2回表(2)
決勝の相手はやはり名門の北堂だ。共通点は他にもあって、地理的にも東萩と近い、そしてピッチャーと4番にそれぞれ5年生が入っている。
北堂のピッチャー、笹沢君は左のスリークォーターで、真っ直ぐとチェンジアップ、そしてシュートのキレがいい。オーバースローのうちとは左右も違うし、投げ方も違う。真っ直ぐはうちとかわらないけど変化球はうちの方が上やね。それでも結構なイニングを投げているのに、防御率がほぼ1に近いのはすごい。だってバックも小学生やで。普通にポロポロ落とすのに防御率が低いのは体力や技術だけでなく、メンタルも強靭だということ。そして長いイニングを投げれるスタミナは小学生離れしている。
もうひとり北堂のキーマンは4番でショートの黒木君。打率が5割を超えていて、ホームランも10本打っている。この黒木君は将来日米通算2000本安打を達成する選手やから凄いに決まってるわな。この同学年のふたりをマークしておかなければならない。
先攻はうちら東荻に決まった。1番の高見沢君は7球粘ったけどショートゴロ。抜けてもおかしくない当たりだったけど、黒木君がキッチリ止めて1アウト。
「わりぃ」
ネクストバッターズサークルからでてきたうちとすれ違いざまに謝られた。
「いや、球種全部見れたし、ありがとね」
うちはそう返して右のバッターボックスに入った。総合力ではうちらの方が上だと思うけど、それなりに苦労する相手だろう。どうやったら試合に勝てるか、それを考えることができる相手は久しぶりだ。
材料はそれなりにある、高見沢君の時もそうだったけど、今もピッチャーが首を振った。組み立てはピッチャーがやってるのだろう。キャッチャーが信頼されていない様子から、あまり上手くないのかもしれない。そして6年生のキャッチャーが5年生のピッチャーに首を振られるのもあまり気分は良くないはずだ。
初球からインハイにいいストレートが来た。うちはヒットにすることを諦めてタイミングを合わせることに専念。でもボールには当たらずにスイングは空を斬った。タイミングはバッチリだけどあのコースにうちが合わせてもヒットにならない。同じコースが来るとわかっていたら打てるけどどうやろ? ここはヤマ勘で同じコースが続くと踏んだけど、2球目はアウトローにチェンジアップこれも枠内に入ってる。うちは空振りすらできずに見送った。この時代だとストライクが先なので2-0、追い込まれた。
バッターボックスに入ると笹沢君のコントロールの良さがよくわかる。うちはタイムをとって左打者用のバッターボックスに入ると、バントの構えを取った。相手が戸惑っているのがわかる。だって2ストライクだからバントでファールになればスリーバントで三振や。
3球目、サードとファーストがチャージしてきたけど、様子見で外してきたのがわかったのでうちもバットを引く。ボールをひとつ稼いだ。2-1。まだまだ不利なカウントだけど、少し勝算が出て来たので次もバントで構える。
3球目の動きでファーストがバント守備に馴れてない事がわかった。おそらく本来のポジションは控えのピッチャーか外野。左利きでおそらく打撃がいいからファーストに置かれている。可哀想だけど狙わせてもらおう。
4球目、またもサードとファーストがチャージ、うちがバットを引いてバスターするとサードは急ブレーキかけたけどファーストはそのまま突っ込んでくる。おいおい危ないやん。うちはカットしたけど、そのまま引っ張ってたらえらいことになってたかもしれへんよ。これで本当にファーストが穴であることは確認できた。
5球目もバントの構え、うちはまたバットを引く。四球目のせいかファーストの出だしが遅いのでそこを突く。今度はバスターではなくてプッシュバント。ダッシュしてきたピッチャーの後ろ、セカンドとの間を狙う。ふたりが全力で飛び込んだならどちらかが間に合ったかもしれんけど、一瞬躊躇したら無理な打球。結局セカンドが処理したけれど、ファーストが一塁に戻っていないので、うちはがら空きの一塁で速度を落としてストップ。走り抜ける必要がない。今のはファーストも悪いけどちゃんと指示しなかったキャッチャーも悪い。選手の出身地域が決められているリトルリーグだと名門でも選手層全体をあげるのは難しいよね。
さて一塁には出たけど、リードできないからあまりすることは無い。そう思わへん? でもそうやないんよ。ウチは初球を先輩が空振りしたのを見た。
案の定キャッチャーがこちらを見ていないこと、もちろん送球体勢になってないことを確認してからうちは二塁に走った。キャッチャーがうちが二塁に逃げたことに気が付いた後にどうするのかはわからない。そのまま手投げでピッチャーに返して、ピッチャーが二塁に投げる。あるいは肩に自信があるなら再度テイクバックして投げ直すかだ。うちが二塁に滑り込んだ後、速い球がセカンドに来た。多分前者を選択したのだと思うけど後で誰かに聞いてみよう。でもこれで1アウト二塁。5年生、それも女にリードなしで盗塁された気分はどうだろう?
その後先輩がフォアボールで出て二塁一塁。打順は4番のトモカズに回った。この試合、5年生でスターティングメンバーに入っているのは1番の高見沢君、2番のウチ、そしてトモカズの3人。うちは設楽君と鷲尾君もレギュラーに入れた方がいいと思うのだけど残念ながらこのふたりはまだベンチだ。
トモカズは3球目を引っ張って、ライトのライン際に落とした。三塁とのハーフウェイにいたうちはそのまま三塁を蹴って本塁に生還した。先取点をとってなおも一死三塁二塁でチャンスが続く。うちはベンチの高見沢君に声をかけてキャッチボールを始めた。息を整えて肩の準備をする時間ぐらいはあるはずや。
そう思ってたんやけど5番の先輩が初球のスクイズを失敗。ここは笹沢君を褒めるべきかもしれない。ピッチャー前に落ちそうな小フライに飛び込んでノーバンで取った。さすがにどこにも投げられへんかったからチャンスが続いた
でも6番の先輩も初球をショートライナー。これも外野に抜けると思ったけれど、黒木君は本当に守備もええね。3番に入っているからこの後の対戦が楽しみや。




