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さよならホームラン  作者: 多手ててと
2回

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15/25

2回裏(2)

 東京の春の大会は東京全体で行われる、そのうち上位16校が夏の大会のシードになる。そして東西に分けた時にそれがきれいに8対8に分かれることはあまりない。だから今年の場合西東京に第9シードがいる。今大会、今の所大きな波乱は起きていない。だから明日の4回戦が第9シード、以下前評判どおりに行けば翌日の5回戦が第5シード、それから中2日の休養日を挟んで、準々決勝で第4シード、準決勝で第1シード、そして決勝で第2シードと対戦することになるだろう。繰り返すが前評判どおりに進めばだ。


 そしてその4回戦、私はとても暇でいいことだ。選手間で何度もコミュニケーションを取っている。1点リードしていると言ってもまだ中盤。こんな点差では格下相手でも高校野球でも危ない。


 だが私は特に選手に指示しない。今の所はゲームプラン通り。相手の先発投手は強力だけどこちらは序盤から待球しながら打つ作戦をしてきたので球数的にそろそろ限界のはず。予想通り6回に限界が来て、四球でランナーを貯めて、相手のエラーで得点。今のはヒットやろ、と思うが公式記録が塗り替わることは多分ないやろ。


 試合はそのまま押せ押せで点が入り、相手の2番手投手はこちらの勢いを止めることはできなかった。最終的に7点差で勝った。7点差が付いたのは9回の表だからコールドゲームにはならない。夏休みに入ったから生徒でいっぱいのスタンドもおおいに盛り上がったので言う事無しだ。


 5回戦、私は今大会初出場の1年生を先発にした。彼は初回、4回、6回と点を取られたが、いずれも最小失点で抑えた。


 6回からは3年生にピッチャーを変えた。ベンチに戻った1年生ピッチャーは肩で息をしていたが、満足気な表情をしていた。この様子だと今年もまだ使えそうだし、来年以降も期待できる。試合は4対3で勝った。1点差でも勝てば問題ない。これでベスト8。


 中2日はもちろん調整に使う。心と体の疲れを抜く一方で、適度な負荷をかける。私は未来のスポーツ医学として知ってるけど、まだこの頃は広まってなかったと思う。


 準々決勝、相手は第4シードを延長の末サヨナラで勝ち上がって来た私立。つまりノーシード同士の対決となった。こういう勢いがある相手は怖いと言われるし、私もコメントではそういったが、内心では楽になったと思っている。だから打順をかなり(いじ)った。


 人はそれを油断だと言うかもしれないが、私には私なりの根拠があって選んだメンバーだ。だって相手のピッチャーのクセが丸わかりだもの。ストレートと変化球で投球フォームが微妙に違う。なぜ第4シードの学校はそこを突かなかったのか? 多分油断したのだろう。そうでなければ説明がつかない。


 私は前日のミーティングで簡単に狙いを言ってから、当日選手を送り出した。私の仕事は守備練習のノックでお(しま)い。結果は9対2で7回コールド。


 準決勝、相手は春の大会で優勝したチームだ。逆に言うとデータがたっぷりある。多分私が野球で一番得意なのがデータ分析だ。コンサルは当たり前だけど、医者として成功したのもこのデータ分析力のおかげだと思う。


 この試合はこれまでと違って私は忙しくサインを出し続けた。選手の自主性に任せるのは大切なことやけど、指導者としての役割を放棄したらあかん。相手は強力すぎるチームやからできるだけ策を打たなければならない。私の細やかな指示がいい方に転がって、ゲームは初回で壊れた。1回の裏で打者1巡。1アウト二塁で2度目の打席に立ったうちのトップバッターに対し、私は初球にセーフティバントのサインを出した。全然ケアされてなかったのでもちろん成功した。結局初回で相手のエースと2番手を引きずり落した。1回の攻防が終わった時のスコアは6対0。


「あとは好きにやりなさい」


 私はそう言って2回の表の守備位置に向かう選手を送り出した。


 でもやはり甲子園への道は甘くない。決勝の相手は正直私の予想以上に強かった。6回が終わった時点で3対4で1点差のビハインド。


「ピンチの後にチャンスあり。よく聞く言葉やけど、それは気分転換が上手くできなかったからやと思うねん。要はメントレ不足やね。逆に言うたらチーム全員が気分転換するのはとても難しいんよ。ここで畳みかけるで」


 選手は私の期待以上に頑張ってくれた。7回にビッグイニングを作って8対4と試合をひっくり返してさらに突き放した。素晴らしい結果だと思う。


 ともかく西東京で都立高校が夏の代表を勝ち取ったのは約30年ぶり2回目だ。それもスコアだけ見たら圧勝と言って良い。もちろん私は思う存分選手を褒めたたえた。この前の春は21世紀枠だし、夏大で甲子園に出るのは私も初めてだ。選手の時はどうしても手が届かなかったところに監督として16年後に手が届いた。


 私は甲子園出場が決まった指導者だけがする簡単な事務手続きを終えて既に制服に着替えている選手たちの所に戻った。


「みんなお疲れさんやね。でもあっという間に甲子園始まるで。今度も大阪上院と1回戦であたるかもしれへんからな。今日は学校に戻った後はさすがに休みにするけど、明日からはまた練習するんやで」


「「うっす」」


 選手たちの声が綺麗に揃った。この状態を維持できたら甲子園でもええ所までいけそうやね。その時私の脳裏にとても嫌なことが浮かんだ。この時代はまだ甲子園のベンチに入れる選手は18人。だから予選の20人からふたり外さないといけないんよね。ああ、しゃあないことやけど頭が痛いわ。

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