帰って来るんやからな。
「えっと。滝沢です。カナダで頑張ってきます」
なんでうちだけかと言うと出るのが女子の大会だからだ。女子硬式野球の代表チームとその大会ができたんは、うちが前に見た夢やと21世紀になってからや。だがこの現実世界では早まっている。所詮は夢の中の話やということなんやろな。もしかしたらうちが小6の時にいろいろ言うたんが影響したんかもしれへん。それならそれでええことや。
あの一連の騒ぎは日米両国にあっという間に広がった。うち自身が煽り立てた甲斐があって特にアメリカのメディアは、うちにかなり好意的な報道してくれた。メジャーでアンタッチャブル・レコードをいくつも持っているレジェンドや、現役の超がつくスーパースターたちがうちについて極めて好意的なコメントをしてくれた。メジャーリーグのとあるチームはスタメン選手たちのサインを集めた色紙をうちに送ってくれた。もちろんうちはそれを大いにアピールした。
それに続くように、日本国内でも、こういうたらなんやけどあまり周囲の空気を読まない、独自路線の主張をするコメンテーターや元プロ野球の解説者たちもその論調に続いてくれた。野球界だけでなく教育学者やスポーツ医学者、普通のタレント、さらには一部の政治家もそれに続いた。
うちは甲子園に行くためにあの騒ぎを起こしたんやけど、その方向が思っていたのとはちょっとちゃう方向に流れてしもた。まあ修正可能やろ。それにうちかて将来発言力を持つ、つまり夢の中ではキーパーソンになっていた方々に対していろいろサービスした。
野球界の中であれ外であれ、力を持つ人間が味方にいるのはいろんな意味で心強い。古の昔では夢は重要な未来予知に使われていたらしいやん。案外バカにでけへんのちゃうかなあ。
アメリカではメジャーの選手会が女子野球の普及のためにアメリカ国内でも動いてくれているらしいし各メディアも取り上げてくれているらしい。それが日本のプロ野球選手、そしてメディアにも広まったという形やね。
というわけで国際女子野球協会ができて、大会が開催され、女子硬式野球の日本代表チームもできたというわけやね。
まあ国際大会いうても参加するのは4か国だけなんやけどね。開催国のカナダ、アメリカ、オーストラリア、そして日本。そのうち韓国とかキューバとかベネズエラとか、いろんな国が参加してくれると思う。セレクションが去年の12月に開催されたので、まだ小学生やったうちもそれに参加した。そして当たり前にうちは選ばれた。
周りは快挙やて言うけど、そらジュニアゆうても男子に混じって世界大会で優勝してる選手なんか他におらんし、ピッチャー、キャッチャー、内野、外野、どこでもできるしそれなりに打てるしな。この流れは予測してなかったけど、女子が硬式野球をやっても問題ない、という良い方向に進んでいると思いたい。せやけど大問題があった。指導者や。
誰が選んだのか知らんけど、指導者はなんかどっかの大学野球部で監督をしてたことがあるというおっさん。そして代表合宿なるものがあったんやけど、口から出て来るのは根性ばかりで技術の話がほとんどないねん。それにどうやらお姉さんたちはセクハラを受けているという話も耳にした。監督だけやない。その腰巾着のコーチもや。どういうこっちゃねん。
流石に小学生のうちに手を出してくる奴はおらんかったけど、十分アウト、トリプルプレイレベルやからな。
それを聞いてうちはこのおっさんを追い出すことを、そして追い出した後のことを考えた。そもそもこんなでっかいお荷物を背負ったままで国際大会に勝てるはずがあらへんわ。うちはチームメイトのお姉さんたちから話を聞きだして、もっと科学的で効率の良い練習のやり方を教えた。
いろいろ驚かれたけど、おっさんという共通の敵がいるので、選手間の絆は深まった。不幸中の幸い? いやあかん。お荷物はさっさと切らな土俵にも上がられへんよ。
「はっきり言って、監督のやり方は古すぎてついていけません」
合宿が終わる前日、うちは監督にはっきりそう言ってやった。正直気持ちええわ。
「なっ、滝沢、お前は小学生のクセに何を言ってるんだ」
「私も滝沢さんの言う通りだと思います」
もちろんうちもひとりではそんなことをしない。味方が多いところで話を進めるのは当たり前。
「監督のやり方よりも滝沢さんに教わった方が役に立ちます」
早い話がクーデターである。いやクーデターは支配者階級間の争いだから、ここは革命というべき。
「先輩方もこのようにおっしゃっております。自ら身を引いて頂けませんか?」
「馬鹿か、お前は、身の程を知れ」
これだから身の程を知らない奴は困る。
「残念ですね、じゃあ皆さん今日の練習を始めましょう」
先輩達全員がうちについてうちの言うとおりに練習してくれる。
「勝手にしろ!」
そう言い捨てて監督とコーチがグランドを去った。その姿を見ていたマスコミたちがちゃんと彼らに群がっているのをうちは確認して、私があらかじめ用意したチームに相応しいと思う練習メニューをこなした。




