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さよならホームラン  作者: 多手ててと
2回

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14/22

2回裏(1)

「はい、ほな他に連絡事項のある人おる?」


 私は教室内に声をかけたが誰も手を上げたりしない。


「今日で1学期は終わり、ほなまた2学期よろしゅうね。明日は八王子で試合あるから来れる子は応援頼むわ」


 私はそう言って教室を出た。起立、礼、とか面倒なことをしない校風は気に入っている。さて、職員室に顔を出したらさっさと部活に行かなあかん。


 明日は甲子園の西東京大会4回戦、ようやくシード校との対戦だ。うちがこの高校に赴任して4年目、2年目からスカウトを始めて、いろんな子に声をかけた。幸い私はそれなりに有名人だから話は聞いてもらえる。ただ推薦枠のない普通の都立高校やから受験があるんよね。都立としては上の下ぐらいの位置だから成績もそれなりに必要や。


 でもこつこつ集めた選手たち、このメンバーなら実力で甲子園に出るのも夢ではないと思う。実力で、というのは今年の春にも甲子園に出たからだ。21世紀枠でね。だが組み合わせが最悪。1回戦がいきなり優勝候補ど本命の大阪(おおさか)上院(じょういん)。私の夫の母校でもある強豪校を相手に、2対4は健闘した方だと思う。


 大阪上院には高校時代にも負けたことがある。うちが人智を尽くして大阪大会の3回戦まで上がった時のことや。小学生の時の私のアピールで女子も高校野球に出れるようになったのだけど私が進学したのは北高。大阪では一番の名門府立と称されるとこや。だからというわけではないが、1年の時から私のワンマンチームになった。元々弱い、監督も善人やし手を貸してくれるのだけど、野球の知識はほとんどあらへん。事務作業をお願いして、日々のトレーニングや作戦については当然のようにうちが指導した。指導者兼エース兼4番が女、チームメイトのモチベーションを保つのに余計な時間を費やしたことをまだ覚えている。


 大阪上院にはうちの夫が2年生から4番にいた。元チームメイトでお互いに相手を知り尽くしているわけやけど、分析力はうちの方が上。だから敬遠も含めてやけど、それなりに対処できたのではないかと思う。せやけど野球はチーム戦やからね。守備を鍛えたと言ってもやっぱりエラーはちょこちょこあるし、味方のバットは相手の3番手の投手のボールにも当たらないから勝てないわな。


 守備を鍛えないと話にならない。そして稀にいる運動神経のいい奴にバッティングも頑張ってもらう。でも私が女子硬式野球の代表に呼ばれたらその不在の間にみんな気が抜けていたりする。結構チームビルディングにも力を入れたけどそんなもんや。そんな感じで3年間を過ごした。まあ府立にしては強いよね程度にはなれたけど、強豪私立の一軍には練習試合含め結局1度も勝てなかった。


 だが強豪校に負けて良くやったと言えるのは選手たちであって指導者は違う。指導者は勝たせないといけない。とは言え……当たり前やけど日本全国どこに行っても強豪私立は強いんよ。しかも春の大会はいろいろ実験したからこの夏はシードすら取れていない。


 だがそんなことは問題ない。このチームならいい勝負はできるはず。選手たちもそう思っているはずや。うちがグランドに着いた時には既に練習が始まっていた。グランドに入ってまず最初にするのは選手のコンディションのチェック。ケガをする前に選手をグランドからつまみ出すのが私の1番の仕事。2番が選手の育成。技術だけでなく理論も叩き込む。筋トレやメンタルもそう。自慢だけど私は他人よりできる事が多い。


 あとはコーチ陣と少し打ち合わせ。この子たちはこの学校や前の学校での教え子で、大学生や大学院生だけど、将来は教員になって指導者になりたいという子たちだ。残念ながら前の学校は偏差値の高すぎる高校だったので、甲子園に連れて行くことはできへんかった。高校2年の夏には退部して勉強に専念させられるねんで。さすがにそんなんでは甲子園なんて無理やん。


 そして、今このグランドにいる選手たちは、東京のいろんなシニアやボーイズ、そして中学を回って、見どころのある子に声をかけて来てくれた子が多い。中には将来高卒でプロになることを「知っている」子までいた。もちろん受験もあるので、声をかけても来てくれたのはその中の一部だけど、それでも何人かはどこの高校に行ってもレギュラーになれるレベルの生徒が来てくれた。


 2年前の夏、レギュラーの半分は私が声をかけてきてくれた1年生という状態になった。それで西東京のベスト8に入ったので、その年のスカウトが楽になった。去年の夏のレギュラーはキャプテンのひとりを除いて全員が1、2年。これでベスト4。秋大でもいいところまで行ったので21世紀枠に選ばれたということになる。


 そして今年の夏は3年から1年まで粒ぞろいだ。3年生は2年以上、私がみっちり仕込んだ。2年生は才能のある選手を鍛えた。1年生でもひとりはレギュラーだし、他の子もメンバーの手が届かないところを埋めてくれる。試合前日の調整としては上手くできただろう。


「よーし、明日からは全部シード相手やけど全部喰ってくでぇ。明日は所詮第9シードやからな。今日は帰ったらさっさと寝るんやで」


所詮1回戦から出ている都立高校の分際だというのは理解している。


「「「うっす」」」


 この時の選手たちの表情で私は明日の勝利を確信した。

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― 新着の感想 ―
 あ、今度は指導者か。
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