第61話 それでもここに残るか
六日目の朝。
市場は、さらに静かになっていた。
開いている店は、三つだけ。
芋。
粥。
干し肉。
それだけだ。
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「……選択肢少ないな」
リオンが言う。
「生きる分には足りる」
カイは答える。
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だが、人の顔は少し違っていた。
昨日よりも、口数が少ない。
誰も怒鳴らない。
ただ、考えている。
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広場の中央に、人が集まり始めた。
誰かが声を上げた。
「話そう」
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街では珍しい。
議論はあるが、集会は少ない。
だが今日は違う。
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「このままだと持たない」
年配の男が言う。
「粉も薬も来ない」
「次は塩だ」
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誰かが答える。
「管理区域に戻ればいい」
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空気が、少しだけ揺れた。
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「戻れば?」
「物流も戻る」
「医療も戻る」
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それは、正しい。
合理的な判断だ。
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だが、別の声が出る。
「管理される」
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静かになる。
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「危険度」
「行動制限」
「判断の許可」
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誰も否定しない。
それが現実だからだ。
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リオンは少し離れて聞いていた。
胸の奥が、重い。
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「……俺のせいだな」
小さく言う。
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カイは否定しなかった。
「きっかけではある」
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「追い出されるかな」
リオンは苦笑する。
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カイは答えない。
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広場では議論が続いていた。
「戻るべきだ」
「いや」
「子どもがいる」
「医療がない」
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声は荒くない。
だが、重い。
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誰かが言った。
「ここに残る理由はあるのか」
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沈黙。
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そのとき、パン屋の男が前に出た。
「ある」
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全員が見る。
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「ここは俺の店だ」
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それだけだった。
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「粉がなくても」
「パンが焼けなくても」
「ここは俺の店だ」
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誰かが笑った。
「それ理由か?」
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「十分だ」
パン屋は言った。
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広場の空気が、少しだけ軽くなる。
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リオンはその様子を見ていた。
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「……すげえな」
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カイが聞く。
「何が」
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「理由」
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リオンは言った。
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「世界の正解より」
「ずっと小さい」
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「でも」
少し笑う。
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「ずっと強い」
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夕方。
集会は終わった。
結論は出ていない。
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戻るか。
残るか。
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誰も決めなかった。
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それでも人は家に帰る。
店を閉める。
火を灯す。
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そして夜になる。
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この街はまだ、
**選ぶことをやめていなかった。**
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