第63話 エピローグ それでも世界は選ぶ
荷車が来たのは、十日後だった。
たった一台。
小さく、古く、
いつもより遅い。
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「……来たな」
誰かが呟いた。
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市場に人が集まる。
ざわめきはあるが、
歓声はない。
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荷車の男は、少し困った顔をしていた。
「全部は運べねえ」
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「優先順位がある」
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箱が開かれる。
中には、
少しの粉と、
少しの薬と、
少しの塩。
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「……足りないな」
パン屋が言う。
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「分かってる」
医者が答える。
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それでも、
人は前に出る。
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「子どもからだ」
誰かが言った。
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誰も反対しない。
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分ける。
足りない中で分ける。
完璧じゃない。
公平でもない。
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それでも――
誰かが決めた。
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屋根の上で、リオンがそれを見ていた。
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「……戻ったわけじゃないな」
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カイは静かに言う。
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「重要になっただけだ」
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リオンは少し笑った。
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「扱いにくい場所、か」
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「そうだ」
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遠くの街。
管理区域の中で、
小さな報告が上がっていた。
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「非管理区域にて」
「予測外の持続確認」
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「一部行動に模倣傾向」
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統括官は、少しだけ考えた。
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「監視を継続」
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「だが――」
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一瞬だけ言葉を止める。
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「優先度を上げろ」
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それだけだった。
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世界は変わっていない。
オラクルも動いている。
管理も続いている。
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それでも、
ほんの少しだけ、
変わったことがある。
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無視されていた場所が、
無視できなくなった。
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屋根の上。
リオンは風を受けていた。
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「なあ」
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「何だ」
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「これ、勝ちか?」
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カイは少しだけ考えた。
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「違う」
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「じゃあ負けか?」
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「それも違う」
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リオンは苦笑する。
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「じゃあ何だよ」
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カイは、街を見ていた。
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人が動く。
分ける。
迷う。
決める。
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そして、言った。
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「続いてる」
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リオンは少し黙ってから、
笑った。
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「それでいいか」
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風が吹く。
街はまだ不完全で、
危なくて、
面倒で、
うるさい。
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それでも、
誰も止めていない。
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正解はある。
安全もある。
管理もある。
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それでも人は、
ときどきそれを外れて、
自分で選ぶ。
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誰も正解を知らない。
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だからこそ――
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**世界は、まだ続いている。**
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。
この物語は、
「正しさとは何か」
「安全とは何か」
そして
「人が選ぶとはどういうことか」
をテーマに書いてきました。
作中では、便利で安全な世界と、
不便で危険だけれど自分で選べる世界を対比させています。
どちらが正しいか、という答えはありません。
ただ一つ言えるのは、
「どちらも人間が作ったもの」であり、
そして「どちらも人間が選び続けるもの」だということです。
リオンは、正解から外れることを選びました。
カイは、正解にならないことを選びました。
その選択が良かったのかどうかは、
この物語の中でも、はっきりとは描いていません。
なぜなら、
それを決めるのは読者であるあなた自身だからです。
この作品はここで一区切りとなりますが、
この世界はまだ続いています。
もしかすると、
別の街で、別の誰かが、また違う選択をするかもしれません。
そのとき、あなたならどうするか。
少しでも考えるきっかけになれば嬉しいです。




